生きる意味、そして
(9/31)
決定版ではなく一番最初に書いた初期案をアップしていました。
いきなりミスを犯してしまいまいた、ごめんなさい。
決定版にアップし直しました。
勉強をする意味ってなんだ?仕事をする意味ってなんだ?
やりたくない事を嫌でもしなきゃいけない理由って何だ?
恋をする意味は?理由は?価値は?
一般的な世間に認められないことを、必死になってやる意味は?理由は?価値は?
生きる意味って・なんだ?
何のために生まれてきて、何のために生きて、何のために死ぬんだ?
―――俺は何のために、生きている?
……い、おい、おい!
声が聞こえてきた。
「おい、聞いているのか橋田!お前に当ててるんだ橋田孝志!」
―――ん、ああ。
授業中に居眠りしていたようだ。
数学の高木がこっちをすごい形相で見ている。
居眠りをするのは頻繁にあるんだが、久々にバレたか。
「さっさと前に出てこの問題を解け!」
黒板を見て問題を確認する。
基礎の部分だから問題ないだろう。応用が来ていたら解けなかったが。
前に出て問題の答えを書いていく。書きながら、さっきの夢を思い出す。
ここ3年ぐらい、夢を見る時は決まってあの内容だ。
最初は特に気にしていなかったが、こうも続くと少し気になる。
生きている意味……か。
まだ18年しか生きていない若造にそんな事分かるわけないだろ。
勉強はつまらなくてたまらない。
仕事だって辛くてたまらない……と勝手に思っている。
加えて、俺には楽しいと思える事がゲームとマンガとパソコンしかない。
楽しい事が少なくて嫌な事の方が多いのに、生きていく意味なんてあるのか?
なんて事を他人に言っても
―――でも、しょうがない。生きていく為には嫌な事もやらなきゃいけないから。
どうせこんな答えしか返ってこない。
実際に聞いてみた事はないから想像で勝手に思っているだけだが。
俺と普通の人では考え方が違うのだろう。これも勝手な想像である。
俺は生きる理由が自分でわからないなら生きる意味などないと思っている。
だが、普通の人は生きるのが当たり前で、生きる理由など考えない。
いや考えるかもしれないが、それが無くても生きる意味がないとは思わないだろう。
話を元に戻す。
俺の生きている理由はなんだろうか?
普段生きていて楽しい事は少ない。嫌な事だらけだ。
ゲーム、マンガ、パソコンは楽しい。
でもそれらが自分に与えてくれるものは無駄な事ばかり。
俺は本当に何の為に生きているんだろう?
俺は……
「おい橋田!手が止まってからもう1分は経ったぞ!」
気付かない内にボーっとしていたようだ。
チョークを持った状態で体が一時停止していた。
「もういい!席に戻れ!まったく……」
席に戻された。かすかにクスクスと笑い声が聞こえる。
何かに没頭すると他の事ができなくなるのは悪いクセだがどうも治らん。
それからしばらくすると、授業の終わりのチャイムが鳴った。
これで今日の授業はすべて終わりだ。
下校の準備をしている俺の周りでは、クラスメートが雑談で盛り上がっている。
俺の横には誰もいない。……これはいつもの事なのだが。
ダメだ、今日はどうにも神経質になっている。
帰りに何処かに寄っていって気を紛らわそう。
今日はいつもと違う道から帰ってみる事にする。
歩いていると、古そうな書店を見つけた。
雰囲気があって面白そうだと思い、入ってみる。
意外と中は綺麗だった。本棚が等間隔で置いてあって、管理と整理が行き届いている事がわかる。
古そうな書店という事で、天井いっぱいに本が敷き詰められているような景観を想像していたので少し拍子抜けしてしまった。
店主は40代ぐらいのムキムキスキンヘッドでアゴヒゲを蓄えたおっさんだった。どっかの国のマフィアみたいだ。
ヒゲを親指と人差し指でせわしなくいじっている。
本をザッと見てみる。
どれも古そう、というか古いのが一目見てわかるような本ばかりで、字がかすれて読めない物があった。
日本語なのか英語なのかわからないような言語で書かれているようなものもあった。
その本の中で、一際目立つものが。
辞書の用に分厚く、真っ白な表紙に真っ黒な裏表紙。
そして背表紙は半分は白、半分は黒。
背表紙に書かれている背文字には題名が書かれておらず、
番号だけが振られている。
そんな本がザッと見るだけで、1~50まではある。
1巻を開いてみる。字はハッキリと読める濃さで、日本語だった。
本の始めのあらすじにはこう書いてある。
この世界には絶対神派と絶対神排斥派と中立派に分かれている。
絶対神派と絶対神排斥派は対立しており、2つの勢力の間で戦争が起きている。中立派はどちらにも属せず、ただ戦いに巻き込まれる事に怯えながら過ごしている。この世界で何をするのもあなたの自由だ。何もせず中立派として平穏に過ごすのもいい。絶対神派と絶対神排斥派、どちらの勢力に荷担してもいい。自分のやりたい事、やるべき事を見つけろ。
すべてはあなたの選択次第だ。
……あらすじを読んで、引き込まれた。
自分のやりたい事、やるべき事を見つける、か。
よし、財布がスッカラカンになると思うが全巻購入していこう。
店主に何巻まであるのか聞いてみる。
「この本、何巻まであるんですか?」
「ああ、それね。何かの手違いで注文もしてないのにどこかから届いちゃってね。店の裏には99巻まであるけど、買うの?」
99巻……度肝を抜かれた。
値段はどうなんだろうか。
「はい、全巻買います。それで、値段の方は……」
「じゃあ全部タダで持ってっちゃっていいよ。一応店には置いてあったけど正直邪魔で仕方がなかったし」
「本当ですか!ありがとうございます」
これはラッキーだ、まさか一気に、しかもタダで手に入るとは。
しかし、こんな辞書のような分厚さの本を99巻なんて持って帰れないよな。
どうするか……。
「運ぶのも大変だろうから、今僕のトラックで送ってあげるよ」
「え、いや、それは、悪いですし……」
「いいのいいの、どうせ暇だしね」
「うーん、じゃあすいません、ありがとうございます」
こんな良い店に当たったのは初めてだ。良いこともあるもんだな。
「……それに、この本の主なら、ね」
うん?何か聞こえたような……。
後ろを振り向く。辞書をせっせと詰め込んでいる店主の姿。
まあ気のせいか。
家に着いた。中くらいの大きさの一軒家だ。
店主と2人で家に本を運び込んでいく。
作業の途中で、店主が言う。
「あれ、家族の方は?」
「僕、一人暮らしなんです」
「ああ、そっか。大変だねえ」
「いえ、大したことじゃないですよ」
そんな何回目かもわからないやりとりを淡々とする。
俺の親は、俺を捨てた。
この家で暮らしていた両親と連絡が取れずにいた母方の祖母と祖父。
心配して家に来てみたら、両親はおらず、俺だけが餓死寸前でぽつんと取り残されていたという。
祖父と祖母の話では、子供を捨ててどこかに行くような人ではない、との事だが、そんなこと本人達にしかわからんだろうとしか思わなかったし、思えなかった。
祖父と祖母は中学校卒業まで俺を引き取って育ててくれた。
高校入学と共に半ば家出のような形で俺は一人暮らしを始めた。
祖父と祖母に、これ以上迷惑をかける訳にもいけないと思ったからだ。
そんな風に昔の事を思い返しながら運んでいるうちに、本を全て家に運び終わった。もうすっかり日は落ちている。
「本当にありがとうございます、助かりました。でもすいません、こんなに暗くなるまで・・・・・・」
「いいのいいの、僕が好きでやったことだし。じゃ、僕はこれで」
「はい、ありがとうございました」
店主が去っていくのを見送る。良い人だ。
ああいう人は、生きる理由も生きる意味も持っているのだろう。
まあ例によって勝手な想像だが。
家に入って、自室に閉じこもる。
さあ、早速1巻を読み進めよう。
そう思って、あらすじの次のページをめくった。
字が、ない。白紙だ。
次のページも、その次のページも、また次のページも。
あらすじしか書かれていない。
―――なんだこれは。肩すかしもいいところじゃないか。
そう思った次の瞬間。
頭の中に、声が響く。
「お前の知りたい全てがここにある」
「お前の成し遂げたい全てがここにある」
「お前の全てがここにある」
「さあ、探せ。」
「お前は完成しなければならない。」
「何よりお前自身の為に。」
そんな言葉が聞こえたと思ったら、視界がぼやけていく。
意識が薄れていく。
……い、おい、おい!
ん、何だ?
……そうか、また授業中に居眠りしてしまったのか。
それにしてもリアルで鮮明に記憶に残る夢だったな。
また先生が怒ってるのか、面倒くさいな。
「おい!アンタ、大丈夫か!?」
……教室じゃあ、ない?辺りを見回す。
俺がいた場所は学校の教室などではなく、建物もなにもない草原にある
人の手で整備されたような道のど真ん中だった。
目の前の人物を見る。
俺の目の前にいた人物は先生などではなく、
見たこともない髪の色―――銀髪の端正な顔の男だった。