ある日の夢
…………ここはどこだろう。
真っ暗だった。
身体の感覚も曖昧で、思考もふわふわと地に足がつかない感じだ。
「……やはり、こうなりましたか」
女の人の声がした。
どこか残念そうに彼女は言う。
「あなたの世界はほぼ完璧でした。でも、あなたの望む世界はあまりに不確定要素が多過ぎます」
僕にはなんの事かわからない。
わかろうとする気も起きない。
そうか、これは夢なんだ。
取り留めもなく、僕の脳が勝手に作り出す幻想の世界。
「あなたが望んだ物の一つは、すでに世界からこぼれ落ちました。いえ、一つじゃない。思い出せないだけで、あなたはもういくつも失っているはずです」
さっきから話しかけてくるこの人は誰だろう。
ここが夢なら、僕の知っている人のはず……
思い出そうとするけど、虚ろな思考の中では記憶の破片すら見つからない。
そうしているうちに、だんだんと身体の感覚がクリアになっていく。
ピピピピという電子音が、かすかに聞こえる。
目が覚めるんだ。そう理解した。
「また戻るんですね……あの世界に」
だんだんと認識できなくなっていく夢の世界。
遠のいていく、どこか幼さの残った女の人の声が妙に耳に残った。
「―――このまま続けても、不幸になるだけですよ。兄さん」