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第三魔王 エリア・レイアルラ ①

 昔、むかし。

 独りぼっちで闇の底に閉じ込められた少女がいた。


 この話は、その少女の物語である。


 ☆


 少女は、現在から約五百年前に生まれた。


 名を、エリア・レイアルラと言った。


 種族は魔族。

 それ以外は特筆すること無く、辺境の村の極々平凡な家庭に生まれた。


 そしてその少女は健やかに育っていった。


 そして十歳の誕生日の日。


 その話を続ける前に、ここで魔族について説明しておこう。

 魔族は人間と同じく、神の求愛を受けた生き物である。他にもエルフや獣人、ドワーフなんかも神の求愛を受ける。エルフは魔法と弓の才を。獣人は身体的能力を。ドワーフは熱や土に強く、手先が器用になる、といったものだ。

 まぁ、詳しくはまたいつかに。

 人間は光神に、魔族は闇神に。

 神の求愛を受けた生き物は"スキル"と呼ばれる自然の法則を無視した特殊な力が与えられる。能力の大小は違えども、それは全ての魔族、人間に適応される。

 ごく稀に魔獣やただの獣にもスキルが付与される。まぁそれも放っておくとしよう。


 人と魔族は東西の大陸で離れてどちらも文化的な生活を送っている。

 いつから決まったのか、魔族も人間も十の歳になる年でスキルの鑑定が行われる。今年十歳になる子供を集めて一斉に鑑定を行うのだ。十歳にならなければスキルが発現しないだとか強すぎるスキルに身体が耐えれないだとか言われているが真偽は定かではない。


 事実、遠い昔から存在しているステータス鑑定の祠は幼すぎる子供の結果を映し出さない。どうやって年齢を判定しているのかは不明だが、遠く昔から当たり前のように存在している物の為、今更気にする者はいない。

 なお、銀盤はステータス鑑定の祠から産まれている。一ヶ月に五枚から十枚突然祠の前に産まれるのだ。案外貴重品である。

 未だに祠や銀盤を使わないでステータスを鑑定する方法は見つかっていないのだ。


 話を戻そう。少女……エリアと呼称しようか。エリアもその他に漏れず十歳になるその当日にスキル鑑定があった。


「エリアちゃん、ステータスが低くても落ち込んじゃダメよ? ステータスだけが全てじゃないんだから、ね?」


 エリアの母が言う。この言葉から分かるようにエリアの母は優しい者だ。エリアも自分を気遣う言葉に薄く笑みを浮かべて答える。


「分かってるよお母さん。そんなに心配しなくてもいいから」


 そう言われてもエリアの母は心配そうな表情をしていたが、やがて決心がついたのかエリアを強く抱きしめた。


「エリアちゃんがそう言うならいいけど……うん。そうね、いってらっしゃい」

「うん、いってきます!」


 このステータス鑑定に親がついてくることは許されていない。一部の親からの理不尽な文句を受け付けない為だ。

 ステータス鑑定は大概神を祀っているところで行われる。というか、祠がある位置に教会や聖堂が建てられるのだ。エリアの家からは教会は近い。


 歩いて約五分。エリアは教会に着いた。

 これまた鑑定の為であろう。教会の門から長い列が続いている。


 エリアは長時間並ぶであろう事に少し憂鬱になりながら列の最後尾についた。


「あれ? エリアちゃんじゃん!」


 後方から声が聞こえ、エリアは振り返る。


 そのには幼馴染の少女が手を振りながら駆け寄って来ていた。

 その少女の名はカトレア・アルザクス。エリアとは七年ほどの付き合いとなる。


「エリアちゃんはもっと早くに行ってたと思ってたよ〜」

「カトレアちゃんこそ、なにかイベントがある時はいっつも早いのに……」

「いや〜ははは……恥ずかしい事なんだけど楽しみ過ぎて眠れなくてね〜」

「そっか」


 そこから少女達は鑑定の結果について緊張や退屈を潰す為に色々と話し合った。



「では、次の者。前へ」


 気がつけばエリアの番が来ていた。


「その水晶玉に手を翳せ」


 指されたものは見た目何の変哲もない水晶玉。しかしそれは鑑定の祠と繋がっており、触れれば結果を映し出す言わば子端末のようなものである。


 エリアは恐る恐るその水晶玉に手を翳す。


 その途端、水晶玉から眩い光が迸り、結果が表示された。



 =================

 名前 エリア・レイアルラ

 性別 女

 年齢 10

 種族 魔族

 職業 魔王

 Lv.1


 HP 150/150

 MP 100/100


 筋力 40

 体力 60

 俊敏 80

 物耐 50

 魔耐 50


 スキル


 暴食(ベルゼブブ)


 称号 魔を統べる者 、神域への可能性


 =================


 その結果が表示された後、スキルの仔細が映し出される。


 =================


 暴食 : 蝟ー繧峨≧閭ス蜉帙ゅヲ繝医�蜴溷�縺ョ谺イ譛帙〒縺ゅj縲∽ス慕黄繧ょ享繧峨↑縺�ゥカ讌オ縺ョ荳縲ゆス募�縺セ縺ァ繧る�蜷郁憶縺丞ロ縺剰ヲ��蜉帙〒縺ゅj縲∽ス慕黄繧ょ�縺ヲ遲峨@縺剰速繧峨l繧九�縺ソ縲


 =================


 おおおおおおおおおおおっ!! と、見ていた教会の者達が湧く。


「なんと!こんな辺境の地から魔王が現れるとは!」

「そういえば、つい最近先代の『暴食』が亡くなったとか!」

「これでここも潤うぞ!」

「魔神の域に至ることもともすればあるかもしれない!」



「……え?」


 エリアは呆然と立ち尽くす。エリアの頭の中には「なぜ自分なんかが」という思いで埋め尽くされている。


 この世界の魔王というのは『憤怒(サタン)』『強欲(マモン)』『怠惰(ベルフェゴール)』『嫉妬(レヴィアタン)』『暴食(ベルゼブブ)』『色欲(アスモデウス)』『傲慢(ルシファー)』という、七つの大罪を冠したスキルを持った魔族の事を指す。大罪系スキルはすべて読むことの出来ない文字で表情される。昔、それを解読しようとした者達もいたが、結果はなかった。

 ちなみに、七つの美徳系スキルを持った人族の賢者なんて者もいるのだがそれは置いておこう。


 魔族には人間にとっての『進歩を。もっと良い生活を』といったような種、全体としての本能とも言うべき目標がある。


 それが『魔神』となる事だ。

『魔神』はもう一柱の『聖神』と共に、光神と闇神すら創り上げたという全ての祖となる原初の神とされている。

 人間はゆっくりと歩を歩め自分の種族を究極のモノにしようとするが魔族は『魔神』となる事で究極を掴もうとするのだ。

 方法は違えども『もっと幸せに』という考えは違いない。

 そして、『魔神』に到れる者は大罪系スキルを保持した魔王のみと伝えられている。


 その『魔神』への入り口にエリアは立ってしまった。

 多くの者はこれを幸運だと思うのだろうが、魔王となったからには様々な問題がついてまわる。争い事が嫌いなエリアとしては災難に他ならなかった。


「そんな……」


 そんなエリアに追い打ちをかけるようにして聖職の男から言葉が放たれる。


「エリア・レイアルラだったかな」

「は、はい……」

「二十日後に迎えを寄越すから、首都……プトノヴァインに移住してくれ」

「え……?そんな突然」

「すまない。だがこれは大罪系スキルを持った者の責務なんだ。あぁ、君……貴方の家族もバトクロスに住むことは出来る。だが、家を、生活を共にすることは出来ない。永遠の別れ、という訳でもないが、二十日後までには家族、友人と別れを済ませておいてくれ」


 そう言って男はブツクサと報告だとか安泰だとか呟きながら歩き去っていった。


「ねぇ、エリアちゃん」


 背後からカトレアに呼びかけられる。

 もしかしたら恨まれでもしたか? とエリアはビクリと身体を震わせて反応し、恐る恐る振り返った。


「な、なに?」

「いやぁ、まさかエリアちゃんが魔王になっちゃうなんてね〜。ずっと一緒にいた身としたら鼻が高いよ〜」

「……え? もっとこう……ないの? 妬ましい! みたいな」


 エリアのその言葉に一瞬間の抜けた表情をしたカトレアだったが、そこ言葉の意味を理解すると頬を膨らませていじける様な表情となった。


「うわ、私のことそんなカンジに思ってたんだ〜。ショック〜」

「あ!そんなんじゃなくてね!?」


 慌てて手を振って否定すると、からかっていたのか、カトレアはクスリといたずらに笑った。


「ううん、大丈夫だよ。そりゃ羨ましくもあるけどエリアちゃんだからね」

「わたしだからって……」

「ほら、そういうと〜こ」


 そう言ってカトレアはエリアの鼻の先を軽く突いた。


「えぇ……?」


 困惑しているとカトレアはエリアの手を掴んで先導するように引っ張る。


「ほら、帰ろ? ママ達に伝えなきゃ!」

「え? でもカトレアちゃんはまだ鑑定してないんじゃ……」

「エリアちゃんがさっきの人と話してるうちに済ませたから大丈夫!」

「…………」


 そう言われてエリアは先の男から言われた言葉を思い出し立ち止まる。


「? どうかした?」

「ねぇ……どうしよぉ……」


 突然、今にでも泣きそうな表情で目を潤ませ見つめてくるエリアに、カトレアは唯ならぬ雰囲気を感じ取り、エリアの手を強く引き協会の外へ連れ出す。

 エリアは大人しく引かれるままである。

 人がいない場所まで着いた途端、カトレアはエリアを強く抱きしめた。


「わっ、ひゃぁ!?」

「大丈夫、大丈夫」


 エリアが困惑の声をあげるも、カトレアは気にしない。

 母親が幼子をあやす様に優しく一定のリズムでエリアの頭を撫でながらゆったりと話す。


「私は、エリアちゃんが何を言われたのかも知らないし、どれだけのプレッシャーを感じてるのかも分からない」


 でも……、と一拍置いてから続ける。


「私はエリアちゃんの味方だよ。何があっても」

「……」


 エリアは何も言わない。だが、小刻みに身体が震えている事と、肩の辺りが若干湿ってきている事からカトレアは万事を察し、何も言わずにそのままエリアの頭を撫で続けた。


 ☆


「ただいま〜」


 鑑定の結果が出た時よりも幾分か明るい声であった。母親は、どうやらなにか編み物をしていたようである。毛糸で出来た編みかけの布と棒針を置いて温和な笑みを浮かべる。


「おかえり、エリアちゃん」


 しかし、流石母親と言ったところか。エリアが家を出た時よりも少し薄暗い雰囲気をもっている事に気づいたのか「おいで」と自らの膝を叩いた。

 エリアは遠慮なく母親の膝の上に座る。そしてそのまま後ろから優しく包まれるようにして抱きしめられた。


「どうかした? 結果が悪かったの?」

「ううん、そんな訳じゃないんだけど……」


 うん、とエリアはひとつ呟いて意思を固めたような表情をつくった。


「私、『魔王』だった」


 ひょえ〜! と親としては情けない声が家中に響いたことは言うまでもない。




 何分かの後、落ち着いた母親は口を開いた。


「そっ……かぁ」


 少し疲れたような声色だ。


「お母さん知ってるのよ。『魔王』は、家族と暮らせないんでしょ?」

「…………」


 沈黙は是である。


「そっか……。後、どれだけ?」

「二十日……」


 蚊が鳴くような声でエリアは答える。


「じゃあ、とびっきり美味しいご飯作らなきゃ」


 母親は受け入れているようだった。でもエリアには逃れられないと分かっていても母親のその態度が気に入らなくて。


「で、でもっ! あっ、そうだ!お母さんもお父さんもプトノヴァインに住めるんだよ!もしかしたら私もお母さん達と一緒に……!」

「ううん」


 少し食い気味に出された否定の言葉。

 まさか否定されるとは思っても無かったエリアはバッと顔を上げ見上げるようにして母親と目を合わせた。

 仕方ないのね、とでも言いたげな優しい瞳だ。


「なんで……?」


 泣きそうになりながらもエリアは問う。どうせならそんな優しい目じゃなくてもっと悲しげな目をしてほしかった。そんな軽く受け入れるんじゃなくて、どうにもならないと分かってても抗って欲しかった。

 エリアは、先程より強く抱きしめられる。


「エリアちゃんのお家はここだから。お母さんからしたらね、エリアちゃんが『魔王』になっても『魔王』エリアよりお母さんとお父さんの娘としてのエリアが勝つのよ」


 だから、と言葉を続ける。


「そんな悲しい顔しないで、笑ってて? お母さんとお父さんはいつまでもここで待ってるから。エリアちゃんが何時でも帰って来れるように、ずっとずっと」

「お母さん……」


 エリアは自分を抱きしめている腕を強く握って胸に抱き込んだ。


 いつもは少し照れくさい「大好き」という言葉はするりと出ていった。



 ☆



「ただいま」


 機嫌の良い声色で父親が帰りを告げる。

 エリアの父親は村の周辺に現れる獣や魔獣の退治を生業としている。大体は夕方に帰ってくるが、有事の際は駆り出される事もある。

 声の感じからしてどうやら今日はいい感じの獲物が獲れたようだ。


 戸を開けて居間へと入ってくる。


「「おかえりなさい」」

「あぁ、ただいま」


 父親の手には大きな葉で包まれた何かが。


「聞いて驚けよ? なんと今日はこーんなでっかい猪が来てだなぁ!」


 両手を広げてサイズを示す。その大きさは背丈程か。


「それは丁度良かったわね。今日……というか今日からはご馳走にしようと思ってたから」

「ん? なんで……ってあぁ、そういや今日が鑑定の日だったな。ご馳走ってことは結果が良かったのか?」


 一瞬の沈黙。

 エリアは母親を責めるようにして見るが母親はどこ吹く風か。寧ろ口パクで「自分で伝えなさい」と言ってくる始末だ。


「……あのね、お父さん」

「うん、どうした?」


 ひとつ深呼吸してからエリアは口を開く。


「私、『魔王』だった」


 この後は予想出来るだろう。





 落ち着いたのか。父親はガリガリと頭を掻きながら苦笑いして言葉を紡ぐ。


「いやぁ……なるほどなぁ。エリアが『魔王』か」

「その……お父さんはなんとも思わないの?」


 父親は少し考えるポーズをとり


「いや、思わないことはないんだが……あぁ、そっか。エリアはもう会えないとでも思ってるのか?」

「……ん」


 そっかそっか。と父親はにこやかに笑う。そしてそのまま、でもな、と言葉を続けた。


「父さんたちは、あとどれだけ生きられると思う?」

「七十年くらい?」

「まぁ、普通の人はそんなもんだな。じゃあここで父さんと母さんの"スキル"を思い出してみ?」


 そこでエリアは何かを閃いたような表情をつくった。


「お母さんは『変体』、お父さんは『剛体』だ!」

「そう、父さんも母さんも身体強化系のスキルなんだよな。じゃあ後は分かるな?」

「うん!」


 "スキル"は神の求愛。

 それがここに関係してくる。スキルには様々な種類があるがその中でも身体強化系のスキルは寿命すら変化させうるのだ。

 そもそも、寿命とは細胞分裂の限界なのだ。身体強化系のスキルはその細胞そのものを強化するため、寿命は伸びる。

 つまりはそういうことだ。


 なお、身体強化系のスキルを持った生物の平均寿命は二百年程である。


「だから心配することはない。残り長いんだ。いつか絶対また一緒に暮らせる時が来る」

「うん、うん!」


 お父さん大好き! と言ってエリアは突進するように父親に抱きついた。


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