ゆうたのデッドエンドエピローグ
ピピピピ、ピピピピ
静かな部屋に鳴り響く音。
ピピピピ、ピピピピ
安らかな眠りを妨げる音。
ピピピピ、ピピピピ
眠りという別世界から現実へと、僕を引き戻す無機質な機械音。
ピピピピピピピピピピピピ
嫌だ……起きたくない……
ピピピピピピピピピピピピ
寝かせてくれよ……
ピピピピピピピピピピピピ
……仕方がない。
ピピピピピピ……カチッ。
アラームを止めた。
部屋に静けさが戻る。
顔を持ち上げ、時計を見ると、デジタル表示の目覚まし時計は、僕に現在時刻を教えてくれた。
4月30日 土曜日 AM7:00
……何か、夢を見ていた気がする。
楽しくて、悲しくて、嬉しくて、切ない。
そんな夢。
もう内容は思い出せない。
今まで感じていた気持ちも、だんだんと薄れていく。
悲しいけれど、夢とはそういう物だ。
現実とは、違う。
一階に降りて、朝食を摂る。
パンを食べながら、何気なくつけたTVに写っていたのは、大物芸能人婚約発表のニュース。
あまり芸能人に詳しくない僕でも名前くらいは知っているような、有名人だ。
へぇ、あの人、結婚するんだ。
そんな事を取り留めもなく思いながら、朝食を食べ終わった時、突然電話が鳴った。
「―――もしもし?」
『俺だ、杉城だ。浦見、今日は暇か?』
「え、うん。暇だけど、どうして?」
『お前を遊びに誘おうと思ってな。どうだ?』
「……行く! 行くよ! どこに行けばいい?」
『大通りの所のコンビニだ』
「ああ、向かいにクリニックがあるあそこか」
『その通りだ』
「わかったよ。……あれ? というかなんで杉城はこの電話番号知ってるの?」
『む? そういえばなぜだろうな。お前から聞いた覚えもないし…… まあ細かい事は気にするな! それでは待っているぞ!』
そう言って、杉城は電話を切った。
やった! 休日に友達と遊べるなんて、今日はついてる!
上機嫌で階段をのぼり、自分の部屋で着替えを済ませる。
出かける用意をして、部屋を出ようとした時、ふと机の上のメモ帳が目に入った。
メモ帳には大きく『6』と書かれている。
うーん…… いつ書いたんだっけ。
気になったけれど、杉城を待たせるわけにもいかないので、深く考えず、メモ帳に『7』と書いて部屋を出た。
……ほんの少しだけ、胸が痛んだのはなぜだろう。
頭の隅に浮かんだそんな疑問は、これから友達と遊ぶという嬉しさにかき消されてしまった。
靴を履き、玄関を出る。
誰もいなくなった部屋で、窓から吹き込む春の風が、静かにメモ帳の端を揺らしていた。
―――これは、彼の死後の物語。