18. 企みと激情と
※クライブ視点。中間だけある人に視点変わります。
全く。これっぽっちも。
全っ然話せねぇ!!
俺は今周りをご令嬢方とその親御さんたちに囲まれていた。
なんといっても自分は王太子の側近候補として一番に名が上がっていて、今のうちに繋がりを持ちたいと思っているらしい。
(候補っていうかもう確定してるんだけど)
実はさっき王太子から「あ、伝え忘れてたんだけどクライブを僕の側近にするつもりだから今後ともよろしくね」と言われたのである。
まぁ父も団長だし、元々シールズ家は騎士の家系だから納得っちゃ納得なんだが。
モニターのことといい、側近のことといい本当掴みにくい人だと思う。
何を考えてるか読めないというかなんというか。
親御さんはいかに自分の娘が良いかを力説していたり、ご令嬢方は俺の容姿をこれでもかってほど褒めたり、自分が好きなこと好きなものを話しているが正直シノ以外どうでもいい。
だが、社交界というある意味戦の場で適当に流すのは良くないので人から得る情報を容量が少ない頭になんとか入れていた。
父には常日頃、外での立ち居振る舞いを叩き込まれており、
「社交界は外から見るだけなら楽しくキラキラとしているだけの場所だと思うだろう。だが中に入ると全く違う。あそこは様々な感情が渦巻く戦場だ。相手が話す内容をしっかり聞き取り、そこにどんな意図が含まれているのかを考える必要がある。いついかなる時も余裕を崩してはいけない。相手に蹴落とす隙を与えるなよ」
と何度も聞かされた。
それを思い出しながら必死で平凡な脳みそをフル稼働し、表情筋もフル稼働する。
その間にご令嬢方は次から次へと話しかけてくる。一人と会話が終わったらまた次。次。次。
あー、シノと早く話したい。
チラと彼女がいる方向を見ると、彼女もまた子息たちに囲まれていた。
あれだけの美少女なのだ。周りが放っておくわけがない。
くっそ。話しかけられるやつが今はとても羨ましい。
そしてまた次の令嬢が俺の前にくる。
そこには目に痛い程のきらきらとした衣装を身にまとったドルイド家の娘と奥方がいた。
真正面から見るとなおさらすげーなキンキラキン。
先に口を開いたのは娘の方だ。
「お初にお目にかかりますわクライブ様!私マリア・ドルイドと申しますっ!貴方にお会いするのを本当に楽しみにしておりました!噂には聞いておりましたが、思わず惚れ惚れしてしまうくらいに格好良いですわぁ…!ねぇ今度私のお家でお茶しませんこと?クライブ様のお好きなものを言って頂ければたくさん用意させますわ」
金髪をこれでもかとくるくるに巻き、甘ったるい猫なで声で、こちらに擦り寄るような態度を取る彼女にもうすでに寒気しかしない。気持ちわりぃ。
しかも腕を絡ませようとしてきたので、しれっと躱すと、あからさまにムスッとした顔をされた。
いや対して親しくもないのに触ってこようとするとかどうなってんだ…。というかいきなり名前呼びの時点でありえないんだが…。せめて俺が名乗ってからだろう。
でもなんかこいつ違和感がある気がする。
なんだろうとドルイド嬢を見るが、違和感の正体が掴めずもやもやとしていると。
「まあまあマリアったら。シールズ様が困っているじゃないの。はしゃぎすぎですわよ」
そう言ってドルイド嬢を窘めたのは、ドルイド夫人だ。
「娘がごめんなさいね。でもこの無邪気な性格とても可愛らしいでしょう?それに加え誰もが思わず惹かれてしまう容姿も相まって、多くの殿方から婚約の打診が押し寄せてきているのですよ。本当に困ってしまって」
「そうですか。それは大変ですね」
にこにこ笑って対応しながら夫人の娘自慢をまだ話すのかというほど聞いていると、俺が娘に興味を一切持っていないことに気づいて腹が立ってきたのだろう。夫人の俺を見る目は徐々に冷たくなっていく。
お前は何も思わないのかと目が言っている。
ものすごく可愛いのにと。
うちの娘はこれだけ人気なのにと。
自分のものにしたくならないのかと。
睨みつけるような視線から一転して、にこりと笑った夫人は、
「あら、シールズ様は奥手の方ですのね。沢山の方から娘に婚約の打診があるからと、そんなに躊躇しなくても良いのですよ。貴方様から打診があれば他を選ばずともすぐに婚約をさせたいと思っておりますの」
「いいえ、躊躇などしておりません。私にはすでに心に決めた方がいますので。」
奥手もくそもない。何故俺がその娘に惚れるのが前提なのか。
俺がはっきりそういうと夫人はさらに冷たい目になる。
だがいくら首都で有数の権力の持ち主だとしても、シールズ家の現当主である父は国の第1騎士団団長だ。
ここでさらに畳み掛けるようなことを言って、俺の機嫌を損ね不利になるのはドルイド家である。
「そうですか、それはあちらのサージェント家の娘のことかしら?」
「さぁ、どうでしょうね。特別に親しい中でもない貴方に話すことではありません。」
「そう。まぁでも私の娘よりも良いだなんて、シールズ様は変わっておられますのね。でも、もし気が変わりましたらいつでもお声掛けくださいな」
「変わることは万が一にもないと思いますので、ご配慮していただかなくても大丈夫ですよ。パーティー楽しんでくださいね」
やべ、ちょっと喧嘩腰になってしまった。
だが先に売ってきたのはあちらである。
シノを馬鹿にしやがって。
夫人があからさまに眉間に皺を寄せムッとした顔になる。
その顔を見た俺は、娘もそうだったけれど顔に思ってることすぐ出すの気をつけた方がいいですよと言いたい。
俺はさすがに顔には出してない。
苛立っていてもにこっとちゃんと外面は作れている、はず。
夫人はとりあえず今日のところは引き下がるのか
「では、またの機会に」と踵を返すと同時にドルイド嬢も軽くお辞儀をし、去っていく。
やっと終わった…正直もう関わりたくないが、首都でそれなりの権力を握っている彼らには嫌でも関わる機会があるのだろう。
今後のことを考え、俺は小さく溜息をついた。
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「お母様!もうクライブ様とのお話は終わりですの?私ほんの少ししかお話出来ていないのですよ」
シールズ様から離れ、人気のないバルコニーに出ると娘のマリアが小声で話しかけてくる。
本当ならマリアはシールズ様に一目惚れされて、婚約者になってほしいと懇願される予定だったのに。
彼は王太子の側近に成りうる可能性が一番高い物だ。いやほぼ決まっていると私たちはみている。
そうなるとシールズ様の婚約者になったマリアはきっと王太子と関わる機会もあるはずだ。
そこで王太子も一目惚れをして、マリアは王太子妃に望まれる。そしてシールズ様とは縁を切ってさよなら。
そういう予定を立てていた。
なのに!
なのに!
なのに!!!
マリアに興味すら持たないなんてなんてこと!
どこからどう見ても娘は一番輝いていた。
そう輝いていたはずだった。
あの亜麻色の髪の少女が現れるまでは。
腹が立つ。マリアより美しいなんて許せない。
会場中の視線を一気に集めたあの子が許せない。
普通なら陰でコソコソ悪口を言うものだが、彼女に至っては皆陰で褒め称えていた。
後ろには隣国に多いという褐色の肌をした、整った顔の男。
あの腕の立つバルド・サンプソンを連れていた。
あいつも本当なら今頃ドルイド家にいたのに…っ!!
全部、全部、全部取りやがって!!!
夫人は綺麗に整えた爪がボロボロになるのも厭わずに、噛んで噛んで噛みまくった。
たちまちガタガタになり汚くなっていたが、彼女は苛立ちをそこにぶつける。
「……お母様」
娘に呼ばれハッとすると、彼女は瞳を揺らし不安げにこちらを見ていた。
「あぁマリア、ごめんなさいね。つい取り乱しちゃったわ。今日は確かに少しだけだったけれど機会はまだ沢山あるわ。だからその時までにもっとあなたの魅力を上げておきましょう?あと邪魔者は排除しなきゃね。そしたらきっとシールズ様もマリアだけを、そうマリアだけに心を捧げるようになるわ」
あの子はシールズ様と幼馴染であるサージェント家の一人娘だと旦那様は言っていた。
そうだ。あれが傷物になれば、シールズ様は彼女に見向きもしなくなるだろう。
だって女が婚約をする前に純潔を散らす行為、しかも強姦されたとなれば嫁ぎ先がなくなるも当然。
あるとすれば、まぁ見目だけは良いので男女見境なく手を出すあそこの色ボケじじい等にもらわれるくらいだろう。
まぁそんなことになればあのか弱そうな少女のことだ。心の方が先に壊れて、自死する可能性も大いにある。
そう思い彼女はニヤリと口端を上げた。
後ろにいたマリアが冷めた目でこちらを見ていることには気づかずに。
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ドルイド家以降も様々な令嬢方に挨拶され、心の疲労がMAXになりかけていた。
シノで癒されたい…。
今話していた令嬢が離れ、次の令嬢が挨拶にきた。
しかし先ほどまでの甘ったるく擦り寄る声の令嬢達とは違い凛とした声が耳に入る。
「お初にお目にかかります。ベネット家長女ルーナと申します。」
たった一言挨拶をし、完璧なカーテシーをする少女はシノとはまた違ったタイプの美少女だった。
腰ほどまで伸びた綺麗な黒髪。それに合わせた黒い瞳はつり目で気の強そうな感じが窺えた。
ベネット家は海側に位置するソルテにある。一番様々な情報が入ってきやすいだろう首都に居を構えているわけではないのに、確か情報収集能力がずば抜けて高い家系だったはずだ。
「お初にお目にかかります。クライブ・シールズと申します。この度は遠方から御足労いただいたこと誠に感謝致します。」
「こちらこそご招待いただきまして、ありがとうございます。…あの、差し出がましいようですが一言よろしいですか?」
「…?はい、どうぞ」
なんだろうと首を傾げながら言うと、彼女は俺に近づき小声でコソッと、
「ドルイド家の方とシールズ様の大事な方が何やら揉めてるようですが、行かなくてよろしいのですか」
その言葉を聞いた瞬間、バッとシノの方を見る。
かなり遠くの方にいたが、確かにドルイド卿と彼女の父親が何か言い合っていた。
「…っ!すまないベネット嬢、少しばかり席を外させていただきます!」
「えぇ、どうぞ。またの機会にお話しましょう」
「感謝します…ッ!」
彼女がそういったと同時に早足でシノの元に急ぐ。後ろにいるバルドは顔には出していなかったが、雰囲気は確実に怒っていた。
人波を縫うように、彼女たちに近づいた時。
シノに対してだけ地獄耳になる俺に、彼らの会話の一部が聞こえた。
それは思わず我を忘れそうになるくらいに激しい怒りを覚えるものだった。
「……首都のネルカで指折りの権力を握っているドルイド家が、見目が良いだけの田舎娘をもらってやろうというのにその態度か」
「…っ!貴方は自分の言う通りにならないからと私の娘を侮辱するのか…!」
胸くそが悪いったらありゃしない。
見目がいいだけの田舎娘だと?
シノのことを何も知らない奴が。
シノのことを何も知ろうとしない奴が。
俺の一番大事な人を侮辱するなんて。
激情に駆られながら、あと少しでシノに手が届くところで、クズの息子が口を開いた。
「シノ嬢、父様の言う事を聞いて僕と婚約しましょう。大丈夫です、僕動物とか可愛がるの得意なんです。だからシノ嬢のこともたくさん可愛がってあげられるから君もすぐ僕のことを好きになりますよ。だから、ね?」
そして彼女に触れようと手を伸ばした。
冷静になれ。冷静になるんだ。
こういう時こそ、怒りに身を任せてはいけない。本当は今すぐこの場で殴ってやりたいが、なんとか気持ちを抑える。
だが彼女に触れるのは許さない。
シノの後ろにいたバルドは俺に気づきスっと横にずれてくれ、俺は彼女の後ろから肩を引く。
いきなり後ろに引かれたからか、彼女の体制が崩れたが、それを前で受け止め、俺はクズ共に一言告げる。
「ドルイド卿、そしてご子息殿。私も貴女方のお話に混ざっても宜しいでしょうか」
胸に激しい怒りを宿しながら、彼らを見据えた。
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