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ハハオヤ

 

「神器【強欲の魔導書(グリモア・マモン)】」


【強欲の魔導書】に収納されていた翼を持つ者(フリューゲル)を取り出し抜剣すると、地を蹴って竜種へと向かう。


 竜種はブレスを吐くが、横から飛び込んだルーカス様に斬り払われ私には届かない。


 ルーカス様の横を走り抜け、竜種の胴体を薙ぐ様にフリューゲルを振るう。


 極限まで薄く鋭い刃は竜種の鱗を何の抵抗も無く切断し、肉を斬り裂いて行く。


 そのまま腕を振り抜く。


「な⁉︎」


 一瞬、衝撃が有った。

 フリューゲルの刃を見ると粉々に砕けている。


 斬れなかった。

 刃筋は一切ブレていない。

 では何故…………フリューゲルを以てしても切断出来ない程の何かが有る?


「エリー!!!」


 ルーカス様の声にハッとする。

 ほんの僅かな間であるが、動揺した。

 目の前には竜種の尾が迫っていた。


「くっ!」


 腕に魔力を込めて受け止め、自ら後ろに跳び衝撃を殺す。


 地面を1度跳ねたが、なんとか体勢を変えて着地する。


 追撃しようと迫る竜種の目の前に巨大な炎が上がり視線を遮る。


「大丈夫か!」

「問題ありません。ルーカス様、10秒稼いで貰えますか?」

「わかった」


 私は再び魔力を練る。


「神器【暴食の魔導書(グリモア・ベルゼブブ)】」


 私が神器を発動したのを見てルーカス様が竜種から距離を取る。


「【光の柱(ライトニング・ピラー)】【暴風刃(ストーム・エッジ)】」


 光の柱が竜種を貫き無数の風の刃がその身を切り裂く。

 巻き上げられた土煙が竜種の姿を隠す。


 煙が晴れると竜種の姿が見えて来た。


「これでもダメか」

「2つも上級魔法を浴びてあの程度ですか」


 竜種は負傷こそしているものの、行動に支障は無い様で、その傷も既に再生し始めている。


「どうする?逃げるか?」

「流石に放置は不味いのでは?」

「では、どうする?」

「…………ルーカス様、帰りの護衛は頼りにして良いでしょうか?」

「ん?どういう事かはわからんが、こんな化け物でも出ない限り問題は無いだろう」


 ルーカス様の言葉を聞き、決断する。

 代償が大きいので本当は使いたくないが仕方ない。


「神器【嫉妬の魔導書グリモア・レヴィアタン】」


 物質化した【嫉妬の魔導書】を素早くめくり、目的のページを開いた私は更に魔力を込める。


「神器【雷神の剣(グラザーミェーチ)】」


【嫉妬の魔導書】が消え去ると同時に雷を纏う大剣へと変じた。


「それは⁉︎」


 驚くルーカス様を横目に私は【雷神の剣】を振り上げる。


「【雷神の鉄鎚(トールハンマー)】」


 此方に向かって迫っていた竜種を閃光が包む。


 空から振り下ろされた戦鎚のごとき雷が地響きと共に竜種へと突き刺さる。

 その圧倒的な熱量は周囲の空間を焼き尽くした。


 閃光が収まると、そこには竜種の原型を留めてすらいない煤が残されているだけだった。


 唖然とするルーカス様の隣で私は崩れ落ちる。


「エリー様!」


 それを見たミレイとミーシャが走り寄って支えてくれる。


「大丈夫よ、ただの魔力切れだから……」

「エリー会長……先程の剣はまさか……」


【嫉妬の魔導書】の効果に気付いたのだろう。

 ルーカス様が声を掛けて来た時だ。

 消し炭になった竜種の残骸が崩れた。

 その物音に反射的に警戒を向ける。


「…………な、何だアレは」


 誰のかも分からない呟きだが、その場に居た全ての者達の代弁としてこれ以上の物はない。


 竜種の残骸から出てきたのは大きな球体だった。


 水晶球の様にも見えるそれは、あれだけの雷撃を受けていながら、一切の傷も曇りも無い。


 だが、それよりも私達を混乱させたのが水晶球の中身だった。


「お、女の……子?」


 水晶の中に膝を抱える様に身を丸めた少女が閉じ込められていたのだ。


 歳の頃は10にも届いていないだろうか。

 初めて会った時のルノアよりも幼い様に見える。


「何だ……どうなっているんだ?」


 ルーカス様が呟くと、ピシッと音が鳴った。

 見ると少女を内包した水晶球に罅が入っている。

 その罅がだんだんと広がって行き、全体を覆うと、パリンと意外と軽い音を立てて水晶球が砕け散った。


 粉々になった水晶は空気に溶ける様に消え去り、後には少女だけが残された。


 周囲が静まり返る中、私は慎重に少女に近づき、取り敢えず抱き起こす。

 少女の体は温かく、胸が上下している。

 生きている様だ。


 私は自分が着ていたローブで少女の裸体を隠すと顔に掛かっていた髪を整えた。

 光を放っているとすら錯覚しそうな金色の髪、顔立ちは整っているが、幼さ故に美しさよりも愛らしさが際立つ。


「ん」


 すると少女が身じろぎし、ゆっくりとその目を開いた。


『綺麗』


 ただそう思った。


 少女の瞳は右目は夕日を写し込んだ様に紅く、左目は広大な海の様に澄んだ青。


「……ま」


 少女が口を開く。


「ママ?」




 数刻後、私は再びルーカス様と共に馬車に揺られていた。


「しかし……本当に何者なのだろうな?」


 ルーカス様の視線は私の膝を枕に眠る少女に向けられている。


 あの後、私達が何かを尋ねる前に少女は瞳を閉じて寝息を立て始めたのだ。

 その手が私の服の裾を握ったまま離さないので、そのまま寝かせている。


「こんな事って有るのでしょうか?」

「有るわけないだろ?」

「ではこの子は?」

「…………」


 腕を組んで首を捻ったルーカス様は諦めた様に『分からん』と言葉を溢した。


「無理に聞き出すつもりはないのだが、あの神器は……」


 話は変わるが、と前置きしたルーカス様が私が使った【嫉妬の魔導書】について聞いてくる。


 まぁ、ルーカス様になら言っても良いわね。

 特に隠すつもりも無いし。


「アレはブラート王の神器【雷神の剣】ですわ」

「やはり」

「私の【嫉妬の魔導書】は神器を記録する魔導書です。条件を満たした人物の神器を記録し、使用する事が出来ますわ。

 ただ、その条件は厳しい上、発動時に込めた魔力が尽きると消滅し、一度発動すると、消滅してから72時間、私は一切魔力が使えなくなります」

「なるほど、それで護衛の話をしたのか」

「ええ、今の私は無防備ですから。

 フリューゲルも完全に折れてしまったので再生するまで数ヶ月は必要です。

 ですので……」


 そこで一息間を置き……。


「私を殺すなら今が好機ですよ」

「…………何の冗談だ?」

「おや、ルーカス様は私を恐ろしいと思っていたのでは?」

「恐ろしいさ。だが……君は私に利益を齎すのだろ?」

「ふふ、勿論ですわ」


 ルーカス様がニヤリと口角を上げた。

 多分私も同じ様な顔をしている事だろう。




 ◇◆☆◆◇




 ブラートは王城の一室で頭を抱えていた。


 帝国金貨を偽造していた者達を捕縛する為、帝国の兵が国境を通過する、と連絡が有ったのが7日前、捕らえられたのが我が国の貴族に連なる者だった、と知らせが来たのが4日前、そしてその首謀者が息子であるハルドリア王国王太子フリード・ハルドリアだと言う情報を持った宰相ジーク・レイストンが部屋に飛び込んで来たのが、つい先程の事だ。


「ジーク、フリードはどうしている」

「既に此方にお連れする様、人を向かわせました」

「そうか」

「帝国はどう言っている」

「金貨偽造に関わった者達の身柄の引き渡しと賠償ですね」

「流石に王太子であるフリードを罪人として帝国に送る訳には行かんか」

「そうですね。

 王家への支持は暴落するでしょうし、帝国がフリード殿下を神輿に王国に進軍してくる可能性もあります」

「だがそうなると……」

「賠償金が跳ね上がりますな」

「それだけではないだろう?」

「はい、先日フリード殿下が結んで来た条約も見直されるでしょう。

 おそらくかなり王国に不利な条件となるかと」


 ブラートは再び頭を抱える。


「要求を突っぱねるのは……」

「無理でしょう。そうなれば停戦条約を無効にして戦端を開く口実になります。

 数年前なら兎も角、今戦争となる訳には行きません」

「属国に背後を突かれる可能性があるな」


 武人として鳴らした男が人生で1番の痛みを受けている。


「それと陛下、例の件なのですが……」


 ジークがブラートの耳元で手短に報告すると、ブラートは諦めとも安堵ともつかない溜息を吐き出した。


 そこでフリードが部屋に到着する。

 何故か呼んでもいないシルビアも連れているが、最早それを咎める気力も残っていなかった。


「お呼びですか、父上」

「…………お呼びですか、では無い。

 自分が何をしたのか分かっているのか」

「何の事でしょう?」

「偽金の件だ」

「…………」

「フリード。此度の件、お前はやり過ぎた。

 いくら俺でもこれ以上は庇い切れん。そこで……」


 ブラートは苦しそうに奥歯を噛む。


「そこで、手を打つ事にした」

「……父上?」


 そこで取り次ぎの従者から話を聞いたジークがブラートに耳打ちする。

 それに頷きで返したブラートは扉に向かって声を掛ける。


「入れ」


 扉が開き2人の人物が部屋に入ってくる。


「な⁉︎」


 ガタッと椅子を鳴らしフリードが立ち上がる。


「何故、お前が此処にいる!」


 その2人は女だった。

 1人は従者、南大陸に多い黒髪に黒目の若い女。

 もう1人は更に年若い少女だった。

 従者と同じく黒い髪だが、その瞳は鮮やかな翠。

 全体的な顔立ちは中央大陸の人間だが、纏う雰囲気は南大陸の気を帯びている。

 混血特有の魅力を持つ少女だ。


 少女は怒鳴るフリードに肩をすくめて言い返す。


「何故って、呼ばれたからに決まっているじゃないですか」

「何だと⁉︎」


 苛立たしげに少女を睨みつけるフリードを無視してブラートは遠く南大陸から呼びつけた少女に声を掛ける。


「久しぶりだな、アデル。

 急な呼び出しで済まん」

「まぁボクは構いませんけどね。お久しぶりです。父上、兄上、ジーク様も」


 それから部屋にいる人間の顔を1人1人確かめる様に見たハルドリア王国第一王女、彩暁(アデル)・ハルドリアは最後にフリードの横で所在なさげに座るシルビアに視線を向け、首を傾げた。


「ところで……エリザベート姉様は何処に?」

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また、感想を頂けたら嬉しいです。


(・ω・)ノシ

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― 新着の感想 ―
[良い点] オッドアイのかぐや姫! ちなみにパパはルーカス様なのでしょうか?笑
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