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ウラギリ

「う……ぁ……」

「どうかされましたか?コルト殿」


 そう尋ねるエリザベートにコルトは動揺を隠し切れなかった。


 エリザベス商会の裏に居る人間は何処かの貴族か豪商だと当たりを付けていた。

 それがまさかあのエリザベートだ。


 不味い……不味い……エリザベートは商売人としてだけでなく武人としてもかなりの実力者だと聞く。


 いや、落ち着け……既に周囲に潜んでいるエリザベートの手下はベリットの配下が始末している筈だ。

 なら目の前の2人とマーベリックを始末すれば良い。

 こちらはバアルと腕利きが複数控えている。

 いくらエリザベートでも勝ち目は無いはずだ。


 エリザベートは国家反逆の指名手配犯、実質は王家が囲い込もうと探しているらしい。

 生捕りに出来れば王家への恩を売れる。

 それに未だ所在が掴めていなかった人物だ。

 殺しても死体を始末してしまえば問題無い。


 全身から冷や汗が噴き出るのを感じながらコルトは努めて冷静に考えようとする。


 するとその場へ新たなる人物が扉を開けて現れた。


「失礼します」


 入って来たのは猫人族の少女だ。

 小綺麗な格好をしているが、魔法刻印があるので奴隷だろう。


「エリー様、周囲の伏兵の始末が終わりました」

「ご苦労様、生き残りは?」

「指揮官クラスと思われる者達を数名、降伏した者達を10数名捕らえています。

 捕虜はベリット様の私兵に預けておきました」

「な⁉︎」


 コルトは立ち上がりベリットを見る。

 ベリットは苦笑いを浮かべながら手でエリザベートを示す。


「ご紹介が遅れました、こちらビオート商会のオーナー、エリー・レイス殿です」

「…………貴様……最初から!」


 ベリットは初めからエリザベートと手を組んでいたと言うことか。


「だが、ビオート商会は老舗の……」

「クスクス、やはり貴方には商売人としての才能は有りませんね」

「な、なに⁉︎」

「私はビオート商会を丸ごと買い上げただけですわ」

「ぐ⁉︎」


 エリザベートはファンネル商会を嵌める為にわざわざ老舗の商会を買い上げて、わざと怪しいダミー商会を作ったと言う事か!

 だが、何故そんな事を…………。

 確かにダミー商会から資金を吸い上げるつもりで多額の金貨を費やしたが、それは全て偽金貨。

 奴は金と手間を掛けて偽金貨を集めただけだ。

 何が目的で……。


「1つ、良い事を教えて差し上げますわ」

「…………」

「今頃、貴方の偽金貨工場をレブリック伯爵の騎士達が制圧している頃です」

「馬鹿な⁉︎」


 レブリック伯爵と言えば帝国大使をしている帝国の貴族だ。


「此処は王国の属国であるメリーナ王国だぞ!帝国貴族が好き勝手に振る舞える筈がない!」

「あら、ご存知有りませんの?」

「?」


 エリザベートは背後のメイドから書類を受け取りこちらへと滑らせた。

 そこに書かれていたのは……。


「な、なんだコレは………」

「そこに書いてある通りですわ。

 つい数ヶ月前、帝国と王国の間で通商条約が結ばれました。

 そこで付随する条約として他国間で広く適用されている条約を、帝国、王国間でも締結したそうですわ。

 勿論、その中には偽金に関する条約も含まれます。

 偽造硬貨が発見された場合、偽造された国はその偽造行為の捜査に限り、条約を交わした他国でも自国と同様に捜査権、逮捕権を行使出来る。

 中央大陸では多くの国で結ばれている条約ですわよね」

「ば、馬鹿な……そんな話……」

「いいえ、条約の内容を詰めてつい数日前に発表された筈ですわ。

 商業ギルドを通じて各商会に通達された筈です」


 此処に向かう為、数日前には帝都を出ていた。

 その為にわざわざメリーナ王国まで呼びつけたのか。


「く……く、くくく、なら……仕方ないな……バアル!この女を殺せ!」


 コルトの指示でバアルが前に進み出る。


「はぁ、仕方ねぇな。そういう訳だ、どうする、嬢ちゃん?」

「仕方ありませんわね」


 指をボキボキ鳴らす巨漢のバアルを前にエリザベートはその微笑みを崩さない。


「では貴方の任務は此処で終了としましょう」

「はぁあ、なかなか良い金になる仕事だったのにな」

「貴方にはトレート商会の警備、護衛部門長の席を用意しているわ」


 エリザベートと話したバアルは肩を竦めると、目にも止まらない速さで拳を繰り出しコルトの背後の腕利きを殴り飛ばす。

 壁に叩きつけられた護衛は口から血を吐き出して絶命している。


 更にバアルはコルトが言葉を発する暇も無く、護衛達を殴り、蹴り殺した。


 コルトは驚愕の表情でバアルを見る。


「バアル!貴様、裏切るのか⁉︎」

「おいおい旦那、人聞きの悪い事を言うんじゃねぇよ。俺は最初からお嬢の配下だぜ」

「バアル、エリー様にその様な口の利き方は……」

「悪ぃなミレイの姐さん、俺は育ちが悪いんだよ」


 エリザベート達と親しげに話すバアルにコルトはようやく、自分の味方など、この場には初めから居なかった事を悟った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 護衛の筆頭さえ草だったのが戦略性凄すぎる 一体どれだけの先を読んでるのか [気になる点] その気になれば一瞬で滅ぼせる王国をいたぶってジワジワ嬲り殺しにしてるんだろうな
[一言] 通商条約は、何のためだろうと思ってましたが、なるほどそういうわけでしたか〜
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