クリスマス
何もかも終えて、ベッドで息を吐く。
スカーは急に、二度目の風呂に入ると言って出ていった。
昨日からずっと気になってるんだが、隣に置かれたデカい箱はなんなんだ?
なんていうか、赤くて大文字の【J】みたいな変な形。
スカーは当たり前のように気にしてない。
カロンは気にしてたから、スカーが犯人だな。
部屋に戻ってきたところに声を掛けてみる。
『って、こんな寒いのに裸か?』
ホカホカと湯気を纏ったスカー。
柔らかい部分をゆらゆらさせて出てくる。
風邪を引かないか心配です。
「スカーの好きにさせて」
「なんでもいいが、この箱はなんだ」
「靴下」
俺は言ってる意味がわからなかった。
「なんだそれ」
「ソックス!」
「ああ、確かにそんな形だな、この世界では何かあるのか」
「ないよ」
ねえのかよ。
「じゃあなんなんだ」
『リュウキはクリスマスって覚えてる?』
「彼女居なかったからって馬鹿にしてるのか」
「してないしてない」
絶対してるわ。
クリスマスって言うとサンタクロースがやってくるんだよな。
「クリスマスしよーかなって」
「急に言われてもなあ」
裸でゴロゴロ寝始めやがった。
「服は着ろ」
「大丈夫だよー」
寒くならないように背後から手を伸ばす。
「えっち!」
払われてしまった。
「善意を踏みにじるなあ」
「今は触られたくない!」
「分かったよ、風邪引いても知らんからな」
おやすみ。
そう言い残して朝になった。
寒いなあって思いながら隣にスカーがいないことに気づく。
どこだ? 寝息は聞こえる。
音の位置を辿ってみるとJみたいな靴下の箱が怪しい。
中に何が入ってるんだろう。
こっそり開けてみると。
『すーすー』
モコモコした赤い服に身を包んだスカーが入っていた。
体育座りで寝てる。
ははあ、サンタクロースはスカーか!
手を伸ばして柔らかい頬をツンツンしてみる。
「んんむぅ」
起きそうなので軽く閉めて中をこっそり伺うことにした。
顔を上げたスカーが目を何度かこする。
かぁっとあくびする。
つられてあくびが。
どうやら下の服も赤いスカートみたいで、白い綿が装飾に使われてる。
シャキッと目覚めたスカーは銀髪をゆらゆら。
髪を指ですくってとかしている。
「まだかな」
何かを待ってるみたいだな。
俺も対抗して声を出してみた。
「おーい、スカー、どこだー」
声に気づいたスカーがニコニコし始める。
なるほど、そういうことか。
更に待ってみると、しゅんと表情が暗くなった。
「むう……」
寂しそうに唸ってる。
「お、カロン!」
本当は誰も居ないけど。
「何か食べに行くか!」
箱に耳を近づけてみる。
『だめ……行かないでえ……』
ボソボソなにか聞こえる!
『さみしい、よぉ』
微かに唸ると涙が一粒。
「よーし、お出かけするかー」
ガザガサと箱の蓋が開かれる。
『スカーも、居るから……!!』
半泣きでじーっと見てくる。
「冗談だよ」
「早く開けて欲しかった!」
不満そうにぷくーっと頬を膨らませる。
「それで、その服はどうしたんだ?」
「作って貰った!」
それは良かったな!
よしよし撫でると膨らんだ頬はなかったことに。
「かわいい?」
「ああ、かわいいぞ」
「リュウキはこの日の度に彼女欲しいって思ってたから」
箱から出てくると手を広げて飛び込んでくる。
『かわいいスカーをあげる!』
「嬉しいなー」
受け止めて頬を撫でるだけで、にぱーって笑う。
かわいいな。
「リュウキもちょうだい!」
「うーん……」
物なんてないし、魔法でなにかクリエイトできるわけでもない。
「じゃあリュウキも夜はあそこに入ってね」
あの靴下に入るのか。
「それでいいなら」
「テストなんてサボって、でーとでーと」
「今日くらいは良いだろうな」
その日はスカーと外を歩いて回った。
その日の夜、スカーの目の前で箱の中に入った。
「おやすみー!」
「ああ」
中はまだスカーの匂いが残ってて、気分が良い。
座ったまま寝るって難しいな。
あくびも出てきて、寝ようと思ったら箱が開いた。
「どうした」
「寂しくて寝れない……」
「俺はここに居るぞ」
「そうじゃない……」
スカーがただでさえ窮屈な箱の中に入ってくる。
「本当は、早起きして箱の中に入ってた」
「ずっと寝てたわけじゃないのか」
「リュウキの背中に抱きついてから、箱の服にお着替えしたんだよー」
サンタ服を引っ張って見せつけてくる。
「じゃあ、こうしないと寝れないだろ」
箱を閉めて自慢げなスカーを抱きしめた。
狭かった空間が僅かに広くなる。
「えへへ……」
スカーの髪を指でとかして触れ合う。
「寝れそうか?」
「うん……」
瞼が重力に負けて、とろーんと降り始める。
抵抗しながら眠りこけていくスカーはかわいかった。
「リュウキぃ……」
「どうした」
『大好き』
そう言って唇をすぼめるとゆっくり近づいてくる。
俺はスカーの期待に応えた。
あげれる物なんて、俺にはなにもない。
だから、貰ったモノは大切にしよう。
『ああ、俺もだ』