ゆうたのデッドエンド
ピピピピ、ピピピピ
静かな部屋に鳴り響く音。
ピピピピ、ピピピピ
安らかな眠りを妨げる音。
ピピピピ、ピピピピ
うるさいなぁ……
ピピピピピピピピピピピピ
「うぅん……なんなんだよ……」
ピピピピピピピピピピピピ
イライラする……
寝かせてくれよ……
ピピピピピピピピピピピピ
…………?
ピピピピピピピピピピピピ
……あ、そうか。
この音は目覚まし時計のアラーム音か。
ピピピピピピピピピピピピ
自分でセットしておいてイライラするとは情けない。
ピピピピピピ……カチッ。
部屋に静けさが戻る。
「はぁ……これで寝られる……」
ゆっくりと眠気の波が押し寄せてくる。
……あれ?
アラームが鳴ったということは……
まさか今日は登校日!?
がばっと跳ね起き時計の表示を確認する。
4月30日 土曜日 AM7:48
よかった。思う存分寝られる。
再び横になり、押し寄せる眠気に身を委ねる。
意識が遠のいていく。
安らかな眠りに落ちていく……
ピピピピ、ピピピピ
スヌーズ機能め……
いつも何かが欠けているような気がしていた。
そこに当たり前にあるはずなのに、今は無い。
時々、そんな歯がゆい感覚を覚えることがあった。
この世界は、何かが足りない。
そんな気がする。
ぼんやりと今日の予定を考えていた。
時計に表示されている時刻はAM9:57。
いい加減、眠気もおさまってきた。
今日は何をしようか……
遊びに行こうか。
このままゴロゴロしていようか。
いい子に学校の課題をやってしまおうか……
あぁ! 土曜日バンザイ!!
遅刻の心配とかしなくていいし、次の日は休みだし、面白いテレビ番組たくさんやってるし、もう最高!
ああもう! テンション上がっちゃったし今日はどっかに遊びに行こう!
今日の予定が決まったので、とりあえず着替える事にした。
幼稚園、小学校と、僕は友達が少なかった。
もう慣れかけていたので、それほど辛くはなかった。
でも中学生になって気の置けない友達ができた。
気楽に話せる友人といった感じの関係である。
大切な友人だ。
ピンポーン
ダッダッダッダ……ガチャ
「おう、待ってたよ」
そう言って玄関から顔を出したのは僕の友人、南原 勇太だ。
さっきメールで一緒に遊ぼうと送っておいたのである。
「うん、おはよう」
「おう! おはよう! とりあえず中に入りなよ」
と、僕を家に招き入れる。
「おじゃましまーす」
とは言っても、ゆうたはいつも家で一人である。理由は知らない。
ダッダッダッダ……
階段を登った所にあるリビングに入る。
「で、今日は何して遊ぶ?」
向こうがそう切り出してきた。
実は特に考えていなかったりする。
「うーん、どうしよう?」
外を見ると空は快晴だった。
「たまには外で遊ぼうか」
そう言うと、ゆうたは少し驚いた様子で
「へぇ、お前が外で遊ぼうなんて言うとは思わなかったなぁ」
僕は基本インドア派である。
「いいじゃん! 僕だってたまには外で遊びたくなることもあるよ! 天気もいいし!」
「まあ、そうだね。あとで公園でも行こうか。」
そう言ってゆうたは適当にゲーム機の電源をいれる。
「そうだね。あ! そういえばマイクラの海底トンネル作る件どうなった? あれさー掘るたびに水が入ってくるから……」
そうしてしばらく雑談したりゲームしたりで2時間程過ごす。
「そろそろ腹減ってこない?」
ゆうたが言い出す。
言われて時計をみると針は12時40分あたりをさしていた。
「そうだね。コンビニでなんか買ってこようか」
そうして外に出ると、春の日差しが僕らを照らす。
「今日はあったかいね。暑いくらいだよ」
僕が言うと、
「ああ、もうちょっと薄着にすればよかったかな」
ゆうたも同意見のようだ。
それもそうか。明日から5月だもんな。
5月といえば、ゴールデンウィークに運動会に……いろいろなことがありそうで、考えるだけでワクワクしてくる。
そんなことを思いながら自転車にまたがる。
「何食べる?」
ゆうたが聞いてくる。
「僕は……おにぎりでも食べようかな。ゆうたは?」
「俺はパンにするつもりだけど、なにパンにするかは着いてから決めるよ」
こんな雑談も、小学校の頃の僕が憧れていた光景である。
自分がいまその中にいると思うと嬉しくなる。
喜びに浸りながらしばらく自転車をこいでいると、
「おっ! あれ杉城じゃね?」
ゆうたが言うので前の方を見ると、確かに僕らの友達の杉城 想護がいた。
杉城は頭脳明晰、容姿端麗、おまけに運動神経もバツグンで、なんでもこなすデキる奴である。
ただ、少し変人なのが玉にきずだ。
「よう! 杉城」
ゆうたが声をかける。
「おお、南原に浦見か。インドア派が二人そろってどこへ行くんだ?」
「ちょっと昼飯を買いにコンビニまで。杉城は?」
ゆうたがそう聞くと、
「ほう、奇遇だな。俺もこれから昼食を買いに行こうと思っていた所だ。コンビニで売っている冷やしラーメンとやらが美味しいらしいということを耳にしたのでな」
へぇ、冷やしラーメンなんてあるんだ。僕も買ってみようかな。
そのまま杉城も加えて三人でコンビニへ向かう。杉城は歩きだったので、杉城のスピードにあわせて3分程でコンビニについた。
コンビニに入ると涼しい風が頬を撫でる。
「へぇ、もうクーラーかけてるんだ。まぁ今日は暑いもんね」
と僕が言うと、
「ふん、この程度の暑さで冷房を使う店があるから、地球温暖化が進行するのだろうな」
と杉城。
うぅ……なんだか罪悪感がわいてきた……
そんな杉城のつぶやきが聞こえなかったゆうたは昼食のパンを選ぶのに集中している。
杉城はお目当ての冷やしラーメンを見つけたようでレジに並んでいる。
僕も冷やしラーメンってのを食べてみようかな。
僕と杉城が会計を済ませてもゆうたはまだ来なかった。
「ゆうた? まだ決まらないの?」
とパン売り場を見るとゆうたはいなかった。
あたりを見回すと漫画や雑誌が置いてある窓際の棚の前にいた。
「いやー、最新刊が今日発売なの忘れる所だったよ〜」
そういうゆうたの手には漫画の単行本。
「もう、一瞬びっくりしたよ〜」
杉城も腕を組み、眉を寄せながら微笑を浮かべている。
少し人を見下しているようにも見えるこの動作も杉城がよくみせる仕草である。
「ごめんごめん、じゃあレジに並ぼうか」
そういいながらゆうたはカバンを取り出す。
その時、突然外が騒がしくなる。
何事かとふと外をみると、大きなトラックがこちらに向かって突っ込んで来ていた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
一瞬の出来事だった。
トラックは店の奥まで突っ込んでいた。
僕はがれきからなんとか這い出る。
「大丈夫か?」
と杉城が声をかけてくる。
どうやら杉城はかすり傷程度ですんだらしい。
けれど今はそれどころではない。
ゆうたは!? ゆうたは直撃コースだったはず!
どこかで打ったのか酷く痛む頭を抑えながらがれきをかきわけていく。
そして……
目に入ってきた光景に絶句する。
トラックのしたから伸びる腕と血溜まり。その腕の近くにゆうたの持っていたカバンと単行本。
「ゆう……た……?」
嘘だ……
さっきまで僕の目の前で笑っていたゆうたが……
死ん……だ……?
嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
突然ぷつんと糸が切れたような感覚が襲う。
意識が遠のき視界が暗くなっていく中で、世界が歪み、崩れて行くような感覚がしていた。