第八話 医療棟
私たちはそのまま、救国騎士団の領域を歩いて、医療棟に向かった。
道中に同じ救国騎士団の団員らしき人たちと会った。皆、挨拶をしてくれる上に別に邪魔と思っているとは思えない。帝国にいた時と比べると一目瞭然であり、やはり団長の言っていることは正しいのではないかと思い始めた。けれど、救国騎士団に入ったとして私は何をするつもりなのかはわからない。
そう考えているうちにすぐさま医療棟に着いたようだ。特に何の変哲もない赤十字があって病院と一目でわかるようになっている。
「では、中に入りましょうか」
アネモネに言われて中に入る。扉は軽く、すっと開いた。中に入ると、今日起きた時と同じ匂いが鼻に入った。やっぱりあそこは医療棟のどこかで間違いなさそう。中では忙しなく看護師らしき人たちが働いており、病人らしき人も意外といた。生活水準がある程度高くても病気にかかってしまう人は多いのかもしれない。そんな中一人だけ見たことある人がいた。
彼女は車椅子に座っており、重傷を負っていることは間違いなかった。ピンク髪を垂らしている後ろ姿が少し寂しく悲しい気持ちになってしまう。彼女は扉が開く音に反応してこちらを向く。しかし、車椅子なためかなり振り向くのが遅かった。こちらを見るや否やすぐさま近づいてきた。
「あ、シアハちゃん~。よかった、無事に生きてこれたんだね。」
「ラニウリさん。私はもう大丈夫ですけど、それは....」
車いすに、座っていてその足は様々な器具で固定されていて、もしかしたらもう足が使えなくなってしまったのではと推察してしまう。だって、彼女は治癒のレゾナンスを持っていてしかも先天性。それの強烈なレゾナンスで治らないと考えると足そのものが壊れてしまって修復不能になってしまったのではと考えてしまう。
「あ~...足のことなら心配しないで。今は負担かけたくないから車椅子なだけだって。」
「それならいいんですが。」
どう見ても嘘をついているように思えてしまう。だけど、本人がそう言っているのだから私にできることは少なく本当になると信じて待つことしかできない。最初に治療してくれた人だから私もなんとか助けたいと考えるけれど私の知識の中に壊れた足を戻すことはできっこない、管轄外すぎる。
「そうそう。シアハちゃんたちは今何しているのかな。」
「こんにちは、師匠。今は団長のご命令の元シアハさんに救国騎士団の案内をしているところです。」
彼女の代わりぶりにびっくりする。突然、団長にむけるような敬語を使い始めた。もしかして、思った以上に高位の役職についているか。エリートオペレーターが相当高位の役職か。
「そんな畏まらなくたっていいから。」
「それでも、師事してもらっている身としてはそうしたいのです。」
「まあまあ、ちょっとくらい大丈夫だって。そうだ。ちょっとだけアネモネちゃん借りるね。」
そういってラニウリさんは手招きするようにアネモネを連れて行こうとする。ちょっと嫌そうにしている彼女が初めて会った時とは違うように見える。どうも、ラニウリさんに振り回されてきたように思える。
「すいませんシアハ。少しだけ待ってもらえますか。」
「うん、大丈夫だよ。」
「おう、いない間に周辺のことを話しとくぜ。」
「ありがと、師匠早くいきましょう。」
そう言ってアネモネはラニウリさんの車椅子を押してどこかに行ってしまった。まあ、なんとも自由人であるなとは思うけれど元気そうだったな。そしていると隣にいたガベーラントがこちらを見ながらどこかを指さしていた。
「次はあっちにいこうぜ。軽傷の人とか訓練でケガした人んところに、たぶん知っている人がいるからな」
「わかった。」
ガベーラントにそう言われて付いていく。職員以外立ち入り禁止のように思えるところに行こうとするけれどガベーラント曰くまあ大丈夫だろといわれていたためそのまま行くことに。
「おう、ガベーラントじゃねえかどうしたまたぼこされたのか。」
そう気軽に言っているのは見たことない人であった。かなり鍛え上げられた体つきをしており、いかにも強い戦士であることを表しているかのようだった。
「そういうわけじゃないって。今回なんと俺が案内を任されたってんな」
「おうおう、でかい気になって。」
「あの~」
めちゃめちゃ置いてけぼりにされている気がする。それと案内を任されたといわれているから。私が特別に案内を許可されているわけではなさそう。それはよかった、団長には迷惑になっているのではないかと思っていたから。
「おっと、初めましてお嬢さん。突撃隊隊長のベルデルタだ。普段は訓練兵の指導を担当している。」
「初めましてベルデルタさん。私はシアハ。団長にお願いして見学のようなことをさせてもらっています。」
「そうだ!ちょうどいいじゃん。ベルデルタ隊長、救国騎士団の部隊編成について教えてくれませんか。」
「話せる範囲でな。」
ベルデルタさんはそう言ってある程度、救国騎士団について話してくれた。大体は医療部門が研究と実地で分かれていて、戦闘部門が偵察、突撃、防護、支援に分けられていてそれぞれさらに細かい分類があるがそれは団に入ってからと言われてしまった。
「そうそう、話はガベーラントから聞いている。こいつもおんなじ境遇だったからな仲良くしてやってくれ。」
「ちょっ、隊長。おせっかいっすよ。それは」
「まあ、慌てんな。あとあんまりここにいるのはよくないかもな。その手袋の中は誰にも見せないほうがいいだろう。それだけ覚えてもどりな。」
「ちょっと!」
手で追い払うように退出することを促してくる。まあ、仕方ないところはあると思う。どこでもノーム汚染された人はある程度忌避されているものだから。デリカシーがないと言われればそうであるが医療を行う場所であることは相違ないことであるから。そんな場所に病気を持ったしかも、ノード持ちとかいう最悪の病気を持った人間だからかな。
「すまん!!あの人のことは悪く思わないでくれ」
「まあ、仕方ないよ。私がノードを持っていることは事実だし。」
頭を下げながらそうってくれるのはうれしい限りだが、エントランス近くの人がいるところでそれをされるとちょっと気が引けてしまう。申し訳ないと思っていることは確かだろうしそれに善意での忠告だろうから気にしてないのに。
「ところでさ。」
「何?」
「あの人の言っていた。私と同じってどういうこと聞いてもいいかな。」
「あー...まあいいか。教えてもいいぜ。」
最初は戸惑いを隠しているように思えたが何かで吹っ切れたのか話すことにしたっぽい。けれど、それはまさに私と同じように帝国関連のお話だった。
「俺はな、最初は帝国の辺境の村で暮らしていたんだ。けれど、ある日突然、悪しき亜人を殺してやるとか言って両親が殺された。そのあとは帝国の奴隷として働かせられていて。それで国境付近に飛ばされたんだけどその時に国境近くの灰生物によって数多の兵士が殺されてたくさんの奴隷が逃げ出した。おれもその一人ってわけ。けれど、そううまくはいかなかった。救国騎士団に救われなかったら俺はきっと灰生物の腹の中だったよ。」
話しているときはなんだか懐かしそうで悲しそうで、聞いていいことだったのか何も分からなかった。彼の顔からは後悔も、何もなくただあったことを話しているように思えた。
「まあ、なんだ。最初はさ、誰しも他人で信じきれないことばかりだけど手を差し伸べられてそれを取ってそれで互いを信じてここまで何とかなった。」
「そっか。そうだよね。でもさ、ガベーラントは帝国に恨み持っていないの?」
そう言うと彼は誤魔化すように笑った。
「まあ、ないと言ったら嘘になるぜ。だがな、もう変わんねえ。なら気にすることが馬鹿らしくなるぜ。いつか」
「そんな簡単に割り切れるようになるものなの?」
「ああ、ここに来ていろんなことを体験してきた。ま、アンタも気づいたら変わっているよ。」
黙ることしかできなかった。帝国にあれほど酷いことをされてきたにもかかわらずこんなに立派に思える考えを持っている。いったい何があったらこれほどの心境の変化が訪れるのか。そんなことを考えていると後ろから声をかけられた。
「お待たせシアハ。すいません、いつも師匠はこんな感じなんですわ。」
「お疲れ様」
「おつかれ」
「ええ、少し予定がズレてしまいましたから早めに次へ行くとしましょうか。」
「次はどこに行くつもりなの?」
「次は訓練所ですわ。」




