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最後の日

「はぁ...くっそ、絶対に見返してやるからな」


 俺は今、ベッドに寝転がって銀盤を眺めている。

 あのあと、軽めにスキルを試し、飯を食って解散となった。飯は美味しゅうごさいました。虹色に燦然と輝くナニカとか蠢く冒涜的なナニカとかが飯です、とか言われたらどうしようと思ってたけどやはり異世界でも人間は人間だった。

 メイドさんに案内されて来たこの部屋はそれなりに大きい。やはり勇者となると扱いが違うと感じるね。

 俺はひねくれているので部屋に監視する為の機械とか洗脳する為の機械とかないか探し回ってみたが……そんなものはなかったですね。はい。ただ悪戯に部屋を荒らしただけでした。


 どうやら魔術は適正がない限り絶対に使えることは無いらしく、俺はただ約十万の魔力を持て余した男となる。

 クラスメイトの反応は可哀想な者を見る目だった。つらい。いや、アレだよ。どうせどっかに抜け道あるから。魔道具とか使えばエグ魔力でチート出来るはずだから。魔剣とかね。「なにィ!? あの剣は使えさえすれば絶対の力を誇るが持ってるだけで常人は立っていられなくなるほどの魔力が奪われる筈だ! 何故奴は使える!? ……まさか、あの魔剣を扱える程の埒外の魔力を持っているというのか……?」みたいな。


 そして、一応一通りスキルを試して分かったことだが万物理解は物、者、現象、概念に問わずその対象を視界に入れれば理解出来るって事だったが、例としてはこうだ。


 俺は目の前にある『生成』の仕業で愉快なオブジェになった鉄を«万物理解»する。


 ====================


 鉄 : 金属の一種。インゴット状に加工されている。


 ====================


 こんな感じに頭に画像が浮かぶ。最初はこんな感じの簡単な情報だけだがこれに追加して融点を知りたい、とか考えれば頭の中に浮かぶ画像にその情報が追加される。どうやら鉄の融点は1538℃らしい。なんというか頭の中にwikiがあるみたいだな。

 MP消費は一。エコだね!

 あ、ちなみにこれを剣とかにすれば

 俺は『生成』を発動し、作った剣を«万物理解»する。


 ===================


 鉄剣 : 鉄で出来た剣。

  質 粗悪


 ====================


 こんな感じだ。これもさっきみたいに知りたい情報を考えれば追加される。

 んで、頼みの綱の『生成』はモノの制作などを一瞬で出来る。それだけのスキルだった。これだけを見ると便利に思えるかも知れないがこれがなんとも言えない。武器なんかは人の手で打った方がかなり上等な仕上がりとなるので別に俺は必要が無いのだ。

 それこそ、国と国との戦争が勃発し、乱造品でもいいから大量に欲しい。なんてことになると俺は有用だろう。

 そう、そしてここからが本番だ。

 レッツ現代パワーと言わんばかりに俺はワクワクしながら銃を作ろうと思って火薬みたいなのがないか聞いたんだが.......どうやらこの世界にはそんな物質はないらしい。

 その聞いた騎士からは「お前達の世界の人間達はなんて恐ろしいモノを扱ってるんだ……」なんて言われた。現代兵器チートが出来ないとなると他の方法を考えないといけない。マジで早急にだ。

 魔物の肉を食っても特にステータスが上がったりするわけでもないらしいし、一体どうすれば良いのだか。

 ちなみにこの世界ではオークやミノタウロスなんかの肉は高級食材として扱われているらしい。家畜用に育てられている魔物もいるという。

 そして魔物は魔力が濃い場所なら自動的にスポーンするらしい。魔力が濃いってなんだよ。


 明日からは訓練が始まるらしいが俺は王宮内なら自由に行動していいと言われた。いい扱いにも思えるが手の施しようがないモノとして扱われてるからなぁ.......。


「うじうじ考えても仕方ないか!寝よう!」


 わざわざ声に出し、気持ちを切り替え目を瞑る。

 そろそろ寝れそう、と眠気が高まって来た時に突然、部屋のドアがノックされた。


「こんな時間になんだ.......?」


 いや、でもあれだな。小説とかだと心配してくれた美少女が部屋に来たりするし……ワンチャンある!

 しかし、期待していたような声は無く、聞こえた声は野太いモノだった。


「俺だ。入っていいか?」

「晃かよ……いいぞ」

「寝ようとしてたのか。なんかスマンな」

「そんなのいいから。で?要件は?」

「いやぁ、な、お前が今日の事を気にしてないかと思ってな」

 「別にお前に心配されてもな。寧ろ気持ち悪ささえ感じる」

 「は?」


 おっと、思わず真顔で言ってしまった。そんな怖い顔で睨まないでくれ。

 これは話をそらさなければ


「おいおいおいおい、落ち着けよマイフレンド。俺がそんな事でうじうじ悩む奴に見えるか?確かにチートTUEEEEが出来ないのはショックだったけど悩んでも変わらない事に時間割くくらいなら寝るわ。そうだろ?」

「あ、あぁ。そうか……そうだな。なら良かったんだ。起こしてスマンかったな」


 昴の表情はあまり晴れない。


「まったく、お前らしくもねぇ……え? てかそれだけの為に来たのか? まじで?」

「えっ、やっぱ悪かったか?」

「いや、別にそれはどうでもいいんだが……どうせならもっと話していこうぜ」

「お、おう」


 結局三十分くらい話した。昴も俺の部屋から帰る時には明るい表情をしていたから心配はないだろう。


「.......寝るか」


 そう言ってベッドに潜り込むが余り眠気はない。深呼吸をして軽く先のことについて考える。


 ちなみに、さっき言った言葉は嘘だ。テンプレじゃあ邪魔者として殺されるとかありえるからいつ死ぬか分からない事に恐怖してるし、憧れの異世界というファンタジーの権化でも俺は元の世界と変わらない必要とされていない奴、ということに強い劣等感を感じている。


 夜は思わずネガティブな事を考えてしまうからいけない。

 頭まですっぽりと覆うように布団に被さっていると、いつの間にか俺の意識は闇に落ちていた。



 ☆


 ステータス鑑定から一週間。

 俺以外は全員戦闘系のスキルを持っていたらしく、俺はこの一週間、皆とは別行動で過ごしていた。


 そんな俺は今現在、鍛治師のおっさんから鉄のインゴットを貰い、工房の近くのちょっと空いたスペースで生成を発動している。

 何故そのような事をしているのかというとやはり生産チートスーパーパワーが諦めきれないからだ。今日までは図書室で本を読み漁り火薬の代わりになるものがないかだとか、魔法ではない魔力の運用方とかを探したが、そんなものはなかった。現実は非情である。

 代わりによく分からない建国記とか神話とかの知識は増えた。


 火薬もろもろがないから銃が銃として働かないのであってフォルム自体は作れるのだ。だが弾丸を飛ばすためにバネなんかを詰め込んでみてもゴミみたいな飛距離しか飛ばないモデルガン以下のモノが出来ただけだった為、もう銃は諦めた。

 そして俺はそこで考えた。銃が駄目ならもっと他の武器を作ればいいじゃない! と。


 イメージするものは神話の武器。


 投げるだけで万の軍勢を例外なく殺し尽くしまた自分の元に戻ってくるという北欧神話の主神オーディンが使う神槍グングニル。

 これもまた投げれば稲妻となり敵を倒すケルト神話の槍ブリューナク。

 神の子を殺し、神話ではこの槍を持ったものは世界を支配できるほどの力を持つというロンギヌスの槍。

 投げれば必ず相手の心臓に突き刺さり、刺さった部分から棘を体内に生み出し傷を抉り呪いを与えるケルト神話の朱槍ゲイボルグ。

 光り輝く刀身を持ち、どんな相手でも一振りで倒すというケルト神話の神剣クラウソラス。

 十字教の伝説ともなっているドラゴンを殺した聖剣アスカロン。

 世界で一番有名な剣と言っても過言ではない聖地アヴァロンの住人たちによって鍛えられたと言われる妖精により特別な加護が備わっていたとされる聖剣エクスカリバー。

 北欧神話最強の神。トールが使っていたとされる小槌ミョルニル。

 月の女神アルテミスが使った女性特攻付きの銀弓アルテミス。

 銀弓アルテミスと対を成し、死と疫病をもたらす男性特攻付きの金弓アポロン。

 ヒッタイト神話最強の無銘の剣。地上から大気圏までの距離の十倍の背丈をもつ巨人をも倒したエアの剣。


 こんな武器を作れたら魔術が使えなくてもステータスが雑魚でも世界最強になることが出来る!

 あと剣ばっか大量に生成して「この身体は、正真正銘、英霊の紛い物だ!」とか、背後に出現させてAUOごっことかやってみたい。

 そんな事を思って数時間ほど生成を続けていたのだが


「そりゃあ鉄で神話の武器が再現出来るわけ無いですよねー」


 鉄のインゴットを置いて地面に寝転がる。

 本を読んでない時にはちょこちょこ『生成』の練習をしていたからノータイムで自分の身体を中心に半径一メートルくらいなら自由に材料にしたり生み出したり出来るようになったが……便利ではあるが俺自身のステータスがカスだし圧倒的な特殊能力もあるわけじゃないから俺TUEEEE出来る程でもない。

 やっぱり俺は無能、邪魔者、穀潰しというレッテルを貼られていくしか無いのだろうか。


「いいやまだだ。カモン、トリニトロトルエン!C7H5N3O6よ!」


 炭素7に水素5に窒素3に酸素6だろ!?材料自体は黒鉛と空気にあるだろ! なんとかなるって!


 と、思いイメージしまくってたが結果は惨敗。

 なんだろう。なんでダメだったんでしょうかねー。

 まぁーもう一時間くらいやろうと思ったんですけども今日はね、えーまぁ今日はみんななんか外の広間というか運動場的な場所で稽古してるらしくてねぇ。目が覚めたら皆どっかに消えてて食堂?も空いてなく今日は朝、パン一枚でございます。

 今日の朝食はパン一枚!

 なのでもう一時間やろうと思ったけどさすがにちょっと腹ペコなんで、えー今回の生成は残念ながら、こういう悲しい結果で終わりですね。

 たぶんねぇあのままやっててももう何も出来んかなぁと思ってたし、スィー、かといっても誰も来る気配なかったんで、カチッ、もうこれアカンなぁと思って、えーいま休んでいます。

 なんだろうなぁー。イメージが足りんかったんかなぁー。

 でもちゃんと覚えて、覚えて、覚えてたつもりなんですけどもねぇー。カチッ。

 トリニトロトルエンの分子式も言えたし、でー、構造式も思い出していたんですけど一体なにが足りんかったんでしょうかねぇー。



「────やぁ柊くん。何をしていたんだい?」

「っっっっっぅぃ!? だ……委員長か。いやね、俺のステータスを補う為にステータスなんか関係無いような神話級の武器が作れたりしねぇかなーって思ってやっていたんだが結果はこの通りだよははははは、はは!」


 変な事を考えている時に話しかけられたせいで変な声を出してしまった。

 しかし……委員長達が帰って来ているとなるのどうやら俺はそれなりに長い時間ボーッとしていたらしい。

 委員長と一緒に二階堂さん、宮畑さん、晃が立っている。というか晃はやっぱり勇者パーティの一員になったんだな。

 本で知ったが、どうやら大昔に魔王を討伐した者達も四人組であったらしく、それに則って魔王討伐の本体は四人、となったという。もうね、アホかと。持てるだけの戦力もって魔王城とかに神風特攻しろよ、と。


「気にするこたぁねぇよ唯斗!お前にはまだそのアホみたいな魔力があるんだ!」


 昴がバッシンバッシンと俺の背中を叩きながら言う。とても痛い。


「そ、そうだよ!だから悲しむことは無いよ?」


 宮畑さんが俺の手を握って言ってくれた。

 なるほどな。これが尊いという感情か。


「だね。それで開き直ってたらもう目も当てられなかったけど柊くんは足掻いてるじゃない。そこはかっこいいと思うな」


 なるほど。こんな美人にスラリと「かっこいいと思う」なんて言われたらそりゃ擦り寄りたくなるな。人気の理由がわかった気がする。


「皆の言う通りだ。だから自分を卑下することなんてないよ」


「いやぁ、なんというか気恥しいな。皆ありがとう。元気が出たよ」


 なるべく爽やかになるように努めて笑顔を作る。

 皆の表情も心做しか心配したようなものから和らいだように見える。



「そうだな。柊君、少し提案があるんだがどうだ?」


 唐突に閃いた!とばかりに委員長が人差し指を立てる。


「なんだ?もしや『勇者』には仲間を強くする超能力があるとか?」

「いや、そういうのは史花の仕事だからね」

「え?なに?二階堂さんがそういう超能力持ってんの?」


 すると二階堂さんは苦笑いしながら説明してくれた。

 どうやら強化魔術といって筋力やら敏捷やらを一時的に底上げ出来るらしい。属性事に効能が別れていて、風なら俊敏、火なら筋力ってな具合になっているらしい。


「あー、なるほどね。バフか」

「そうね。RPGとかじゃあ強化魔術の事をそういうのかしら?」

「そうだな。いや別にRPGだけに限定されるわけでも」

「ちょっとまって。話がズレてる」


 委員長が口を挟む。なんだ、折角美少女と話せてたっていうのに。


「ンンっ、それでだ柊君。僕の提案というのはね、身体を動かしてみないか?という話しさ」

「あーん?なんだ?野球とかサッカーでもするのか?」

「いや、それだと今の柊君は宮畑さんにすら劣るからね」

「おいおいそいつはほざくじゃねぇかボーイ」


 だかしかし否定出来ない。ステータス上では俺は一般人に劣るのだ。というかバグじゃね?この世界の人間って握力とか走る速さとか俺の五倍あるのか?


「なんだいそのキャラは。いや違う、そういう事言いたいんじゃなくてだね。つまりは戦い……模擬戦でもしないか?と言いたいんだ」

「おいおい委員長、お前は人を虐めたいタイプの人間だったのか?」


 それだとこれからの付き合いを考えていかないとな。


「ちょ、人聞きの悪いことを言わないでくれよ。あー、僕が言ったのはだね、身体を動かすと気分も晴れるだろうっていうだけなんだよ。邪気はない。しかも柊君はこの世界に来てからそういう戦いみたいなことはしていないみたいだしね。もしかしたらいざという時が来るかもしれない。その練習にもなるんじゃないかな、と思ってね。どうだい? 勿論嫌ならば仕方ないけど」

「いや、無理だろ。怪我したくないし」

「僕も高校生だ。ラノベくらいは読むしアニメも見る。それで大概チート持ってるのは生産職じゃないか。大丈夫大丈夫、戦えるって。戦う時は史花にとびきりのバフを掛けてもらうし。怪我の心配はしなくていいしね。よくある設定さ。受けたダメージが全て疲労に変換されるっていうね」

 「あー……なるほどな。でもアレだよな。そういうの一撃で伸されて起きる体力も消えてやばいみたいなの最強系主人公のやつであるよな」

 「ま、まぁそれは否定出来ないけど……。 いや、そんな街一つ消し飛ばすみたいな火力はまだ出せないし。.......それで? どうする?」


 まぁいいや。表情を見れば委員長も心配してくれてるってのは分かるし。でもクソ不器用だな。


「いいぜ。勿論、手加減はしてくれるんだろうな?」

「当たり前だろう。まぁ、身体を動かして少しでも気分が晴れてくれると嬉しいよ」

「うるせぇボコボコにしてやる」

「……一つ思ったんだけど、柊君って結構蛮族だね」


 うるせぇ。


 ☆


 という事でやって来ました武器庫。

 俺の隣には兵士が立って、武器の説明と同時に監視をしている。


「すいません、この杖みたいなのはなんです?」

「それは何の変哲もない杖だぞ。魔術を補助する力もない。棒と言ってもいいな」


 なんでこんなもん入ってんだよ。


「じゃあ、これは?」


 俺はランタンみたいなモノを手に取る。


「あぁ、それは火を灯す魔道具だ」


 お、じゃあこれは戦闘に使えるんじゃないか?


「おい、なんだその表情は。変なことは考えるなよ? 魔道具ってのは規定の魔力で規定の能力を発揮するもんだ。お前みたいなバカ魔力つぎ込んだら普通に壊れるぞ」

「それはボンッて感じに?」


 ならお手軽爆弾なんだが。


「いや、ただ魔力回路がショートして使えなくなる」


 まじかよ。異世界め、融通が効かねぇな。


「あーじゃあもうこれでいいです」


 俺はフルプレートメイルと何の変哲もない剣を指差す。


「いや、お前にはきっと無理だ。これを着ければ重さで動けなくなるぞ」


 ファッキン!


「そうだな。このガントレットとグリーヴ、それとこのサバトンくらいが丁度いいだろう」

「あのー?胴体が守られてないんですがそれは?」

「盾でも持ってろ」


 ぶっ殺してやろうかこいつ。しかもサバトンってなんだよ。横文字を多様するな。


「そう睨むな。そうだな……そこにある大盾に槍でも合わせれば防戦は強いぞ?」

「まじすか」

「あぁ」

「じゃあこれで」


 サバトンとは脛当てらしく、俺の装備は篭手、脛当て、靴、盾、槍となった。一応鎖帷子も着た。なんと槍まで全て金属製だ。クソ重たい。もうね、アホかと。

 槍はまだマシだが盾だ。重さで手が震える。


「史花様は入口のほうで待っているらしいぞ。急げ」

「様って。いや扱い違いすぎだろ」



 ☆



 あの兵士の言ってた通り闘技場?の入口には二階堂さんが立っていた。

 二階堂さんが指示棒のような杖を振ると俺の身体の周りに光が舞っていく。

 それを五回繰り返す。


「はい、これで一通りの強化魔術は掛けれたかな」

「あぁ、ありがとう」


 ステータスを見ると、全て三百増加している。

 槍も鎧もそれ程重く感じなくなったし、少しヤル気が出てくる。でも盾は重い。


「頑張ってね」

「ん? 彼氏の方を応援しなくていいのか?」

「うーん、なんというか今の利光は調子に乗っちゃってるからね。言ってたみたいにボコボコにしてあいつの鼻っ面折っちゃっていいんだよ?」

「ま、まぁ出来る限りの事はするよ」


 案外暴力的だな、なんて思いながら俺は先に進もうとする。すると背後からの声に呼び止められた。

 振り返るとそこには宮畑さんが。膝に手を着いて肩で息をしている。


「ま、間に合った……」

「あれ、宮畑さん? どうしたんだ? 確かダメージの喰らいすぎで俺達が疲労困憊で動けなくなった時の為に待機してるんじゃ?」


 自分で言ってなんだが説明口調だな。


「うん、そうなんだけどね。……はい、これ!」


 手渡されたのは奇っ怪な文字が羅列されたB5サイズ程の紙。


「なんこれ?」

「えっとね、ここじゃあダメージの代わりに体力が削られていくっていうのは聞いたよね? で、それは回復の魔術が使えるスクロール! 回復魔術は傷とかを治す他にも体力も回復してくれるし.......それさえあれば魔力さえ込めれば誰でも使えるから……。その……ずる、みたいだけど……迷惑、だった?」


 なにそれ天使かよ可愛い。


「いや、ありがと。嬉しいよ、ほんとに。ところでこれは使い捨て?」

「ううん、その紙さえ無事なら何度でも使えるよ」

「そっか。ありがと」

「うん! 頑張ってね!」


 はー可愛い宮畑さんまじ天使。


「ありがとう。これで俺は無敵だわ」

「うん、頑張ってね!」


 いやぁ……これは勝つしかないだろ。


 俺は貰った紙を綺麗に折りたたみズボンのポケットに突っ込んだ。



「たのもー」


 ドカーン!と扉を開け放つ。



 正面には委員長が居て、余裕綽々に俺に微笑んできた。

 闘技場の大きさとしては直径三百メートルくらいの円だ。そこに端から端まで全部石畳が敷き詰められている。天井も三十メートル程あり、運動場と言うよりは体育館……いや、なんとかドームに近い。全部に石畳が埋め込まれてることからしてこれはアレか?場外とかいう概念がない感じか?

 俺がそんな事を考えていると委員長が口を開いた。


「こういう時はなんて言ったらいいんだろうね」

「どっちかといえば俺が喧嘩吹っかけられてる側だから委員長は『ハッ、よく逃げずに来たようだな。自らの醜態を晒すと分かっているのに』とでも言やぁいいんじゃねぇの?」

「喧嘩って……いや、確かに暴力での戦いだからね、そういう表現も無きにしも非ずだけど……流石にその台詞は悪役が過ぎるだろう」

「ところで闘技場って聞いてビビってたんだけど案外体育館みたいな感じなのな。コロッセオみたいなのを想像してたぜ」


 委員長は深い溜息をついた。


「なんだよ、『うっわこいつそんな事も知らなかったのダッセ恥っずかしー』とでも思ってんのかおいこら」

「いや、そんなことは思ってないよ。でも中々君とはコミュニケーションが取りずらい事が分かった。『ところで』って便利な言葉だね。一気に話を逸らされたよ」

「だって委員長の話面白くないし.......」

「そ、それはまぁまぁショックだな.......」


 もういいかな。

 俺は盾と槍を強く握り込む。


「おっと、そろそろ始めるかい?」


 バチリ、と紫電が委員長の手に瞬くとその手には白い剣が握られていた。


「なにそれカッコイイぞ! うらやましい! 俺にもよこせ!」

「魔力99999のほうがうらやましいよ……」

「うるせぇよ!魔法使えなくなってから言え!」


「…………そろそろ、宜しいかな?」


 声が聞こえてきた、俺から見て右方向の闘技場の端に目を向けると、そこにはなんというか……そう、強そう(小並感)な人が立っていた。

 身長は委員長と同じくらいだろうか。俺より背は低いものの、体格からは想像もつかない圧を感じる。


「はい、僕は大丈夫ですよ。柊君は?」

「いや、別にいいんだが……あの人誰だ?」

「えっ、知らないのかい?」

「知らない」


 俺がそう言うと委員長は首を傾げて目を瞑った。

 三十秒程後、合点がいったとばかりに頷きながら口を開いた。


「あー……そうか。柊君は引きこもりしてたんだっけか。いや、でも初日に会ったはずだよ」

「人聞きが悪いぞ。もっとオブラートにつつめ。ていうか初日で会ったって……誰だ?」

「はは。……あの人はこの国の騎士団長でね、よくある強キャラさ。僕も一太刀しか当てたことがない」

「ほーん」


 それは自慢か?それとも自分を乏しめているのか?


「………………宜しいか?」


 騎士団長さんがさっきより低い声で言ってくる。


「あ、大丈夫っす」

「そうか。ならば……これより、『勇者』今川利光と、『生成師』柊唯斗との決闘を行う!細かいルールは無用だ。存分に力を出し合うがいい」



 そこで騎士団長さんは手を上にあげ、一度息を深く吸って


「勝負開始ィ!!」


 一気に振り下ろした。


 ダンッ、と強く踏み込み、委員長へ肉薄する。いくらバフが掛かっているとはいえステータスの差はこの世界での一般人四人分。正攻法で勝つ事は不可能だろう。

 突き出した槍も側面を叩かれ逸らされる。


「僕もこの一週間色々と対人戦闘の経験は積んできてね、そんなわかり易い攻撃は効かないよ!」


 目視すら困難なスピードで剣が振るわれる。

 それを身を捻って躱す。

 もちろん見てから回避だとか剣筋を予測とかなんていうカッコイイものじゃない。

『万物理解』で委員長の身体の動きを全て見ているだけである。プロボクサーは相手の筋肉の動きで次の行動を予想するというが、俺はそれを『万物理解』で委員長の筋肉の動きを脳に投影してどう動くかを理解しているだけだ。一時期本気で絵を書こうとして全身の筋肉とかについて検索しててよかった。無駄知識と思っていたが異世界に来てから使えるなんて人生何があるか分からないな。

 しかし風圧だけで吹き飛ばされそうになるのには全身の毛が逆立つ。


「ッ、『生成』」


 靴底にスパイクを生成。そのまま地面に突き刺して踏ん張る。靴までも全部鉄で出来てて良かった。


「らぁぁぁああああっ!」


 頭を狙い槍を振り下ろす。

『万物理解』から委員長の手を挙げる動作を読む。恐らく、槍を逸らすか弾くかするのだろう。


「『生成』!」

「っ!?」


 槍を二振りの短剣に変え、片方の剣で委員長の剣を弾いた。全く予想だにしていなかった動きだった為か、呆気なくその剣は委員長の手を離れた。


「もォらったァァ!」


 剣を突き出して貫く。

 委員長の身体に剣が深く突き刺さるが、血が流れるようなことは無い。

 一瞬そのことに呆気にとられていると委員長は俺の腹を蹴飛ばした。

 余りの威力に吹っ飛びそうになるがスパイクを更に長く『生成』して踏みとどまる。

 俺は遠距離の攻撃方法を持ってない。一度距離をとられたら不味い。


「へぇ。なるほどね、踏みとどまれるんだ。じゃあ、ᛏᚺᚢᚾᛞᛖᚱ、"纏雷"」


 瞬間、委員長の振るった剣が三重にブレ、ほぼ同時に三つの衝撃を食らった。


「ごっ……は?」


 一瞬何が起きたか理解出来なかった。

 何故剣を持ってる?

 なんだあの速さは?


  それに対する答えは出るハズもなく、俺はもうそれは面白い程にキリモミ回転しながら吹っ飛ぶ。


「っチィ!」


 空中で姿勢を立て直す。バフで全体的な能力が上がっていたからか地面に上手く着地出来た。異世界すげぇ。


「っはぁ……」


 しんど。長距離走の後くらい疲れた。これが言ってたヤツか。痛みは無いしさっき委員長に剣を突き刺した時のアレもコレか。しっかし……身体に剣が突き刺さってるのに無傷ってなんだ?オーバーテクノロジー過ぎだろ。


 ポケットに手を翳し、宮畑さんが貰った紙に魔力を流す。体力リジェネのおかげか体力の回復はわりかし早いがそれでも疲労感は拭えきれない。


「うんうん、成功して良かった」


 ニコニコとした様子の委員長だが、何故か全身に紫電を纏わせている。

 もしかしてさっきのはあれの仕業か?


「あぁ、その表情は気づいた感じかな? そう。唐突に自分語りさせてもらうけど僕は電気系のキャラが好きでね、雷魔法が使えるなんてなったらもうやるしかないだろう、と思ったんだ。この電気を纏って超スピード的なヤツをね!」

「え、怖」


 なんで突然興奮してんだ?

 委員長は照れたように頭を掻いた。


「ンッン、……とまぁ、つまるとこ、僕の状況はまさに調子に乗って失敗する系の勇者そのものだ。頭を冷やしたいんだよ。僕は。でもアレクさん.......騎士団長に負けても『仕方ない』と思ってしまうんだ。だから君に倒して欲しいんだよ、僕を」


 うっざ。

 若干楽しみだしてるな。だがまぁ俺は寛大だからな。いきなりチートを貰った時の気分は予想できる。それで恨みを募らせることなんかはない。ないったらないのだ。

 でもイラつきはするし疲れてきたからちょっと脅して一か八かってのをやってみよう。死なないらしいし。


 皆も中学生の頃に銃かっけーってなって構造を調べた事はあるだろう。


「『生成』っ!」


 一振の短剣を材料に生成。

 俺の手に握られたのはトンプソン・コンテンダー。とあるアニメに影響されて検索し、構造を覚えてしまった銃だ。身につけてるモノが鉄しかないからフルメタルですげぇ重いけど気にしない。


「なっ!?」


 委員長の顔が目に見えて強ばる。

 いくら異能を手に入れようと身体は人。

 銃というわかり易い『暴力』には恐怖を捨てきれてないらしい。


「それは卑怯だろう!?」

「うるせぇチート野郎が」


 銃口を委員長に向ける。

 勿論コレはブラフである。中に弾は入ってないしそもそも銃弾の中に詰める為の火薬がない。


「ᛁ ᚹᚨᚾᛏ ᛏᚺᛖ ᛚᛁᚷᚺᛏ ᛟᚠ ᚺᛖᚨᚢᛖᚾ. ᛚᛁᚷᚺᛏᚾᛁᚾᚷ ᛏᚺᚢᚾᛞᛖᚱ. ᛞᛖᛋᛏᚱᛟᚣ ᛏᚺᛖ ᛖᚾᛖᛗᚣ ᛁᚾ ᚠᚱᛟᚾᛏ ᛟᚠ ᚣᛟᚢ!!」

「は?」


 何あの詠唱。カッコよすぎるだろ。

 というかなんだ?やばくね?剣に委員長が纏ってた雷が集まっていってなんか強そうなんだが。


「つい最近使えるようになった必殺技さ。いやぁ、まさか銃を作れるようになってただなんて思って無かったからね。手加減はできないよ」

「ウッソだろお前」


 こちとら全部ブラフだっての。


「灼き崩せ!!"轟滅雷"!!」

「『生成』!!」


 委員長が剣を振るうと雷の壁とも形容出来るソレが飛んでくる。

 危機的状況に思考が加速する。少しでも威力を和らげようと背中の盾に短剣とコンテンダーを材料に杭を生成し地面に深く突き立てて固定する。


 そして、着弾。


「くぅっ!……………………ん?」


 痛っ……たく、ない?いや、ダメージは消えるのか。

 盾越しにもなんかピリピリきてるがそれだけだ。ゴリゴリと体力が削られていくような感覚はない。

 まさか……約十万の魔耐の仕業か?


「ヒャッハーッハー!」


 効かん、効かんぞ!

 俺は盾を『生成』し直して左手にコンテンダー、右手に長剣を持って委員長の元へ走る。重い盾は捨てた!


「なぁっ!? いやちょっと待ってくれよ効かないってなんだそれ聞いてないって」

「ざまぁ!ぶっ飛べェ!」


 右手の剣を振るう。しかしそれは簡単に受け流され、その後続けて脅しの為のコンテンダーを構える暇も無いように斬撃が繰り出される。

 俺はそれを『万物理解』を併用してギリギリで避け、受け流す。

 忘れてた。魔術が効かなくても物理は効くしステータスでは劣ってたわ俺。


「銃は、使わないのかい?いや、今は使えない状況なのは分かってるけど」

「ハッ、いやっ、なっ、なにっ、あぶねっ、なんだ、魔法がっ、あぶっ、あぶねっ」


 なんだこいつ。話す隙もくれないってか。


「『生成』!」


 長剣を小さな円盾に作り直し、わざと委員長の攻撃を受け吹き飛ぶ。

 距離をとってからガントレットと円盾とコンテンダーで槍を生成。

 間合いを広くとって牽制する。


「なぁに、魔法が効かないって分かったんだ。俺だけがチートするなんて大人気ないだろう?」

「言うじゃないか。でもその慢心が命とりだよ! ᛏᚺᚢᚾᛞᛖᚱ、"纏雷"!」

「おっ?」


 もう一度委員長が雷を纏う。

 ちょっとやばいかもしれないな。あの纏った雷はどうでもいいが底上げされた身体能力はどうにもならない。


「はぁぁぁあああっ!」


 反応すら難しい速度で距離を消される。

 委員長の手がブレる。

 いや、無理だろコレ。『万物理解』でどうのこうの以前に何も見えない。何とか火事場の馬鹿力とか死の前の高速思考みたいな感じで避けていられるがそれももう長くは続かないだろう。少しずつ身体に剣が掠ってきている。

 ギリギリ体力リジェネで立ててるけどこれはどうにもならないわ。


 俺は両手を手を上げる。


「へい!ストップ!降参で!」

「は?」


 怖。声にドスききすぎだろ。


「辞め! この勝負、『勇者』今川利光!」


 すぐさま騎士団長が試合を止める。

 良かった。これで止められて無かったらボコボコにされるしかなかったからね。


「あー……畜生。もっと続けていたかったんだけどなぁ」

「えっ怖。まさか委員長って戦闘狂?」

「若干、その気があるかもしれないんだよなぁ.......。まぁいいや。楽しい勝負だったよ」


 手を差し出される。握手かな?

 手を握ると万力の様な力で握り返された。


「あっ、ちょっ、痛い。えっ待てよダメージは疲労に変換されるんじゃ痛い!」

「一定以上のダメージ、はね。いやぁ……ほんと、僕も中々負けず嫌いなところがあったみたいだ。悔しいなぁ。二百のステータス差があったのにあそこまで健闘されると完膚なきまでに勝たないと納得いかないよ。次はよろしくね」

「次とかあると思ってるんですか?」


 俺は欠片もやるつもりがないぞ。


「勿論! 鹿山君とアレクさん以外にはあの電気を纏うのすら使わなかったからねぇ。いやー強い強い。まさか君がそんな戦えるとはねぇ……!」

「ちょ、痛い。というかアレクさんって誰だよ」

「あぁ、名前も知らないのか。騎士団長さんさ。アレクサンダー・ロベルトヘルドさん」

「へぇ」


 多分三日くらい経ったら忘れている事だろう。現に今も王と王女の名前覚えてないし。一応、ハルペーストだけは覚えてる。


「銃に驚いてしまったのも屈辱だね。次は、銃を使わせた上であんな降参の暇も与えずに倒すとするよ」


 いや、使わなかったんじゃなくて使えなかったんだが。しかも殆ど撃つ暇も与えなかった奴が何を言っているんだ。完封してるじゃないか。

 まぁいいや。成長の機会を与えてやるとすっかぁ!しょうがねぇなぁ(悟空)


「じゃあそのときは目に物見せてやる」

「言ったね? これは次の勝負に同意したとみなすからね。あぁ勿論辞退は認めない。自分の言葉に責任を持たないとね」

「……お、おう」


 そうしてやっと手が解放された。


「さて、もういい時間だし部屋にでも戻ろうか。いや、そろそろ夕食の時間かな? 柊君、食堂で駄弁ろうよ。皆も一緒にさ」

「まぁいいけど?」

「よし、決まりだね。武器とか防具とか置いてきたら食堂に来てくれ」

「了解……っと、ちょっと待ってくれ。途中さぁ、なんで剣を弾き飛ばしたのに手に持ってたんだ?」

「ん? 最初に見ただろう? 僕が思えばすぐ剣がワープしてくるんだよ。ほらこんな感じ」


 剣を放り投げる。そして紫電が瞬いたと思えば委員長の手にはあの剣が収まっていた。


「もういいかな。じゃあね」


 それだけ見せると委員長はさっさと行ってしまった。俺はそれを見届けてから大きく伸びをする。


「いやぁ、まぁまぁまぁまぁ……まさかあんなに戦えるとはなぁ。俺も二階堂さんにバフさえかけてもらえれば案外有能じゃないのか?……あぁ、でも委員長にバフはかかってなかったもんな。そっかー……うーん、有能か否か……いや、俺は有能だと信じたい。『生成』は別に弱くないんだけどなぁ……俺の魔耐を超える魔術ボンボン飛ばされたら死ぬしかないよなぁ……遠距離攻撃の術ないのに.......弓でも作るかねぇ」


 そうやってブツブツ独り言を言っていると近くに騎士団長……アレクサンダーさんだっけ?が寄ってきた。

 近くで見るとすげぇ美形だなこの人。肩まであるサラサラの金髪と宝石もかくやという透き通った青い目。これで騎士団長だろ?天は二物を与えずというのは一体。


「なんか用ですか?」

「幾つか、質問がある」

「はぁ、どうぞ」


 よくも無能の分際で勇者の手を煩わせたな!とか言われるのか?足に力を入れて逃げれる準備はしておくか。普通に追い付かれそうだが。


「トシミツが異常に恐れていたあの武器、アレはなんだ?」


 コンテンダーの事か?確かに勇者もビビる武器が作れるってなったら恐ろしいもんな。いや、ガワでしかないんだが……ちょっと誇張して言ってやろうか。


「コンテンダーの事ですか? あれは銃と言ってですね……そうだな」


 そういやコンテンダーは戦車の装甲すらぶち抜くとか聞いたことがあるな。

 俺は厚さ十センチくらいの鉄板を『生成』して騎士団長に見せる。


「銃にも色々な種類があるんですけどあのコンテンダーは大体このくらいの鉄板もぶち抜けます。放つのは矢じゃなくて鉄の玉なので小型化した弩みたいなものですかね」


 音速とか言ってもう伝わらないだろうから、少なくとも目視は不可能な速さ、と言っておいた。


「そんなものを……君は作れるというのか?」

「まぁ……(弾丸は無理だけど銃そのものなら)はい。あ、でも知識の中にはもっととんでもないのありますよ戦車(俺は作れない)だとか核(作れない)って言って……」


 現代兵器について説明していると案外時間が経ってしまっていた事に気がついた、


「すみません、もうそろそろ失礼したいのですが」

「あ、あぁ。長く引き止めてしまってすまない」

「はい、じゃあ俺はここで」


 遅れたことに委員長はなんか言ってくるかね。なるべく走っていこう。



「核というモノはいくつもの街を灰燼に還す.......か。そう使い手のいないクラスの魔術程の威力をもつ兵器が作れるとなると……危険だな。有用だとかは言っていられないか。銃というモノの存在は聞いていたが.......あのどうでも良いモノしか置いてなかった倉にあったもので作れるとはな。中級……いや殺傷力と扱いやすさを考えれば上級魔法に匹敵するモノが作れたんだ。下手すると土塊からまた何か別の兵器を生み出しかねない。…………ふむ、未来ある若者には済まないが我が王に報告させてもらおうか」


 アレクは悩んだ時の癖で爪を噛みながら去っていった。




 ☆




 部屋から食堂に行く途中、窓から外を見ると太陽が隠れ、月が我が物顔で浮かんでいた。


 夜やんけ。

 そういえば月とか物理法則は地球と変わりないのな。歩けば地面に埋まり、木に触れればゲッダンし、ゴミ箱が最強の武器になる、とかだったら相当楽しめただろうに(生き残れるとは言ってない)


 俺が食堂に入るとざわざわと騒がしかった癖にいきなり静かになった。

 いや、超気まずいんですけど。なに?


「おーう唯斗!こっち来いよ!」


 ナイスだ晃!俺が晃の所に向かうと勇者パーティ四人と通称百合ちゃん、本名木山百合子先生(担当生物)が座っていた。おおぅ、場違い感が半端ないぜ。


「話は聞いていたんだがな。勝負の結果はどうだったんだ?いやぁ、あの時は腹を痛めててな。見れなかったんだよ」

「ボコボコだよボコボコ。勇者ってすげぇな」

「そりゃそうか」

「いやぁ……僕は納得がいってないんだけどね」


 俺達が笑っていると百合ちゃんが話しかけてきた。

 百合ちゃんは百六十センチ程の線の細い人だ。性格はあらあらうふふ系と言ったら分かるだろうか。職業は弓兵。


「柊くんは今日何をしていたんですか?」

「あー、いや、俺のステータスって知っての通りじゃないですか。それでステータスが関係ない武器を作ろうとしたんですけど拳銃は火薬が存在しないって言われたんでどうせなら鉄から神話の武器とか作れないかなーなんて」

「へぇー色々と考えているんですねぇ」

「まぁそうしないといつ死ぬかも分からないですしね」

「唯斗は俺が守るぞ!!」

「キメェよアホ」


 昴が言ってた委員長との勝負について深追いされなかったし百合ちゃんは知らないと考えて委員長と戦ったのは内緒にしよう。藪をつついてなんとやらだ。聞かれないうちは黙っておくべきだ。


「いやぁ、まさか柊君があそこまでやるとはね」

「魔耐ゴリ押しでしかないけどな」


 HAHAHAHAHA!!と、そんな話をしながら特にこれといったイベントもなく食事の時間は過ぎていった。


 俺が大広間を出ていく時、兵士の一人が十一時ほどに俺達が召喚された部屋に来いと言われた。

 一応この世界は太陽暦で一日は二十四時間で、部屋に時計もある。地理はまだ解明されきってないらしいけど。

 というか俺いつの間にかなんかやらかしてたっけな?

 大人に呼び出されたときってさ、これといった心当たりがなくてもビビるよな。まぁいいや。まだ時間あるし部屋でゴロゴロしておこう。


 俺が部屋で寛いでいると、慎まやかなノックが三回聞こえた。

 また昴か?


 「はいよー」


 この世界には扉に覗き窓も付いていないので特に確認もなく扉を開ける。

 すると


「ちょっと……いいかな?」


 宮畑さんかモジモジとしながら立っていた。余りにも予想外過ぎることだったがここで慌てふためけば童貞ということが一発で分かってしまう。クールだ。クールにいけ柊唯斗。そう、気持ちはまるで性の"せ"の字も知らない純朴な子供のように疑問だけを表情に浮かべて!そう、気分は名探偵!


「あっれれー? 宮畑さん。どうしたの?」

「ちょっと……言いたいことがあってね」


 告白ですか?告白ですね?告白なんですね!?

 ……ふぅ。落ち着くか。

 でも突然なんで俺の部屋なんかに訪れたんだろう。全く心当たりが無いんだが。


「明日の朝、って空いてるかな?」

「え?あぁうん、何も予定はないけど。どうかした?」

「ううん、大した用じゃ無いんだけどね。明日の七時くらいに.......そうだなぁ、食堂ちょっと進んだところにちょっとしたスペースあるでしょ?あそこに来てくれないかな」

「うん、分かった。あの談話室みたいな何に存在してるか分からない所だよな?」

「うん。突然押しかけてごめんね」

「いやいやいやいや、いつでも来てくれても良いんだよ?俺ってやる事ほぼないから暇だし」

「ふふっ、ありがとう。じゃあまた明日ね」

「うん。おやすみ」


 にこやかに手を振って宮畑さんを見送る。

 一体なんなんだ.......超悶々するんですけど!いやぁ、でも女子からの呼び出しってそういう事だよな?我が世の春が来たな。

 おっと、もうこんな時間か。そろそろ用意するかね。


 案外俺の部屋から呼び出された部屋までの距離は近い。この城はとんでもなくでかいんだがあの部屋には迷わずに行ける。目立つし。


 命名、召喚の間(適当)の前の大扉に着いた俺は、高校入学時の面接を思い出して三回ノックをした。このまま「入れ」って言われるまで入ったら駄目なんだよなこういうのは。

 二、三秒経つと、扉の近くに人がいたのか重たい音を響かせ扉が開いた。

 完全に予想外だったがここで慌てちゃ駄目だ。飄々とした態度のまま背筋を伸ばして入室する。勿論礼と「失礼します」は忘れない。ちなみに扉は近くの騎士さんが閉めてくれました。

 部屋の中には扉の開閉係の騎士さんが二人。豪奢な椅子に座った王様、そしてその横に黒いローブを着た何者かが。多分魔術師とかそういうのだろう。


「……来たか」

「はっ、なんの御用でごさいましょうか」


 王様の大体六メートルくらい前で話始めたんで俺は慌てて片膝をついて頭を垂れた。曲がりなりにも王様だしね。変な事したら殺られるかもだし。媚びへつらっておこう。


「楽にして良い、呼び出した理由は其方のステータスに関するものだ」

「ステータス、でしょうか」


 やっぱクソザコナメクジのテメェに割く金はねぇよ!だから死ね! みたいな事を言われるのか?いや、そんなネガティブな方向に考えるのは良くない。だけどそうなった時のためにすぐに生成で武器を作って王にぶん投げれるようにしておこう。一応服の下に身体に巻き付けるように鉄を装備して来たし。首を突然撥ねられない限り即死はしないだろう。取り敢えず適当に言っておこう。


 「もしやステータスアップ出来るなにかがあるという事ですか?」

 「否。お主に我らが父の加護を授けようと思ってな。その場に立ってまいれ」


 加護、加護? 加護といったらアレだろ? 聖気なんかが使えるようになるやつだろ? それで魔力と混ぜてTUEEEEみたいな。

 ホイホイと釣られた俺は俺達を召喚した魔法陣の中心に移動する。


 ……まずここでおかしいと思っておけば良かったんだ。普通に考えれば低能で穀潰しな奴に一国の王が構うことは有り得ないのに。


「ᛁ ᚹᚨᚾᛏ ᚨ ᛗᛟᛗᛖᚾᛏᚨᚱᚣ ᛗᛟᚢᛖ. ᛗᛖᛏᚨᛋᛏᚨᛋᛁᛋ!"テレポート"!」


 側近の魔術師の声が響く。逃げようとしたが完全に出遅れた。転移までの時間でもう足元に生まれた魔法陣の範囲から逃げ出すのは不可能だろう。

 最後に見た国王の顔は無表情で、嗤った顔よりも俺の心を苛立たせた。

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