12.もやもや
※最初ハール視点です。
「……魔剣???」
場所はウォルトン家の敷地内にある鍛冶工房の中。
そして目の前にあるのは製作途中のシノに頼まれた剣。
隣では今日もまた俺のとこに遊びにきていたアルフレッドがいる。
彼は俺の手元にある手紙を横から覗きみると、
「わー、魔剣なんて前代未聞じゃないか」
「だよなぁ…」
あれから何度か手紙のやり取りをして、さん付けではなく自然とシノと呼ぶようになったこの頃その手紙は届いた。
そう、聞いたことがない。
歴代の鍛冶師も作ったことがないものだ。
まさに突拍子もない依頼である。
手紙には剣身に魔力を注ぎ、剣の所持者の魔力を更に上乗せ出来ないかとのことだった。
例がない以上難しいことこの上ない。
というか作れるのだろうかこれは。
でも無理難題にこれから挑むというのに何故か心は弾んでいた。
「……1度作ってみる価値はあるか」
「おや、前のハールだったら無理だって一蹴してたのに」
「うーん、そうなんだけど。やる前から諦めるよりやってみてダメだった方が良い経験になると思って。それに契約者からの依頼だ、引き受けない訳がない。」
なんてまともな理由を言ってみたが実際には好奇心に負けただけだ。
たぶんアルは俺が内心うきうきしていることに気づいているだろうけど。
手紙を読み進めていくと、自分の剣は普通でいいけれど出来ればもう一振火の魔力を注いだ魔剣を作ってほしいとのことだった。
ということは人に贈るものだろうか。
でも俺の魔力は水だから誰かに手伝ってもらう必要がある…。
火の魔力を使える人物は自分の狭い交流関係の中で1人しかいなかった。
ちらっと横目で彼を見ると、にこりとした顔と目が合う。
たぶん俺が言おうとしてることが分かっているんだろう。
「アル、魔剣作り手伝ってもらってもいいか?成功するかどうか分からないけど…」
アルに直直に頼むのは実は初めてだったので断られたらどうしようかと内心ドキドキしていた。
というのもいつもアルは先読み行動で動くので頼む前に俺が望むことをいつの間にか終わらせているという方が正しいかもしれない。
アルはにこにこした笑顔を崩すことなく頷いた。
「ふふっそんなに緊張しなくても僕は君の頼みは断らないよ?喜んで手伝うし。」
その返事を聞いてほっとしたと同時に自分には1番心強い味方がいるんだなぁと改めて感じた。
アルもとい王太子と友達になれているのが本当に奇跡である。
そんなことを思っているとアルが少し心配そうな顔になりながら口を開いた。
「でも、もし成功した場合魔剣に関してはこれっきりにした方がいいと思うよ。確かにハールの名は売れるだろうけど、こういうのはあくどい奴らが利用する可能性があるから。シノならこの間会った感じ大丈夫だとは思うけどね。だけど一応誰宛に魔剣を贈るのかだけ聞いておこう。剣で魔力を増幅させるなんて誰もやったことがない分それを作れると知られたときハールが狙われる危険性も高い。特に、」
そう言葉を切った親友が目を向けたのはウォルトン家の邸宅がある方角。
「…父さんか」
「あの人は君が使える存在だと分かったら、即座にシノ含めてどう利用しようか考えるだろうね。そんなこと僕がさせないけど、ブレアム卿は手段を選ばないから卑怯な手だって使ってくる。いくら先読みが得意でも僕の手が及ばない範囲もあるからハールたちを完全に守れるわけじゃない。」
先程とは打って変わって真面目な顔つきで話す親友の言葉を俺はしっかり頭に刻み、目の前に置かれている剣と向き合った。
「…うん。肝に銘じるよ」
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ハールに手紙で魔剣を頼んでから半年経った。
季節は12月で雪がちらちらと降り積もっていた。
ちなみに私がいるアルナは山に囲まれたためか雪が積もりやすい。
さすがに北海道みたいな雪の壁は出来ないけれど。
あれからというものハールからは音沙汰がなく、あまりの無理難題に怒らせたかと思い、何度か謝罪の手紙を送ってみた。
けれど、返ってくる返事は「大丈夫だ」の一言のみでより一層不安に駆られた。
でも1度だけ火の魔剣を贈る相手は誰か聞かれた時があったので、大事な幼なじみにと綴ったら「了解した」とだけ。
バルドは時々王太子たちに会っているらしいのでこのことを相談したら「うふふ大丈夫よ大丈夫〜」と言われ撫でられた。本当に大丈夫なのだろうか…。
とはいいつつちゃんと日々の鍛錬と勉学はクライブと共にかかさず行っていた。
ちなみにハールからもらった模擬刀は自分の手にとても馴染んで扱いやすかった。これでも一応仮の剣なんだよなぁと思うと驚きがすごい。
最近鍛錬ではやっとクライブの動きに少しずつついていけるようになったけれど、まだまだ追いつけない。
私が1歩進めたと思いきやクライブは3歩、5歩とどんどん先に進んでいる。悔しさ半分寂しさ半分といった気持ちが心を満たしていた。
そんな気持ちを抱えながら今日も鍛錬を終え、自分の家の庭にあるお気に入りの東屋の円形テーブルに突っ伏しながら休憩していると、自分じゃない誰かの気配にバッと顔を上げた。
「おわっ!!いきなり顔を上げるなよ」
そこにはびっくりした様子のクライブが立っている。
「…なんだクライブか。というかクライブこそいつも思うけどいきなり目の前に立たないでよ」
そう言ってまたテーブルに顔を突っ伏す。
クライブを見ると最近やたらモヤモヤして気持ち悪く落ち着かないので、今日は一段と冷たい口調になってしまった。
本当子供じゃんか私。
「なんだとはなんだ。はぁ、せっかくお前の好きなチョコのお菓子持ってきてあげたのに。…じゃここに置いとくから食べたい時に食べろよ」
クライブはテーブルにお菓子が入ってるのであろう包みを置くとすぐその場を去ろうとした。
あれ、この間もその前も一緒に食べてくれたのにと思い顔を上げる。
いやそりゃそうだ。今の言い方すれば誰だって、優しいクライブだって嫌になるだろう。
でも少しずつ離れていく背中に何故か焦りを覚えた。
『行かないで』
その言葉を思った瞬間、私はガタッと椅子から立ち上がりクライブの服の裾を引っ掴んだ。
「…っ!?ちょ、なんだよシノ!後ろに転んだらお前を下敷きにするとこだぞ!?」
私がいきなり掴んだことでぐらっとクライブの体勢が崩れそうになったがなんとか彼は踏みとどまっていたようだ。
「ご、ごめん…。」
咄嗟に謝り服の裾から手を離すと、クライブは「はぁ…」と溜息を吐き、私の方に向き直った。
「で?なんだよ。俺になんか用があったのか?」
「えと、その、えーと」
上手く言葉が思いつかない。こういうときなんて言えばいいんだろうか。ただこのまま離れていっちゃうんじゃないかと怖くなった。
クライブをちらっと見ると怪訝そうな目で自分を見ている。
正直に行かないでと言えばいい。置いていかないでって言えばいいじゃないか。
よし、と息を吸って一言。
「…お、お菓子今日は一緒に食べないの?」
あれ?いやあながち間違ってないけど、なんか違う気がすると言葉を発してから思った。
クライブもちょっと拍子抜けしている。ってかぽかーんってしてる。私が深刻そうな顔してたからね、分かる分かるよ。
私も自分でお菓子ってびっくりしてるから!
恥ずかしくなって思わず下を向いたその時。
「…お前最近やたらツンツンしてると思ったら急にデレるのやめろよな」
ぼそっと何か言ったが上手く聞き取れず「なんて言った?」と聞き返すと、頭をがしがし掻きながら一言。
「なんでもねぇよ!ほらお菓子一緒に食べるんだろ」
と東屋の椅子に座り、お菓子の包みを開け始める。クライブは少しばかり耳が赤くなっていた。
今日も隣にいてくれる彼に安堵感を覚えながら私も椅子に座った。
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