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本当の力

「……ここ、何処だよ」


 目の前に見える景色は廃墟、としか言いようがなかった。黒ずみ、ボロボロになっているが、敷かれた分厚い赤いカーペットや、所々にあるオブジェなどを見ると元は相当豪奢な場所だった事が分かる。


 奥に見える階段や所々に立っている巨大な柱等を見るに、ここはホールのような場所なのだろう。


 俺が最後に見たものは魔法陣とハルペーストの国王の見下すような無表情。光に包まれて次に見えたものは廃墟。このことからはじき出される答えは……


「まんま騙されちまったってことか……!」


 怒りで心が埋め尽くされる。

 教室で見た魔法陣とよく似たアレは転移魔術の現れだったんだろう。


「クソっ!ふざけやがって!なにが加護だクソ共が! しかも無警戒過ぎるだろ俺はバカか!」


 地団駄を踏む。こうでもしなきゃ怒りでなんとかなってしまいそうだ。


 だが、いくら憤慨しようともなにも生み出さない。一旦冷静になろう。

 深く息を吸い込む。


「.......よし」


 多少はマシになった。

 まず現状の理解とその打開策を模索しなければ。そう思った俺はこの空間に『万物理解』を発動させる。


 =================

 旧魔王城


 分類:人工ダンジョン

 難易度:絶望

 世界最高難易度ダンジョン

 元は先代の魔王がこの場を居城として構えていた。だが、先代魔王が討伐された事により、現在は廃墟となっているが、それでも生き残った勢力はまだ城の内部に多数存在しており、未だ世界最大最高難易度のダンジョンとして知れ渡っている

 攻略した者は存在せず、もし攻略出来たのならば先代の魔王が蓄えた巨万の富を得ることが出来るとされている

 城内では転移魔術が使用出来ず、外と隣接している壁は破壊不可である

 別名、処刑場とも呼ばれる


 =================


「……は、っくは、はははははっ」


 思わず笑いが零れる。

 難易度絶望? なるほどね。良くあるやつだ。


 俺は拳を天に突き上げた。


「勝った……! 俺は最強系主人公だ……!!」


 攻略者ナシのダンジョン。

 保持する強大な魔力。

 未だ前例のない職業(ジョブ)


 これは、もう、言い逃れのしようもないほどにテンプレだ。あとはこのダンジョンをクリアして最強の道を歩むのみ。


「くははははっ! なるほどな! なるほど! そういう事か! いやぁ、やっぱりそうだと思ったんだよ。やっぱテンプレはテンプレにされるだけの人気があるからな! 弱者が見返した方が楽しいもんな!」


 いやぁ、気分がいい。小躍りして歌でも歌ってしまいそうだ。


 ガタン


 突然物音がしたと思うと柱の陰から醜悪な、腐敗した肉で覆われたヒトガタが現れた。

 それは「うぅ」とか「あぁ」みたいな意味の無い呻き声を上げながらゆっくりとこちらに滲みよってきた。


「っ!!『万物理解』!」


 =================

 食屍鬼(グール)


 討伐ランク B

 人の死体が魔力の濃い場所で放置されアンデット化したもの。ゾンビとは差別化されていて、こちらの方がより凶悪とされている

 雑食であるが、肉を好む

 死亡した事により生命維持の為のリミッターが無くなり生来の頃より筋力、体力、俊敏がアップしている

 殆どの確率で群れているので一匹見つけたら三十匹はいると考えた方が良い


 =================


 俺が身体を強ばられせていると、その腐敗した肉は突然動きを速くした。ともすれば委員長レベルの速さ。


 避ける? 武器を『生成』して迎撃する?


 駄目だ。まるで間に合わない。


 俺はせめて腕を交差し防御の姿勢をとり、目を瞑って身体を強ばらせて衝撃に備える。

 だがしかし、何時までも予想していたような衝撃が来ずに目を明け自分の身体を確認する。

 視界にあの腐肉は映らず、少し呆然とする。


 ふと、左手に暖かく、ヌルリとした感触があり左手を見る。どうしてだろうか、左手は赤く染まっていた

 先程から何故か少し違和感のある脇腹を見る。

 そこには肉が無く、抉れた部分から血が滴り落ちていた。

 身体に巻き付けた鉄板なんて意味も成さず、まるで水に濡れた紙を引き裂くように簡単にそれは突破されていた。


 背後からグチャリ、グチュリと水音が聞こえ、振り返る。するとグールがおそらく俺の脇腹にあったであろう血に濡れた肉を貪っていた。

 俺と目の合ったグールはニチャニチャとした笑みを浮かべたような気がした。


「────ぁ、あ、ぁぁぁぁあああああああ!!」


 身体が起きた異常を理解した途端、痛みがクリアになる。どうやら先程までは脳がキャパシティオーバーで演算を放棄していたようだ。


 声を荒らげたせいなのか、柱の陰からゾロゾロとグールが現れる。


 息が乱れる。


 やばい。死ぬ。

 どこに逃げる?逃げ場所はない。

 どうすればいい?


「っっ、ごぼっ、げほっ、かはっ」


 突然喉から何かが溢れてきて、思わず咳き込むと血が吐き出された。

 内臓にも傷がいったらしい。


 グール共は厭らしい笑みを浮かべながら取り囲むようにして俺を追い詰める。絶対的な優位を信じて疑わない顔だ。少しでもいたぶって殺してやろうという意識がありありと見て取れる。


 バカが。そう簡単に死んでやるか。


「『生成』ぇ!!!」


 思い切り地面を踏みつける。

 周りのの地面を素材にし、半径一メートル程の円を描くように自分を取り囲む石の壁を創る。

 だが、これだけじゃダメだ。傷は治っていない。こんな所に回復薬みたいな便利なものがある訳ない。なんとかしなきゃ出血多量で死ぬ。


「ぁあ、くそ、いやだ、死にたくない。まだ何もできてない」


 地面に倒れ込む。

 死にたくない。こんないきなりあっけなく死ぬだなんて認められるか。


 身体は動かせない。

 せめてもと無我夢中でひたすらに魔力を動かす。

 なにか、どこかに抜け道が、生きる手段があるかもしれない。


 もう痛覚は麻痺して熱しか感じない。傷口は熱く、身体は寒い。

 死への恐怖が湧き上がってくる。


「.............ぁ、そういえば.......」


 俺はポケットからある紙を取り出す。宮畑さんから貰った、あの回復魔術が封じ込められたスクロールだ。


「どうか.......」


 俺はそれを胸に抱いて魔力を流し込む。

 するとじんわりと暖かい光が身体を多い、少しずつ傷口を埋めていく。


「は、はは.......良かった.......死ななくて済んだ.......!」


 怪我は治った。

 だがしかし、何故か身を焼くような激しい痛みは収まらない。


「ふざけるなよ……なんだこれ。こんなん主人公じゃないだろ……」


 突然出てきたワケの分からないゾンビモドキに呆気なく殺されそうになってるだなんて。


 そんなこと許せるか。絶対に認めない。

 なんで俺がこんな目に合わないといけないんだよ。ふざけるな。

 こんな早くピンチに陥るとか。情けないにも程がある。


 畜生。

 全部壊してやる。あのふんぞり返ってたクソみたいな王も。俺を憐憫の目で見てたあの騎士も。

 クソが、なんで昴や委員長にあんな力があって俺には無いんだよ。

 あんなおあつらえ向きなシチュエーションつくりやがって。期待させるんなら期待させるだけの成果をみせろよ。

 なーにが「俺は最強系主人公だ」だ。

 ナメてんじゃねぇぞ。

 そうだよ。日本国憲法なんか無いんだ。

 こんなゴミカスみたいな世界の法に縛られてたまるか。


 生きて帰ったら、絶対に、あの国ごと全部滅ぼしてやる。







『強大な意思の力を確認しました。主の危険に伴い、自動的にスキルを作成します』


「…………は?」


 突然頭の中に声が響いてきた。

 スキルを作成ってなんだよ。

 だが、絶えなく降り注ぐ疑問とは裏腹に「もしかしたら」という思いが生まれる。


 銀盤を取り出す。


 =================

 名前 柊 唯斗

 性別 男

 年齢 16

 種族 人間

 職業 生成師


 ステータス


 HP 26/5000

 MP 430/150000


 筋力 3860

 体力 3410

 俊敏 5620

 物耐 3300

 魔耐 150000


 スキル


 生成«ガイド»«万物理解» 、憤怒、嫉妬、強欲、異世界言語理解


 称号 召喚されし者 異世界人


 =================



「.......は、ははっ」


 笑いが漏れる。


「ステータスがとんでもないことになってやがる.......」



 続けて、見覚えのない能力をタップする。


 =================


 憤怒:感情の高ぶりによってステータスがアップする


 嫉妬:感情の高ぶりによってステータスがアップする


 強欲:自分が殺した相手のステータスの一割とスキルをランダムに吸収する


 =================


「ははははははははっ!!!!!」


 どうやらステータスが極大アップしてるのは憤怒と嫉妬というスキルのお陰らしい。

 強欲は相手を殺せば殺すほど自分が強くなるスキル。


 いける。このステータスならあの忌々しいグール共を殺し尽くせる。

 だが、あの頭の中に響いてきた声は何なんだろうか。


「『ガイド』」


 これは生成の派生スキルで、生成術に関する事ならなんでも答えてくれるという優れものだ。

 まさに今の俺の疑問を払拭してくれるただ一つのものだろう。


「『生成』は、作り出せる"何か" は物質に限定されないのか?」


『肯定』


「じゃあ次の質問だ。言ってたようにスキルは強い意思、もしくは感情があればできるものなのか?」


『否定。強き意思は素材に過ぎません。先程は命の危機でありましたので強く渇望したものを意思の力、感情エネルギー、魔力を消費し作成致しました』


 なに?強き意思は素材でしかない?

 その理論だと


「消費する素材、材料は物理法則に則っていなくてもいいのか?」


『否定。スキルの源の神秘を魔力で代替し、感情で方向性を持たせ無理やり発現させただけです』


「なるほどな」


 流石に水から金が作れたりする訳では無いのか。

 だがしかし、生成出来る"何か"が物質に限定されないということは、魔力と意思さえあればスキルも作り放題って訳だ。


 まぁ、いいや。もうそんな事はどうでもいい、重要な事じゃない。

 大事なのは、今俺が逸脱したステータスを持ち、尚且つ『生成』がチートスキルだったっていう事だけだ。


 あぁ、疑って悪かったな。

 どうやらやっぱり俺は主人公みたいだ。


 俺はニヤける口元を抑えながら噛み締めるように言葉を発す。


 さて、随分と早くに覚醒みたいなことをしちまったが.......


「 反撃開始だ 」


 殺しつくそうじゃないか。

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