17. 何よりも大事な
※クライブ視点ですが、途中クライブの父カーヴァー視点が入ります。
やっと、やっと、やっと会える!!
12月25日のこの日。
俺は浮き足立っていた。
無論自分の誕生日だからワクワクしてるのではない。別に誕生日はそこまで重要じゃないのだ。
俺は誕生日パーティーの諸々の準備で、この1週間全くシノに会えていなかった。
正直圧倒的なシノ不足である。
1週間ってこんな長かったっけ。
シノと過ごしてた時は一瞬で過ぎてた記憶があるんだけど。
というか1週間会わなかっただけで、この有様。
将来大丈夫か我ながら心配である。
彼女と話したい。彼女に触れたい。彼女の笑った顔が見たい。
だが、次期当主として与えられた最初の仕事を疎かにするわけにはいかないので、1週間後のパーティーで会える日を本当に心待ちにしていた。
時はちょっと遡り、仮の招待客リストを見ていたとき。
一先ず二等に属している者と、三等四等に属しているが交流を深めることでこちらに利が生じる者とで、父に手伝ってもらいながら作ってみた。
父は騎士団長という多忙な立場でありながら、俺の誕生日のためにわざわざ休みをもぎ取って時間を作ってくれている。
今度手伝ってくれたお礼に、父の大好きなマフィンを差し入れよう。(かなり厳つい顔をしているのに意外と甘党なのである)
だがたまに自分を差し置いてシノと甘いものを食べに行っていることを俺は許しちゃいないぞ父さん…!
とりあえず三等と四等の者と、招待してほしいと頼まれたある人物に関しては俺が判断したので、招待することが決まっているのだが、二等の者の中で、もし俺が招待したくないと思う相手がいたら言ってくれと父に言われているのでリストに目を通している今。
ちなみに彼は今目の前のソファに座っている。
リストの文字を順々に追っていると、そこで俺はある名前を見つけた。
「…父さん、ドルイド家はどうしても招待しないとダメなのか?」
「何故そう思う?」
「いや、だってドルイド家は悪い噂しか聞かないじゃないか。つい最近もどっかの貴族と揉め事起こして、相手に多額の金をふっかけたって聞いた。あと俺と同年代のここん家の子供は横暴で我儘だって。父親と同じく自分たちの思い通りにならないとすぐ権力を振りかざして相手を蹴り落とすって」
「…それはクライブ自身が見聞きしたものか?」
「いや違うけど」
「なら招待しなさい」
えっ、と思わず声を漏らしてしまった。
まさかそんな悪い噂しかたっていないような物をうちに招待しろとは、父の言葉に耳を疑う。
危ない家だと分かっていながら招待して、もしシノに何かあったらどうするんだ。
ただでさえ可愛くて、可愛くて、可愛いのに(大事なことなので三回言った)
そんな奴らに彼女が目をつけられたらと思うと気が気じゃない。
俺が不機嫌丸出しでそう思っていると、父が口を開いた。
「確かに私から見てもドルイド家は良くないと分かっている。だがそれは私自身の見方だし、噂だってそうだ。クライブ、お前が実際に彼らを見て判断したものじゃない。あくまで第三者の視点でしかないんだよ。今回のパーティーはお前にとって社交界という場を知る大事な1歩だ。だからこそ、」
父は俺を諭すように言葉を紡ぐ。
それに反論なんて出来やしなかった。
彼は椅子に座っている自分の前に来ると、俺の頭にポンと手を置いた。
「首都で有数の権力の持ち主であるドルイド家がどんな者たちなのか。自分の目で、耳でしっかり判断してきなさい。大事なものを守るためには敵が誰で味方が誰なのか知っておくことも必要なんだ」
父の言う事は尤もだった。
人から見聞きしたものだけで、判断してはいけない。
自分の目で見て、耳で聞いて、実際はどんな人物なのかを見極める。
もしかしたら良い人で周りが妬んで悪い噂を流しているかもしれない。
もしかしたら本当に噂通りの悪人かもしれない。
だが直に会ってみなければ真相は分からない。
「…ごめん、噂だけ聞いて判断して」
「いいや、分かってくれればいいさ。けれどクライブ、もしシノちゃんがドルイド家と何かあったらすぐに助けるんだよ。もしかしたら婚約話を持ち出される可能性がある」
「はぁ!?!?」
俺が素っ頓狂な声を出すと、父はしまったと言う顔をした。
婚約。シノが婚約。
全く考えてなかった。
だっていつだって近くにいるのは自分だったのだから。
というか政略結婚なんてだいぶ昔に廃れたはずだ。今は恋愛結婚が主流だというのに…!
俺が現在進行形でシノに振り向いてもらおうと頑張っているというのに…!横取りをしようというのか…!
「いやそんなん見極めなくても敵だわ!!!シノに婚約話振ったやつ全員俺の敵!!!」
「…お前なら言うと思った…。せっかく私が良いこと言ったのに全部台無しじゃないか…。」
「シノに恋愛感情を抱くやつと仲良く出来る気がしない…!だって俺みたいに下心があるってことだろ…!」
下心あるってそこ言っちゃうのか…。
父カーヴァーはつい口を滑らせてしまったことを心底後悔した。
彼女の前では大人ぶってお兄さん面をしているようだが、父にしてみればまだまだ考えがひよっこである。
シノが誰かに取られるかもしれない。そうなれば見極める以前に、この馬鹿は婚約話を振った相手に敵意しか抱かなくなるだろう。
…どうしたものか。
「だがクライブ。もしかしたらシノちゃんの方が誰かに一目惚れとかするかもしれないじゃないか。人の気持ちはいつどうなるか分からんぞ。」
「そりゃそうだけど…」
口を尖らせながら不機嫌そうに答える息子に、溜息をつきながら言う。
「しかもまだお前はしっかり好意を伝えてない。周りにはバレバレだが当人が分かってなければ意味が無いというのに。他の男に取られたくないなら早く伝えればいいものを」
そういえばと前から気になっていたことを口に出した。
するとクライブは言葉に詰まった。
「っ…………俺はまだ言えない…。好きだ大好きだシノが一番。でも弱い俺のままじゃダメなんだ。今度こそシノを守れるくらい。それこそ父さんみたいに、いや父さん以上に強くなりたい。シノに気持ちを伝えるのはそれからだ…。」
さっきまでの威勢は何処へいったのか。
急に表情を曇らせ答える息子にカーヴァーは戸惑う。
迂闊にこの話題を振るんじゃなかった。
何故こんなにも好いているあの子に想いを伝えないのか、考えればすぐ分かることだったのに。
やはりあの件をクライブはずっと引きずっているのだろう。
一番大事な人を守れずに何も出来なかった自分を責め続けている。
だが6歳の子に何が出来たというのだ。
今よりもっとちっぽけだった子に。
せめて自分がその場にいたならと何度悔やんだことか。
そんなもしもの話を考えたところで過去は何も変えられないのに。
私は頭の中で言葉を選びながら、クライブの肩に手を置く。
「…クライブ、お前は必ず強くなる。私よりもずっと。強い想いがある限り、理由がある限り必ず。」
「……うん」
実際にそこにいた訳ではない私には、それくらいしかクライブに言えなかった。
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パーティー会場に続々と招待客が入ってくる。
例のドルイド家も父母、そして息子と娘が共に入場した。すぐ目につくような奇抜な衣装で、そういうのに疎い俺でさえもセンスの無さが窺える。
ステージに立つにはまだ時間があった俺は執務室で父とあともう1人の人物とこれからの流れについて話していた。
ちなみにどこからその会場の光景を見ているかというと、モニターという四角い箱のような機械からだ。
この機械は会場にもいくつか設置してあり、魔力を必要分流すと見たい場所の様子が表示されるという画期的なものだ。
しかもここ最近開発されたばかりで、まだ売買されていない超貴重な品である。
そんな最先端なものを何故シールズ家が持っているかというと、あるツテに借りたのだ。
ちなみにこれはどこかの魔術師がほんの数ヶ月で作ったらしいが、まだ改善する点がたくさんあるとのことである。
とりあえず数個実験で作成したものを貸し出してくれた。
まぁそのあるツテっていうのが今まさに隣にいるやつなんだが。
「すごいよねぇ、この機械。実際に見に行かなくても会場の様子が見れるなんてさ」
そうニコニコと話すのは、この国の王太子アルフレッド・シーグローブである。
金髪碧眼の如何にも王子様という風貌なのだが、今はカーキ色の髪に黒色の瞳という地味なものになっている。
何故彼がこの場にいるかというと、俺の誕生日パーティーに招待してと頼まれたからである。普通なら一等である彼は自分の11歳のパーティーで招待すればいいはずなのに。
まぁ王太子から頼まれたとなれば断れるわけがない。
何が目的なのか謎であるが。
「確かにすごいけど、よく借りてこられたな…。」
「ふふっ、そんなの僕にかかればちょちょいのちょいさ」
「……ちょちょいの??」
「簡単って意味だよクライブ。教えてもらったんだその魔術師に。僕もこの言葉使って見たかったんだよね」
この王子様とは父が第1騎士団の団長であることから、偶然何度か関わる機会があり、今では名前で呼び合う仲だ。
だけど公ではなく、アルフレッドはいつもお忍び用の変装をして俺と関わっているため一部の者しかこの関係は知らない。
シノにも言ってない。いくら幼馴染で大事な人でも彼はこの国の王太子だ。迂闊に情報は流せない。
「アルフレッド様、非常に便利なこのモニターですが、今回息子のパーティーにわざわざ持ってきたのには何か意味が?」
自分も気になっていたことを父が質問すると、彼はけろっとした顔で答えた。
「いや?特に意味はないけど、強いて言うなら実験?つい最近出来たばかりだからさ、パーティー会場みたいな大きな場所で使って見たかったんだよね」
「…あぁ、そうですかなるほど」
俺も父も何が目的だろうかとちょっと勘ぐっていたために、毒気を抜かれた。
なんだ、ただ使って見たかっただけか。
2人でふぅと胸を撫で下ろしていたとき、彼の口端が弧を描いていたことに俺は気づかなかった。
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ステージに立つ時間が近づき、俺は舞台袖に待機していた。
シノに会えるのが楽しみで楽しみで彼女のことしか頭にない状態だ。
なんてたってモニターにシノが現れるまで待つと行ったら父に早く行けと言われ、部屋を追い出されたのである。
いいじゃんか、ちょっと見るくらい。
そういや去年も一昨年もずっとタキシードで着てたから今年もそうかな。
あいつ元から中性的だから男物の服着てるとほんと美少年って言葉が似合うんだよなぁ。
今頃どこぞかのご令嬢方に囲まれてるんじゃないか?
そんなことを思っていると、司会が俺の入場を告げる。
コツコツとステージの中央に向かう間。
不思議と緊張はしなかった。
真っ直ぐ前を見て歩いていく。
今日の主役の登場で皆の視線がいろんなところから注がれている。
なのに、ある一つの視線だけ瞬時に感じ取りチラとその方向を見た。
そして。
そこにはシノがいた。
周りと比べるまでもない。
何よりも誰よりも一番可愛い。
その姿はまるで空から舞い降りた天使のように。
なんで。どうして、今年はドレスなんだ。
俺は目を見張り、シノと目が合うこと数秒。
後で。後でたくさん話そう。
いきなり抱き締めたりしたら彼女は怒るだろうか。
いや怒られてもいいからシノに触れたい。
だって誰にも取られたくない。触ってほしくない。
俺は彼女を好きになってから、かなり我儘になってしまった。
名残惜しくもシノから視線をずらし、パーティー開始の言葉を俺は告げた。
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