第20話
優秀な家族、恵まれた生活、そんな環境の中で俺は全てに対して無気力になった。何もしなくても手に入れられる。だったら努力する意味はあるのか?だから俺はニートになって人生を謳歌する。贅沢極まりない環境下で育ち、高校時代で早くもニートの心意気を持った俺はニートボールとニースパと運命の出会いを果たし、ニートリニティを結成した。
俺は今、かつての親友であり盟友であったニースパとマツボックリでだべっている。テーマは女性関係、ターゲットは朱美だ。
「分からんじゃないだろ!きっと朱美さんは盛大な勘違いをしているんだ!そうに違いない!その勘違いを正すためにも原因を思い出せ!」
「あの頃の俺は真っ新な心を持つ少年だったからな。どうやって朱美にフラグを立てたのか皆目検討がつかん。残念だったな」
ギャルゲーや乙女ゲーを知らなかった俺は自分の言動や行動がどう朱美の好感度に影響を及ぼすのかを全く考えていなかった。だからこそ皆目検討が付かないと言えるのだ。
「何が真っ新な心だ!真っ新な心を持つ少年がニートの心意気を持つはずが無いだろが!」
「お前は全国のニートを敵に回した。ニートの代表である俺に謝れ」
「いつからお前がニートの代表になったんだ!ていうかお前がニートの代表だと名乗っている方がよっぽど他のニート共を敵に回しているわ!いいか、他のニート共全てがお前のようにただ享楽を求めてニートになったわけじゃない。熾烈な就活戦争に打ち拉がれ、無気力になって、いや、今はそんな話をしているんじゃない!お前話を逸らさせたな!」
「お前が勝手に説教を始めただけだろ」
やれやれ、ニースパは昔から怒りん坊だったからな。学生時代に馬鹿やらかした俺とニートボールはよくニースパに怒られたものだった。ニースパは不意に腕時計を見て、立ちあがる。
「ちっ、そろそろ時間か。まあ、お前がどう朱美さんを誑かしたか知らんが、もうどうでもいい。今晩俺は勝負を仕掛ける。そのときこそお前との因縁に決着を付けてやる」
テーブルに食事代を置いて、立ち去ろうとするニースパ。仕事の休憩時間は終わりというわけか。
「勝負とは一体何のことだ?まさかもう一度朱美にプロポーズするつもりなのか?」
「そうだ。俺はもう一度朱美さんにこの想いを伝える。どのような結果になるにせよ、これで俺とお前の因縁に決着が付くことになる。お前はどうするつもりだ?」
ニースパは不敵な笑みを浮かべて俺を見据えてくる。なるほど、これは決闘というわけか。だったら応えねばなるまい。
「俺は明日、朱美とデートをする約束をしている。今晩朱美に逢ったら伝えろ。もし、ニースパのプロポーズを受けたのであれば俺とのデートをキャンセルしろとな」
俺も立ちあがってニースパを見据える。俺はニートである以前に男だ。ニースパが本気で勝負を挑んできたのであれば受けねば男が廃るだろう。
「伝えよう。あのときは負けたが、次は俺が勝つ。覚悟しろ、ニートソース」
「望むところだ、ニースパ。全力で本屋で立ち読みしながら朱美を待ってやる」
こうして俺とニースパは過去の因縁に決着を付けるため、朱美を賭けて勝負をすることになった。




