第五話 約束の一ヶ月
約束の週末が来た。
アリスとの再会。
ユウはすでに決意していた。
仕事が終わり、タイガの部屋に行く。
「とまあ、そんな感じで、ミナミちゃんにも言わざるを得なかったんだわー、すまん!」
タイガは両手を合わせて謝る。
「いや、大丈夫。むしろ、これからのことを考えると、俺も伝えた方が良いと思ってたんだ。
今日はアリスにも共有しても構わないか聞いてみるよ」
「今日旅立つとは聞いてないからひとまず今日は会うだけあってみる。もしそのまま連れて行かれたらごめん」
「まあ、相手は地球外知的生命体だからな!何が起こるかわかんねえよな!ま!週明けお前が出勤してなかったら拉致られたと思うことにするぜ!」
相変わらず軽かった。が、ユウは多分まだ猶予があると思っていた。
アリスは500年地球にいるが、世界を揺るがすことは何ひとつ痕跡を残していない。存在も。
だから、もしアリスと契約成立したとしても、違和感なく出られるように動いてくれるはずだと。
「多分大丈夫だと思う、そんな痕跡残さないようにアリスはやると思うから。」
そう言って、ユウは展望台へ向かった。
◆
倉庫の上にはすでにアリスがいた。
「約束の1ヶ月です。アリスさん、スキャンしてみてください。俺はどんな結果も受け入れる覚悟できました。」
(もしスキャンの誤作動ならこのまま生活が続くだけ。もし数値が間違えてなければ、、、)
「うん、、見てみる」 ピ!
スキャン音が一瞬聞こえる。以前よりはっきりと聞こえた気がした。そして、スキャンのモニターゴーグルもはっきり見えた。
アリスの目に文字が映る
ultimate 適合立、、、、
、、、、1.8%、!
!!?
「1.8%、、、増えてる、、ユウ、、スキャンの結果は、、、確定で間違い無さそう。」
スキャンを閉じて、ユウを見つめる。
「わかった、、、俺、行くよ。この星の外へ」
(ここから本当なのかどうか、まだわからないけど、未知の領域だ。
新手の詐欺なのか、拉致なのか、はっきりするぞ)
「本当に、、、わたしと来てくれるの?」
ユウは黙って頷く。
「ありがとう。本当にありがとう。これから順序を追って説明するね。」
「まず、あなたの身辺周囲を整える猶予を作る。どのくらい必要?」
「1ヶ月もあれば大丈夫。」
「良かった。なら、その期間に準備を整えて、またここで、、それと、わたしのことはアリスって呼び捨てでいいから」
「え、でも、アリスさんは俺よりかなり長生きしてて、その、、」
「年長者を敬う風習はこの星の良いところね。外に出れば、寿命の概念もきっと変わると思うわ。大丈夫、わたしは個体年齢は地球人で言うところの18歳〜25歳未満でキープするようになってる。ほとんどユウと変わらないから心配しないで」
「わ、わかった、、アリス、これからよろしく。」
ユウは照れくさそうにアリスと呼んだ。
アリスは微笑んだ。
そして、ユウは思い切ってタイガたちの件を相談することにした。
「あ、あの、、」とたんに、アリスが口を挟む
「あの二人のことよね?いいわ、わたしも興味ある。あなたのことも含めてお礼も伝えたいし、記憶も消さない。」
ユウは驚いたが、ホッとした。
「なんでもお見通しってことか、けど、もうあまり気にならないや。ありがとう。」
「じゃあ、それまでの準備、各自で取り掛かりましょう。ユウ、、本当にありがとう。何かある時はここに来て。」
アリスと別れた後、しばらく一人で景色を眺めていた。
(本当に、、、こんなことが現実にあるんだな。俺が、、、ほんとに世界の役に立つのかな。やれるだけやってみよう。)
そう言って、倉庫の端に立つ。
「、、、、、」
ユウはアリスのように飛んで降りるイメージをして、飛んでみた。
スタッ。と軽い音を立てて着地は静か。
「、、、できた。」
ユウの中で何もかもが確信に変わっていった。
♦︎
「おおお!俺たちも会えるのか?!その旅立ちの瞬間に?!すげえ!」
タイガは鼻息荒く興奮している。
「アリスも直接会いたいって、一体どんな宇宙船なのか、それとも地球の果てに一旦移動してから隠してある宇宙船にのるのか、ワープなのか、いずれにしても未知だからタイガも興奮するよな」
「アリスちゃん、どんな美人なんだろうなあ!楽しみだぜー!!!」
「、、、、、」
「ミナミさんはどうしよう、、」
「あん?ここまできて仲間はずれはねえだろ!伝えるべきだ!ここまで知っててお前が不自然に居なくなったら変だろ?後でぜってえ怒るぜ?そしたら誰がサンドバッグになると思ってんだ??」
「、、、それもみてみたい気もするけど」
「おい!どのみちお前はサンドバッグ見れねえんだから、勘弁してくれよ!」
「ははは!そうだね、ごめんごめん!」
その日、ミナミにも説明した。ミナミも同じく鼻息荒く興奮している。
「確か、ミナミさんもSF好きだっけ?そりゃ興奮するよね」
「アリスさんってどんな美人なんだろう!思わず見惚れちゃうかも〜」
「、、、、、」(、、、いったいなんなんだこの二人は、、、)
ユウはミナミをタイガの部屋に残し、早速色々な手続きに取り掛かる。
「、、、、、」ミナミは下を向いて泣いている。
タイガはミナミの頭をポンと撫でる。
「よく頑張った。」それだけ言うと、しばらくミナミはその場で泣いていた。
もう、一生会えないからだ。
タイガは確信していた。この子とユウには何らかの絆がある。ユウはあまり人に心を開かない。だが、わずかだがミナミとの距離は他の人と違う何かを感じ取っていた。このミナミの反応もそう。普通、そこまで親しくない間柄ではこうはならない。そのことをタイガは理解していた。
♦︎
「ユウくん、、神城くん、これは本当かい?」
ユウは退職届をもって上司に提出して、その後院長にも呼び出された。
「もしかして、お給料や昇給に納得がいかなかったのかい?それとも誰かにパワハラされたのかい?理由を教えてくれないか?」
矢継早に詰め寄られる。
「いえ、ここの給料も待遇も、俺には勿体無いです。本当によくしてもらいました。理由は、新しいことに挑戦したいと思ったからです。僕は、今まで何においても消極的でした。ですが、この道とは違うことで、僕を必要としてくれることがあったんです。だから、そこにチャレンジしてみたいと思ったんです。」
内容的には嘘ではない。
院長はしばらくうなだれたが
「わかった。ユウくんのことはタイガからも聞いている。新しい挑戦、わたし共も応援しようじゃないか。疲れたらいつでも戻ってきて良いからな。」
そう言って院長と握手をした。
「これまで本当に良く貢献してくれた。皆の意識、後輩の良い見本になってくれた。感謝しかない。」
ユウの目には涙が溢れていた。
ここまで偉い人から信頼されていたのかと初めて知った。
『お前、自分が凄腕のセラピストだって自覚ねえのか?』
タイガの言葉がよぎる。
(ちゃんと見てくれてる人はいるんだ。本当に良い環境だったんだ。)
♦︎
残りの時間で、ユウは様々なことを整理整頓する。
祖父母がいなくなってから実家は一人暮らし。家を売ろうにもどうにもならない。
祖父母からは、将来お嫁さんでももらって、ここで住んだら良いと言われており、とても売り払う気にはならなかった。思い出もある。
何より、ここを壊したら、もう二度と戻ってこれないんじゃないかと思うほどだ。
家の管理はタイガが名乗り出てくれた。
リハビリも兼ねて掃除に来ると。
特に取られるものはないので、ちょうど良かった。
「よし、ここに物の場所リストと手紙を置いて、、と。」
ある程度荷造りも終わり、残り半月となった。
近くの公園。バスケコート、サッカーコートが隣り合わせの変わった公園。よく近所の子供達が遊ぶところだ。ここでよくバスケやサッカーをしたことを思い出す。どれも苦い記憶だが。
小学生からやっていたバスケット。サッカーにしとけばテクニックの道があるのに、高さがものを言うバスケを選んでしまった。
大人用のゴールを眺めていた。
ダンクするのが夢だったことを思い出す。きっと身長ももう少し高くなってーーなど、子供の頃のことを思い出していた。
そこに誰か忘れたのかボールを見つける。
「、、、、、」
ユウはドリブルを始める。切り返しやターンを鋭くキメる。
(?!身体がやっぱり軽い、今の動きだったら、ベンチには入れたかもしれないな。)
ユウはゴール目掛けて飛んだ。
ガツン!!
「で、できた。できてしまった。」
ユウはゴールにぶら下がっている。
着地後、近くに小学生が、ユウを見て目を輝かせていた。
「お兄ちゃんすげー!!ダンク初めて見たー!」
「い、いやあマグレ、、」
ユウは途中で言うのをやめて言い直した。
「すごいだろ?お兄ちゃんは一生懸命に頑張ったんだ!みんなもきっと、出来るようになるさ!」
そう伝えると、子供たちは更に目を輝かせた。
シャツにはクラブチームのロゴがある。
「僕、ミライって言うんだ!将来はお兄ちゃんみたいなバスケットボール選手になるー!」
「ミライ、、くんか。よし!絶対なれる!お兄ちゃんも応援してるよ!」
「ねえねえ!一緒にやろうよ!色々見せて見せて!」
「あ!ずるい今度は僕とサッカーしようよ!僕、コタロウっていうんだ!」
隣のコートからも子供らがわらわら寄ってくる。
ユウは昔、自分がもし運動神経が良かったら、こんな技、あんな技やってみたいといつも妄想していた。それをぶっつけでやってのける。
ターンオーバーからの鋭いカットイン、からのロール、からのダブルクラッチ。
ザシュ!
続けてサッカー、ブラジル人並みのボールコントロールから、ゴールバーに当ててダイレクトで弾丸オーバーヘッドシュート。
ザシュ!
「わーー!すごいー!かっけえー!もう一回!もう一回見せて見せてー!」
ミライやコタロウは何度も自分でやれるか反復していた。その姿は昔自分が一生懸命練習していた姿と重なっていた。
「僕、絶対上手くなるから!おおきくなったらぼくのダンク見てねー!」
「あ!僕もワールドカップに出るのが夢なんだ!僕もお兄ちゃんみたいなドリブル出来るようになるからぜったい見てね!!」と、ミライやコタロウの友達らも答える。
ユウは約束した。必ず見に行くと。そして、大きくなったら1on1をすることを。
ユウは、残りの期間で、小さくもあるが、ひとつずつ夢を叶えていった。
(まさか、俺が人に夢を与えられるなんて、、、俺がやりたかったこと、やり残さないように、後悔しないようにやるぞ!)
そう決心した。
旅立ちまで残り半月。アリスは遠くからユウを観察して微笑んだ。
第五話 完
読んで頂きありがとうございます。
また次話も、よろしくお願いいたします。




