4.新キャラ登場
※途中からバルド視点
布団からガバッと起き上がった私は独りごちた。
「えっ、アルフレッド味方しなかったっけどうだったっけ…!?」
またモヤモヤするところで目を覚ましてしまったことに後悔する。
現在の時間は6時ぴったり。我ながら体内時計がしっかりしているなと思ったが、そんな場合ではない。
アルフレッド・シーグローヴ
国の王太子でクライブと同じく攻略対象の1人。
一等に属しており、魔法を有している者は基本1人1属性なのだがアルフレッドに関しては火・水・風の魔法所持者だ。ちなみにクライブは火の魔法所持者だった気がする。
金髪碧眼のThe王子な容姿で甘い言葉をくれる彼は夢見る女の子から絶大な人気であったらしい。(妹曰くであるが)
妹に見せられたスチルとボイスは『君の瞳は今まで見た宝石の中で1番綺麗だ』とか『もう僕には君しか見えない。あぁ、プリンセス君の全部僕にくれないか』等。私であれば寒気と吐き気がしそうな台詞ばかり言っていた。
中でもよく聞くテンプレ台詞『ふふ、君の身体は羽のように軽いね。ちゃんと食べなきゃダメだよ』
いやいや羽のように軽い人間いるわけないだろと思わず突っ込んでしまった。主人公まさか臓器がないのだろうかと心配になった覚えがある。
売ったのか。庶民だったからお金なくて売っちゃったのか。
それはさておき、
あの妹の言い方から察するに最終的にアルフレッドは主人公についてくれるっぽいけれど、もしかしたら途中までは勘違いしたままなのだろうか。
それだとあの可愛いヒロインが可哀想だ。
努力して得たものが認められないのは1番悲しい。
しかもこの状況を打破出来るのはクロエより等級が高いか同等のものに限られる。
それなら、
今日から剣術は言わずもがな勉強にももっと力を入れるべきだなと改めて決心した。
セリアに身支度を手伝ってもらい、1階に下りて両親と共に朝食を摂る。
食べている最中も「まだ病み上がりなんだから無理しちゃダメだ」とか「具合が悪かったら休んで構わないよ」とか何度も言われ、心配しすぎではと思ったが溺愛している一人娘が急に倒れたのだ。申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
朝食を済ませ、剣術の稽古のために庭に向かうとクライブともう1人男性が話していた。
2人は私に気づくと、
「おはようシ…」
「シノちゃ〜〜ん!!!もう大丈夫なの?!?元気!?!!良かったわァ!!!うふふふふ」
クライブの挨拶を遮り、私の懐に素早く潜り込んできた彼は私に有無を言わさぬまま脇に手を滑り込ませ「高い高ーい!」をしてきた。
いや普通に恥ずかしい。思い出す前まではまだ大丈夫だったが、今は中身が20歳以上なだけにすごく恥ずかしい。付け加えこの人身長高いからちょっと怖い。
「あの、師匠、高い高いはやめてください…」
「あらやだ!まだ子供なんだからいいじゃないの。愛でたい盛りなのよ私」
このおネェ言葉を話す男性が私とクライブの剣術の師匠バルド・サンプソン。
サージェント家とシールズ家に雇われている剣技の達人。
切れ長の深緑の目に銀髪の髪、褐色肌は南国の貴族のようである。
体つきはマッチョといかないまでもかなりむきむきしているが顔が整っているためバランスが取れていてかっこいい。
この人話し方がこうじゃなければモテモテだっただろうにと思うが、人それぞれなので別に気にしていない。
とりあえず下ろしてほしい。
隣でクライブが「羨ましい…」とか言ってるからそっちにやってあげて。
「シノちゃんは本当に可愛いわァ。私の子供にしちゃいたい」
「俺ももれなくセットでついてくるけど」
「うっわ、シノちゃん聞いたァ?!魚の糞みたいについてくる気よこいつ。シノちゃんいないとダメなとこほんと女々しいわ…」
「おい。例えもうちょいどうにかならないのかよ」
「……」
「ちょ、シノまでそんな冷めた目を上からしないでくれ!!俺悲しくなる悲しくなるから!!!」
「師匠、クライブも高い高いやってほしいって目が言ってます。やってあげてください」
「いやいやいや言ってない言ってない!!」
「残念だけど生意気なクソ野郎を愛でる趣味はないの。ごめんなさいねクライブ」
「断り方も腹立つわ」
そうして軽口を叩き合い誰がともなくぷっと吹き出した。庭には3人の笑い声が響き渡った。
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「そういえばシノちゃん。クライブから騎士を目指してるって聞いたけど本当?」
バルドはシノが趣味でやっているとばかり思っていたのでこの話をクライブから聞いたとき、とても驚いた。
一昔前には数人いたらしいが今現在この国には女性で騎士になろうと思うものはごく稀だ。なるとしても政治家とか、セジウィック学園を卒業してから就ける魔法院のトップとか。
「本当です。なので師匠、今日からは思う存分扱いてください」
「…なんかクライブより男っぽいのは何故かしら」
「うるせぇ」
前に会ったときよりも何故だか大人びたなと頭の片隅でバルドは思った。
倒れたことが何かしら影響しているのか。
とりあえずシノを真っ直ぐ見つめながら、問いかけた。
「…騎士を目指す理由は?女の子だからって差別する訳じゃないけど、シノが思う以上に大変よ。生半可な気持ちでなれるもんじゃないわ。体力だって男女でやっぱり差が出ちゃうものだから、クライブよりももっと努力しなきゃだし、精神面でも強くならないといけないわよ。…もしもの話だけれど、シノちゃんにとって敵が現れた場合、その相手を斬ることに躊躇しちゃダメ。殺すつもりでいかなきゃシノちゃんが殺られちゃう」
「バルド…!」
クライブが咄嗟に口を挟んだ。
まぁ殺るか殺られるかなんて、本当なら女の子に聞かせる話じゃないから、シノちゃんに気を遣ったんだろう。
でも、だからこそ本気で騎士を目指すなら言わなければいけない。分かっていなきゃいけない。
「騎士ってね、命のやり取りをしなければいけない機会がたくさんあるの。ねぇシノちゃん、貴方に人を殺める覚悟はある?」
バルドは正直にシノに問う。
彼だからこそ、聞けたものだった。
守るべきものの為なら容赦せず、躊躇うこともなく、数え切れないほど人を殺めてしまった彼だからこそ。
やったことに後悔はしていない。でもその重さは死ぬまで、いや死んでも背負っていかなければいけない十字架となって彼にのしかかっている。
クライブはシノを守る強さがほしいという理由だった。幼いながら切実に訴え、覚悟も秘めたあの目をバルドは忘れることはない。
なによりシールズ家は騎士の家系なので元々騎士になることは決まっていたのだけれど。
だがシノがいきなり騎士を目指したいというきっかけはなんなのだろうと不思議に思う。シノの両親からは好きなようにやらせてやってくれと言われているので止める気はなかったが、覚悟がないなら諦めてほしかった。
可愛い大事な女の子であるシノには自分と同じになんてなってほしくなかったから。
彼女は自分の言葉を聞いて、口を引き結び下を向いた。
だが、すぐに顔を上げ決意を込めた目でバルドを見た。
「……それでも。それでも強くなりたいんです。誰かを守れる強さと人に頼らずとも自分の身を守れるように」
シノはバルドの目をしっかりと見つめて伝える。
この子は守られるだけのお姫様になるつもりはないのだとシノの隣にいるクライブを横目で見た。
クライブはまだ納得していなさそうな顔ではあったが、シノが本気でやりたいと思っていることを止めはしないだろう。
でも好きな女の子が怪我したりするのは確かに嫌よねぇと思った。実際クライブには衣服で見えないところに痣が出来ている。峰打ちやら足蹴りやら防ぎきれなかった痕が残っているのだ。
まぁ大事なシノがこれだけ本気なのだから、師匠として応えない訳にはいかない。
「分かったわ。じゃあ容赦なくやらせてもらうわね」