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タクラミ

 呆然とするコルトを無視し、ドアの前に立つミーシャに視線で合図を送った。


 するとミーシャが扉を開き、外で待つ者達に声を掛ける。


 そして部屋に入って来たのは3人、レブリック伯爵の下で働いている法衣貴族の文官と、護衛の騎士が2人だ。


「な、なんだ⁉︎」

「帝国の文官と騎士様ですわ。

 コルト殿をお迎えに来て下さったのです」

「ば、馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!

 お、俺は貴族だぞ!こ、こんな事が許される訳……」

「許されます。コレは法によって定められた正式な身柄の拘束ですから。

 ああ、ご安心を。

 貴方のお仲間は直ぐに帝国に引き渡されるでしょう。

 金貨偽造に関する書類は粗方押さえましたし、貴方の証言もあるでしょうから」

「俺の……証言?」

「ええ、帝国の拷問官……失礼、尋問官は優秀らしいですから。

 コルト殿もきっと素直にお話ししたくなるに違い有りませんわ」


 私の言葉を理解すると、コルトの顔からスッと血の気が消えた。


「ま、待って……話す!話すから!」

「ええ、お話し下さい。

 でも貴方が全てを話したと決めるのは私では有りません。

 大丈夫ですよ、優秀な治癒魔法使いを用意してあるらしいので」

「ま、ち、違……」

「コルト・ブランチェ。帝国金貨偽造、及び帝室侮辱の咎で貴様を拘束する」


 文官は取り出した書状を読み上げると、騎士達が問答無用でコルトを組み伏せて連行して行った。


 何かをわめいている様だが、話なら帝国の拷問官が聞いてくれるだろう。


 帝国金貨の図案は帝国の紋章と初代皇帝の横顔が刻印されている。

 コレを無断で鋳造する事になる為、金貨の偽造は、同時に帝室への侮辱の罪にも問われる事になる。

 先ず、生きて解放される事はないだろう。

 久しぶりの金貨偽造の罪人だ。

 見せしめとして、可能な限り惨たらしく処刑されるだろう。


「さて、こちらは片付いたわね。帰るわよ」


 マーベリックとベリットに撤収を指示した私は、一足早くミレイとミーシャと共に馬車で次の場所へ移動を始める。

 此処から1日程の距離にある金貨偽造の工房だ。




「やぁ、お疲れ」

「あら、ルーカス様。わざわざ外で出迎えていただかなくとも良かったでしょうに」


 翌日、私たちが工房に到着すると、慌ただしく資料や証拠などを運び出す帝国兵達に混じってルーカス様が待っていた。


「コレを君に見せたくてね」


 ルーカス様が1枚の書類を手渡してくれた。


「コレは……」

「君にとって良い武器だろ?」


 それはこの帝国金貨の偽造がフリードの指示である事の証拠となる書類だった。


「本物ですか?」

「筆跡を鑑定しなければ分からないが、多分本物だろう。

 帝国に戻ったら直ぐに鑑定しよう」


 こんな決定的な証拠を残しておくとは、あの王太子の愚かさを再確認した気分だわ。


「コレはルーカス様がお持ち下さいな」

「なに?」

「いくらなんでも王太子を罪人として帝国に引き渡すなんて事はしないでしょう。

 あの馬鹿の身柄と引き換えにかなりの賠償を請求出来る筈です」

「良いのか?君なら別の使い方も出来るだろう?」

「構いませんわ。

 フリード個人を追い詰めるより、帝国に賠償させて王国の国力を削ぐ方が得と見ました」

「そうか……では、有効に使わせて貰おう」


 私はルーカス様に書類を返したのだった。




 ルーカス様と合流した後、私はルーカス様の馬車に同乗して帝国へと帰国する道中に居た。


 此処は王国と帝国の間の荒野に隣接する小国であるメリーナ王国から、帝国に編入されたサージャス王国に続く街道であり、側の森を越えると、広大な砂漠が広がっている場所だ。


「しかし、随分と上手く行ったものだな」

「当然ですわ。私が作った商会ですもの、間者によって向こうの情報は筒抜けです」

「そのファンネル商会もこれで終わりか」

「間違いなく取り潰しですわね。

 まぁ、私の息が掛かった者達は全て抜け出した後ですから、残っているのはフリードが集めた甘い汁を吸うだけの寄生虫共だけですわ」

「そうか、それから主犯だったコルトと言う男は貴族の出だろう?実家の方はどう出る?」

「おそらく当人と縁を切らされた上で降爵、当主は強制隠居と言ったところでしょうか。

 フリードが主犯である以上、家族諸共処刑とは行かないでしょうね」

「君にしては優しいじゃないか」

「…………ルーカス様は私をなんだと思っていますの?」


 私が半目で睨むと、ルーカス様は肩を竦める。


「ロベルトの時は民を巻き込んで大勢の死者を出しただろう?

 だが今回は犯罪者を捕らえただけだ。

 俺はてっきり今回も血の雨が降る事になると思っていたぞ」

「私はそこまで悪辣では有りませんわ。

 必要なら民を巻き込む事も厭いませんが、殺戮を楽しむ趣味は有りません。

 それに、今回の一件は下準備です」

「下準備?」

「ええ、私は王国を潰すと言ったでは有りませんか」


 ルーカス様が眉根を寄せて見せる。


「今回、王国は主犯であるフリードを差し出す訳には行きません。

 ですが、それ以外の貴族出身者の幾らかは帝国に引き渡されるでしょう」

「そうだな、全員渡せないなどとは言えないだろう」

「そうなると、引き渡された方の貴族はどう思うでしょうか?」

「それは……フリードのしでかした所為で一族の者を帝国に差し出す事になり、更に降爵の不名誉」

「更に元凶であるフリードは健在となると?」

「王国の貴族と王族の間に不和が広がる……か?」

「はい、更に王国は現在属国との関係が悪化しております。

 そしてロベルトの一件で貴族に対する平民の感情も良くありません。

 これらも、元を正せばフリードの仕業ですね」


 ルーカス様は私の言葉を聞き、自分の瞳を覆う。


「まさか…………」

「燻る火種に油を注ぎ、風を送ればどうなるか」

「…………大勢の死者が出るぞ?」

「初めからそう言っているでは有りませんか」

「………………やはり君は恐ろしいな」


 固く目を閉じて溜息を吐き出すルーカス様に、何を今更と返す。


 この計画を実行すればロベルトの事件とは比べ物にならない程の死人が出るだろう。

 だが、私は止まるつもりは無い。

 このまま行けば王国は立て直すことなく滅亡する。

 それを私の手で早めてやるだけに過ぎない。


 そこからは話題を変えた。

 私が今力を入れているチョコレートの話をし、ルーカス様が自領にも出店しないか?と誘いを掛けて来た時だ。


 私たちが乗る馬車に大きな衝撃が走った。

 車体が激しく揺れ、馬車を引く2頭の馬が竿立ちになり嘶く。


「何だ⁉︎」


 ルーカス様の声に応えた訳では無いだろうが、外から警備の騎士の叫び声が聞こえた。


「敵襲!敵襲!」

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(・ω・)ノシ

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