第八話 ユウとミナミの出会い パート2
いつも読んでいただきありがとうございます。
第八話は、ミナミの実習の日々と、ユウという人間が少しずつ見えてくる回です。
「翌日、わたしは自信満々にレポートを提出した。
そしたら、昼休みにはフィードバックがあると呼び出されたの。
添削があまりに短時間だったから、これは上出来だ!ってふふんと鼻息荒くしてユウさんのところへ向かったの。
そしたら帰ってきたレポートが、、、、まるで唐辛子を塗ったように真っ赤っか!
私は目を見開いて(えええええ!)って顔してたと思う」
「ぷっ。ふふふ」アリスは笑いを堪えられなかった。
「ほんとに恥ずかしかった、、、けど、フィードバックは本当に凄かった。学生の私にもわかるように、丁寧で分かりやすくて、翌日の再提出のときに、「うん、よく出来てる。僕が伝えたことをしっかり解釈して、想像より上だ」って言ってもらえて、とても嬉しかった。
それから、、、
「おう!ミナミ!来たなあ!先生!こいつが俺の彼女のミナミです!良く話してるでしょう?!天然ではやとちりで、可愛いやつなんですよー!」ってナオが興奮気味に言うから、恥ずかしくなって、「も、もう!それは内緒にしてって言ったでしょう!?実習にきてるんだから!」と焦るわたし。
けど、ユウさんは平然と
「うん、、知ってるよ。だから僕が担当になって、スーパーバイザーもやることになったんだよ」って。二人揃って「ふえ?」ってマヌケな反応したのを思い出すなあ。
その日のフィードバック
「瑠美子さんから連絡きたよ。全く、、僕が今ここにいるってどこから得たのか。
どうしてもみてやってほしい子がいるって懇願されちゃってね。だから、院長に言って僕がナオさんの担当になり、バイザーも引き受けることにしたんだ」って、、、担任の瑠美子先生とは学生時代の同期らしく、実習先決めた時にユウさんに頼んだみたい。
それから、毎日のフィードバックは凄かった。本当に勉強しまくったし、どんどん学ぶ意欲も湧いた。多分ユウさんだったからかな。ナオの力にもなりたかった。
そんなある日、わたしはもっと勉強がしたいと思って院内の図書館に行ったの。24時間空いてるから
夕食も済ませて20時半くらいかな?行くと、ユウさんが勉強してるの。
そーっと後ろに回って何やってるか見ると、脳外科に関することだった。多分ナオのことについて勉強してたんだと思う。難しい手技の本やら、文献も読みあさってた。
わたしは斜め向かいに座ってたんだけど、その日は全く気づかれなくて、結局23時まで残ったけど、まだ帰る様子はなかったかな。
次の日も、その次の日も図書館に行ったんだけど、ユウさんはいた。
多分、毎日いたんだと思う。そんな姿を見て、もうわたしの中では初めの印象から尊敬に変わってた。」
アリスは自然と笑顔になっていた。
(ユウは努力家なんだ。人間の集中力はそこまで長くない。それなのにこんなに頑張ってる。)
ミナミは続けた。
「実習が後半に差し掛かる頃。わたしは注意を2つ受けた、、
とあるフィードバックのとき、わたしも周りの方々と同じようにユウさんって呼んでいいですかって聞いたの。今思うと学生が何言ってるんだっておもうけど、尊敬し合いながら仕事してるスタッフを見て、羨ましいなあーって単純に思って、わたしも輪の中に入りたかった。
「いや、それはダメですね。、、、」
わたしが落ち込んでいると
「別にプライベートや呼んでくれること自体がいけないわけじゃないから安心して、今は実習中だから君の評価に関わるからね。誰が見てるかわからないし。」
わたしは不満げに頬を膨らませてた、すると
「無事に国家試験も終えて、君がセラピストになって対等になったとき、その時は好きに呼んでくれたらいいから」
そう言って笑ってくれた。
「じゃあ、わたしのことはミナミって呼んでください。他のスタッフの方も今はみんなそう呼んでます。これもダメですか??」
ミナミは頬を膨らませたままで問いかける
「わ、、わかったよ、、先輩たちもそうしてるなら、、、その方が実習しやすいならそれで、、、ほんとはダメだけど」
「ん?何かいいました?」
「いや、何も、、、」
「やったー!」そう言ってはしゃいでいると
「それともう一つ、、、よく遅くまで図書室にいるよね?、、、少し頑張りすぎだから、しっかり休息を取るように、、オーケー?」
(げ!バレてんじゃーん)
ミナミはまた頬を膨らます。
「先生も、、遅くまで残ってるじゃないですかー」
ユウは顔を歪めて
(う、、またこの顔か〜)という顔をしている。
「ぷ!ユウ、とても困ってるね」
アリスはユウの顔を共有して見て笑っている。
ミナミは爆笑している。
「あははは、絶対困ったよねこの時、そう。わたしこの時も反発してさぁ
「頑張りたいのはわかるけど、時間を決めること。そうだなぁ、せめて20時までにするように」
わたしは顔を真っ赤にして頬を膨らませている。これは怒りのサイン。
ユウは
(不満そうだなあ〜、困った。)という顔をしている。
「わたしも、、ナオのために、、やれること全部やりたいんです、、、先生も、患者様のためにそうしてるんじゃないですか?」
ミナミはプンスカしている。
「、、、、、わかった、、、」
ミナミは笑顔になる。
「ただし、、、もしそれで次の日遅刻する、日中に集中を欠く、欠席するようなことがあったら、その瞬間に実習を中止にするよ。それでも構わない?」
ユウは真剣な顔で伝える。ミナミも真剣になる。
「わかってます。体調管理も患者のため、その折り合いが出来ないとプロではない。ということですよね?」
ユウはにっこり微笑んだ。「それがわかってるなら、僕はもう何も言わないよ。ミナミさんのベストを尽くしたらいい。僕もやれること、最大限サポートする。」
ミナミの目からポロリと涙が落ちる。
この時泣いちゃってさぁ
名前で呼んでもらえたこと、ナオへの気持ちを汲み取ってくれたこと。上司から叱られる覚悟で許してくれたこと。全て伝わったから。
「ユウ、、結構厳しかったんだね。なんか一流だね」アリスは笑いながら言う。
「そうなの。もう尊敬しかなくて。
残りの期間、ユウさんと一緒に取り組んだこともあって、ナオは食事も、着替えも、両手を使って出来るようになっていった。すごく嬉しかった。次々と自立していくたびに、ユウさんから褒められて、ナオも喜んでくれて。
ある夜、わたしは仮眠をとって遅めに図書館にいった。すると、扉の前で看護師さんとすれ違ったの。こんな時間に看護師さんがいるなんてーって。
そっと中を覗くと、なんと、ナオとユウさんが話してたの。
後から聞いたんだけど、ナオ、夜眠れなくなることがあるらしくて、それをユウさんに相談してたみたい。
ユウさんが貸した漫画も夜は消灯で読めないから、することがないって。
あと、不安になっちゃうみたいで。
そしたら、図書館にいるから来て良いよってナオに言ってくれてたみたい。
今思えば、20時以降はダメって言ったのは、ナオとわたしがバッティングしないためだったんだとおもう。
ナオのつよがりなところを尊重するために。」
「わたしもそう思う。。ユウが誰かに制限をかけたり、キツく言うことなんて想像できなかったから、何かあるとは思った。」
アリスも少しずつユウのことが分かり始めていた。
「ちーっす先生!あ、声デカすぎか!すんません!なんか眠れなくてー。
俺このままこうなのかなーとか、これからのミナミとのこととか、考え出すといつも眠れなくてさあ」
「こんばんはナオさん。そっか、、まあ僕で良ければ話し相手くらいにはなるから、気にせず来たら良いよ、ステーションにも伝えとくね」
「さすが先生!権力者だなあ〜、でもさあ、なんかたくさんあるけど、勉強の邪魔になってるんじゃない?」
「ん?ああこれか、この量はたまたまだよ。ミナミさんには内緒だけど、僕にも、大切な友達がいてさあ。そいつの足、治してやりたいんだ。けど、どんな文献呼んでも例がなくて、ここで奮闘してるってわけ、、カッコ悪すぎるよねぇ」
そう言って舌を出すユウ。扉の外から覗くミナミ。
今思うとこれもナオのためだったような気がする。自分も不安なことを伝え、ナオの不安を軽減したんだと思う。
けど、その時初めてタイガさんのことを知ったかなあ。
じゃあ、ナオのことも、タイガさんのことも、、両方夜中まで勉強してたのかーって思ったら、、もう涙が出てきてねえわたし。
こんなにすごい人に教えてもらえてるんだーって」
アリスも微笑んでいる。
ミナミは話を続けた。
「なあ先生、ミナミは、、ちゃんとやれてる?
あいつドジだから、、」
「ノープロブレムだよ。かなり優秀。僕の学生の頃の10倍は努力してる。後数年で追い越されちゃうなぁ、あ、、これは内緒ね、今からてんぐになられると困るから」
そう言ってまた舌を出す。
あんなおちゃらけたユウさんの顔、後にも先にもこの時だけだった。本当にプロだなあって思う。
「え!あいつ優秀なんすか?!しかも先生の10べぇ努力してるんすか??、、、俺、負けてられないっすね」
ユウはにっこり笑った。
「二人とも凄いよ。お互いがお互いのために努力してるのが見ててわかる。僕が努力できるのも、二人のおかげかな。、、だから、僕は諦めないよ?君らが音をあげようと、僕はリハビリしにいくから、覚悟しといてね」
そう言ってユウはニヤリとした顔になる。
ナオは少し泣いてたなあ。
「んがーー、ずるいっすよ先生ー!かっこよすぎー!、、、、、先生、俺、ミナミとまた歩きたいんだ。、、、だから、残りの期間も、よろしくお願いします」
ナオは深々と頭を下げた。ユウはナオの背中をさする。
帰りはユウさんがナオを病棟に連れていくルーティンになってたみたい。」
「ユウ、なんかかっこいいね、、」
アリスは微笑んだ。
「うん!わたしの自慢の師匠!」ミナミはニカっと笑う。
「実はね。その後も何度もナオは夜中にユウさんのところへ行ってたみたい。漫画の話とか、私の話とか、新しい手技についてとか、色々話してたみたいなんだー。
実習終わってからの飲み会で、スタッフの先生たちから聞いたんだー。
あんなセラピストはいねえよー、とか、まじリスペクトだわー、とか、その場にユウさんはいなかったけど、みんなユウさんのことを慕ってた。
「ミナミさんは、就職決めた?レポート見たんだけど、ありゃあ良かったよ!もし良かったらうちにおいで!ユウの愛弟子なら即戦力だ!」
リハ部長も誘ってくれて、わたしは二つ返事で答えたなあ。就職したら、また一緒に働けるって思った。
残り期間も終えた最終日、わたしはスタッフたちにあいさつしてまわった。
フロアでナオとユウにも見送られて、ゲートを出たの。
ナオは、大好きな漫画のあるシーンがやりたいって、わたしに頼んできて、ユウさんを誘導したんだ。」
「なあ先生、2階フロアの園庭いかない?」
「ん?ああ、今日は空けてあるから大丈夫だよ。」
二人は2階の園庭に移動した。
少しの風が花たちを揺らす。太陽が照り、晴天。
「先生、あそこ見て!ミナミがゆっくり歩きながら背を向けてるぜ?これ、あのシーンだよ、ほら、先生の好きなシーン!」
ミナミは片手を耳に当てて、早く言えと言わんばかりに構えている。
(まったくこの二人は、してやられたなあ、、ちょっとだけノってやるか)
ユウは苦笑いして、「風邪、ひくなよ」と言う。
すると、ミナミは満面の笑みで振り向いた。
「スーパーバイザーユウーーー!長い間!クソお世話になりましたーーーー!この御恩は一生!忘れませーーーん!」
ミナミは大声で叫んだ。
「くー!たまんねえなあ〜このシーンは!なあ先生!」
「まったくだよ」
ユウは静かに手を振り、こう呟く
「後は任せとけ、相棒、、、」
ミナミはとても目、耳が良かったのか、しっかり聞き取れた。さっきまでギャグシーンだったのに、今度はブワッと涙を流す。
「わたしも、わたしも頑張ります!先生みたいになれるように!ずっと背中を追いかけます!ナオのこと、どうかよろしくお願いします!ありがとうございました!」
そう言って、ミナミは手を振り帰っていくのだった。
「すごく充実した数ヶ月だった。けど、、、」
アリスは心配そうにミナミを見つめる。
「大丈夫、話すね。」
ミナミは真面目な顔になった。
いつもの夜景が綺麗に写る。
そして、、ミナミは続けてゆっくりと語り始めるのだった。
第八話 完
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
次回、ミナミはさらに深い話へと進んでいきます。




