19. 反撃
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(クライブ…!クライブだ…っ!)
私は彼に後ろに引かれたことにより、マクス様の手が触れる前に離れることが出来た。
そのことで私は心から安堵していた。
いまだに肩に置かれている手と背中に感じる彼の体温は私のバクバクと脈打っていた鼓動を落ち着かせてくれる。
安心してうっかり涙が出てしまいそうだ。
「これはこれはシールズ様ではないですか!いやはやこれから挨拶に行こうかと思っておりましたが、主役からわざわざ出向いて下さるとは何ともありがたい!申し遅れましたがドルイド家当主、クラークと申します。そしてこちらが息子のマクスです。以後お見知りおきを」
ドルイド卿が挨拶をしたことで、クライブの手が肩から離れ、私を庇うように前に出る。
「初めまして、クライブ・シールズと申します。それにしてもサージェント家と何かお話されていたようですが?」
「あぁ、思いもよらず麗しい姫君を見つけてしまいましてね。是非息子のマクスの婚約者にと打診しておりまして。たしかシールズ様は彼女の幼馴染でしたね。貴方様からも一言いただけると、きっと彼女も頷きやすいでしょう。うちのような好条件は滅多にないというのに。きっと自分がドルイド家に選ばれたことが信じられなくて恥ずかしい気持ちでいっぱいなのでしょうね。なかなか頷いてくれないので、困った困った」
「……」
先程からずっとこちらを馬鹿にしたような物言いに怒りを通り越し、呆れてくる。
(頷くわけがないでしょう…!それにクライブは私の気持ちをいつも考えてくれる。そんな彼がこの婚約の後押しなんてするはずない)
無理矢理にでも私との婚約を押し進めようとする姿勢は本当に不愉快だ。
私も含め、当主であるお父様がこれだけ拒絶しているというのに。
クライブは黙っていた。
ただ黙って、何かを抑えているように見えた。
ドルイド卿が黙る彼を訝しげに見ているが、自分には今彼の背中しか見えないからどんな表情をしているか分からない。
暫くして彼が口を開いた。
「…ドルイド卿。何か勘違いをなさっていませんか?」
「ほぅ、勘違いとは?」
「貴殿は先程ドルイド家に選ばれたと仰っていました。あたかも自分達がサージェント家より優位であると。あともう一つ、彼女を見目が良いだけの田舎娘とも侮辱した。これが何を意味するか分かりますか?」
彼が今まで聞いたこともないくらい冷たい声で問う。
「…はっ!わざわざ聞き耳を立てていたのですか。まぁ、なら話は早い。事実を事実と言って何が悪いのです?同じ二等と言えど、上下関係があるのは当然。首都で権力を握る我々と代々騎士家系で国の中枢に関わっているシールズ家とは違い、サージェント家はたかが先々代がまぐれで残した功績を維持しているだけで、秀でたものが何もないではないですか」
前から後ろからピキっと音が聞こえた。
(殺気が…殺気に挟まれている…。)
自分もドルイド卿の言い分にとてつもない怒りが湧いていたのに、それどころじゃなくなった。
私に向けられたものじゃないけれど、いつも優しい人達が怒るとなおさらゾクゾクとした寒気が…!
さすがのドルイド卿も殺気に気づいたのか態度が怯む。
息子のマクス様はすでにビクビクと怯えていたが。
「はぁ…。ドルイド卿、シールズ家当主である私の父は第1騎士団の団長であることはすでに存じてますよね?ですので家を空けることが多いのも。」
「…っ存じてますとも。第1騎士団は第2第3のように街の見廻りだけや警備だけでなく、時折現れる魔物討伐等に駆り出されたり、今は鳴りを潜めていますが、隣国が攻め入ってきた際にすぐ出撃できるようにせねばなりませんからな」
「そうですね。ちなみに小麦の生産量が一番多く、質も一番良い場所はどこか知っていますか?」
いきなりの話題転換にドルイド卿は訝しげにクライブを見る。
「…?シールズ家が有している領でしょう。私たちもそちらの小麦を享受しておりますから」
「えぇ、そうですね。うちの領はアルナの大部分を占めていますし。表向きは。」
「……表向き?」
「…シールズ家当主がいない間、何年も領の管理をしてくれているのは他でもないサージェント家当主オスカー様です。もちろん自領も管理しながら。その手腕で膨大な領地を、領民を豊かな暮らしに導いているんです。そして生産性がより上がるような工夫や領民が何か困るようなことがあれば自ら現地に赴き、すぐ対処出来る方法を探し当てる大変有能な方です。ドルイド卿は父がそんな全幅の信頼を置くほどの方を貶めた。それは、」
そこでクライブが不自然に言葉を切った。
何故なら私たちの横を通り、彼の父であるカーヴァーさんが現れたからだ。
彼からの威圧はさすが第1騎士団長というべきか。その場の空気を一瞬で自分のものとしてしまうくらいの存在感があった。
彼はクライブが口にしようとしたであろう言葉を引き継いで言った。
「シールズ家を敵に回したも当然。」
「!!」
「久しいな、ドルイド卿。」
「…っ…!」
ドルイド卿は口をパクパクと金魚みたいにしていた。
「なんだ、言葉も出んのか。先程まで我が親友のオスカーやサージェント家の者に対してはつらつらと戯言を言っていたではないか」
突然のカーヴァーさんの登場に、しどろもどろになるドルイド卿はとても哀れだ。
まさか聞いていたとは思わなかったのだろう。
でもどこから…?
「ごっ、誤解をしておりましてっ…!いやぁまさかシールズ家の領地まで管理しているとは思わず、」
「誤解…か。それで済まされる世なら私は切り捨てるが。ドルイド卿は本当に愚か者であるな。私は最初から全部聞いていたぞ。クライブが間に入らないようなら、私が行こうと思っていたところだったのだ。私は耳も目も良すぎるからなぁ。散々私の親友を、サージェント家を馬鹿にしていた。秀でたものがないだと?ははっむしろオスカーは私よりもずっと頭の回転が速い。私が羨むほどにな。」
「…お前も十分切れる頭を持ってるがな」
彼の言う通り、実は私のお父様はすごい人なのである。
ただ娘を溺愛するだけのぽやぽやした人ではない。
普段はかなり忙しい毎日を過ごしており、カーヴァーさんが管理しきれない膨大な領地を一つ一つ回って、より効率的に作業を行うにはどうしたらいいかとか。領民が困っているようなら行ける時は自ら行って解決策を練るような、理想の領主なのだ。
なのでどちらの領民にも尊敬されている。
私とクライブは学園を卒業して色々落ち着いてからそれぞれ領地を継ぐ予定なので、それまではお父様が合間を縫って作ってくれた時間で少しずつだけれど領地経営のやり方等を教わっている。
まぁもしかしたら私の場合はどっかに嫁ぐ可能性もあるし、クライブも王太子の側近兼護衛騎士になって、領地の管理が上手く回らない可能性もあるので、その時はその時で考えてくれるとのこと。
だがそれを知っている貴族はほんの一部なのだけれど、お父様はむしろシールズ家の隠れ蓑になれていいらしい。(自分自身が目立つの好きじゃないとのこと)
言わば縁の下の力持ちである。
カーヴァーさんは切れ長の瞳をさらに細める。
「オスカー。このような輩がいるから、しっかり強調しておけばいいものを。まぁ今回のことでお前の有能さも私が絶対的な後ろ盾についていることも周りにも伝わったな」
「はぁ…目立つの嫌なのに…。まぁいい機会だったか……。」
お父様達が周囲を見回すと、招待客の大半はヒソヒソとこちらの動向を見ていた。
サージェント家だけならともかく主催のシールズ家もいるのだ。自然と皆何の話をしているのか注目してしまうだろう。
そして、お父様は一層冷ややかな目をドルイド卿へと向けた。
「しかし、私を侮辱するのはまだいい。娘を侮辱したことは到底許せるものではない。まるで人形のように、ドルイド家の飾り物にするかのように。そんな者の所に私の愛する娘を嫁になどくれてやる訳がないだろう」
「……」
ドルイド卿は眉を顰めながら、発言したことを後悔しているように見えた。
だが謝るつもりはなさそうだ。いくらシールズ家とサージェント家がこれだけ親しい間柄だと分かっても高いプライドがそれを許さないのだろう。いや認めたくないというのが本音だろうか。
「さて、処罰はどうする?お前が決めて構わないぞ」
「うーん、本当は私が決めたいとこだけど、君の息子の誕生日パーティーで起きたことだ。そちらの判断に任せるよ。そうだクライブ、君に頼んでもいいかい?」
「えっ…私が決めていいのですか?」
「むしろ君に決めてもらった方がいいだろう。お願い出来るかい?」
クライブは少しの間私を見遣った。
だがすぐに視線を外す。
「…俺だとやりすぎてしまいそうなんですが」
「私が任せたんだ。君の出した判断なら誰も異論はしないよ、大丈夫」
お父様にそう言われた彼は目を伏せ、手を口に当てて悩んでいた。
妥当な判断を下すのはとても難しい。
罰は与えすぎても、与えなさすぎてもいけないから。
どちらにせよドルイド家を支持している貴族らから批判はきてしまう、だがそれを最小限に抑える処罰。
私に前世の記憶がある分、まだ11歳になったばかりの彼に任せるなんてと思ってしまうが、一応この世界は15歳で男女共に成人になる。
お父様はクライブの判断力を試しているんだろう。
次期当主としての器を。
暫く悩んだ後、彼は目を上げドルイド卿を真っ直ぐ見つめた。
「……貴殿に供給していた小麦を一時的に停止させます。」
その言葉に周りからもザワつく雰囲気がした。
「なっ…!!小麦を停止するなど我が領民を見捨てるというのですか!血も涙もないじゃないかっ!!こんなことで、」
「こんなことで?貴殿がそのような考えでは先が思いやられますね。それに一時的にと言ったではありませんか。そちらの考えが変わればまた供給させる可能性もあります。あくまで変われば、ですが。その間は隣国の小麦を輸入するなり出来るでしょう」
「隣国の小麦など質も良くない挙句にやたら高額じゃないか!それを私達に領民分買えと!?そんなものに金を払うなんて冗談じゃないッ!」
あれだけ着飾っておきながら領民のためのお金を出すことを渋るとは。
お金ならいくらでもあるだろう。私達にこれでもかと自慢していたじゃないか。
領主としての尊厳も威厳もあったものではない。
領民がいるからこそ、その領は成り立つというのにそれすら分かっていないなんて。
だが、前世でいたトップに立つ人達も似たようなものだったなぁと頭の片隅で思う。
結局は自分達の利益しか考えていなかった。
国民からお金を取れるだけ搾取して、使い捨てる。そんな連中ばかりだった。
上が何かやらかした時。その尻拭いをさせられるのは、その影響を一番に受けてしまうのは、下にいる彼等だ。それは当然の摂理といえるだろう。
それでも、何もしてない彼等が共に罪を負わなければいけないのは間違っているように思ってしまう。
そんなことを考えていた私の意識を戻したのはクライブの声だった。
「…領民のことを考えるなら、高額だろうと使えるものは使うべきでは?それが領主である者の役割、いえ責務です。ですが、貴殿はそもそも質の高いシールズ領の小麦を領民に分けていましたか?ほぼ自分達だけで独占していたのではないですか?………領民を見捨てているのはどちらだ」
彼の言葉を聞いて、カーヴァーさんも口を開く。
「以上だ。異論は認めん。バルド、リアン達を呼べ。この者達を帰らせる」
「なっ…!」
「了解〜。シノちゃん、クライブから離れちゃダメよ」
「う、うん。分かった」
バルドは私の頭を一無ですると、この場を離れた。
リアン達というのは、シールズ家に使えている騎士達である。
私も何度か話したことがあるけれど、めちゃくちゃ気さくな人達だ。でもやる時はやるタイプ。
なんてったって騎士団長が直々に鍛え上げた凄腕の集まりである。
とりあえずこの件は一段落したようで、ホッと息をつく。
ないとは分かっていても、もしドルイド家の婚約者にされたらどうしようかと内心不安でいっぱいだった。
そんな私に気づいたのかクライブはさりげなく私の手をぎゅっと握ってくれた。
思わず彼を見ると優しい瞳と目が合う。
「大丈夫だ」
たった一言。
けれどその一言だけで私は心の底から安心することが出来た。




