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夜の校舎

作者: パンター

二作目は正道のホラーでやろうと思いました。

いかかがですか?

 親と喧嘩した。理由は些細な事だった。それで勢い余って家を出てきた。

 しかし、行き当たりばったりだったので何の準備もない。金も千円一枚に百円と十円が数枚財布にあるだけだった。

 夕飯を食わずに来たから腹の虫が鳴る。

 空腹に負けてコンビニで弁当と緑茶のペットボトルを買う。それを持って学校に向かった。

 夜の学校には侵入者対策として警備会社と契約してセキュリティシステムが設置されている。

 本来ならフェンスに触れて乗り越えるとセンサーが反応して警備会社の監視室の警報が鳴る。

 もちろんフェンスを破れば警察へ直通で連絡される。

 だがここの生徒だけが知る抜け穴があるのだ。センサーをくぐり抜け学校と外を行き来できる秘密の通路である。そこから校内に入り込んだ。

 校舎に入るのは簡単だ。一階の廊下側西の端の窓が割れているため木製の板で塞いでいるが外せるのだ。もちろん板にセンサーを付けられないのでそこから潜り込めば問題なかった。

 ちょうど廊下に着地した直後、雨が降りだした。天気予報は正しかった。でなければコンビニの前で一夜を明かす気だったのだ。

 別に友人がいないわけではない。友人の家に上がりこんで一夜ぐらいは泊めてくれるのは間違いなかった。

 だがそれでは必ず親が見つけてしまう。今頃親は知りうる限りの友人宅に連絡していることだろう。

 だからこそ、見つけられない場所に行きたかったのだ。

「どうせお前なんか、親の目の届く世界の外に出る勇気などないくせに…」そう言われたのだ。

 確かにそうだが、それでもささやかな抵抗はしたかったのだ。それで思いついたのが学校だった。

 まず向かったのは保健室だった。ベットがあるからである。硬い床の上で眠る気はなかったのだ。

 しかし扉には鍵がかけられていた。恐らく職員室のどこかにあると思われるが、職員室はセキュリティ用のセンサーなどが厳重に仕掛けられているだろうから、下手に侵入して警察のお世話になるわけにはいかなかった。それこそ親に笑われるだけだ。

 結局は入れたのは一般教室だけだった。特別教室は全て鍵がかけられていた。一階では万が一外の人間に見られる危険があるので、2階の東端の教室で一夜を過ごすことに決めた。

 だがあまり居心地が良くはなかった。日中の生徒が溢れている教室では感じない空間の広がりと静寂を一人だと改めて認識してしまう。つまり闇に包まれた広い空間に恐怖していたのだ。

 校庭側の窓際、教室の後ろ側に膝を抱えて座り込んだ。

 それほど勇気があるわけではなかった。こんな闇の中で平気でいられるほどの豪気を持ち合わせていなかった。だから目を伏せてアルマジロのように丸くなっていた。

 だから、これから起こることは耳から入った音で聞いたもののみである。

 時間を知りたくて携帯を開いた。午後10時33分。直ぐに目を伏せたその直後。

 廊下の方から異音が響いてきた。

 キィー。キィー。何かを引きずる音。それが遠くから近づいてくる。

 そして人の声が、叫び声が聞こえた。

「かねさだはかくされた。どこにきえたきれいなほたる。あわれねねちゃんかわいそう」

 男性の声に聞こえた。たぶん老人。大音量のしわがれた声が廊下に響いていた。

 こんな時間に誰が校舎内にいるというんだよ。しかも老人だ。

 ガラ。教室の引き戸が開かれる音だ。静かなのでよく聞こえるのだ。

「ここかあ。ここかあ」

 教室の中に入って徘徊しているようだ。

 まずい。徐々にここへ近づいてきている。

 ガラ。

「ここかあ」

 ついに隣の教室まで来てしまった。どうする。逃げるか。今なら教室の中にいる。

 意を決して後ろの引き戸を出来るだけ静かに引いて戸を開けた。そして。

 全力で走って逃げた。隣の教室を見る勇気などあるはずもなかった。

「ねねかあ。ねねかあ」

 後ろで何者かが叫んでいた。だが無視した。

 まともなものがいるはずがない。いるのはいてはならないものだ。

 そんなものにかかわってはいけない。

 一気に階段を飛び降り一階の廊下を西端まで走った。

 そして板を外し入ってきた窓から外へ出てきた。

 だが脇目も振らずに校舎を離れた。裏門そばのフェンスの隙間まで来てようやく校舎を振り返って見た。

 二階の廊下側の窓に何かを見た。ちょうど昇降階段があるところだった。

 人型の白いもや。それが闇の中にありながらはっきり見えるのだ。そして目の位置に輝く二つの赤い光点。

 やはり、人ではなかった。

 それが分かった瞬間、家に帰ることしか思い浮かばなかった。一目散に学校から逃げ出した。

 午前0時を少し過ぎた頃、家に帰りついた。

 父親が玄関で待ち構えていたがもうどうでもよかった。

 小言を聞き流し、何度も頭を下げて自分の部屋のベッドに倒れ込んだ時、午前1時を30分ほど過ぎていた。

 寝ようとしたが、あの声がまだ耳元に残っていて眠れなかった。

 あれは一体なんだったのか?学校にそんな怪談話があるなんて聞いたことがなかった。

 翌日眠い目をこすりながら学校に登校し、クラスメイトに聞いてみたが手がかりがなかった。

 だが一つだけクラスメイトの図書委員が他のクラスの図書委員に聞いた話に興味深いものがあった。

 それはこの学校が建てられる前だから30年以上前、ここには精神病院が建っていたらしい。

 その頃この病院ではまだ非人道的な治療法が試されていたらしい。

 脳内部を引っ掻き回し廃人同様になった患者もいたとか。

 全部憶測の域なのでらしいとしか言いようがないものばかりだが、このロボトミー化手術された患者の中にねねという少女がいたらしい。(ねね!だと…)

 その少女には兄がいて妹をとても溺愛していたらしい。彼は何度も病院から妹のねねを連れて逃げようとしたので精神異常者に認定され、彼自身脳をいじられた。

 妹は兄が入院した半年後病室で自殺したらしい。もしかしたら別の理由かもしれないが、とにかく死んだのだ。

 それ以降兄は病院を隅から隅まで徘徊して妹を探していたらしい。死ぬまで。彼もまた死因は不明である。

 そんな悲劇があったと過去の新聞のデーターバンクで見たというのだ。

 断定出来る要素がない。だが間違いなく見たのだ。

 この話は今日まで話していなかったが、今ここにいる以上逃れられないよ。

 ようやく意を決して確かめる決心を固めたのだ。君も覚悟を決めてくれよ。

 ホラー研究会会長なんだろ。だからここまで来たんだろ。

 ほら、聞こえてきたぞ。何かを引きずる音。

 そしてあの声が聞こえてきた。

「ねねはここかあ?」

 覚悟を決めたか。では行こうか。扉をあけるぞ…

 深夜の校舎内に悲鳴が反響したが、誰も聞く者はいなかった。

 

恐怖の本質は得体のしれないものと遭遇することですね。それを目指しました。

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