第四話 急転直下
眠くなりそうになっていたところに天から落ちるような強烈な悪寒を感じた。震えて止まらない。何かが起こると。予想は的中した、ばたばたとした人が急激に接近してくるような音がした。
ドアを思いっきり開ける音とともに軽装の兵士がやってくる。慌てている様子で、焦燥感に駆られているような表情だった。
「ラニウリさん!緊急の連絡です。村付近に灰人が表れたとの報告がありました。」
「灰人が!数は」
「5から6体ほどと予想されます。」
「まずいね。奴らのレゾナンスは何?」
「おそらく火属性と思われます。外で火災が起きたときに匂いがしましたので」
「ラニウリさん、私が食い止めますから、その間に避難の準備をしてください」
「だめだよ、そんなことしちゃ。いくらルスベリーが強いからって絶対はないんだよ。」
「言い合っている暇はないので、先行しますよ。」
「だめだって」
そういってルスベリー先輩はかけ出る。腰に剣をぶら下げていたから戦えるのは間違いないだろう。そして、一刻を争う緊急事態であることは理解した。心配なのが人を媒介にした灰生物でレゾナンスが強化されるからそれによって包囲をすり抜けられたら最悪だ。けれど、そんな強い灰人はすごく珍しいはず。
「怪我人の運搬が先かな。君は救難信号を打ち上げてきて、後ルスベリーが突撃したからフォルカル隊長に灰人の対処を、って思ったけど多分しているから参戦して」
「はい!」
伝達に来た兵士はすぐに外に出て行った。周りの空気も悪くなってきて、不安感が募る。このままでは私はまた抵抗することなく死んでしまうのだろうか。あの時に団長が助けに来なかったら私は灰生物に殺されていた。今回もまた誰かに助けてもらわなければ死んでしまうのか。
無力感に苛まれて、自己嫌悪をしてしまう。それでも、なにか動けることはないかと考えてみる。
「ラニウリさん、何かできることはない?」
「え」
意を決してそういってみる。ちょっと後悔してしまったかもしれないけれど何もできないよりはましと思って。ラニウリさんの驚いた表情から今自分はどんな顔をしているのだろうと勘ぐってしまう。
ラニウリさんは少し考えるふりをした後にやさしい表情に戻った。
「そうだね。私と一緒にここの人を運ぶ手伝いをしてもらおうかな。」
「わかりました!」
何かラニウリさんの役に立てそうなことをできてうれしさがあるとともに早く動かないとなって気持ちでいっぱいいっぱいだった。
素早く行動するラニウリさんについていくのに必死で考える暇なんてなかった。
「シアハちゃん、すごいね。よく動けるよ、私が君のころなんで隅で震えてたしな~。」
そんなこと言いながらめちゃくちゃ手際よく準備を進める姿には脱帽する。
「そんな、私はできることをしたいだけで」
本当に心から思ってしまう。謙遜とかでもなく、まだ何もできていない私が誰かのためになるなんてと思う。それでも、周りは暖かい目で見てくれてなんだか子供のように扱われている気がする。結構、子供じゃないと思っていたんだけどなあ。
「あと、この子だけでおしまいかな」
そういってラニウリさんは小さな女の子を抱えて戦闘していない西の門へ向かう。どうやって集めたのか知らないが何か灰人の習性でも使ったのか東側にすべて集まっており戦闘の怒号が鳴りやまない。
これでやっと落ち着けると西の門側で待っていたところ。ラニウリさんの後ろから人影が見えた。まだ逃げ遅れた人がいたのかなと思ったが違った。奴は灰生物と同じように身体に赤い液体を纏い。燃え盛るような手を持って、かろうじて人型であることがわかるほどに身体の崩壊が起こっていた。それほどに異形になり果てているのにもかかわらず素早い動きを体現している。すり抜けられたのか灰人と言われていたであろうやつがいた。
「やば」
灰人はラニウリさんに飛び掛かるように襲う。危険で、今すぐにでも助けるべき状況。しかし、彼女も伊達にこの騎士団にいるわけではない。女の子を抱えながら灰人とすさまじい速度で距離を離そうとする。
しかし、奴は一度止まり視線をあたりに飛ばしながら力を籠める動作をする。
視点の定まらないうつろな目でありながら、鋭い眼光から殺意が伝わり、あいつがしようとしていることが分かった。奴の手には炎が集まり、不思議なことに槍となる。背を向けて逃げているラニウリさんに向かって投げるような動作をする。
「やっべ」
小さなつぶやきが聞こえた。私は体を動かす。それでも足りない。あの槍からラニウリさんと女の子を守るには力もなにも足りない。それでも私は身体を動かす。動けって言っているのに速度は出ないし、届かない。このまま、見過ごすのか。
なんでもいいから、届いて、あの二人をどうか守って。祈りを捧げても無情にも何も変わらない。
身体を捻って直撃を回避したが、両足がボロボロでこっちまで歩くことはかなわない。せめて、担いであげて逃げれたら、と思ったけれど灰人は非情で次の槍を投げようとしていた。
気づいたときには走っていた。助けられたお礼すらいえないのは嫌で、もしかしたら二度と言えないかもしれないと考える。
「届け!!!!」
誰でもいいから、あの二人を助けてなんでもいい、助けてあげてよ。
「痛ったッ」
無情にも命中してしまうが、即座に何かに包まれるような光によって重傷を回避している。ラニウリさんの先天性のレゾナンス?致死に近い攻撃を消し飛ばすほどの回復能力を有していることはわかるけどまだ奴は倒れていないし動かなければと思った。しかし、ラニウリさんを助けたのは私ではなく、灰人の胸に突き立てられた黒い直剣によって奴は絶命したと思われる。灰人を後ろから刺したのはさっきまで東の門で正面戦闘していたルスベリー先輩だった。
脅威が去った衝撃だったのか、私はその場で力尽きるように倒れてしまった。意識が遠のく感覚と誰かに呼ばれる声が最後に聞こえた。




