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12ヶ月

11月の少女

作者: 山側 森



誰もいない夜でした。


いや、誰もいない場所と日を選んだ夜でした。


もうすぐ師走の字の通り


慌ただしさ溢れる昼とはかけ離れた、ひとりだけの。


少女は丘の上でベンチに座って上を向いていました。


夜風が優しく頬を撫でます。


月が静かに姿を照らします。


柔らかい頬に、冷たい何かが流れます。


ずっと我慢していたのに。


そのために上を向いていたのに。


ひとつ流れると、もうだめでした。


ひとつ、


またひとつ、


次から次へと溢れてきて止まりません。


見える涙も


見えない気持ちも


どうにもこうにも止められないのです。


見える涙も


見えない気持ちも


確かに少女のものであるはずなのに


何一つ止められないのです。


「大切なものほど、自分で動かせないんだわ」


ぽつり、少女が呟きます。


ぽたり、


またぽたり、


ブラウスが濡れてゆきます。


風がそれを聴いていました。


月がそれを見ていました。


「そろそろ行くよ」


風がぐるりと少女を一周します。


「そろそろ行くよ」


月がゆらりと傾きます。


「みんなこうして、離れてゆくんだわ」


ぽつり、少女が呟きます。


ぽたり、


またぽたり、


スカートが濡れてゆきます。


「横を向いてごらん」


月が言って去って行きました。


見えない風と


見える月の後姿を


しばらく探してしまってから


少女は横を向きました。


「おはよう、お嬢さん」


少女を橙色に染めたのは


大きな


大きな


太陽です。


目を閉じて


顔だけ太陽に向けました。


頬が乾くのを感じました。


ブラウスが乾くのを感じました。


スカートが乾くのを感じました。


「そういえば」


手のひらで抱えていたのは水筒。


コップから湯気が出ます。


ひとくち飲むと


なんだか、ほっとします。


「おはよう、太陽さん」


少女は


もう少しで


ぽかぽか



なることでしょう。。。






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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは。僭越ながら感想を述べさせていただきます。 少しずつ、瞼を開くように情景を練り上げていくところはすばらしいと思います。訴えたい思いが明確で、しっかりとぶつかってきます。 この中に…
2013/05/05 18:42 退会済み
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