オカザリ
首を傾げるアデルに言いづらそうにしながらもジークが現状を詳しく説明する。
その話を聞き、次第にアデルの表情が不機嫌になって行く。
そして全ての説明が終わる。
「…………馬鹿なんですか?」
そう言われてもしかたない。
ブラートは娘のその言葉を甘んじて受ける。
しかし、フリードは舌打ちをして腕を組んでいた。
「先ず兄上、何故エリザベート姉様との婚約を破棄したの?」
「ふん、奴がシルビィにした事を思えば当然の事だろう」
「証拠は?」
「は?」
「ですから、エリザベート姉様がそこのシルビア嬢を害そうとした証拠だよ」
「そんなもの、シルビィの証言で十分だろう」
「そんな訳無いでしょう」
「ではなんだ?貴様はシルビィが嘘をついているとでも言うつもりか!」
「そう言っているんだよ」
アデルがそう言うと、シルビアが立ち上がった。
「お待ち下さいアデル様!私はその様な事は……」
「シルビア嬢」
シルビアの言葉を遮りアデルの冷たい声音が響く。
「ボクは君に発言を許した覚えは無いよ」
「アデル!シルビアは俺の婚約者だぞ!貴様は何様のつもりだ!」
「何様って、ボクは王女様だよ。
婚約者は所詮、婚約者。今の身分はただの男爵令嬢に過ぎない。
上位者に対して許可なく声を掛けるのは不敬だと言うのは常識だよ」
「…………」
アデルの視線に晒されてシルビアは縮こまってしまう。
「それで父上、何故ボクを呼び戻したのかまだ聞いていないよ」
「ああ……エリザベートの出奔を始め、今の王国の現状はフリードを諌め切れなかった俺の責任だ。
たが、今回ばかりは俺も腹を決めた」
「どういう事ですか、父上」
フリードが訝しげにブラートを睨む。
「アデル、お前には王太子の補佐として働いて貰いたい」
「…………ボクにエリザベート姉様の代わりをしろ、と?」
「違う。形としては補佐だが、実質、王太子としての権限を与えるつもりだ」
「な⁉︎」
「フリード、この際だからハッキリと言っておく。貴様はお飾りだ。
今後、王太子としての権限は剥奪する。
何かする時はアデルの承認を得よ」
「馬鹿な⁉︎」
「これでも温情を与えている。
ハルドリア王国は伝統的に雷属性の魔力適性を持つ者が王位に就いてきた。
だからお前を一応王位に就かせるつもりだが、実務は全てアデルに任せる。
この上で更に問題を起こすならば、お前は廃し、正式にアデルを女王として即位させる」
唖然とするフリードを無視してブラートはアデルに向き直る。
「そういう訳だ。良いなアデル」
アデルは不機嫌そうな顔を直す事なく尋ね返す。
「その場合、ボクの権限はどうなるのかな?」
「お前には準1級命令権を与える」
「王太子と同等の権限か……兄上の権限は?」
「フリードには4級命令権を与えるが、しばらくは権限を停止する」
アデルはしばらく瞑目すると頷いた。
「分かった、それで良いよ。
では早速、ジーク様。
調査委員会を設置してエリザベート姉様の容疑を再調査して。
それから王城にボクの執務室を設置して欲しい」
「待て!俺は認めんぞ!」
「兄上、これは王命だよ。
ボクにも、兄上にも拒否権は無い。
それから今後は兄上には監視役を付ける。
人員を選考するまで自室で謹慎しておいて」
「貴様……妹の分際で!」
「黙れ、フリード。ジーク、アデルの指示通りに計らえ」
「御意」
「ではボクはこれで退がらせて貰うよ。
兄上がしでかした一件の後始末をしないといけないからね」
アデルは席を立ち侍女を連れて部屋を後にする。
そしてドアに手を掛けながらブラートとジークに視線を送る。
「ボクは怒っているよ。それは兄上だけじゃない。父上にジーク様、あなた方がエリザベート姉様を見捨てた事にも怒っている。
それは忘れないでね」
そう言い捨ててアデルは今度こそ部屋を出て行った。
「…………覚悟はしていたが、こうもハッキリと言われるとはな」
「仕方ありません、我々が初めから対応を間違えなければこんな事には成りませんでした」
ブラートとジークは呆然としているフリードとオロオロと周囲の顔色を窺うシルビアを無視して席を立つのだった。
◇◆☆◆◇
公国に新しく設置された工房で1人の男が自分達が作り上げた物を見ながら不思議そうに首を傾げていた。
「どうした?」
「ああ、妙な物だと思ってな」
そこにやって来た同僚が男に声をかけた。
「だって見ろよ。こんな紙切れが金貨1枚と同じ価値があるんだぜ」
「まぁ、言わんとする事は分かる」
男が手にしているのは先程刷り上がった紙幣と呼ばれる新しいお金だ。
「完全に流通して馴染むまではまだまだ時間がかかるだろうが、今後は利に聡い商人を中心に広がって行くだろう」
「そんなに良い物なのか?」
「これ自体には大した価値は無いがな。
簡単に言うとコレは金貨の引換券みたいなものさ。
これ1枚に金貨1枚と同等の価値があると、公国が保証しているからこの紙切れに価値が生まれる」
「よく分からんな。俺なら金貨の方が良い」
「はは、しばらくはお前みたいな反応が一般人の反応だろうな」
男は肩を竦めると紙幣をマジマジと検める。
「この表側に描かれているのは初代大公のルーカス様だろ?裏の図はどういう意味だ?」
「お前なぁ、初めに説明されただろ?
右側の7冊の本は黄昏の魔女様、左の花は初代大公妃様を表しているんだ」
「はぁ、建国の偉人達の紋章って事か?」
「そんな所だな。さぁ、そろそろ休息は終わりだぞ」
「あいよ」
男達は午後の仕事に向けての準備を始めるのだった。
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