20. 心安らぐ場所
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一悶着あったため、パーティーはお開きになった。
今回のことでサージェント家がシールズ家の後ろ盾を得ていること、そして強い信頼関係が築けていることが公になり、目立ったところで私達を侮辱したりはしなくなるはずとのことだ。
まぁ目立たないところでは色々言われるだろうが、それはしょうがない。
今私達はシールズ家のリビングルームに足を運んでいる。
日は傾いて、空からは真っ白な雪が降っていた。
ホワイトクリスマスだなぁなんてつい思ってしまうが、この世界何故かクリスマスがない。クライブが誕生日だから無くしたのか、はたまたキリスト教の概念がないからなのか。運営の考えは今となっては分からない。
お父様とカーヴァーさんは二人で話し合いがあるとのことで席を外しており、バルドやセリアも何かあればすぐ呼んでくれと言ってここにはいない。でもテーブルにティーセットやお菓子を用意してくれた。
たぶん私が落ち着けるよう気を遣ってくれたのだろう。
クライブには気兼ねなく接することが出来るから。
彼はあの後からずっと私の手を握ってくれていた。
優しく、温かく握ってくれていた。
あの時正直マクス様にちょっとでも触れられていたらと思うと今でもゾッとする。
彼はドルイド卿と共に騎士達に連れていかれる間もずっと私を見ていたから。
クライブがすぐ壁になってくれていたけれど、どうしてもあの全身に絡みつくような目が頭から離れない。
もしクライブが来てくれなかったら。
もしクライブがいなかったら。
私は改めて自分の中での彼の存在の大きさを感じていた。
本当ならこんなことではいけないのに。
ヒロインを守るためには強くならなきゃいけないのに。
守られてるばかりじゃ駄目なのに。
だって彼はヒロインを好きになるのだから、彼が守れない時は私が彼女を守らなければ。
そう考えていたら、また胸がチクッとした。
一緒のソファに座りながら、目の前の暖炉を二人で眺める。
パチパチと火の爆ぜる音を聞いてるだけのこの時間。
けれど不思議と心地良さがあった。
確か前世のテレビで暖炉の焚き火の音はヒーリング効果があるとか言っていたっけ。
どれくらいそうしていただろうか。
ハッと私はすっかり伝え忘れていた言葉を口に出した。
「…あ!!クライブ誕生日おめでとう!!」
彼はいきなり声を上げた私にキョトンとし、
「えっ…今言うか…?!」と返してきた。
「ほ、本当はさ一番最初にクライブに言いたかったんだけどさ!えっと…クライブたくさんの女の子達に囲まれてたし、周りの子達の方が何倍も可愛くてなんか近寄りづらかったというか…なんというか…」
最後は尻窄みになり、らしくなくごにょごにょしてしまった。自分でもすごい言い訳じみたことを口にしていると思う。
(クライブは私なんて見慣れているし、ちょっと綺麗になったところで別になんとも思わないだろうなんて…)
「……」
クライブは瞳を真ん丸にしながら、黙って私を見つめていた。
いやほんと意気地無しでごめん…と思いながら顔を下に向ける。
(というかそもそも何で私、クライブがなんとも思わないことに落ち込んでるんだ…!?お父様やお母様、バルド達にめっちゃ褒められた分浮かれてたからかな…!?)
そんなことを考えていた次の瞬間。
私は彼の腕の中にいた。
カチンと思考停止した私の脳は理解が追いつかない。
(えっえっ何が起きてる…?だ、抱きしめられてる……?クライブに抱きしめられてる…!!?!なんで...!?!)
脳が自覚した途端、あわあわとし出す私の頭をクライブは撫でてきた。
いやいやいや幼馴染だからって距離感おかしいのでは…!?もしかして攻略対象者って皆こうなの…?!
そして彼は耳元で囁くように。
それは秘密を打ち明けるかのように。
まるで睦言を交わす恋人のように。
優しい声音で話し出す。
「…っ…!」
「…シノは去年までさ、俺と似たような礼服着てたじゃんか。今年もそうだと思ってたんだよ。なのに、」
そこで一度言葉を切り、はぁと溜息を吐くと再度言葉を紡ぐ。
さらに強く抱きしめながら。
こんなに近いとドキドキとしているのが自分の心臓の音なのか彼の心臓の音なのか分からなくなる。
いや多分私?のような気がする、うん多分。
「こんなに可愛い姿で来やがって…。皆シノに釘付けだったんだぞ…」
「っ…!!いやでもあれは皆バルドに目がいってたんじゃ」
「……ちげーよ!…ったく、お前は…」
また溜息を吐かれた。心外である。
でもクライブに可愛いと正面切って言われたのは初めてで。
しかも抱きしめられながら言われるなんて顔が火照ってしょうがない。
もし美奈がここにいたならきっと卒倒しただろう。私でもこれだけドキドキしているのだから。
「来年は絶対真っ直ぐ俺のとこに来いよ。んであんま離れるな。ドルイド卿みたいなクズがまた現れたらすぐ追い払ってやるから」
「…!…うん。ありがとう」
なんて頼りになる幼馴染なのか。
私の方が精神年齢は年上なのに、彼の方がずっと大人みたいだ。
クライブの体温をいつもより身近に感じるせいか酷く安心してしまい、実はずっとずっと我慢していた涙腺が決壊してしまう。
ドルイド家に弱みを見せてはいけないと。
見せたら彼等は、それこそ私を脅せば人形のように操れる存在だと思うだろうから。
私がしゃくり上げながら泣いていると、あやすように頭をぽんぽんとしてくれる。
「…よく頑張ったな、えらいえらい。俺の前でならいくらだって泣いていいし、弱いとこも全部見せてくれていいから」
「うっ…ひっく…っ…クライブ絶対年齢偽ってるぅ…っぅ…」
「ははっそれどーゆうことだよ」
笑い出すクライブに私は本気でそう思っていた。
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私が泣きやみ、落ち着いた頃。
クライブに体を離され、温もりがなくなる。
少し名残惜しく感じたがさすがにもう一回なんて言えないので、さっとソファから降り、テーブルに用意されていたティーセットを使って二人分お茶を入れた。
私がお茶を入れたことでクライブも移動し、二人で向かい合い椅子に座る。
彼があの時私の元に行けたのはベネット家のルーナ様が教えてくれたとのことで、明日手紙を書くことにした。
相手が会うのが嫌だと言えば諦めるけれど、彼女に助けられたのは事実だから、自分の口からお礼を言いたい。
ベネット家は情報収集能力にとても優れた家と聞いている。
取り扱っている情報は様々で、それ相応の報酬を払えば情報を売ってくれるという。
一部からは胡散臭いから信じてはいけないだの、詐欺師の家系だのと批判があるが。
それと敵にも味方にもなり得る家系だとも言われている。
だが彼等も誰彼構わず情報を売る訳ではないらしい。
何か条件があるらしいのだけど、そこまでは分からない。ゲームで出てきていたら良かったのだけど。
かといって出ていたとしても、私の記憶力はそこまで良くないので、覚えてたかさえ怪しいが。
(ん?そういえば何か他にも忘れているような…なんだっけ大事なこと…もの…)
お茶を飲みながらうんうんと考える。
あれでもない、これでもないと一つ一つ頭の中で整理していく。
そこでやっとクライブに抱擁された衝撃で、頭からすこーんと抜けていたプレゼントを今になって思い出した。
「…あっ!!!!!」
「うわっ!!!なんだよどうした!?」
「ごめん!ちょっと待ってて!」
突然大声を出したと思ったら、ガタッと椅子から降りて慌ただしくドアに向かった私にクライブがポカンとする。
ドアを開けて、セリアを探そうと部屋を出ようとしたらバルドと共にドアの真横に控えていた。
「あ!セリア、」
「あら、シノ様丁度良かったです。これを」
「?」
そう言って彼女から手渡されたのは綺麗な包装紙に包まったクライブへのプレゼントだった。
「主人が必要なものを必要な時に出すのは私の務めですから」
「セリア…っ!ありがとう!!」
セリアに手渡されたプレゼントを持ち、再び部屋に入る。
ドアを閉めようと思ったら、親指をグッと上げ、頑張ってくださいと小声で言い残したセリアが閉めてくれた。
彼女の声援を胸にクライブの方に行く。
なんて言ってくれるかな。
喜んでくれるかな。
笑ってくれるかな。
クライブは頭にはてなマークが見えそうな感じでキョトンとしていた。
なんだその顔可愛いな……じゃなかった。
気持ちを切り替え彼に改めて伝える。
「クライブ、誕生日おめでとう!これ誕生日プレゼント」
「えっ…開けてもいい?」
「もちろん」
クライブが私から包みを受け取り、カサカサと綺麗に開けていく。
男の子とかってこういうのビリッといくイメージだったんだけど、クライブって毎年丁寧に開けてくれる。彼のこういうところもすごく好感が持てる部分だ。
包みを開けたクライブは目を見開く。
それは濃青色のマフラーだ。
「これって…」
「…クライブが楽しみにしてるって言ったから。あ、ちゃんと私が作ったし色も自分で選んだよ!?セリアに教えてもらいながらだけど、上手に出来たと思うんだ。……い、いらなかったら捨てて…」
先程までクライブの喜んだ顔を想像していたはずなのに最後の最後で自信をなくし、思ってもないことを口に出してしまった。自分で自分の言ったことに傷つく。
頑張って作ったものをよりにもよってクライブに捨てられたら、なんかもう心が砕ける。うん。
顔を思わず俯かせてしまい、クライブの表情は分からない。
暫くして、
「シノ」
「…っ!は、はい!」
名前を呼ばれてバッと顔を上げると、顔を耳まで真っ赤に染めたクライブがいた。
「…お前さ、勘違いするだろこんなん…」
「勘違い…??」
「いやなんでもない…」
勘違いとはなんだろうか。
マフラーになんか花言葉みたいなやつあったっけ。
ホワイトデーのお返しとかならなんか物によって意味合いがあった気がするけど、誕生日プレゼントだしな。
私がうんうん唸っている傍ら、クライブはマフラーを優しい眼差しで見つめ、再度口を開いた。
「シノありがとう、めちゃくちゃ嬉しい。ずっと大事にする」
今度は私が目を見開く番だった。
クライブは心の底から嬉しそうにマフラーをゆっくりと撫でる。
一語一句全て同じ言葉ではなかったけれど、その姿は記憶の中の懐かしい誰かと重なって見えた。
それがなんだか温かくて。
それがなんだか切なくて。
私は思わず涙が出そうになってしまった。
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「ねーぇ、セリア」
「どうしました?バルド様」
シノ達がいる部屋のドア前で二人はじっと立ちながら、話していた。
周りには自分達以外いない。本来ならシールズ家の騎士が護衛としてついているが、今はバルドがいるため離れていた。というか彼に追い払われたのだ。
むしろバルド様が護衛についてくれている今が一番安心できる。
それほどに彼は強い。
「シノちゃんとクライブって両思いよね?だってあのマフラーの色。私、シノちゃんに見せられてびっくりしたわぁ。それもセリアに選んでもらったとかじゃなくて、自分で選んだって言うんだから。あんなのもらったらクライブは大喜びよ?なんてったって好きな子の色を身に付けられるんですもの」
彼の発言にセリアは微笑みを浮かべる。
彼女の大事な主人は、自分の瞳の色を贈るという独占欲を出しておきながらまだ自分の心に気づけていないから。
「惜しいですね、バルド様。正しくは両片思いというのですよ。ふふっ、それにシノ様は無意識ですのでクライブ様としましてはタチが悪いでしょうね」
そこでセリアは言葉を切った。
彼がまだ気持ちをはっきりシノに伝えられていない。
その理由を知っている彼女は、過去と未来に思いを馳せる。
「……いつか、いつかお二人がそれぞれの言葉で気持ちを伝えられる時が来たら…」
あの少女は言った。シノ様を必ず救うと。
あの少女は言った。必ず未来を変えると。
あの少女は言った。もう二度と失いたくないと。
凡人の私には分からない何かを知っているあの少女に、シノ様の未来をクライブ様と共に託した。
後は見守ることしか私には出来ない。
だから強く願う。
どうか彼等に、
幸せな未来が来るようにと。




