第8話
俺には同志がいる。そう、同志だ。俺のようなニートの同志と言えば、勿論ニートである。その名はニートボール。名付け親は俺。本名はこの際問題ではない。俺の同志であるという事実、それだけで十分だ。
ニートボール。我ながら良いネーミングセンスだと思う。弁当で定番のおかずをもじって付けた名だが、名は体を表しているとは言い当て妙だ。奴はまさしくニートボールという名に相応しいニートデブだ。
ニートボールは俺と同じく上流家庭出身にして生活習慣病予備軍であり、ロリコン戦士でフィギィアを愛する孤高のデブ。奴のオープンスケベぶりとその潔い態度は捻くれた俺にとってはまさに癒し系。奴にだったらどんなゲスい自分も晒せるぐらいに心が繋がっていると断言してもいい。今日、そのニートボールが俺の家に尋ねてくるのだ。御大の話だと何か相談事があるらしい。まさかこのニートソースに相談したいことがあるとはな。親友から頼られるのであれば、真摯に向き合わねばなるまい。
「お兄ちゃん。何で私の時と違って部屋の掃除をしているの?」
「親友が訪ねてくるんだ。汚い部屋に招待するわけにはいかんだろう。そんなことも分からないのか?ていうか何故お前がいる?」
朱美は仕事が休みの日にはだいたい俺の部屋に入り浸っている。そして、相変わらずのテレビゲーム三昧。まさか俺に気でもあるのか、この女は?だが、所詮は社会人とニート。ロミオとジュリエット以上に俺と彼女が相容れることは無い。服毒自殺で心中なんて以ての外だ。
「お兄ちゃん、殴ってもいい?」
「俺はどMじゃないから謹んでお断りする。もし、殴ったら警察を呼んで傷害罪で訴えるぞ」
「ぐっ!マジで殴りたいわ…」
拳をプルプル震わせるな。お前は女版ブルース・リーか?全く暴力系ヒロインなんぞ夜のおかずにもならない。そういうキャラはどれだけ暴力を振るっても何故か逮捕されない二次元の世界だからこそ許されるんだ。失せろ、三次元。
「というわけで今日は帰ってくれないか。親友が俺に相談したいことがあるって訪ねてくるんだ。女がいては話がこじれてしまいかねない」
「はいはい、男同士の話に女はお呼びではないってことね。分かったわよ。その代わり次の休日に埋め合わせをしてもらうからね」
「何故埋め合わせをする必要がある?」という言葉は何とか喉奥に押し込む。これ以上言えば、マジで朱美を傷害罪で起訴する羽目になってしまいかねないからな。それにしてもこれはデートの誘いか?
「分かった。期待するなよ」
「期待してないけど、アニメイタやスイカブックスで過ごすなんてことは無しだからね。勿論待ち合わせが本屋というのも却下」
「何故だ!俺に退屈な待ち時間を味わえというのか!」
「お兄ちゃんが立ち読みする場所がエロ本コーナーだから問題なのよ!私にそこに行けっていうの!」
「分かった。ラノベコーナーで待つことにするからそれで手を打たないか?」
「はぁ、分かったわよ。ただし、全年齢対象のラノベコーナーよ」
「ちっ、仕方ない」
本屋での待ち合わせを認めてくれてるんだ。これ以上の望みは贅沢というものだろう。こうして俺は朱美には帰ってもらい、ニートボールの訪問を粛々と待つ。それにしても一体何の相談なんだろうかねえ。