流れ者の男視点
ゴングが鳴った。
周囲の熱気がより一層高まる。
観衆の声が地下の個室ということも相成り響く。
鼓膜が破れるかのような声量の中
相対する二人は静か。
相手をじっくりと観察しどう動いてくるのか。
こう動いてきた場合二手目は何か。
二手三手と先の動きを考えておく。
考えが纏まったのか、考えても埒があかないとしたのか
定かではないが先に動いたのは流れ者の男。
一歩二歩と間合いを詰める。
対するじいさんは只構えているだけ。
何か策があるのだろうか?
流れ者の男は軽くジャブを打つ。
威力を求めず速さ重視で放たれたそれは弾丸とも言える速さだ。
それをじいさんは半身になり躱す。
ジャブ躱す、フック躱す。キック躱す。躱す躱す躱す。
92歳とは思えぬフットワークで躱しまくる爺さん。
周りから見たら摩訶不思議であろう爺さんの見切り能力。
流れ者の男が牽制としてジャブを放ったあと大きく後ろに後退する。
「何故攻撃してこない?」
「何故かて?はてさて何でじゃろうなぁ」
馬鹿にしてるのか。男は苛立ちを覚えた。
「じじい・・・後悔すんなよ?」
その言葉と同時に男は素早く前進
男から繰り出されたのは顔を狙った蹴り。
何をしてくるか分からない爺さんを警戒して距離を取りつつ戦うことにするのだろう。
周りから野次が飛ぶ。最強を倒した男が何故そんなけちけちした戦い方をするのか。
何故この戦い方を選んだのか。
それは潜在的な恐怖から来るものであった。
獣の感性。強者を目の前にした時の絶望。
それがあった。
だが、強者を倒してきたプライドからなのか男はそれに気づかない。
「そろそろええかの?」
戦ってる最中にこの爺さんは何を言っている?
現に俺の連続攻撃を喰らっている最中だろう?
なんだ、なんなんだ。
「ほれ、息が上がってきておるぞ。」
爺さんは疲れていない。
「汗っかきじゃのう、ばっちいのう」
仕方がないだろう
「膝が笑ってきておるぞ情けない」
うるさい黙れ
「なんじゃ?もう立てないのか?」
まだ戦える、そうだ
「まだ戦える・・・戦うんだ・・・俺は・・・」
「そうかい・・・意外と根性あるのぉ・・・仕方がないのぉ・・・」
何が仕方ないんだ・・・?
「それじゃあちょいと・・・本気を出してやる小童」
その言葉が聞いたと同時に男は意識を失った。




