27. 商人
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名残惜しくも首都ルーグスを後にし、私達はソルテに辿り着いた。
ベネット家まではまだもう少し時間がかかるが、ここまで来れば予定通りに着けるだろうとラエルさんが話していた。
窓から見える景色も様変わりしており、ソルテにしか自生しないと言われているリリスの木が連なるようになる。
ちなみにこの木は、葉っぱが光に照らされると様々な色に光り、まるで宝石のような神秘的な輝きを放つものだ。朝はもちろん、夜になっても月明かりに照らされて幻想的な光景を見ることが出来る。
そんな初めて見る光景に、私は目をきらきらとさせながら魅入っていた。
「シノ、そんなにリリスの木が気に入ったのか?」
「うん!本でしか知らなかったけど実際に見たらもっと綺麗で。クライブは何回か見たことあるんだっけ?」
「あぁ、父さんの仕事についていったときにな。そういえば、そん時寄った店でリリスの葉を使った装飾品を売ってるとこが確かあったから帰り際に行ってみるか?」
「え、行きたい」
「りょーかい。ラエルに後で相談してみるわ」
クライブからの嬉しい提案に私は思わず即答してしまった。
だってこんなに綺麗な葉の装飾品とか絶対可愛い。
良いのがあったらセリアとお揃いで買おう。そうしよう。
私がそう心の中で意気込んでからしばらくして、馬車が緩やかに止まった。
ここら辺で止まる予定はないはずだったため、不思議に思っていると、リアンさんが窓をコンコンとノックしてきた。
クライブが窓を開けリアンさんに応じる。
「何かあったのか?」
「いやぁなんか先の方で他の馬車が脱輪してるっぽくて、今ラエルが様子を見に行ってるんですけどぉ」
開けた窓を少し覗くと、確かに奥の方で馬車が傾いていた。
ラエルさんが男性と何か話しているのが見える。
男性は見たところ商人っぽい感じだ。
少しして話が終わったのかラエルさんがこちらに戻ってきた。
「話によるとベネット家のお抱え商人だと言っており、そちらに積荷を届けるために向かう途中であったと。しかし脱輪に加え車輪の空気も抜けているため、あの馬車は走行不可だと思われます。クライブ様いかがいたしますか?」
「え〜〜怪しくない?わざとやったんじゃないのぉ?」
リアンさんが訝しげに男性の方を見る。
確かに私達もベネット家に向かっている途中ということもあり、タイミングが良すぎて怪しい気もする。
かといってこのまま助けずに通り過ぎるのもなぁ。
本当に偶然この状況になったのかもしれないし。
クライブは少し考え込むと、
「どちらにせよ困ってることに変わりはないし、それに目的地も同じだ。彼をこの馬車に乗せてあげてくれ。シノもそれで大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ」
「え〜〜なんかあっても知りませんよぉ?」
「おい本気で知らん振りするなよ!?本当に騎士かお前はっ」
ラエルさん今日もさすがのツッコミである。
もうコンビ組んでTVに出てほしいレベルだ。
というわけで私達は商人も一緒に馬車に乗せ、ベネット家に向かって再度出発したのだった。
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「いやはや本当に助かりました!このまま誰も通らなかったらどうしたものかと考えあぐねていたところだったのです。通ったとしても山賊の類いであれば命すらなかったかもしれません。ここらは出やすいといいますからね。ですが貴殿方と出会えた!しかも目的地まで一緒なんて!私はとても幸運ですな」
クライブの隣に座っている商人の男性はホビーと名乗った。
平民から成り上がったため姓はないとのことだ。
ホビーさんが名乗ったので私達もそれぞれ自己紹介をする。
「まさかこのような場所で噂のシールズ家のご子息とサージェント家のご息女に出会えるとは私は本当に運がいい!」
「噂?」
「えぇ、美男美女だと話題に上がっておりましてね。いやぁこんな成り上がりの商人が会えるような存在ではないです。……はっ…私は今人生の運を最大級に使ったのでは」
「そんな大袈裟ですよ」
クライブと私はほぼ同時に苦笑いを零した。
ホビーさんは商人なこともあり、なかなかに口達者だ。
彼のペースに乗せられてしまえば、あっという間に話の主導権を持っていかれるだろう。
悪い人ではなさそうだけれど相手は大の大人。反対にこちらは子供。
今のところは私達を子供だからといって侮る様子はないが、警戒しておくに越したことはない。
私は作り笑いをしつつ、彼に気になっていたことを質問してみた。
「ホビーさんは何故お一人で?山賊が馬車を襲う可能性があったのなら、護衛を雇うべきだったのではありませんか?」
「あぁ、普段は必ず雇っていました。ですが今日に限って毎回雇っていた護衛が集合時刻になっても来なかったのですよ。急遽他の傭兵を雇おうとしたのですが、ゴロツキのような者ばかりで…。私、人と物を見る目だけはあるのです。結局時間が差し迫っていたため一人で行くことに」
「護衛の方が来なかったことは以前にもあったのですか?」
クライブがそう問いかけると、ホビーさんは顎に手を当てながら口を開く。
「いや、ありませんでしたね。ですが人は時に約束を平気で破る生き物ですから、護衛が面倒になったのではないですか?私としてはそのような心構えは言語道断ですがね。商人は信頼から成り立つ職です。約束を一つでも反故にすれば、崩れ去るのは一瞬ですので」
彼の言葉は嘘を言っているようには聞こえなかった。むしろ強い信念が感じられるくらいだ。
いやもしかしたら騙されている可能性も否めないんだけど。
それにしても護衛の方は何処に行ったのか気になるところ。
本当にそんな理由なのだろうか。
私達に会うように誰かが仕向けた?まさかね。
私がぐるぐると考えていると、ホビーさんは持っていた鞄から布に包まれた何かを取り出した。
「まぁ護衛のことはもう過ぎたことです。こうして助けていただいたので終わり良ければなんとやらでございます。それよりこちらをお二人に。お礼といっちゃなんですが受け取ってください」
ホビーさんが布を広げるとそこに入っていたのは、星を散りばめたような美しい装飾が施されている綺麗な手の平サイズのオルゴールが二つ。
こんな綺麗なオルゴールをタダでもらうなんて無理だ。しかも見るからに精巧に作られているため絶対お高い代物。いくらお礼といえどタダほど怖いものはない。
「受け取れないですよ。自分達は見返りを求めて貴方を助けたわけではありません。それにこちらは商品でしょう?」
クライブも同じように思ったのか丁重な断りを入れるが、ホビーさんは食い下がらなかった。
「いえ!これも何かの縁でございます!才能溢れる若手のデザイナーが作ったこの世で二つしかないオルゴール!今日持っていたのもきっとお二人にお渡しする運命だったに決まっています!」
「ですが……」
「さぁさぁもらってください!」
きらっきらの目でホビーさんはオルゴールを押し付けてきた。
押しが。押しが強すぎる。押し売りじゃん。
これが商人なのかと内心ドン引きしてしまう。
いやでもうちに来る商人はこんなじゃなかった。
クライブがそれでも断ろうとすると目をうるうるとさせ、「そのオルゴールも貴殿方の元に行きたいと言っているのです…私には物の気持ちが分かります…お願いです…」と言って、まるでこちらが悪いことをしている気分になった。
私とクライブは渋々ながらオルゴールを受け取ると、ホビーさんはパッと晴れやかな笑顔になり、
「ありがとうございます!!!オルゴールも大変喜んでおります〜!!今なら歌を気持ちよく歌えそうでございます!一曲歌っても?」
「「いや、ちょっ…」」
「では歌わせていただきます!作詞作曲ホビーで、『歓びのラプソディ』」
こちらの返答を最後まで聞かずに歌い出したホビーさんの歌で、私達はある意味悪夢の時間を過ごしたのだった。
リアン『うるっせぇ!!!』
ラエル『リアン本音を言うな!本人に聞こえてしまうだろう!!』
ジェス『く、口塞いだら、ダメ…?』




