ロスト・ユリング〜あかあすの夜食タイム〜
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数日前、女を拾った。
オレより年下の……まあまあ年の離れた女だ。
高架下で、ボロ切れやちぎれたダンボールにうずくまってぶるぶると震えていた。
オレ、佐久間茜はその女に名前を聞いた。女は「桜田明日菜」と答えた。年が離れていた上にしばらく会っていなかったせいで見た目では分からなかったが、彼女はオレと同じように「あの孤児院」を抜け出した女だった。
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ちゃぶ台にノートと大量の参考書を広げていると、少し腹が減ってきた。オレは畳の上に乱雑に置かれているカップ麺のひとつに手を伸ばそうとすると、明日菜にそれを止められた。
「だめですよ、茜さん。同じものばかり食べていると、栄養が偏りますよ? わたしがここに来る前から、そんな食生活だったんですよね?」
「うっせぇな。勉強してたら腹が減ったんだよ」
「だったら今、わたしが簡単なものを作りますね。少し待っていてください」
ほつれたぬいぐるみを縫っていた明日菜がそう言って台所へ行ってから数分後、彼女は残っていた味噌汁と飯を使って雑炊を作って持ってきた。
「……あ、ありがとな」
「いえいえ、住まわせてもらっているんですから。これなら栄養も摂れて、体も温められますよ」
彼女のその笑顔に、オレは不覚にもときめ……。
「いやいやいやいや! なに勘違いしそうになってるんだオレ!」
「……あの、急にどうし…………」
「オレには邑様がいる! だから大丈夫だ!」
「えっと…………なにが大丈夫なんですか? それに『ゆうさま』って……」
「なんでもねぇ! 忘れろ!」
この女とは……明日菜とは、そんなんじゃない。
そんなんじゃないし、今後そうなることもない。
こんな「人拐いマシーン」に、幸せになる道なんてないのだから。