第五話 救国騎士団
騒がしい声によって私は目を覚ます。あたりを見渡してみると、カーテンのようなもので遮られていて、村の診察所のような場所と似ていた。けれども、変わっていたところはその特徴的な匂いだった。消毒剤の匂いというか、違和感があって、診察所ではないことはわかった。服は替えられており、白い病院で着るような服だった。たぶん、ラニウリさんが言っていたちゃんとした医療設備のある施設なのだろう。
ひとまず、外に出ようとしてみる。出入口らしき場所にあるカーテンを開けてみるとそこは白衣を着た人と慌ただしく働いている看護師さんがいて、ここが村の診察所でないこととますますどこかがわからなくなった。もしかしてだけど、救国騎士団のところなのかなと思っていたところに見覚えのある茶髪の女の子がいた。
多分、ルスベリー先輩かなと思っていたところに彼女が振り向いた。驚きの表情を隠さずにこちらに早足で来てくれた。
「よかったです。2日も目を覚まさなかったんですから。」
「2日も?」
「そうですね。また、助けられないかと思いましたよ。」
「えぇ、」
2日も寝ていたことにすごく驚いた。だって、起きたときに気怠さがなくって、なんでこんなにも気持ちがいいのだろうかとおもってしまったことがあるから。そうだ、また?ってことはもしかしてだけど。
「また、ってことはもしかしてラニウリさんは」
「あー、大丈夫。ラニウリさんは大けがで済んだので死んではないですよ。」
「え.......。でも死んでいないならよかったです。」
「そうですね。死んだらそこで終わりですから。あの状況で生きているだけ嬉しいですよ。」
どこか、悲しい気持ちが抑えられていないのか。それとも、あの時に先行していなければよかったのか。そんな後悔が見える表情だった。あの時、私も助けようと必死だった。けれど、私にはラニウリさんを助けられるほどの力がない。それゆえの無力感が心から抜け落ちない。
「誰かに生きていてほしいと願うばかりなのですよ。ラニウリさんのように治癒のレゾナンスを使えないですから。」
「やっぱりそうなんですね。」
「あ、やっぱりわかります?特徴的ですし、わかりやすいですよね。」
「はい、でも先天性のレゾナンスを扱える人は珍しいですね。」
「そうなんですよ。彼女は本当にすごい人なんですから」
胸を張って自慢するようなルスベリー先輩はとてもかわいらしかった。それと同時に、ラニウリさんではなく私だったら。もしかすると死んでしまってラニウリさんの治癒すら効かない可能性があったのかもしれない。自慢するルスベリー先輩は突然思い出したかのように体勢を変えてこちらに視線を向ける。
「て、そんなことより大事なことがありました。団長からシアハが起きたら部屋に連れてくるようにって言われてました。」
「団長って最初に灰生物を倒してくれた人?」
「そーですよ。ちょっと怖そうに見えますけど、結構いい人ですから心配はいりません!」
「どうしてでしょうか?」
「そうですね...おそらく、あなたの処遇を決めたから呼んでいると思われます。」
「ってことはもしかすると」
悩む動作を見せていたからもしかしたらどこかに自分で頑張ってくださいみたいな感じにされるかもしれないという恐怖。帝国に引き渡されるかもしれない恐怖。私には一人で戦い抜くだけの力がない。だれかに助けてもらわないとこの厳しい世界では生き残れない。病気を抱えているのもそうだけど、この町の外に出ようとすると灰生物の恐怖に晒されてしまう。
「基本は救国騎士団の経営している孤児院へ行くことになると思うので心配する必要はないですよ。」
少しホッとするけれど、まだ胸を刺すような不安から逃れられることはない。残酷なまでに厳しい世界では戦う力なしでは生き残れない。待って、じゃあ私は何でここまで生き残ってそして知識がある程度あるのかな。誰かに育ててもらったと思うのだけれど、思い出そうとするほど記憶があいまいになってしまう。
「怖いですか?」
「え」
悩むようにうつむいているとそこに覗き込むようにルスベリー先輩の顔が飛び込んでくる。不思議そうにこちらをみていてその綺麗な目に固定されるように眼が離せなくなる。見透かされたような感覚に見舞われる。
「確かに私は...これからどうなるかまったくわからない。」
「それでも、前に進まないと何ともなりませんよ」
彼女の眼には私はどう映っているのかな。怯えるような少女に見えると思っているのだけれど、ルスベリー先輩からは私はまだ何物でもないのにも関わらず、前に進める人間であると思っているのかもしれない。
「まあ、迷っていても仕方ないか。先輩、案内よろしくお願いします。」
「はい!ちゃんとついてきてくださいね。」
そういって先輩は私の手を引いてここから連れ出してくれる。外に出て、ふと何かを思ったのか手を放してこちらに振り向く。
「そういえば、言ったことなかったですね。”ようこそ、救国都市へ。我々はあなたを歓迎しますよ”」
外に出て、美しい白い石材の建物が並び立つ街並みを背景に、さらさらした髪の毛をなびかせて、後ろに腕を組むようにこちらに振り向く。その風景はとても、きれいで、この世界では儚い景色だった。いつまで、この景色を維持できるのだろうか。そんなことを考えてしまうと同時に、救国都市の強さを知った気がする。
「ありがとうございます、ルスベリー先輩。」
「そんなにかしこまらなくてもいいですよ。」
「そういわれましても...」
「大丈夫ですよ遠慮はいりませんから。行きましょ。」
そう言って私を連れて、鷹の装飾が施された豪華そうな建物に連れて行ってくれる。遠目からみても何かしらの高貴な人間がいるであろうと推察できる建物だったから、団長がいる本部みたいな場所なのかな。




