第26話
こいつは難しい。このお子様はあろうことか社会経験ゼロでニート・オブ・ニートである俺に人生相談を持ちかけてきた。これが見知らぬ野郎だったら「自分で考えろや!」と平然と突き放すが、拓也はゲームを通して戦友となった仲だ。無下にはできん。
「訳分からないか。なあ、拓也。お前はお父さんとお母さんのことは好きか?」
社会経験ゼロとは言え、漫画やゲームで培った経験ならば充実している。だが、人様の人生をゲームの知識で物を言わせて相談してもいいのだろうか?だが、このまま何もしないわけにはいかない。とりあえず、まずは傾聴しよう。
「そりゃあどちらも好きだよ。お母ちゃんは毎日美味い飯作ってくれるし、お父ちゃんはこの前、新作のゲームを買ってくれたし…」
子供のありふれた理由だ。だが、だからこそ両親の愛情を感じてるのだろう。
「そうか。だったらお父さんとお母さん。どちらの方が好きなんだ?」
これは難しい質問だが、敢えて問う。それによって拓也の本音を引きずり出すんだ。ポイントはこちらは決して答えを提示しないこと。飽くまで導いてやることが肝要だ。良かった、多少は俺にも相談スキルがあったようだ。
「そんなの選べない」
「ふむ、何故選べないんだ?」
「それは…」
それは「二人とも同じぐらい好きだからなんだろ?」っと言ってしまいたいが、ここで俺が答えを提示するわけにはいかない。さあ、心を解き放て、拓也よ。
「二人とも俺の親なんだ。片方を選べなんて無理だよ」
「そうだな」
答えを提示するべきだったか。拓也はまだ子供だ。これからの人生を左右させるような選択肢を提示するほど人生経験は深くない。
「選べないのだったら選ばなくてもいいさ」
「えっ?」
「もう拓也の中で答えが出ているんじゃないのか?」
拓也は理屈をこねて言葉に出来ないだけで本当は分かっているはずだ。両親に仲直りをしてほしいことを。
「理屈を考えるな。ありのままの思いを親御さんにぶつければいい。小学校の読書感想文や作文と一緒さ。思ったこと、感じたことを素直に言えばいい」
「けど、どうやって?」
「難しく考えるな。例えで言ったが、拓也の感じたことを作文にして親御さんに読んでもらったらどうだ?」
ノリで言ってしまったが、案外名案かもしれない。俺もニートソースと名乗り遙か昔、小学校時代では宿題として出された作文を親に読んでもらったものだ。
「作文?」
「親御さんに直接言うのが怖いんだったら自分の思いを書いて手紙として送れば怖くないだろ?」
「うん、うん!分かった!やってみるよ!ありがとう、僧州!」
拓也はすぐに立ち上がって走り去っていく。自分がやるべきことを見出したからなのだろうか素早い行動力だった。さすがは勢力溢れる子供だ。答えが見つかった途端に即行動とは、ヘタレな俺とは根本的に違うぜ。
「達者でな」
それにしても結局相談してしまったな。自分自身でも精一杯なのに何をやってるんだか…。ふと狙ったかのようなタイミングで冷たい風が吹き荒んできた。
「風が目にしみるぜ」




