異世界なら説明を聞かなきゃね!
読みにくいところがあるかも知れませんが生暖かい目で見守ってやってください。
ざわざわという騒音により、周りに人にいることを確認し、目を瞑り腕で顔を覆い守っていた俺はゆっくりと目を開ける。
そこは赤い絨毯が敷き詰められた白いドーム状の空間だった。広さはうちの学校の体育館の三分の二程だろうか。まぁ、目測でしかないけど。
具体的には体育館が縦四十五メートルだったはずだがらおよそ直径三十メートル程度だろう。白い、と言っても雪のような純白ではなく大理石のようなほんの少し水色が混じった色だ。というか大理石だろこれ。
さらに周りを見渡せば美しい彫刻や金細工がされた豪華絢爛なオブジェが。
そこはまるで、テレビで見た事のある欧米にある城のような場所だった。
非現実的だが、どうやら自分達は良くある"召喚"をされてしまったと仮定し、こんな豪華な場所はそうそう無いと考えここから得られた情報とライトノベルなどのテンプレ知識から弾き出された答えは多分ここは王宮またはそれに準ずる場所だろう、ということだった。
いや、確かにメタ推理だし訳の分からない考えだが俺自身困惑していてまともにモノを考えられない。
どうやら俺達は部屋の中心にいるらしく、正面には巨大な扉がある。2メートル半くらいか?
そして、さらに気がついた事として、窓がないことが挙げられる。逃がさないためなのか。
しかし、この事が本当に異世界転移のクラス召喚だったとすると、この状況はまだマシだろう。
突然取り押さえされ、所謂"奴属の魔法"なんかをかけられたり、そもそも人の存在しない平原にほっぽり出されるような事態にはなっていないからだ。
前者はまだ可能性が捨てきれないが、やるのなら召喚したての困惑している時に仕掛けた方が確率は高くなるだろう。安心はしきれないが考え過ぎてヘマをやらかし目をつけられる事態は避けた方がいい。
俺がそんな事を考えていると酷く狼狽したクラスメイトとは違い、比較的冷静に見える晃が話しかけてきた。
「おい、これってどういうことだと思う?」
少し間を開けてから俺は答えた。
「多分、異世界転移系の召喚とかだろうな。教室での出来事といい、こんな場所といい非科学的だし、非現実だが.......それが一番可能性が高い、と思う」
「マジで言ってんのか?」
「さぁ、知らねぇけど。もしかしたらこれは全員が同時に白昼夢を見ているだけかもしれない。まぁ、なんとでも言えるんだ。深く考えるのに意味なんかないさ。無駄にカロリーを使わない方がいい」
まともに栄養を補給出来るかも分からんしな、という言葉は口に出さないでおいた。不安を煽っても仕方がないだろう。
そんなやり取りをしていると巨大な扉が開き、一人の美少女が飛び込んできた。その後ろには銀のフルプレートアーマーを着用し、腰に剣を携えたおそらく騎士であろう者達や黒いローブを着た魔法使いのようなやつが侍っている。こういう時に来る奴は大体王族だと相場が決まっているが.......。多分、今入ってきた美少女は王女かなんかだろう。
次のセリフは「ようこそ勇者様方」だ。
「ようこそいらっしゃいました!!!勇者様方!!!!」
ほーらねと思っていると生徒の一人が王女(暫定)に話しかける。どうでもいいことだが、この女声でけぇな。
「一体ここは何処なのだろうか? そして何故我々はこのような場所にいるか説明を願いたい!」
今話した奴は今川利光。ウチのクラスの委員長だ。メガネをクイックイッするのが似合うような見た目をしている。いや、別に俺が眼鏡に偏見をもってるってわけじゃない。だが委員長が委員長し過ぎているだけなんだ。
「それを今から説明致します!ここはバースという世界で────」
王女(暫定)がチュートリアル的な説明を始める。
どうやらここは異世界という認識で間違っていないらしい。でも「この世界は〜」っていう台詞ってなんか違和感があるよな。何をもって何処までを『世界』としているのだろうか。俺たちの場合地球が「この世界は〜」に当てはまるのかね。つまり俺達が勇者かなんかを召喚した場合「ようこそいらっしゃいました勇者様方!突然のことで驚いているでしょうが落ち着いて話を聞いて下さい。ますこの世界は地球と呼ばれる天の川銀河の太陽系第三惑星でして〜」みたいなことを言うのか。なんだかなぁ。
閑話休題
この世界はバース。俺達を召喚したこの国はハルペースト王国と言うらしい。
そして俺達を召喚した理由だがやはりテンプレで魔王を倒してくれということど。
あ、王女様(やっぱり王女だった)の名前はマリナ・ヴァンデット・ハルペーストと言うらしい。多分、明日になったら忘れていることだろう。
もっと詳しい事は食事をしながら説明するらしい。ちなみに、クラスメイトが何故か思ってたより騒がないから軽く話を聞いてみると召喚はまんざらでもないと言う。よくラノベなんかじゃあ誰も彼もが騒いでリーダー的なやつに咎められるのがお約束だと思うのだが。その場合のリーダーは一応委員長か。ラノベみたくクラスにパーフェクトイケメンがいる訳でもないしな。いや、別に委員長の顔が悪いって言っている訳じゃないぞ。委員長彼女いるし。
☆
長机に椅子が並べられた如何にも貴族が使いますよ!みたいな風貌の食堂(仮)に着いた俺達は各々椅子に着席していった。全員が席に着くと新しく入って来た老年の男、多分王様が話を始める。これが円卓とかだったら結構好感が持てたんだけどな。
ちなみに、移動途中に『ステータスオープン』や『メニュー』とかその他諸々の思いつくだけの言葉を小声で呟いたが、よくあるウィンドウ的なアレが現れる事は無かった。
「余の名はハルティス・ヴァンデット・ハルペーストと言う。まず最初に謝罪をさせて貰う。すまなかった」
ハルペーストってことは多分王族であることはあってるな。それより謝罪すると言っておきながら頭は下げないのが気に食わない。一国の主だから頭は下げれないと理解はしているのだが。やはり俺達はジャパニーズ。DOGEZAが普及した国でそんなマネをすればジャパニーズSAMURAIにチョンパされるぞ、なんて冗談を考える。
「マリーから話は聞いていると思うが、現在魔王軍が人間の国を侵略しようと侵攻してきておるのだ。その魔王軍、もとい魔王を討伐して欲しいのだ。さすれば、天に召す我らが父が功績を評価し其方等を元の世界に戻してくれるであろう。勿論、衣、食、住は保証させてもらう。どうか頼まれてくれないだろうか?」
王様(暫定)が話を進める。
いやぁ、思うんだが随分と身勝手な事だよな。勝手に誘拐して力を貸せと。笑っちまうぜ。「頼まれてくれないだろうか」だ? この状況でのその言葉は懇願とは言わずに脅迫って言うんだぜ。
「ひとつ、質問をよろしいでしょうか」
委員長が王様(暫定)に言葉を返す。……もう暫定って付けるの面倒臭いな。王でいいや。
それにしても委員長はすげぇな。こんな状況で質問出来るって。肝が据わってる。
「ふむ。なんだ」
「貴方達の力で僕達は元の世界に帰れるのでしょうか?」
「不可能だ。世界に干渉出来るのは天に召す大いなる我らが父しか無理なのだ」
まぁ、予想はしてたけど無理か。これで「あっ、マジ? 帰りたい感じ? そりゃしゃあない。バイチャ!」とかやられても困るんだが。うん? 困るか? そうでもないや。でも我らが父ってのも地球と同じ枠組みだよな。所謂唯一神だろ? ジーザス・クライストかヤハウェかアッラーかは知らねぇけどそもそも世界に干渉出来るんなら某グッドルーザーばりに魔王の存在を無かったことにしたとか出来るんじゃねぇの? いや、考えても無駄か。
「そんな……帰れないなんて……」
「おいてめぇ!!ふざけんなよ!!地球に返せよ!!!」
んんん???
さっきまで結構どんとこい異世界みたいな感じだったのにいきなり手の平を返したな。
どうしたんだお前達情緒不安定だぞ。言葉にされたのが辛かったのか?
それより騎士と魔法使い(っぽいの)がすげぇ睨んできて怖いんだが。「不敬であるぞ!」とか言ってきて殺されないだろうな。いやまぁ、こういう奴らほどどうせチート能力があるって言われたら調子づくんだろうが。
「皆!ハルティスさんに言っても仕方ないだろう!どのみち魔王を倒さないと何も変わらないんだ!僕は一人でも戦おう!!」
おいそれでいいのか委員長。……いや、そうだな。衣食住を保証するのは俺達が 【勇者】として働く場合か。そもそもこの王が言うには魔王をぶっ倒さないと元の世界には戻れないという事らしいしな。こうやって誰かが「一人でも戦う!」なんて言うと何人かはそんな危険なことはさせまいと魔王討伐に同調するだろうしな。そうしたらもう終いだ。そういう雰囲気が出来て魔王討伐に賛成しないと異端、空気の読めない奴扱いされてしまう。まぁ少なくとも良い事にはならないだろう。
そこまで計算していたとすると委員長は頭がいい。
ま、どうせ倒しても戻れないんだろうけど。「貴様達は力を持ち過ぎた」とか言って王とかに殺されるのがオチか、そもそも魔王が強すぎたりして勝てないか、そもそものラスボスが悪神だったから殺すしかないわーみたいな事態になるのだろう。
おっと、何故そこまで考えているのにそんなに達観しているかだって?そりゃあ異世界なら最強になれるからだろ。
異世界ならば
34歳無職童貞住所不定でも3人の嫁さんを貰えるし世界の7番目の強さも持てるし
ただのナイスガイでもスライムになってインフレしまくって世界を作り直せたり時間を止めたり元の世界の自分の死を無かったことに出来るし
無能と呼ばれたありふれた生産職でも神殺しを成し遂げて世界最強の魔王になれる。
ここまでの可能性があるのならもう最強目指すしかないだろ。
おっと、話が変わってしまったか。
どうやらクラスとしては戦う方針になったらしい。
「では、これに血を一滴垂らしてくれ。これは銀盤と言ってな、血を垂らした者の情報を表示するアイテムでな、年齢、性別、職業、スキル、称号、ステータスを表示するものだ。結果が出たものから私の隣にいる者に持って行ってくれ」
リーダー的な騎士が言う。
渡されたモノはスマートフォン程の大きさの銀の板だ。薄さは免許証程だろうか。軽く力を入れてみたが存外固く、曲がりそうな雰囲気はない。少々手荒に扱っても大丈夫そうだ。
何処ぞのありふれ生産職のステータス表示に似てるな。まぁ、そんな世界もあるでしょ(適当)
いやー、でもこれから無能か勇者かが決まるんだ。ドキドキするな。
他のクラスメイトが騎士達から渡される針で血を溢れさせる中、俺は針が配られるまでの時間も勿体無いと親指を歯で噛み切り、渡された銀盤に血を塗りたくった。