【8話】 魔王とプリンセス
「一つ聞く、オルガネーシャとやら」
俺はタイヤを数センチ前進。
「な、なんじゃああっ! っひ、は、ぃいいふっ、ん、ぐぅ……っ」
膀胱と股間を押さえるダークエルフ幼女の声が屈辱にねじれている。
おしっこ以外に、涙と鼻水も駄々漏れだ。
「正直に、答えろ」
ヘタったまま、目を見開いてコクコク俺にうなずくダークエルフ幼女。
「お前たちが、このルーリィをいじめたのか? ルーリィの肌に、こんな傷を……」
「ル、ルーリィィィっ!? なぜ、こんなところにっ!」
俺が車内のダッシュボードに乗っけたルーリィに、ダークエルフ幼女の口があんぐり。
「ん? ルーリィ、知り合いか?」
「あんなこ、ルーリィ、しらないよ……?」
「そ、そやつは、サイハティーンの姫君なのじゃ!」
「……ルーリィ、まじで、お姫さまだったのか!?」
「おひめさま?」
「みんなのなかで、いちばんかわいい女の子ってことだよ?」
するとルーリィは、ほっぺをぱあっとバラ色に染め、
「そ、そんなの、ルーリィに、つとまるかしら……」
「絶対平気だよルーリィィィィッ!!!!」
いやいや、そうじゃなくて……!
「姫をとらえていたってことは……おまえら、サイハティーンを乗っ取ったのか?」
「わらわの兄はサイハティーンの住人をことごとく奴隷にしたが、目的はちがう!」
「なに……?」
「兄は、ルーリィと結婚するため、捕らえておったのじゃ!」
……今、なんと?
け、結婚……?
ルーリィを、お嫁さんにする……?
そんなの、俺が許しませんけど?
「じゃが、ルーリィの父と母は、ルーリィを荊棘の籠で娘を包み、外へ逃がしてしまった!」
さも無念そうに、ダークエルフの幼女魔王、オルガネーシャは地面を殴った。
上がる土煙。
ただし、股間は濡れている。
「まさか、あのようなものに、大切な娘を入れて逃がすなど……!」
つまり、ルーリィのこの傷は、両親の愛……?
荊棘の籠でルーリィは血を流したが、
ここまで、
俺のところまで、たどり着いた。
だったら、
ルーリィの両親の意志は、俺が引き継ぐ。
俺の座席シートは、ふっかふかだけどなぁぁ……ッ!
ルーリィ、俺はおまえを二度と、トゲトゲに包ませはしない!!
「それが、よもやこんなところにおったとは! あのオーク連隊、
中でも『巌穹の四連鬼』は強者中の強者!
今どこでなにをやっているのじゃ!?」
ルーリィを追っていた、あの失禁オークに、そんな二つ名が……
「じゃが、わらわは『魔王四天王』の中でも最弱の魔王! そなたなど、我が兄ならっ!」
「なんだと……?」
「たとえそなたが、強大な魔王だとしても、わらわの兄には勝てぬぅっ!」
いやまて、
その前に、おまえ、もう負けてたの……?
『クックックック……ファファファファファファ!!』
「いやーっ!」
夜空に、稲妻が走った!?
とっさにルーリィが仮眠室に転がり込み、毛布にくるまった。
野郎ッ! ルーリィを驚かせやがって……!
「どこにいる、出てこい!」
雷轟、魔王軍を青白く照らす。
落雷はダークエルフ幼女、魔王オルガネーシャの目の前に。
大地にまとわりついたイナズマは、いかにも『転送円』と思しき形に変形し、
「なにやつ!」
電光が再び夜空に消え去ったあとには、
すごい筋肉量、スラっとしたイケメンダークエルフ。
頭に王冠を載せ、ぴったりめの銀色ブーメランパンツ一枚。
褐色の肌、銀髪の男は俺に指を突き付け、言った。
「ルーリィ、結婚しよう」
「ッ!?」
なんだ、この、堂々としたオーラは!!
「お、おまえが、ルーリィを、奴隷にしたのか……!」
なんでちょっと俺の問に首をかしげる!?
いぶかしげな顔で、再びスリムな筋肉ダークエルフは、俺に手を差し伸べ、
「ルーリィ、結婚しよう」
こいつやばい!
次回! やばいやつ!
※短編SSをシリーズ化いたしました!
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