皇龍 アルカイド
「『加速』ッ!『魔力放出』ッ!『体感時間圧縮』ッ!」
バフをかけ一秒を何十秒にも引き伸ばす。
地面が砕けるほど強く踏みつけてドラゴンへ駆けて行く。
「◼◼◼◼◼◼──────ッッッ!!」
ドラゴンが咆哮し、横薙ぎに尾を振るう。
振るわれたそれはあまりに大きく、断ち切ることも受け流すことも多分出来ない。
「『跳躍』ッ!」
だから跳んだ。
太さ二十メートルはありそうな尾は俺の下を通過していく。
死にスキルだと思っていた『跳躍』がこんなとこで役に立つなんてな。
「『跳躍』ッ!」
空気を踏み、空中で体勢を整えてさらに加速する。
俺はひとつの砲弾になってドラゴンに突っ込んだ
「らぁああああああっ!」
ドラゴンの顔面目掛けて飛びかかる。
しかしドラゴンの反応も早かった。
顎を大きく開けたかと思えばそこから火炎のブレスを放つ。
それももう一度空気を蹴って身を捻りギリギリで避ける。
熱気が身を焼いた。服の袖が炭となる。
熱耐性ぶち抜いて来るってマジか。あんまりスキルも信用ならないな。
まぁ、気にしない。『超再生能力』ですぐ治るし、グールに脇腹を抉り取られた時よりかはマシだ。
「ぶっ潰れろ!!」
ドラゴンの顔の上から鼻筋辺りに剣を叩き込む。
斬る、というよりは殴る感じだ。
無理やりに口を閉じさせられたドラゴンは吐いた炎で口内に爆発を起こした。
すぐに飛び退いて何発も魔術を打ち込む。
流石にここで「やったか!?」なんて言うつもりはないが少しはダメージを与えられただろう。
煙が晴れてドラゴンの姿が現れる。
「……無傷ってマジかよ」
ドラゴンは焦げ目のひとつも無く黄金の鱗を輝かせていた。
「◼◼◼◼◼◼.......……」
口の端から煙を上げ、目を爛々と光らせる様子はさっきと比べて禍々しく、恐ろしいものだった。
「チィッ! ᛁ ᚹᚨᚾᛏ ᚨ ᚠᛁᚱᛖ. ᚺᚨᚢᛖ ᚨ ᛋᛏᚱᛟᚾᚷ ᚠᛁᚱᛖ. ᛏᚺᛖ ᚠᛁᚱᛖ ᛏᚺᚨᛏ ᛗᛖᛚᛏᛋ ᚨᚾᛞ ᛖᛉᛈᛖᛚᛋ ᚺᛖᛚᛚ 、"獄炎"!」
掌を前に向け、熟練度とかが上がったのか新しく得た炎の魔術をドラゴンの顔面に発動。
対象を焼き尽くすまで消えない炎とされている魔術だ。
普通の魔術が殆ど効かないのは分かった。だがしかし視界は塞がる筈だ。
目が塞がれているうちに俺はドラゴンの後ろに回った。
「 ᛁ ᚹᚨᚾᛏ ᛚᛁᚷᚺᛏ. ᚠᛚᚨᛋᚺ, ᛈᛁᛖᚱᚲᛖ ᛏᚺᛖ ᛖᚾᛖᛗᚣ ᛁᚾ ᚠᚱᛟᚾᛏ ᛟᚠ ᛗᛖ、ᛋᛏᚱᛟᚾᚷ、ᛋᛏᚱᛟᚾᚷ 、ᛋᛏᚱᛟᚾᚷ ᛋᛏᚱᛟᚾᚷ ᛋᛏᚱᛟᚾᚷ ᛋᛏᚱᛟᚾᚷ ᛋᛏᚱᛟᚾᚷ ᛋᛏᚱᛟᚾᚷ ᛋᛏᚱᛟᚾᚷ ᛋᛏᚱᛟᚾᚷ ᛋᛏᚱᛟᚾᚷ ᛋᛏᚱᛟᚾᚷ ᛋᛏᚱᛟᚾᚷ ᛋᛏᚱᛟᚾᚷ !!"一条閃光"!」
数十万の魔力を流し込み、威力を上げた"一条閃光"を放つ。
それは空気を焼きながらドラゴンの尾に当たり、ドラゴンの尾を半分程貫き黒く焼き焦がした。
「よしッ! 流石にここまでやると効くのか!」
すると、ドラゴンが顔を覆っている炎など気にせず、大きく息を吸い込む。
喉が焼けるなんてないのか? 体内も外殻クラスの硬さを誇ってたりしているんならとんでもないが。
そしてドラゴンが顎を開く。
「────────!!!」
瞬間、音が消えた。
頭を殴られたような衝撃が伝わり、キーン、という音が耳の奥で収まることなく鳴り続く。
耳が痛い。鼓膜が破れたのか。
気づいた時には目の前にはドラゴンの尻尾が迫っていて。
嘘だろ。まぁまぁな傷をつけたはずだ。そのくせ変わらず動くのかよ。
「ッ『硬───」
なんとか剣を盾にし、後ろに飛び退いて衝撃を緩和させようとする。『硬化』を発動させる暇もなかった。
だがそんな事は焼け石に水。まるでノックされたボールように軽い感じで吹き飛んだ。
そのまま後ろの壁にぶち当たる。
「っが、ぁぁぁあああっ!!」
肺から空気が全て絞り出される。
なんとか息を吸い込もうとするも、上手くいかない。
初めて知ったよ。大きすぎる音は物理的な攻撃になるんだって。
追撃はこない。どうやらドラゴンは自分自身の身体を治しているようだ。そういうスキルか魔術なのか、全身を輝かせて傷口を少しずつ再生させていっている。
ドラゴンが美しく金色に輝いているのを見ると、これが人生最後の光景になるのなら悪くない、なんてらしくないことを思ってしまう。
「……っ、はっ、はっ、は、」
よし。息は出来るようになった。あのまま突進でもされていれば即死していたかもしれなな。
「ッ....... 『超再生能力』」
全身がビデオを巻き戻したように治っていき、元の状態へと戻る。
「あー、くそ。ホントに命の危機を感じたぞこの野郎め」
ガリガリと頭を掻く。
少し慎重になり過ぎていたかもしれない。
デュラハンから貰った剣をベルトに挟み手を開ける。
両手を開いたり閉じたり肩を回したりして調子を確かめる。
ドラゴンの方も傷を治しきったらしい。
あの威風堂々とした態度が気に入らない。
「『生成』」
握られたは聖剣エクスカリバー。
エリクサーが勿体無い理論はやめだ。
ゴリゴリに魔力使ってやる。
「はぁぁぁあああああっ!」
姿勢を低くして踏み込む。
一歩でドラゴンの顎の下に潜り込み、そのままエクスカリバーで顎を打ち上げる。
ドラゴンも腕を振るい攻撃してくる。が、俺はそれを躱しそのまま足場にしてドラゴンの身体を駆け上がる。
ドラゴンが身体を震わし翼をはためかせ俺を落とそうとするが、『跳躍』したり鱗なんかを掴んでロッククライミングするかのようによじ登りドラゴンの頭に到達する。
そしてエクスカリバーをドラゴンの頭に一気に突き刺した。
「よいしょお!」
「◼◼◼◼◼◼◼!!!」
手応え。今のは結構効いたんじゃないだろうか。
頭にあるイメージが浮かんだ。
エクスカリバーを引き抜き飛び退く。
次の瞬間にはさっきまで俺がいた場所にドラゴンの尾があった。あと一秒でも遅れていたらまた軽々しく吹き飛ばされてただろう。
「いける」
流石にエクスカリバーは効くらしい。
ドラゴンはまた身体を輝かせて傷を治そうとしているがそんなことは許さない。
技なんてない。斬って避ける。それを極限まで効率化して攻撃を繰り返す。
生きるか死ぬかだ。疲れなんて感じない。
少しずつだが、ドラゴンにもダメージが蓄積されていく。
「らぁぁぁああああっ!」
そして火炎のブレスの後の大きな隙。その間に俺はエクスカリバーでドラゴンの眼を潰した。
「────────!!!」
溜めをつけてからの咆哮。
だがそれは経験済みだ。魔術で空気を遮断して防ぐ。
そして、ドラゴンは首をもたげる力も無くなったように地面に伏せ、目を瞑った。
「……やったのか?」
ちょうどエクスカリバーも砂となって崩れた。
両の手を上げ、バンザイをする。
「やった!勝っ────」
ゴドンッッッ、と何かが下から打ち上げるように俺の身体を叩いた。
頭の中には俺がドラゴンの腕で殴り上げられるイメージ。
おいおい『直感』さんや、間に合ってねぇよ.......。
見えた色は金紅。スキルか物理的な発熱かは分からないが、ドラゴンは紅色混じりの黄金の鱗を携えていた。
さらに変身を残してたとかマジか。
そのまま上方へ打ち上げられた俺は何枚か天井をぶち抜き、最後にはドラゴンがいた場所よりも何フロアか上の天井に突き刺さった。
なんとか天井から抜け出した俺は尻餅をついて倒れた。
「ハァッ、ハァッ、ッ!くそっ!何だよあれ、ふざけてるだろうが! 天井に突き刺さるってなんだ! ギャグ漫画かよ! リアル「いしのなかにいる」を経験させてくれてありがとうございますってか!? ゴミが!」
なんだあれ。バグキャラか。頭刺して生きてるって生物的にどうなんだよ。
エクスカリバーもあんま効かなかったし。アレか?悪属性とか? アンデットとか? そういうヤツじゃないからか?
いや、でも魔法も効きにくかったしな。そういう防御みたいなのを纏ってたりするのか?
最強の龍っていうのはやっぱり伊達じゃなくて。
こんな異世界にきて一ヶ月も経ってない俺じゃ、勝てなくても仕方ないんじゃないのか?
「あぁクソっ!」
ガリガリと頭を掻く。
いや、こんな言い訳がましい事をほざくようじゃダメだ。
勘違いするな。負けたら死ぬんだよ。いくらゲームみたいな夢世界に思えても現実なんだ。
忘れるな、憎しみを。
少なくとも王国の奴らを殺しきるまで死んでやんねぇ。気合いを入れろ。
「ああああああああああああ!!!」
パンッ! と両手で頬を叩く。
よし。スッキリした。
俺がやるべきことはあのドラゴンを殺す事だけだ。
それ以外のことは考えるな。魔力の温存なんか捨てておけ。あのドラゴンを倒した後に何らかの魔物に襲われて死んでもそれはその時だ。
「ᛁ ᚹᚨᚾᛏ ᚠᛁᚱᛖ ᚨᚾᛞ ᛚᛁᚷᚺᛏ. ᚺᛖᚨᛏ ᚢᛈ. ᚹᛁᚾᛞ. ᛈᛚᛖᚨᛋᛖ ᛏᚺᛖ ᛒᛚᚨᛋᛏ ᚺᛖᚱᛖ、"爆裂"!」
爆発で地面に空いた穴とは別の場所に穴を開ける。
追撃が無いってことはあのドラゴンはあの広間から移動できない可能性が高い。
なら多分、奇襲は有効だ。
「『生成』」
地面を使って俺と同じ大きさの人形を作り、その人形に自分の服を着せる。
パンツ一丁となった俺はそこら辺のカーペットを『生成』で服に作り直して着た。
「そら、行ってこい」
俺は新しく開けた穴にその人形を落とした。
俺も最初に空いた穴から落ちる。
三秒程で穴を抜けた。
圧縮された世界の中で、ドラゴンが俺が落とした人形に向かって炎を吐いているのが見える。
まんまと引っかかってくれてありがとう。
「『生成』!!」
俺は落下しながらあの時の、初めてエクスカリバーを創った時の感覚を思い出し叫ぶ。
創り出すはキリスト教の伝説ともなっている聖人の使った剣。
「『龍殺しの剣』!!!」
落下の威力はそのままに、俺は両手で掴んだアスカロンでドラゴンを背中を斬り裂いた。思っていたよりは手応えが軽く、
「◼◼◼◼◼◼◼◼◼◼!!!!!」
ドラゴンが吠えた。
熱された包丁でバターを切るより容易く斬り裂かれ、その身体からは血が吹き出した。
多分、これはアスカロンの【龍殺し】という特性があるからこそ出来る事なんだろう。
エクスカリバーの敵を消滅させる能力は働かなかったし。
ならただ切れ味のいい武器に成り下がるエクスカリバーよりも龍特効なアスカロンの方が強いはずだ。
そうだよ、何で思いつかなかったんだろうか。逸話は大事だ。聖杯もそう言っている。
「よしっ!行ける!!」
ザンッ! ザンッ! と、ニ撃目、三撃目を間髪を入れずに斬る。
だがそれでもまだ浅い。致命傷には程遠い。
ドラゴンも「調子に乗るなよ!」とでも言わんばかりに炎のブレスを放つ。
アスカロンはそれすらも引き裂いた。
龍特攻は何も本体に限った話ではなく、ドラゴンが起こした現象にすら補正がかかるらしい。
もう一度神器クラスのものを生成する魔力はない。アスカロンが崩れる前に決めなきゃ死ぬ。
斬って、斬って、斬って。
何も考えずに斬り続ける。
翼を跳ね飛ばした。振るわれた尾を避ける。喉元を斬り裂いた。吐かれたブレスを両断する。
斬って躱して吹き飛ばされ。
一体どれだけの時間戦っていたのだろうか。
ドラゴンはボロボロ、アスカロンも罅割れている。
次の一撃が最後になったりするだろう。
まさか、こんなデカいドラゴン相手にかの有名な「次の一撃で終わらそう」をするとは思わなかった。
気持ちは最高。今までで一番ステータスが高いのが今だろう。
「『リミッター解除』」
それをさらに上げる。生命力が削られる量と比例してステータスが上昇していくのが分かる。今銀盤を確認したら『魔力放出』と合わさってとんでもないまたステータスになってる事だろう。
「『加速』」
多分、俺は音速を超えた。
ドラゴンの牙と俺のアスカロンがぶつかり合う。
瞬間、アスカロンの刃の部分と、ドラゴンの牙が砕け散った。
ヤバい.......!?
『.......我を斃したんだ。我が主を、頼んだぞ、人間』
ドラゴンはそれだけ言い残し、上顎と下顎を境にして真っ二つに別れた。
ズルリ、とドラゴンの上半分が下半分からずり落ちる。
ドラゴンは死んだ。
今度こそ起き上がる気配はない。
「……ぁあ? なんだよ。斬れてたってのか? まぁ、いいや」
それにしてもまた「我が主」か。その主のエリア様とやらは一体どんな奴なんだろうかね。
「はぁ……」
大きく深呼吸をする。
生き残れた。夢の中にいるような気分だが、全身の痛みがこれは夢じゃないぞ、と伝えてくる。
「しんど……」
ちょっとくらい休んでもいいか、と地面に寝転がろうとした瞬間。
パチ、パチ、パチ、パチ
「っ!誰だ!?」
何処からか拍手が聴こえてくる。
俺は足に力を入れ、すぐさま動けるように意識を高める。
「あの龍を倒す者など現れんと思っていたが……余の封印を解いてくれて有難うぞ」
ドラゴンがいた場所のその奥、ドラゴンが陣取ってた為隠れて見えなかったが、玉座、と言うには少し質素なそれが鎮座してある場所の辺りからそいつ現れた。
「はっ、ボスバトル三連チャンってか?……お前は誰だ?」
俺に拍手を送ってきた者は薄い褐色の美しい銀髪少女だった。
「ふむ。名乗る義理も何も無いが其方は余の封印を解いてくれた恩もあるしな。特別に教えてやろう」
そういってそいつは両手を広げ仰々しく言った。
「余の名はエリア。エリア・レイアルラ。第三魔王で、しがない魔神のなり損ないよ」
……は? エリアって事はこいつがあの「主」か?
あと魔王ってなんだよ。旧魔王城じゃねぇじゃん。バリバリ魔王いるじゃねぇか!
「……それで?お前も俺を殺そうってか?」
返答次第ではすぐさま逃げるつもりだ。
魔力なし。体力なんかとっくに限界を超えていて。正直今すぐにでも寝たい。
「いや、あの龍を倒す程の実力を持っている其方は今の余より強いからな。返り討ちに会うのがオチであろう。無論、今の其方なら今の余でもどうにかなるのかも知れんが.......、久しぶりの運動にそんなハードなものは選びたく無くてな」
「なら何だ?無罪放免で見逃してくれるのか?それが俺的には一番嬉しいんたがな」
多分こいつは強い。
『英雄覇気』にも似た何かを纏ってる。少なくとも、『覇道』クラスのとんでもスキルを持っているはずだ。
魔力スッカラカンで全身ボロボロの今、戦えば勝つのは難しいだろう。
いやまぁ、グールの時みたいにまた何かしらの運命的なスーパーパワーが働く可能性もあるが。
「それは無理だ。其方は余の進む道の妨げになるだろうしな。だから、これは特別だ。少しいい夢を見ていておくれ」
エリアは舞台役者のように大仰な仕草で手のひらを重ねる。
そして。
パン、
そのままエリアが手を叩くと俺の意識は闇に喰われた。