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第27話

 拓也と別れてからというもの、俺の記憶は曖昧だった。ただ分かることはいつの間にか公園のベンチで新聞紙を布団にして眠りこけていたということだ。


「新聞紙も案外馬鹿にならないものだな」


 新聞紙は案外暖かかった。それにしてもニートが危惧すべき結末の一つ、ホームレスを僅かとは言え体験するとはな。まるでリアルでバッドエンド集のゲームの体験版をダウンロードしたかのような気分だ。妙な感慨に耽りながらも今後のことについて考えてみる。


「朱美とは擦れ違ったしまったし、どの面下げて家に戻れば良いのやら…」


 熱血ドラマのように町のレストランを駆け巡って、何一つ収穫無し。これがリアルってやつなのか。世知辛いもんだぜ。


「さてどうようかな」


 恥も外聞も捨ててニースパに直接会って朱美とのことについて聞いてみるかな。本人に会って決定的な敗北感を味わえば諦めがつくだろう。そして、俺は孤高のニートとなってニートの神に一生を捧げるのだ。最後には「我が生涯は悔い倒れ道楽じゃ!」と叫んで大往生するのも一興かもしれん。


「さて、いっちょ死んでみるか」


「何馬鹿なことを言ってるのよ!お兄ちゃん!」


 まさにリノリウムの廊下を歩く死刑囚のような気分で歩み出そうとした矢先、本来なら聞こえるはずのない声がふと耳に響いてきた。何だ?ついに幻聴が聞こえてきたのか?今後のニートライフはホスピタルで決定なのか。


「幻聴じゃないわよ。まったく、私との約束をすっぽかっしてベンチで新聞紙にかけて寝る男なんて世界中でお兄ちゃん一人だけだと思うよ」


「俺はいつだってオンリーワンだ」


 俺は返事に答えながら、声が聞こえた方向に向いてみる。そこには白いワンピースに薄い化粧を施し、美人度が三割増しぐらいになった朱美の姿があった。


「オンリーニートの間違いでしょ」


「上手いことを言うな。そう、俺はオンリーニートだ」


「馬鹿言ってないで、どうしてここにいるのか説明してもらうわよ」


 俺の軽口を一刀両断にして詰め寄ってくる朱美。仕方ない、ここは大人しく大往生しようではないか。そして、哀しみを知った俺は無縁ニートとして覇道を突き進むのだ。


「お前を捜すために町中のレストランを探し回っていたが、いなかった。だから途方に暮れてここでホームレスの体験版を堪能していたところだ」


「はぁ?ホームレスの体験版って…。それに何でレストランに行っていたの?約束した場所は本屋のラノベコーナーだったんじゃないの?」


「あっ」


 そう言えば朱美との待ち合わせ場所は本屋のラノベコーナーだったことを失念していた。

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