第9話
朱美を帰らせてから粛々とゲームをやり続けて一時間、どすどすと家の中で鈍い音が響く。迫り来る巨人の足音。ふっ、遂にやってきたか。
「坊ちゃん!ご友人が訪ねてきましたよ!」
「分かってますよ!澄さん!」
部屋の外から焦ったように声を上げる御大。分かっているよ、御大。俺の家で物騒な足音を立てる奴は一人しか居ない。ドアを蹴飛ばすように開き、荒い鼻息を吐きながら侵入してくる進撃のデブが一匹。
「着たよ!僕の心の友ニートソース!相変わらずニートやってるかい!」
ニートボールが一体現れた!どうしますか?戦う?逃げる?降伏する?歓迎する?勿論歓迎だ。ニートボールはどすんと音を立てて、お客様用に敷いてる座布団に座り込み、俺と向かい合う。
俺はニートボールに用意していた納豆味の上手い棒3ダースを詰め込んだ袋とヤホーオークションで落とした未開封の抱き枕シーツ三セットを粗品として手渡す。ニートボールもまた六枚組の円盤を詰め込んだケースと紐で纏めた数冊の文庫本を俺に手渡してくる。親しき者にも礼儀ありってやつだ。
「ああ、お前こそ相変わらずだな。ニートボール」
身長約190㎝に体重130kg、計算せずともBMIが20ぐらいは越えてるだろう。二重顎どころか三重顎までありそうな皺にまみれた首の脂肪。特注で手に入れたアロハシャツにむっちりと張りつめているズボン。髪はスポーツ刈りですっきりしているがお多福のように膨らんだ頬と野暮ったい眼鏡で如何にもオタクですよと宣伝している容貌。まさにニートボールだ。
「ほほう、お前の身体は本当に母性豊かな体つきしてるな。触らせろ」
俺は世の女性共が聞けばセクハラだと訴えそうな発言をしながら手をわきわきさせる。これは挨拶代わり、そう、親友同士のスキンシップに過ぎん。俺はアロハシャツを破りそうなぐらいに自己主張しているニートボールのお腹に指を食い込ませる。
「あん」
「ふふっ、この俺の指を食べてしまいそうなぐらいに包み込む脂肪の感触。リアルに蔓延している三次元の女共も俺の指をお前ほど柔らかく受け止めてくれる脂肪は持ってないだろう。もし俺が女だったらお前を天然のウォーターベットとして愛でてやりたいぐらいだ」
「これって誰得のシチュだよね。でも、感じちゃう!」
相変わらずノリの良い奴だ。イケメンでもないモヤシ野郎がデブ相手にセクハラしているシチュエーション。よほど腐りきっている女でもない限り、フラッシュバックもののゲスい光景に見えてしまうだろう。鼻血を噴くどころかゲロを吐くに違いない。しばらくニートボールの感触を楽しんだ後に改めて向き合う。
「お前が平常運転していることは脂肪の感触で分かった。さて、本題に入ろうか。お前が相談事なんてよほどのことなんだろ」
「さすがはニートソース。お見通しというわけか…」
ニートボールの眼鏡が鈍く光ったのは目の錯覚ではあるまい。これはシリアスモードに突入するべきだな。
「早速だけど僕は恋をしてるんだ。口惜しいけど三次元の女にね…」
「なんてこった…」
俺は天を仰いでため息をつく。まさか裏切りと騙し合いが信条の三次元の女に恋をしてしまったとはな。これは厄介な相談事になりそうだ。




