第三話 ここはどこ、私は?
真っ白い空間に飛ばされた。何も見えないような空っぽな空間。それなのに視線を感じるし、それに声が聞こえる。
「シアハ、もう自分のために生きなさい。誰かのためでもなく自分のために」
突然、体が宙へ舞う感覚に襲われて、飛び起きるように目が覚めた。昨日は監禁されていた部屋で寝たはず。記憶があいまいになっている。
むしろ、落ち着く部屋だった。木でできた壁に、自分にかかっている毛布を見ると手触りがよくいい素材で作られていそうだった。それに、仕切りのようなカーテンで周りと遮断されており、疑似的に個人的な空間になっている。
パニックになっていた頭が、少しづつ明瞭になってくる。
そう認識するのに幾ばくかの時間を使った。ここはどこか確かめるために一度外に出ようとする。足がとても痛かったがよくわからない場所にいるよりはましだと思った。
外に出るとそこはベースキャンプではなくどこかの村であった。ぽつぽつと家が建っていて、家を出て正面にあった噴水を囲むように家が建っていた。その噴水のところにラニウリさんとルスベリー先輩がいた。おそらく、ベースキャンプからここに移動してきたのだろう。意識を失っている間にかなり移動しているみたい。
こちらに気づいて二人とも近づいてくる。ラニウリさんのほうは急いでいるようにも見えた。
「大丈夫。シアハちゃん。」
「大丈夫ですよ。あの時と比べたらどんな時もへっちゃらですから」
「ダーメ。そう言って無茶するとすぐに死んじゃうかもしれないんだから」
そういわれて強引に元居た建物に戻される。結構、力強くて引っ張られるけど悪意があるようには見えなかったし何より優しかった。
「ルスベリーちゃん、抑制剤持ってきてくれない。」
「了解しましたー」
「抑制剤?」
何かを抑えるためのものっぽいけど何なのかはわからない。頭にはてなを浮かべたまま元居た建物のベッドに連れ戻される。ラニウリさんにちょっと待ってと言われておとなしくベッドで待っていると何やら薬っぽい何かを持ってきてくれた。ノード抑制剤かな、両手がノードで侵されているからだろう。
「はいこれ、ノード抑制剤。これがあるのとないとではノードの進行度合いが違うからね」
「ノードを抑制ってほんとに?」
あれ、私の知識だとノードを抑制しようとする薬って高かった気がするんだけど。誰かもわからん奴に使っていいのかな。高いことだけは覚えているんだけど。
「もちろん!ノードって元をたどればノームオイルっていう物質から人に感染したもので、最近だけど何とか抑制することができるようになってきたんだ。」
「ただそれでも……」
私の不安が顔に出ていたのかラニウリさんは慌てたように取り繕う。しかし、後ろからルスベリー先輩が出てきた。
「ラニウリさん、嘘はよくないですよ。シアハさん、残酷だけど聞いてください。”ノードにかかった人は10年以内に必ず死ぬ”。そして、死んだ後にすぐに灰生物いわゆる灰人になってしまいます。」
「...まだ何もしていないのに」
「ちょっとルスベリーちゃん。こんな小さい子に何てこと言うの」
「でも、真実を知る権利は彼女にはあるはずです。」
「そりゃそうだけどさ」
二人とも喧嘩のようなことをしていてちょっと居心地がわるい。けれど、なぜ帝国から捨てられてしまったか。それは、感染者がいること自体、抑制剤なしではいつ爆発するかわからない爆弾のような存在。だから、手放すしかなかったのかな。廃棄場も、感染者を殺してしまったら、灰人になってしまうから自然に死ぬことを祈るしかないんだ。けれど、あいつが言っていたのは皇帝が変わったから私を捨てたように聞こえた。じゃあ、前の皇帝は爆弾を抱える覚悟があったのか?あの時は生きるのに必死でノードにかかっていることには気づけなかった。
「シアハちゃん、1つだけ守ってほしいことがある。それは人前では必ず手袋をつけること。」
「手袋をつけていると疑われることもあるけど感染対策でつけている人も多くいる。ゆえに、手袋をしているとかなりの確率で普通に接してくれる人が増えるはず」
「ここ、救国騎士団だったら結構寛容な人が多いけれど一市民とかになってくるとそういうことに敏感な人もいるからね」
「必ず、手袋を付けること。わかりましたか?シアハさん」
「うん、わかった」
私はただただうなずくことしかできない。この病がいつか治るといいなと思ったけれど、ルスベリー先輩の言い方的には治ることはなさそう。でもまだ十年くらいあるのならできることはあるだろうと思う。それと、救国騎士団ならと言っていたけれどもしかすると帝国では禁句に等しい排除すべき存在なのかもしれない。
静かにそう思って、胸に刻む。
「ごめんねシアハちゃん。こんな暗い話しちゃって」
「大丈夫です。それに今までなんでこんな目にって思っていましたけれど。この話を聞いてなんか腑に落ちるっていうか納得したっていうかなんか落ち着きました。」
「そっか、強いねシアハちゃんは」
そうラニウリさんが言って抱き寄せられた。ふんわりとした香りと人肌の暖かさに包まれて、なんだか泣きたくなってきちゃった。こんな目に合わせてきたのはあの病気のせいだったんだって納得してもどうも割り切れそうにない。
私は身を委ねるようにラニウリさんに身体を預けて、目を閉じる。そうすることによって落ち着ける。
眠くなりそうになっていたところに天から落ちるような強烈な悪寒を感じた。震えて止まらない何かが起こると。予想は的中した、ばたばたとした人が急激に接近してくるような音がした。




