疑惑の商会
帝国に亡命して既に5ヶ月、トレートル商会は順調に知名度を上げていた。
下町で借りている借家で目を覚ました私は手早く身だしなみを整えて、既に目を覚まし朝食を用意していたミレイと共に簡単な食事を済ませて家を出る準備をする。
その時、窓から小鳥が部屋に飛び込んで来た。
「エリー様、王国の手の者からの定時報告です」
「そう、何か変わった事は?」
「はい、どうやらあのクソアマ……失礼しました。あのロックイート男爵令嬢が正式に王太子の婚約者として認められた様です。
また、エリー様は国家反逆を企てたとして指名手配されているようです。
公爵家は率先してエリー様を追求する事で免罪されているようです」
ミレイは怒りに震えながら連絡の手紙を読み上げる。
「なるほど、フリードの戯言を正式に認める事で王家の威信を守ったって所ね。
あの脳筋の考えとは思えないから多分公爵の献策でしょうね」
「そんな!娘であるエリー様を逆賊に仕立て上げたと言うのですか⁉︎」
「公爵ならやるわ。
彼が大事なのは王国よ。
私が見つからない以上、王太子の名誉を守る為、この程度はやってのけるでしょう」
あまりの怒りに涙を流すミレイの肩を摩りながら私は連絡の手紙を蝋燭の火で燃やし煤を灰入れに捨てる。
当然、私だってこの報告に怒りを覚えている。
だが、既に私は奴らに報復する事を誓い、その為に行動を開始している。
私の怒りは時が来れば奴らを蹂躙する事になるだろう。
「さぁ、ミレイ。商会に行きましょう」
「…………はい、エリー様」
この日もいつも通りボロ屋に出勤した私達はせっせと石鹸を作り続ける。
普段なら昼頃に顧客に石鹸を届けて夕方頃まで石鹸を作り続ける。
だが、今日はボロ屋の扉をノックする者が居た。
半分腐りかけなのだからあまり強く叩かないで欲しい。
「はい」
ミレイが扉を開けると鎧を着込んだ数人の男達が扉を掴み大きく開くとズカズカと中へと押し入って来た。
「な、なんですか貴方達は⁉︎」
ミレイが声を上げるが男達は何も答えない。
男達は私とミレイを取り囲む様に立つと腰の剣に手を掛ける。
「妙な動きはしないで下さい」
その声は男達の背後から聞こえて来た。
剣に手を掛けている男達の背後から現れたのはピシッとした格好をしたメガネを掛けた女性だった。
「貴女は?」
私が尋ねると、メガネの女性は怜悧な声音で身分を表すギルドカードを取り出した。
「私はアルテ・ヒルガディエと申します。
商業ギルドの法務部所属の一等捜査官です」
商業ギルドの法務部はギルド所属の商会の犯罪などを取り締まる捜査機関だ。
「トレートル商会は毒性のある石鹸を販売しているとの訴えが出ております」
「毒性のある石鹸?」
「はい、トレートル商会の石鹸を使用した方から、肌の酷い爛れや薬品による火傷などの症状が出たとの証言が有ります」
アルテは懐から商業ギルドのギルドマスターのサインが入った書状を取り出した。
「コレは商会ギルドからの強制捜査令状です。
此れよりトレートル商会の商館の強制捜査を開始します。
商会長エリー・レイス、商会員ミレイ・カタリアの身柄は商業ギルドが拘束します。
商業ギルドで事情聴取を行いますので我々にご同行をお願い致します」
アルテは有無を云わさぬ口調で告げる。
「エリー様……」
「……分かりました、我々トレートル商会は何一つとして、やましい事は有りません。
捜査にご協力致しますわ」
「ご協力に感謝します。では、表に馬車を用意しておりますので」
私達はアルテと兵士に促され、馬車に乗り込み商業ギルドへと向かって出発した。
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