第二話 違和感
第二話、アリス視点で始まります。
「……最後の一年か」
私は小さく呟き、展望台から夜景を眺める。
この星に期待していた。
どこかで、まだ――
その時
「、、、誰、、、?」
ユウがよじ登ってきた。
(?!人間? 落ち着いて、ただ人が来ただけ)
風が吹く。
(明らかにわたしがここにいたら不自然、何か、何か話さないと)
「……星は、好きですか?」
不意に、声が落ちてきた。
「……え?」
(唐突すぎたかも、とにかく会話を、、上手く受け流してここから去ろう)
アリスはユウを見る。
「いつもここから星を見ているの?」
「……え?あ、はい、週末はだいたい……」
「ここからの景色はとても良い、故郷を思い出す。」
「故郷、、ですか?」
(あ、つい私情が!、いけない、そろそろ去ろう)
「ごめんなさい、あなたの場所を邪魔してしまった。」そう言って、アリスはユウとすれ違った
「あ、俺、ユウって言います。あなたもここから良く夜景、みるんですか?ぜ、全然邪魔じゃないです!」
ユウが焦っていると、ピッという音がなる。
(ん??え?そんなまさか?)
その瞬間、彼女の腕から小さく「ARIS」と書かれたスクリーンが浮かび、すぐ消えた。
と、同時にアリスは「ultimate?」と小さく呟く。人には見えないゴーグル上のスクリーンがアリスの目の前に映される
(適合率、、、1.1%、、??、そんな、信じられない、アスリート、兵士、著名人、あらゆる人間を解析したけど、皆0.003%がせいぜいだった。この街の人も調べたつもりだった、)
アリスは立ち止まり、また、夜空へと視線を戻した。
(この土壇場で、この数値の人が見つかるなんて、あと一年、、、もう彼に託すしかないのかも、けど、スキャンの誤りということもありうる、、、)
「あ、アリスっていうの?君の名前」
ユウは尋ねる
「・・・・・そう、アリス。」
(ああ、このコード識別、、彼には見えたの?それを見てそう読んだんだわきっと、、アリス、、それも良いかも)
アリスはユウをじっと見つめる。
(もう、考えるのを辞めないと、、これは賭けだけど、モニタリング(簡易評価)を進めていかないと、、、)
アリスは決心し、ユウを見て告げた。
「もしあなたの力がこの星の外で必要とされるなら、どうする?」
(この星の人間からすると突拍子もない話、けど、前に進まなきゃ)
「え?この星の外??」
突然言われ、ユウはしどろもどろしている。
「もしあなたが構わないなら、、、わたしと一緒に来て欲しいの、この星の外(宇宙)へ」
「え??星の外??」
ユウはやや混乱している。
(突然へんなこと言い出したと思ったら、、な、何かの勧誘かなあ、すごい美人だし、、けど、嘘を言ってるようにも見えないし、女優かなんかで、何か役作りの演技かなあ、けど、、、星の外の世界があるなら、、誰かの役に立つなら、、、うん、考えても仕方ない、思ったことをそのまま言おう)
立ち尽くしているユウをみてアリスは思う。
(やっぱりそうよね、普通はこうなる、さて、どこまで説明しよう)
その時
「俺、、いってみたい、、です。誰かの役に立つなら、もし本当にそんな世界があるのなら!」
ユウは自分の気持ちを正直に伝えた。それが詐欺だろうと、嘘だろうと関係なかった。
ただ、純粋に質問に答えた。
アリスは目を丸くした。
(この現代の人間にとって、あり得ないような問いかけをした、けど、彼は、、、)
アリスは計画を進めることを決めた。
「ありがとう。まさかそういってもらえるとは思わなかった、、、信じてくれるの?」
ユウは照れくさそうに
「いやあ、正直わからないです、ただ、そんな世界があったらすごいなあって、こんな自分でも役に立つのかなあ、なんて思っただけです」
アリスは話を進める
「もしかしたら、都市伝説か何かで聞いたかもしれないけど、この星の外には確実に文明はある。わたしはそこから来た。詳しくは言えないけど、、、今、一緒に戦う人を探してる。もう500年も。、、、けど、見つからなかった。、、そこにあなたが現れた。」
ユウはまた驚く
「ご、500年??戦う?色々引っかかるけど、そこまでして探して見つからなくて、な、なんで俺なんでしょうか??」
(も、もう細かいことは後だ、とりあえずこの子の話を聞いてみよう)
ユウは開き直り、彼女の話を聞くことにした。
「信じられないかもしれないけど、わたしがもっているアイテムには、生物を選別して判断できるスキャンが搭載されていて、、、遺伝子のレベル、つまり生命体の強さを測定できるの、、」
(俺の好きな漫画のスカウターみたいなものか?)
ユウは少し興味を持つ。アリスは続ける。
「この星の現代の技術では、まだまだ及ばない、けど、遺伝子を解明し、生命体がどんな才能をもっているのか、それがわかるの」
「それで、、俺にその機械が反応した、、?ということですか??」
ユウはくいぎみに言葉を挟んだ。
「そう、信じられないけど、今すれ違ったときに、これが反応した。わたしの近くで視野に入る生命体をスキャンする仕組み、、、オートのままだったから、、、」
「信じられないけど、、、俺はどうすれば、、もし本当だとして、、俺にも何かわかるというか、、証明できることって、ありますか??」
ユウは幼い頃から、都市伝説やSFが好きだった。映画は好きで、宇宙ものも多く見ていたから、自然と話を合わせられた。
「そうね、、、わたしとしても、もっと信憑性がほしい、、だから、これをしばらく食べてみて」
そう言って、アリスは小さな箱を開けてお菓子を差し出す。見た目はカロリーメイトとそっくり。
「か、カロリーメイト??」
「、、、現代ではそれが一番似てるかも、、多分味も似てると思う、この星の人が違和感なく食するように造られたから、そしてこれは、この星のものではない、信じられないかもしれないけど、、とりあえず、これを食べ続けてなんらかの変化があるか見たいの、1ヶ月分送っておくから、食べてみて」
「は、はい、、、ありがとうございます。」
「じゃあ、1ヶ月後の週末にまたここで会いましょう」
アリスはそう伝えて、倉庫から軽やかに飛んで着地し、歩き去った
♦︎
翌週の仕事終わり、ユウはある病室を訪ねた
「お!ユウか!おつかれさん!」
ユウの親友のタイガ、この病院が実家であり、兄姉らも病院関係者。
タイガは容姿端麗、スポーツ万能、成績優秀で女子にもかなりモテる。
カイガとは小学校からの付き合いで、何かあるといつも助けてくれた。なんで俺なんかと友達になったのかわからない。
タイガは高校の時、急に足に力が入らなくなった。進行性の疾患も疑ったが、歩けたり走れる時もあり、脱力は急にくるとのこと。
原因不明なまま10年が経過した。
ユウは、そんな親友のため、何か力になることはないかと、セラピストの道に進んだ。
他県で修行を積んで、今はこのタイガの実家の総合病院で働いている。
仕事終わりには、よく夕食をタイガの部屋で食べる。
ユウは、施設の出身であり、6歳で里親に引き取られた。そこから高校で祖父、社会人一年目に祖母を亡くし、一人暮らし。
そのため、昼食や夕食はタイガの部屋で取ることが多かった。
「お!今日はカツ丼か!サンキュー!」
「タイガ、ちょっと聞いて欲しいことがあるんだ、、、」
ユウはあの日の夜のことをタイガに話そうと決めていた。
「お!なんだ〜?女か〜?」
タイガはカツ丼をたべながらからかっている。
「うん、、実はそうなんだ、、」
その瞬間タイガは勢いよくカツ丼を吹いた。
「お、おうー、良かったじゃねぇかー!びっくりしたぜ!なになに〜、惚れたのはどんな子かなぁ?」
吹き散らかしたカツ丼をかき集めながらユウへ問いかける。
「いや、惚れたとかじゃないんだけど、ちょっと不思議なことがあって、、ほら、俺、週末いつも展望台いくだろ?そこで、不思議なことがあったんだ」
「ふむふむ、そこで女に惚れたってことか」
再びむしゃむしゃ食べながらいじってくる。
「はは、いやぁ惚れたとかじゃなくて、なんか、宇宙に一緒に来てくれって言われたんだよ」
ぶほーー。またタイガがカツ丼を吹き散らかす。きっとこの後シーツ交換でスタッフに怒られるに違いない。
「ちょ、おまえ、今日はどうしたんだ??いつもと違いすぎて二回も吹いたじゃねえかぁ!」
タイガはまたカツ丼をかき集め、笑いながら答える。
タイガは美男子だが、キャラも面白い、ムードメーカー的なところもある。いわゆる少女漫画に出てくるような主人公タイプだ。
米粒を頬につけたまま、真剣な顔になる。
「よし、ある程度食べたな、じゃあ、時間もたっぷりあるし、おじさんにわかるように説明してみなさい〜」
(おじさんって、、笑。タイガはいつもこの調子だな、けど絶対にバカにしたりしない。できたやつだよほんと)
「えっと、、展望台の倉庫、いつもあそこを登るのは知ってると思うんだけど、、」
「おう!俺たちが見つけた場所な!眺め最高だよな〜」
その後の一連をタイガへ説明する。
爆笑するかと思ったが、タイガはなにやら考え込んでいる。
「ちょっと聞いていいか?」
タイガが口を開いた。いつもの軽口を言う感じではない雰囲気だ。
ユウは頷く。
「まあ、なんだ、内容は確かにSFだわな、なんなら新手の勧誘かなんか、拉致、、とかの可能性も十分あるよな、、けどなあ、、、」
少し間がある。
「あの倉庫って、そんな簡単に飛び降りれる高さだったか??いや、俺もこんなんなって、随分行ってなかったからなあ、なんかそこが引っかかるんだよなぁ」
「、、、、、たしかに、、、えっと、この部屋の天井よりは高いと思うけど」
ユウは話の内容が突拍子もなく、そのことを見落としていた。
確かに倉庫の高さは4メートル以上はある。
「パルクールとかやってるやつならあるかもな、けど、その子はスタッと降りてすぐ歩き出したんだろ??そこらにある段差を降りるかのように」
「うん、そんな感じだった、、なんかこう、ふわっと飛んで、転がるでもなく普通にスタッと着地して歩いていったよ、、」
さらにタイガは考え込む
「お前、そこなんも思わなかったのか?、、、よほどの美人だったんだな、その子」
「え、そこ?まあ、確かに美人だったよ、タイガのお姉さんと比べても遜色ないくらい」
「姉貴はまあ、俺は美人とは思わねえが、まあモデルやってたしなあ。そうか、ならモデル並みに美人だったということか!」
「あ、いやあ、相談はそこじゃなくて、、、」
タイガはガハハハと笑い出した。
「わーかってるって!そうだなあ、話の内容は確かにやべぇわな、いくらなんでも非現実的すぎる。んで、そのお菓子とやらは食ったのか?」
タイガはやはりしっかり話を聞いている。
「うん、あれから食べ続けてる。今からもう一つ食べるつもり、、、」
そう言って目の前に差し出して食べて見せる。
「もらい!」
タイガも一口食べてみる。
「あ?!タイガ!もし何かあったらどうするんだ!」
「でぇじょうぶだ!ここ病院だぜ?なんかあったら親父や兄貴らがなんとかしてくれるっしょ!」
そう言って食べきる。タイガの家計は代々医者、天乃家には父がいる、天乃家には母がいる、美人の姉と二人兄がいる。そしてタイガがここにいる、、某特撮の歌のようにユウの頭の中で流れる
「、、、、、普通のカロリーメイトだな、、、ん??」
タイガが何か反応した
「ど、どう?何か体の変化とかある??」
「いんや、俺にはただのカロリーメイトにしか感じねえ。ただよう、、これ、1ヶ月って言ったか?予備はどうやってもらうんだ?またその都度アリスちゃんにもらうのか?」
「いや、家に届いたよ、大量に」
「お前、なかなかやるなあ、そのやりとりのうちに連絡先まで交換してやがるなんて、おじさん嬉しい(笑)」
「い、いやいや、さすがにそんなこと出来ないよ!そんな自信ない、、、」
「、、、じゃあ、、どうやってコレ送ってくんだよ、、、?」
「あ、、、たしかに、、、」
二人の間にしばらく沈黙がつづく
「冗談抜きで、ちょっと怖えな、、、まあなんだ、その子的に考えると、その外の技術があれば、住んでるところまで特定できる的な?感じなんかもな、知らんけど」
ユウは完全に困惑していた。タイガに言われるまで、その細やかな違和感にすら気がついていなかった。
「お、俺みたいなのが、よく詐欺に遭うんだろうか、、、」
「ちがいねえ、まあ、そんな気にすんな!もし拉致とかしようと思ってんなら、そんな会話すらせずに、とっくにお前捕まえてる!」
そこもユウは「?」だった。
「あのなあ、そんな高さからヒョイっといけるくらいのやつなんだったら、お前やるくらい簡単だと思うぜ?霊長類最強女子でもそっからヒョイは無理だわ」
タイガの言うことは信憑性がある。ふざけていても、頭脳は優秀だ、その身体で医学部も無事に卒業してるし、万能とはこのことをいう。
「タイガは、どう思う?」
ユウはおそるおそる聞いてみた。
「んまあ、とりあえず、それ食い続けて、来月行ってみたらいんじゃね?その、スキャンとやらで、モニタリングしたいんだと思うぜ?俺の予想が合ってるならな、知らんけど(笑)」
「そうなの?なら、食べ続けてみようか、よくわかんないけど」
タイガは微笑むようにため息をつく。ユウのこのあまり疑わないところは、良いところでもあるが、危なくもある。
もし、アリスの話が本当なら、ユウは未知の世界に行く、かもしれない。心配そうにユウをみる。
「なあ、、もし本当にアリスちゃんの話に信憑性があるとしたら、お前は本当についていくのか?」
ユウはカロリーメイト風のお菓子を食べ切る。
「わからない、、けど、、なぜかワクワクするんだ、、、あ、美人だからとかじゃなくて、その、俺って今までこんなんだっただろ?だから、そんな世界があるなら行ってみたいなーって漠然と思うんだ」
タイガはまた微笑みながらため息をつく
「わーった!お前がそう言うなら、俺は応援する!その恋を!!」
「あ、あのなあ!」
二人は大笑いする。窓の外には夜景が広がっている。
タイガの部屋は病院の最上階。割と高台にあるため眺めも良い。
その頃、遥か遠くの展望台から、アリスが二人の様子を見ていた。
「ユウの友達?、、、なんだか、楽しそう。、、、来月まであと少し、観察を進めよう」
顔の前のスコープが消え、また空を眺める。
第二話 完
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次話、ユウに変化が現れます。




