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7.強くなるには

※クライブとバルドの交互に視点変わります。

 


 シノと一緒に稽古をし別れた後。

 自分の家に戻ったクライブはバルドと共に屋敷内にある鍛錬場で稽古の続きをやっていた。


「ちょ、バルド…ッ!今日容赦ねぇな!?」


「あら、そう?明日シノちゃんとのお楽しみが出来たからきっと張り切っちゃってるのねッ!!」


 一気にバルドがクライブの間合いに入り、キンッキンッと剣撃の音が響き渡る。

 クライブの片手剣にバルドは双剣で応戦していた。もちろん真剣ではない。

 クライブがバルドの攻撃を薙ぐとすぐさまもう片方から追撃される。それをすんでのところで躱して足蹴りをお見舞いしようとしたがバルドの動きの方が断然早く、また脇腹に回し蹴りを喰らった。


「うッ…!!!!」


 そのまま地面に投げ出されたクライブの首元にバルドは片方の剣を突き立てる。


「まぁちょっと動き良くなったかしら。でもまだまだね」


 脇腹の痛みと悔しさに顔を歪めながらもクライブはすぐに立ち上がった。


「くそッ…今日はバルドの動きについていけると思ったのによぉ」


「あんたそろそろ学びなさいよ。数回攻撃を薙いだところで一瞬気を抜くのやめなさい。昨日出来なかったことが出来るのは嬉しいかもだけど敵が目の前にいるのにそんな隙を見せれば即やられるわ」


「……わりぃ」


 確かにバルドの言う通り、この間出来なかったことが出来るとつい気を抜いてしまう癖がある。剣技は人と人との駆け引きだ。

 相手の行動を予測し、相手の意表を突く。

 隙を見せるなど言語道断である。


 素直に謝れば、バルドは「よろしい」と満足気に笑った。


「でもわざと見せる隙ならいくらでも見せなさい。相手がこれは勝てると思った瞬間、隙を突いてやったと確信した瞬間、その時もまた相手の隙よ。覚えておきなさい」


 相手が勝てると思った瞬間、か。

 まさしくピンチをチャンスに変えられる時ということだろう。

 すぐ顔に出てしまう自分にはまだ到底出来ない技であった。

 やっぱりすごいと目の前にいる師匠を仰ぎみる。


 鍛え抜かれた筋肉に、軽やかな身のこなし。

 相手の隙を一瞬でも見逃さない的確な目。

 ましてや国の第1部隊騎士団長を務める自分の父にも引けを取らない強さ。



 いつか。


 いつか超えられるだろうか。


 こんな俺でもこの人に。


 いや、超えなきゃならない。


 そうじゃなきゃ1番守りたいものを守れない。


 もう絶対にあいつを泣かせるものか。



 そう強い意志を持って俺は剣を握りなおすとバルドに再度振りかぶった。







「今日はさすがにここまで!寝る時間が遅くなると私も肌に支障が出るのよぉ。嫌だわ歳かしら」


 バルドは息一つ乱れていなかったが、クライブに至っては意気消沈していた。


「はぁ…はぁ……」


 時刻は午前1時。さすがに今日はやりすぎたなとちょっとバルドは後悔していた。

 世の中1日何かをやったからといって、その日すぐに上達するわけではない。

 結局は日々の繰り返しなのだ。それが1番の上達のコツである。

 バルドだって今や剣技の達人としてその界隈では名が知れているが、楽してなれたわけじゃない。

 何年も経験を積んでやっと周りから認められたのだ。


「クライブあまり音を詰めすぎるんじゃないわよ?上手くいくものもいかなくなっちゃうわ」


「…はぁ…分かっ…てる…」


 ほんとに分かっているのだろうかこの弟子は。目にはまだ闘志が感じられ、すぐにでも最後にもう1回と言い出しそうだ。

 真っ直ぐすぎるのも大概だなと呆れつつ、使っていた双剣とクライブが持っていた片手剣を「今日はもうほんとにやらないわよっ」と取り上げ片していく。

 案の定クライブは「ちょ…っ!まだ…!」と言っていたが無視した。


 窓から覗く空には欠けた月が浮かんでいた。




 ■■■■■■■■■■■■




「うっ…甘さが染み渡る…」


「ふふっ、きっとあれだけ頑張ったからね」


 昨日の約束通り稽古後。

 バルドと内緒話という名のお茶会を開いていた。(クライブは1人だけ仲間はずれかとめちゃくちゃ拗ねてた。なんか可愛いかった)


 今日バルドが持ってきてくれたのはチョコのテリーヌと紅茶の産地で有名なルトセンタという国からわざわざ取り寄せてくれたという紅茶だ。

 前世で無類のチョコ好きだった私にとって幸せ以外の何物でもない。しかもこのテリーヌ中に砕いたチョコが入っていて、さらに濃厚である。最高!の一言に尽きた。

 代わりに紅茶は甘さ控えめで上品な味。

 チョコの邪魔をしないし、かといってチョコに味が消される訳でもなく、まさしくベストマッチといった感じだ。


「ありがとう師匠…私幸せだ…」


「シノちゃんがそんなに喜んでくれるなら私も嬉しいわ!でもそのお顔は男には見せちゃダメよ?特にクライブ」


 めっ!とバルドに言われ、クライブに見せられないほど変な顔をしていたのだろうと反省した。

 でもお菓子を見るとつい顔が緩んじゃうんだよなぁ…。


「そうだシノちゃん!クライブに剣を渡すんでしょう?なになにまさか告白!?私、恋の相談にも乗るわよぉ」


 バルドに話を振られ、今日のお茶会の本題を思い出した。

 危ない危ない、お菓子に気をとられて忘れるとこだった。

 というか告白って。


「いや全くもって違いますけど、日頃のお礼とこの間倒れたときも傍についててくれたらしいのでそのお詫びも含めてです。師匠にもちょっと手伝ってほしいというかアドバイス的なのも欲しいんですけど大丈夫ですか?ほぼ毎日クライブと手合わせしてる師匠の方が細かな癖だったり分かるかと思って」


 これでバルドの協力が得られれば、クライブにとってより良い剣が出来る。

 お願いしますと真剣に頼み込んでみればバルドは笑顔であっさりと了承してくれた。


「もちろんシノちゃんの頼みならいくらでも」


「えっ、そんなあっさりと?ほんとにいいんですか?師匠の自由時間を私のわがままで拘束しちゃうんですよ??」


 了承してくれても交換条件とか出されると思っていた私は思わず拍子抜けしてしまった。


「あら、シノちゃんと一緒にいられる時間が増えるなんて私としては幸せなのだけど。それに基本人に頼られて嬉しくないってことはないわ。だってそれは信頼して私ならって頼りにしてるということでしょう?まぁ人にもよるけどね。でも今回はシノちゃんだから」


 うぅ…師匠かっこいい。

 と思ったと同時に何故この人は顔も整っているのに攻略対象にいないのだろうかと謎が深まった。ただ妹の話を聞き流していただけかもしれないけれど。


「師匠ありがとうございますっ…!宜しくお願いします!」


 シノが笑顔でお礼を言えば、バルドは少し目を見開き柔らかく笑って「どういたしまして」と返してくれた。


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