第3話
ウェブニュース「ヤホージャポン」でキナ臭い記事を見つけた。それはチャイルドポルノ法案改正についてだ。チャイルドポルノ法案とは簡単に言えば子供の擁護するための法案であり、ニートライフを満喫する俺にとっては本来どうでもいいことだ。本来、ならだ。
「澄さん、チャイルドポルノ法案改正についてどう思いますか?」
夕ご飯タイムで御大と食事しながら件のチャイルドポルノについての話を切り出す。
「そうですね。私としては子供が守られるための法律だったら賛成なんですけど」
「本当に子供を守るための法だったら俺も賛成です。九十九、百、はい、交代です」
俺は百回混ぜた納豆を御大に渡す。今度は御大が百回納豆掻き混ぜる番だ。最近、インターネットで納豆は何百回も混ぜたら美味しくなると聞いたので御大と協力して千回混ぜたら美味しくなるかどうかを実験している。
「はいはい、ぼっちゃんは気に入らないようですけど、変態扱いになったりしませんか?」
御大にだけは変態扱いされたくはないと叫びたいところだが、日頃お世話になってる手前、何とか心の内に留める。ちなみに御大もホリゾンを利用してBL本を買って愛好していたりする。勿論名義はニートソースたる俺だ。そのお陰でホリゾンからBL本関連のお薦め記事がよく送られてきたりする。
「反対するだけで変態扱いというのが危険思想だと思いますよ。澄さんは俺が何故反対しているのかの理由をまだ聞いてないでしょ?」
俺はニートライフを満喫する中でエロ本やギャルゲーを買ったりして愛好しているが、それで誰かに迷惑をかけているわけではない。だが、このチャイルドポルノ法案改正はそれらの単純所持を罰則規定にするものだ。これは由々しき事態である。
「分かり易く言えば、澄さんが持ってるBL本を持っているだけで処罰される恐れがあるという改正案です」
「何ですか!私がその本を持ってるだけで子供達の権利が侵害されるというのですか!どうなんですか!ぼっちゃん!私は飽くまで…」
ミキサーのように高速で納豆を掻き混ぜながらBL本所持とチャイルドポルノ法案とは無関係であることを熱く語る御大。
「落ち着いてください。俺も詳しくは分からないんですけど、大学教授やジャーナリストがこの法案改正が通るとそうなってしまうということを聞いただけです」
「とにかく私がBL本を持っていることと子供の権利を守ることの関連性が全く持って理解できません。はい、二百、交代です」
早い。もう百回混ぜたというのか。げに恐ろしきは御大の腐女子魂。さてと、これで残る八百回。
「私は同志を募ってチャイルドポルノ法案改正の反対を呼びかけます。ぼっちゃんも協力してくれますよね?」
「それよりもチャイルド法案改正についてもっとよく調べてから改めて考えた方が良いですよ」
単純にチャイルド法案改正が漫画やアニメの表現規制と考えるのもまた問題有りだ。よく調べて讃えるべき点は讃え、懸念すべき点は懸念して考えるべきである。
「そうですね。早速新聞を読んでチャイルドポルノ法案改正について調べてみます。ご馳走様」
神懸かりな速さで食器を片づけてキッチンから去る御大。
「十、十一、十二…」
取り残された俺は一人寂しく納豆を掻き混ぜる。千回までの道のりはまだまだ遠いな。