10.契約
更新遅くなってしまいすみません!
専属契約は魔法を用いて行われる。
まず専用の紙に契約者、鍛冶師共に名前を記しそれぞれの血を垂らすと契約成立となり、その証として右肩に黒い紋章が刻まれる。
もうこれでお分かりかもしれないが、違反すると紋章が赤く光りすぐに国に通達がいくので誤魔化しようがないのだ。
だから騎士にはリスクが高すぎるのだ。
戦闘中に自身が所持している剣が折れ、他人の剣を使おうものなら即違反。
いやいや自分の命がかかっているのだからちょっと酷すぎるのではとは思うのだが、契約で決まっているのでしょうがないのである。
とりあえず例にのっとってハールと契約を結ぶ。
バルドは溜息をつきながらも、私が本気だと理解したのか何も言わずただ事の成行きを見つめていた。
ふと血を出すためには針が必要だなと思えば、アルが考えを読んだように差し出してきたので実はこの流れは彼の手のひらで転がされた結果じゃないかと考えると寒気がしたが、もう決めてしまったことなので気にしないことにする。
もらった針でぷつっと人差し指に穴を開け、紙に垂らすと、血を吸収した紙が光だし右肩が熱くなった。
紋章が刻まれたのであろうか、自分では見えない位置なので確認のしようがない。
ハールを見やるとやっと現実味を帯びてきたようで安堵の表情を浮かべている。
そこでアルが口を開いた。
「さて契約は成立したことだし、君のご要望の武器の詳細を聞こうか」
なんかいちいち上から目線感のある言い方ムカつくな。
いや王太子だからたしかに上なんだけど。
こう、わざとらしい話の振り方というか裏がありそうなというか。とりあえず苦手だこの人。
ハールといえば懐からペンとメモ帳のようなものを取り出し、きらきらとした目で私の言葉を待っていた。
犬だ。主が投げるボールを今か今かと待っている犬だ。
鍛冶のことになると目の色が変わるタイプだなと頭の片隅で思う中、私は自分の理想の剣を彼等に提示した。
「…えと、あの本に記載されていた剣と同じものを作ることは可能ですか?」
「紅曜のことですか…。あの本に載せていた剣は俺が初めて打ったものなので所々不完全なものです。なので全く同じものではなく強度や扱いやすさ、見目の美しさなどは今の俺が出せる最大限を注いでいいですか?」
「えっ、あ、はい。全然大丈夫というかむしろありがたいです。」
というかあの剣って紅曜っていうのか。
名前からして格好良い。強そう。なんかばんばん敵を倒せそう。
とそこまで考え、我ながら単純すぎる思考回路に溜息が出そうになった。
ハールは私が了承したのを皮切りにメモ帳にペンを走らせ、あっという間に剣のラフ画を完成させた。
もう頭の中に完成図が出来ているようでラフ画といえど細かな装飾、素材の説明書きなども加えられていた。
「この握りの部分は手の形に合わせ少し凹凸をつけます。そしてさらに握りやすいよう革を巻きましょう。鍔の部分は光沢感が出る黒の金属を使い、端の部分には装飾として使い手の目の色の象眼を埋め込むのはどうだろうか。かといって派手なものではなくシンプルながらも上質さ、品のあるものがいいな。剣身はアダマンタイトだと強度はあるが重すぎるな…。だとしたら、」
私に説明していたはずが顎に手を当てぶつぶつと独り言を呟くように悩み出したハールにちょっとびっくりする。なんかThe職人気質といった感じだ。
「ごめんね、鍛冶のことになるといつもこんなで周りが目に入らなくなっちゃうんだ。でも嫌いにならないであげて」
私がポカンとしているとアルが苦笑しながらフォローを入れてきた。いや別に嫌になったとかそういうのではなくて、ただこんなに話す人なんだなぁと感心していただけなのだけど。
弁解しようと口を開きかけたとき、今の今まで事の成行きを見守っていたバルドが先に言葉を紡いだ。
「あんたの周りには変な奴らばっか集まるのねェ」
少々トゲのある言い方ではあったが、アルはそれをものともせずニコニコとした笑顔を貼り付けながら応戦した。
「あははっ、それは君も含めてってことだよね。ほんと個性的な人たちばかりで見ていて飽きないよ?バルドが王都に残ってくれればもっと楽しめたのになぁ」
アルがそういった途端、バルドがガシッ!っとアルの頭を鷲掴みにした。
え、バルドさん???王太子の頭ですよ???打首されないですか大丈夫ですか????
「私はあんたたちと違って常識人よ?目が悪いの頭が悪いの?1回私がその黒く塗ったくられた心を洗い直してあげましょうか?」
「いだだだだだだだ…ッ!!ちょ、バルドッ…僕一応王太子なんだけど…!」
「あら、私を脅すの?打首でもなんでも下してみなさいよ。私を捕まえにきたあんたの部下たち皆まとめて返り討ちにしてあげるわ」
バルドさん、目が本気じゃないですか。
瞳孔がかっぴらいてる。
昔アルと何があったんだろうかと気になりつつ、笑ってんのに笑ってないとはこういうことだなとなんとなく実感してしまった。
さすがにアルも痛かったのか手を挙げて降参した。
「分かった!君が常識人を主張したいのは分かったからこの手を離そうか!!」
アルが涙目になりながら訴えるとパッとバルドがアルの頭から手を離して、ぷいっと窓の方にそっぽを向いた。もう話す気はないらしい。
アルは頭を抱えて先程の痛みに呻いている。
ハールはというといまだにぶつぶつと考え込んでいた。
うん、あれだけ真剣に考えてくれるの本当にありがたい。
ハールが考えている間、アルが頼んでくれたお茶菓子などを味わい、何十分か経った頃。
さすがに待たせすぎだと思ったのかアルがハールの脇腹を小突いたため、ハールがハッとした表情になり腕についた時計を見た後であわあわと謝ってきた。
「も、申し訳ないですサージェント様っ!人から剣を頼まれるのはアル以外で初めてだから、つい熱が入って1人で考え込んでしまいました…!かなり待たせてしまいましたね、ほんと申し訳ないです…」
こちらとしては私の要望に応えようと真剣に考えてくれて嬉しい限りなのだけど…。
というか考えてる間も目がきらきらとしていて本当に鍛冶が好きなんだなぁとまだ彼のことを全く知らない私にも伝わってきた。
「いや気にしないでください…!最初は礼儀正しい人だと思っていたので予想外だったといいますか、でも考えてる間すごく生き生きしていたのでそのような真っ直ぐ物事に打ち込む姿勢尊敬します。あと出来れば普通に砕けて話してくださいませんか?私もその方が話しやすいので。呼び方もシノで構いません」
私が笑ってそういうと、今度はハールがポカンとした顔になった。
ん?なぜ??
あれ私なんか斜め上の返答しただろうか。
しかもだんだん顔が赤くなってきている。
焦ってちらりとバルドを見ると。
彼はハールから目を逸らさずに一言。
「…あーあ、クライブがまた嫉妬するわ」
と謎の言葉を口にしていた。
もしかして私が何か傷つくようなことを言ったのか。
いや砕けて話してくれと頼んだのが悪かったのか。
なにはともあれ謝った方がいいだろう。
「ご、ごめんなさい!何か気に触るようなことを言ってしまいましたか!?あの無理に砕けて話さなくても全然構わないのでっ」
今度は私があわあわとする番であった。
ハールは私が謝ったことで我に返ったのか、
「えっ、いや、あの大丈夫です!初めて尊敬すると言われたのでびっくりして!むしろ嬉しかっただけです…。あとあの笑顔が可愛くて…」
最後の方はごにょごにょとしていたので聞き取れなかったが、とりあえず気を悪くしてはいないようで安心した。
ホッとしているとハールがおずおずと口を開いた。
「…えと、シノさんと呼んでいいですか?あと、俺のこともハールで大丈夫です」
顔を赤らめながらそう話してくれたハールに、私は笑顔で答えた。
「はい。これから宜しくお願いしますハール」
こうして専属契約を結んだ相手鍛冶師もといハール・ウォルトンが実は攻略対象だったことに気づくのはまた後日のことである。
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