魔王の城で
「柊くん……遅いなぁ……」
少女、宮畑氷華は自室にて唯斗を待っていた。約束していた七時という時からは一時間以上も経過している。
「図書室でこの世界の神話のお話見つけてきたのになー。うーん、でもなぁ。部屋に押し掛けるのはなんだかねぇ……」
勿論、純粋な善意で本を探してきたわけじゃない。唯斗が神話の武器を作ろうとしている事を聞き、恩を売る……というか親切にして自分の株を上げる為に見つけてきたのである。
唯斗がそうであるように彼女も唯斗に恋をしているのだ。
尚、唯斗が一週間図書館に篭もりそれなりの数の本を読んでいたことを彼女は知らない。その本の中に彼女がわざわざ見つけてきた本がある事も。
「はぁ……まだ寝てるのかな……?でも起こしに行くのは忍びないし……うーん……まぁ、会ったら言えばいっか! ご飯食べに行こっと」
不満そうに頬を膨らませる彼女だったが、勇者一行を持て成す為に作られた豪勢な食事の魅力には逆らえなかったようだ。
ちなみに朝食はホテルのようにバイキング形式である。
少女、宮畑氷華は知らない。実はその柊唯斗と両思いだと。
宮畑氷華は知らない。その柊唯斗が現在進行形で魔物を絶賛蹂躙中である事を。
結果から言えば、唯斗は食事場にいなかった。
氷華はうんうんと唸りながらも朝から結構な量の食事を食べている。
どうやらクラスメイトと担任が揃っているというのに唯斗が居ないことが気がかりなようだ。
そこにハムとレタスのサンドイッチとミルクティーを持ってきた史花がやってきた。
彼女は氷華の隣に座って言う。
「何を唸ってるの?」
「いやね、柊くんはどこかなーって」
「そういえば今日は見てないわね。体調でも悪いんじゃないかな?」
「昨日は元気だったんだけどなぁ……」
「そんなに心配なら看病しに行ってこればいいじゃない」
「それだよ!ナイス案だよふみちゃん!」
グッ、と史花にサムズアップをしたところで騎士団長、アレクサンダーがパンパンと手を叩いて注目を集めた。
「諸君!食事の最中に済まないが聞いて欲しい事がある!気づいている者もいるかもしれないがここには柊唯斗が居ない。その理由を話そうと思う」
興味無さげにボーっと聞いていた氷華だが、唯斗の名前が出た瞬間に、主人の帰ってきた犬のようにバっと顔をあげて身体ごとパトリックの方向に向き直った。
「昨夜の十一時頃だったか。あいつは俺に相談を持ちかけて来たんだ。それはこの城にいる意味が分からない、とな。それで奴はこの城を出て、世界を広い目線で見てみたいと言ったんだ。今思えば、俺に相談した時にはもう城を出ていくことを考えていたのだろう。それで俺は国王様とも話し合い、送り出す事にしたのだ」
「ということはあいつはもうここにはいねぇのか!?」
昴が声を荒げる。親友が自分に何も言わずいなくなったことに動揺が隠せないようだ。
「その通りだ。挨拶をしていったらどうだとも言ったんだがそうするとずっとここに居たくなる、と言ってな」
「まじかよ……俺ぐらいには言ってもよかったんじゃねぇのかよ……」
昴は項垂れ、机に顔を伏せた。
「そんな……もう柊くんには会えないの?」
氷華が泣きそうな声で放ったその言葉は静かになったその空間にはよく響いた。
その日の朝食は全員が神妙な面持ちで重い空気のまま終わった。
☆
「はははっ!! くはっ! あはははははははははは!!!」
俺は今、俺を追い詰めてくれやがった腐肉共と戦っている。
いや、俺が一方的に蹂躙してるだけだから戦いでもないか。
さっきまではあんなに恐ろしかったのに今は道端の小石程の脅威も感じられない。
今や恐怖心なんて微塵もなく、こいつらに抱く感情は殺意しかない。
「おいおい、逃げようとしてんじゃねぇよ、なぁ! ᛁ ᚹᚨᚾᛏ ᛚᛁᚷᚺᛏ. ᚠᛚᚨᛋᚺ, ᛈᛁᛖᚱᚲᛖ ᛏᚺᛖ ᛖᚾᛖᛗᚣ ᛁᚾ ᚠᚱᛟᚾᛏ ᛟᚠ ᛗᛖ、"一条閃光"!」
グールの一匹が逃走し出したので幾つか光球を生み出し、そこからレーザーを放つ。
今使ったのは魔術だ。
魔術は適性がないと使えないだろうって?
そうだな。確かにそうだった。
だが一つ思い出して欲しい。"強欲"というスキルの存在を。
あのスキルの能力は「自分が殺した相手のステータスの一割とスキルをランダムに吸収する」というものだ。
まぁ、つまり、素手で殴り殺したグールが偶然魔術適正のスキルを持っていたから使えたという訳で。
グールに魔術適正のスキルなんかあるわけないだろ! いい加減にしろ! と思うかもしれないが、あったんだよなぁ、それが。
先ずグールは人の死体が魔力が多い所で放置された為に生まれた魔物である。人の死体ってところがミソだ。
グールにも、グールになった人間が生前持っていたスキルが継承されてるらしく、俺が殺したグールの中には普通に有用なスキル持っているヤツが沢山いた。
まぁ、一応魔王城にいた人間なんだ。魔王討伐とかについてこれるほどの能力はあったんだろう。
「っと、終わりか」
そんな事を考えているとどうやらあの腐肉共は居なくなっていた。逃げたのか全滅したのか、まぁまぁな数倒したから多分全滅したんだろう。
「さーて、どれくらい上がったかなっと」
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名前 柊 唯斗
性別 男
年齢 16
種族 人間
職業 生成師
ステータス
HP 6500/8900
MP 598380/600000
筋力 5638
体力 4545
俊敏 8919
物耐 3816
魔耐 600000
スキル
生成«ガイド»«万物理解» 、憤怒、嫉妬、強欲、火属性適正、水属性適正、光属性適正、リミッター解除、縮地、体感時間圧縮、跳躍、加速、気配感知、隠密、直感、水中呼吸、魔力放出、千里眼、勇猛«英雄覇気»、覇道、天武、異世界言語理解
称号 召喚されし者 異世界人
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「うん.......? なんだ、見たことないスキルがあるな」
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リミッター解除:肉体のリミッターを解除する事で肉体系ステータスをアップ出来る。使用中はHPが減少してゆく
跳躍:跳躍力が上がる。空気を踏むことも可
加速:瞬間的な加速が可能になる
隠密:あらゆる生物に気づかれにくくなる。自分の意思で能力の程度は操作可
直感:一種の未来視が可。予想したことがよく当たる
水中呼吸:水中で呼吸が出来るようになる
魔力放出:武器、自らの肉体に魔力を纏わせ瞬間的放出することにより能力を向上させることが可
千里眼:スキル、『鷹の目』と『遠視』が統合されたもの。俯瞰的な視点から世界を見ることが出来、離れている場所だろうと見ることが可
勇猛:スキル、『剛体』『剛腕』『タフネス』『怪力』『勇敢』『不退転』『不屈の意思』が統合されたもの。肉体ステータスが大きくアップし、精神的な魔術を受けづらくなる。
«英雄覇気»:言わば威圧。自らのステータス以下の生物の動きを抑制する。
覇道:スキル、『カリスマ』『無双戦術』『扇動』『豪運』『英傑』『傍若無人』『仁王立ち』が統合されたもの。他者に与える影響がとても大きくなり、あらゆる精神異常をきたさなくなる。
天武:スキル、『剣術』『弓術』『槍術』『馬術』『戦術』『徒手武術』が統合されたもの。あらゆる戦闘技術を扱えるようになる。
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「うわ、つっよ.......」
ドン引きだよ。特に『勇猛』と『覇道』と『天武』。一体いくつのスキルが合わさってるんだよ。かっこいいなぁちくしょう。
「さてと、『生成』。んで、ᛁ ᚹᚨᚾᛏ ᚹᚨᛏᛖᚱ、"水よ"」
俺は『生成』でコップを作り、魔術でそこに水を注いだ。
水に口を付けながら先の事をかんがえる。
さて、目下の危機が消えて物事を考える余裕が出来た。とりあえずの目標はこのダンジョンの攻略か。俺が異世界っぽい事を楽しみたいってこともあるし、«万物理解»様が言ってるように多分本当に外に隣接する壁は壊せないんだろうし。
……試しとくか?
階段の逆の一番大きなな扉……恐らく入口の扉だろう。
そこに近づく。
軽く手首と足首を回したり屈伸をしたりして気合を入れる。
「はてさて、どうなるかなっと」
三メートル程離れたところから俺は扉に右手を向けた。
「ᛁ ᚹᚨᚾᛏ ᚠᛁᚱᛖ ᚨᚾᛞ ᛚᛁᚷᚺᛏ. ᚺᛖᚨᛏ ᚢᛈ. ᚹᛁᚾᛞ. ᛈᛚᛖᚨᛋᛖ ᛏᚺᛖ ᛒᛚᚨᛋᛏ ᚺᛖᚱᛖ、"爆裂"!」
ドガァァアアン! と派手な音と共に爆発が起きる。砂埃が舞い上がり視界が塞がる。
「おーおー……やり過ぎたかも?」
これで扉が壊れてたりしたら期待外れもいいとこだけどな。
……ん? そうしたら外に出られるからいいのか? 分かんないな。
というか視界が晴れないな。 どれだけ砂埃舞い上がったんだよ。
「ᛁ ᚹᚨᚾᛏ ᛏᚺᛖ ᚹᛁᚾᛞ、"風よ"」
呟くと、突風が吹き全ての砂埃を散らした。
「無傷ですやん……」
傷一つない、そう形容するのが一番だろう。焦げたのかほんの少しだけ黒ずんでいるように見えるが.......これが焦げで扉が若干傷ついていたとしてもこの調子なら何百何千初も撃ち込まないといけないだろう。流石にそんな気力はない。
って、ん? 扉が綺麗に治りやがった.......。
☆
本当に治るのかあの後何発か色んな種類の魔術を撃ち込んでみたがどうやらあの扉は自動的に修復する機能があるらしい。
全く、無駄な魔力を使ってしまったぜ。
流石に遊んでばかりじゃいけないなと思い階段を登って少し探索してみたところ、まるでホテルの客室のように廊下の両側にいくつもの扉がある場所を見つけた。
「レッツ突入!」
扉を蹴り開けて入ると同時に爆発の魔術を撃ち込んだ。何匹か鎧を纏った骸骨が宙を舞う。
軽く見渡すとこの部屋の中にいる魔物はこの鎧骸骨だけに見える。
鑑定したところどうやら名前死霊騎士というらしい。
「こんにちは! お前いい感じのスキル持ってそうだな! 死ね!」
とりあえず俺は一番近くにいたアンデットナイトに殴りかかった!
☆
アンデットナイトの部屋からどれほど攻略してきただろうか、現在俺は、明らかにボス部屋ですよーとでも言いそうなゴツイ扉の前にいる。
例えるならば某超兄弟の亀かトカゲか分からないケツアゴモンスターがいる扉だろう。
何個も階段があり上へ上へと登ったが何もなく行き止まりだったため一旦あのホールみたいな所に戻ってちまちまと探索をしてたらこれだよ。
なんで地下への階段を隠し通路にしてるんだよ。使いにくいだろ。
わざわざ全ての部屋を攻略して回った意味が.......。
「.......これ蹴り開けれるか?」
中々重厚そうである。いや、今の俺のステータスなら余裕なのかもしれないが変に体勢とか崩して開けてもなぁ。
これは蹴ると蝶番が壊れて扉が吹っ飛んで偶然魔物が巻き込まれるとか無さそうだし。
まずどうやって開けるんだこれ?
「待て待て、クールになろう。そうだ、これまでを思い出せ。一旦殺してきた魔物でも思い出して落ち着こう。俺は修羅場を潜ってきてるんだ」
出てきた魔物の例を挙げると猛毒を吐き出す二つの頭を持った蛇や水を吐き出し操る空飛ぶ魚、仲間を呼び寄せ全方向から魔法を放ってくる地面から生えた泥の手(異常な程の魔耐があったから危なげも無く倒せた)、放った魔法を見てから回避する程の超スピードで動く巨大な熊、数千、数万の軍勢で突撃してきたフナムシのような魔物などなど。
ちなみにフナムシの部屋は全力で爆発魔術を放ち、部屋の家具とか一切合切まとめて蒸発させた。
出てくる魔物がRPGとかではラストダンジョンの魔王城とかにいそうな奴じゃ無いのが少々心に引っかかる。
どうせならもっとカッコイイ魔物も見てみたいぜ。ほら、ヴァンパイアとかリッチーとかデュラハンとかドラゴンとかさ。
おっと、今はこの扉をどうするか、ということだったな。
多分ここから本番みたいなとこあるしな。
ここくらいは真面目に行ってもバチは当たらないだろう。
コンディションは最高。気持ちもこれ以上無いくらいに昂っている。
「OKOK。俺は強い。とんでもなく強い。最強だ。俺ならやれる。無事に攻略出来る。金銀財宝手に入れれる。そうだ、俺は凄い!
なんとかなるって!」
よし。自己暗示終わり。扉に手を当てて『魔力放出』や魔術でバフをかけ、一気に扉を開け放った!
そこは、俺達を召喚したあの大広間にとても似ていた。違いという違いは、若干カラーリングが黒くなったことくらいだろう。
「.......俺は随分こんな部屋に縁があるみたいだな」
この異世界に来て一番最初に見たのは王宮の大広間。俺が死にかける前の最後の景色も大広間。そしてボス部屋らしき場所も見た目大広間ときた。
もうトラウマになってもおかしくないだろ。
「少年よ、其方は何を求めてここに来た?」
突然、声が響く。
声が聞こえた場所に目を向けるとそこには三体の魔物が立っていた。
「『万物理解』」
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デュラハン
討伐ランク S
忠誠を誓った強き者が死後でも主を護れるように、と強い意志が具現化したもの
アンデットの最高位
ヴァンパイア
討伐ランク S
吸血鬼が悪意に呑まれ魔物化したもの
アンデットの最高位
理性はなく、強い再生能力が特徴
リッチー
討伐ランク S
人間が禁断の術式を行使しその身を変えたもの
アンデットの最高位
その身の寿命はなく、触れられた生物は状態異常を引き起こす
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「えっ、えぇ.......…」
フラグ回収お疲れ様です。まさか予想した奴がピンポイントに出てくるとは。何者かの介入が感じられるくらいだ。
「もう一度問おう。少年、其方は何を求めてここに来た?」
喋ってたのってデュラハンかよ。一体どこから声を出してるんだ。首から上ないだろ。
「あー、あんたがどんな事を危惧してんのかは知んねぇが俺は騙されてここに連れてこられただけだ」
「なるほど、それは気の毒に、とでも言おうか」
あれ?結構優しくね?もしかして通してくれたりすんの?
「もしかして通してくれたりすんのか?」
「いや、それは不可能だ。其方はもうここまで来てしまった。それ程の力は我が主の害になるであろう」
なら仕方ない。先制攻撃だ。
「それなら力ずくで通してもらうぜ!『英雄覇気』!」
思い切り地面を踏みしめて駆け出す。『魔力放出』に『加速』に『体感時間圧縮』まで使ってデュラハンに突撃。
殴りかかるもそれは近くにいたヴァンパイアに阻止された。
「邪魔してんじゃねェよ!」
『魔力放出』、魔力そのものを衝撃としてヴァンパイアを吹き飛ばす。追撃をしようと腕を振りかぶった瞬間、リッチーから熱線が飛来する。魔術か。
どうやらデュラハンが前衛、ヴァンパイアが遊撃、リッチーが後衛というような役割らしい。
魔耐にものを言わせて魔術を無視し、デュラハンの腕を掴んでぶん投げる。やはり魔術のダメージは余り無い。
「 ᚹᚨᚾᛏ ᛚᛁᚷᚺᛏ. ᚠᛚᚨᛋᚺ, ᛈᛁᛖᚱᚲᛖ ᛏᚺᛖ ᛖᚾᛖᛗᚣ ᛁᚾ ᚠᚱᛟᚾᛏ ᛟᚠ ᛗᛖ、"一条閃光"!」
追撃として壁に叩きつけられたデュラハンにレーザーを放つもそれは突然空中で霧散した。
「ウッソだろ.......!?」
瞬間、頭の中に自分の胸が貫かれる様を幻視する。
咄嗟に身体を捻ったが左腕にヴァンパイアの手が突き刺さった。少しでも遅れていたらあのイメージ通りに胸が貫かれ、俺の心臓は潰されていた事だろう。
なんとか致命傷は免れたが左腕もまぁまぁな重症である。スクロールに魔力を流す。
その次の瞬間、リッチーの岩を飛ばすという物理的な魔法が飛んできた。これでは魔法耐性も余り意味を成さない。
「ちっ、くしょうがぁぁぁぁあああ!」
まだ左腕は治っていない。魔術で迎え撃とうにも詠唱する時間もないし、何故かさっき放った魔術は霧散した。リッチーが無効化でもしたのだろう。
俺はヴァンパイアを蹴り飛ばし、放たれた大岩を右手で防いだ。幾らかのダメージは残るが仕方ない。大岩の運動エネルギーをモロに受けた俺はそのまま吹き飛ばされる。
駄目だ。隙が無い。一体ずつなら何とかなっただろうけど、これはダメだ。ジワジワと追い詰められていってるぞ。
考えろ。今の俺は前とは違う。
主人公だろ?
こんな奴らを瞬殺出来なくてどうするんだ。
そうだよ。力のない俺はどうしようとした?
「『生成』ぇ!!!」
俺のスキルの名を叫ぶ。
生成するものは武具。
ステータスが上がり、今は約百万ある魔力の全てを使用し創り出すものはいつか、作れないかと模索していた神話の武器。
聖剣というカテゴリの中でトップに位置するそれは
「『王騎士の聖剣』!!!」
エクスカリバーだ。