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第十三話  アリスの名前

今回は、

世界の仕組みよりも「人の在り方」に踏み込む回です。


名前を呼ばれること。

名前を与えられること。


それが、どれほど大きな意味を持つのか。


静かな回ですが、

アリスという存在にとって、

とても大切な一話になっています。

アリスとユウはラボ内へ進む。


「ようこそ、わたしはフィング、このラボの責任者です。お会いできて光栄です、エージェントS !」

(エージェント、、S、、?、、ああ、仕事上のコードネームみたいなものか、、?)

「アリス、エージェントSってなんかかっこいいね、、!」

どこと無くつぶやく。

「あ、あの、ユウです、!神城ユウといいます!」

「おお、1stから報告があったよ、君がultimateを持つ青年か!良かった、本当に良かった、エージェントS、実に素晴らしい働きだ!」

「ありがとうございますフィング博士。まだ適性率は低く、これからわたしもサポートしていこうと考えております、、、。ね、ユウ」

「は、はい!僕も、みなの役に立てるように頑張ります!、、、アリスにもたくさん迷惑かけると思うし、フィング博士、どうぞよろしくお願いいたします、、!」

ユウは深々と頭を下げる。

フィング博士たちはワハハと笑い、歓迎モードの雰囲気にユウは安心した。


「ところで、、アリス、、とは?エージェントS」

「はい、、、わたしの名前です博士、、、その、ユウが、、」

「ほう!名前をもらったのかい??、、、それは素晴らしいよ、エージェントS、、いや、アリス!、、うんうん、良い名前じゃないか!」

フィング博士らはなぜか涙ぐんでいる。

アリスの目にも少し涙がにじむ。


(、、、?、、どう言うことだ?、、名前をもらう?、、アリス、、どういうことだ?)


ユウはその会話がわからず混乱していた。

今すぐ考えても仕方のないこと。後で聞こうと頭を切り替える。


フィング博士は月について説明する。

「そうだ、ユウくんは初めて外に出てきたんだね?なら、この機会に簡単に月について説明しようじゃないか。」

「は、はい!よろしくお願いします!」

博士はうんうんと頷き、モニターを展開。そこをポインターでさしながら説明などが始まる。


本来、月は地球に対して引力の面で補助的に関与している。というのは建前で、ほどよい距離を保つため、そのように設定されているに過ぎない。

本来の月の役割は、外部からの侵略防止だ。大昔は違っていたがね。

月から無数のレーダーを張り、通信の進路変更や、ワープ座標をズラす働きをしている。

この太陽系と、そこから更に数倍の距離までフィールドは張り巡らされている。

わかりやすく説明すると、そんな感じだ。

また、1stからの情報受け取りや、一部の研究を担っている。」


「なるほど、要は、外敵からの進入を守るための、見張りのような役割ということですね?」


博士はニッと笑った。

「その通り、飲み込みが良いな。だから、このエリアに入るには、物理的に訪れるか、座標をこちらから受け入れて教えるか、またはこちらの文明レベルを上回るか、だな」


ユウは息を呑む。

もし、この文明を上回るものが現れてしまったら、、、そう想像すると恐ろしくなった。


「という顔をしてるな?問題ない。常に1stからは最新の文明情報はきているし、我々も開発や更新を怠らないようにしている。技術に関しても、こちらが座標を受け入れ、1stから技術ごと運ばれてくることもあるからね。

ああ、1stというのは、人類初、この太陽系から旅立った研究者たちのことだ」

「は、はい、ほんの少しだけアリスから伺ってます。」

「アリスと名付けたのは君かね?うんうん、彼女にピッタリの名前じゃないか!」

「あの、博士、その話は後でわたしから、、」

博士は空気を読む。

「ああ、そうか、そうだな、まだキミには色々と駆け足だったな、すまない。ゆっくりと学んでいけば良い。それにしても、、、本当に良かった、、改めて歓迎するよ」


そう言って、博士と握手をした。


宇宙船は何の問題もなくすぐにでも旅立つことができるとのこと。


一度太陽系から出ると、何万光年も先にワープするため、もうしばらくは帰って来れないらしい。エネルギーも無限ではないからとのこと。


それからユウは、この銀河のことをバーチャル映像とガイド説明によって学ぶことにする。


約数日間の滞在。コロニーには客室専用区画があり、ユウはそこへ案内され、コロニー内は自由に過ごして良いとのこと。


ユウはその辺を散歩する。

(、、、とくに、建物のテイストが異なる以外は地球と変わりないなあ。

その辺の公園でも子供達が遊んでいるし。ただ、、、なんだこの違和感は、いや、平和で良いことなんだが、この違和感はなんだろう)


ユウは近くのカフェでコーヒーをテイクアウトする。ラボ公認のリングを預かっており全て無料。ユウは公園のベンチに座り、コーヒーを一口飲む。

(うん、、美味しい。何も変わりは無さそうだ。)

ユウは子供が親に駆け寄る姿をみている。

「おじいちゃんおばあちゃんー!」

その声を聞いて、、ふと仕事のことを思い出していた。

(ああ、病院の人たち、、みんな無事に退院できるだろうか、、ああ、301号室の人たち、、ずいぶん歳だったから、、、、あ!)


ユウは気がついた。

目の前の子供が駆け寄って行った先にいるのは、どう見ても見た目は20代。

(ん?おじいちゃん?おばあちゃん?そういえば、、、)

ユウは月に来てから会った人らを思い出す。


(そうだ、ここには高齢者がいないんだ。全員若い、、!、、これも、なにかあるのか?そういえば、アリスも地球で500年過ごしたとか、、、アリス、、この人たちも、みんな人間じゃないのか、、?)

様々な疑問を浮かべながら、数日が経過した。

その間、アリスは博士と何やら仕事をこなしていたらしいが、食事などはアリスもコロニーへやってきて二人で街を探索して過ごした。


食事しながらユウは疑問をぶつけてみる。

「な、なあアリス、、ここの人たちって、みんな人間なんだよね?、、その、、みんな若いなあと思って、、街並みとかは普通なんだけど、、お年寄りが一人もいなくて、というか、若者しか見かけないんだけど、、、」


「気がついた?地球にいたら確かに違和感あるよね。。うん、みんな人間だから安心して、、、ただ、寿命の概念はもう随分前に亡くなったの。わたしも化学的なこととか詳細まではわからないけど、随分前に人類は寿命の壁を超えたみたい。」

ユウは驚く。

「寿命がないってことは、不死身ってこと?!、、、すごいや、想像したこともなかった。人生はいつか終わるものと思ってたから。」

「不死身とはちがうかな。さすがに致死量のダメージや、栄養を一定量取らないと死んじゃうから。けど。普通に生活したら、生活はずっと続く、、、自然な病気ももう全て治るようになったから」

「そ、それじゃあ、生まれてきた段階で病気を持ってたり、、障害がある場合は??」

「その壁もずいぶん前に超えた。生まれる前に、ある程度の設計が可能となり、病気しない仕組みになったから」

「、、、、、そっか、、、そしたら、俺たちの仕事って、いずれ無くなるのか、、」

アリスは首を横に振る。

「ユウ、、そんなことないよ?怪我する人だってたくさんいるし、後遺症が残る人もいる。再生技術ではどうにもならない時もあるから」

「そっか、けど、、再生技術が進化し続けたらいずれ」

アリスは微笑んで答える。

「ユウ、自分がやってきたことを疑わないで?

ビジョンで見たよ。凄く立派な仕事だと思う。人の人生をまた甦らすなんて。それこそあの時代では奇跡だと思う。だから、自信を持って。」


ユウは顔を上げる。

「ありがとうアリス。それと、、、」

ユウが何かを言いかけた時、アリスは遮るように言う。

「名前のこと?、、、少し場所を変えよっか!」


あたりは夜、本当の夜かはわからないが、タイムスケジュールは地球と同じ設定らしい。

二人は、コロニーが見下ろせるタワーの屋上にいた。

「うわぁ、すごい景色だ、、」

コロニーのネオンやライトは綺麗に映る。

「ユウ、、わたしの名前のこと、気になってたんだよね?、、博士の反応みてわかった?」


「うん、、君が名付けたのかって言われた。なんのことかさっぱりで。」


「ごめんね内緒にしてて、、、」

アリスは真剣な顔で話し始める。

「実はね、、わたしはエージェントとして、人工的に生み出された人間なの。、、、人は人なんだけど、親とかも居なくて。任務を遂行するために産み出された人なの。」

ユウはかなり驚いたが、なんとなくそうなんじゃ無いかと思ってもいた。人間離れした身体能力。エージェントと呼ばれていること。そして名前の疑惑。歳を取らないこと。そのことで頭の中を、ぐるぐる回っていた。

「アリス、、、ユウがわたしのコードネームのモニターを読み間違えたの。けど、わたしも今まで偽名も使ったけど、、なんかアリスって名前呼ばれた時、なんかこう、気に入ってしまったの。、、、だから、そのままそう名乗るようになった。」

「そうだったのか、、、なんか俺、余計なことしたんじゃ、、」

アリスはまた首を横に振る。

「そんなことないよ!、、、凄く嬉しかった。

ユウのつけてくれた名前、、凄く気に入ってる。なんか、初めてわたしが認められたような、不思議な気持ち。」

「だから、ユウは、、、地球の言葉で言うと、家族みたいな感じかな?うーん、それも違うのかなあ、、、とにかく、今のわたしにとっては特別な存在なんだ。」

ユウは何も言えず立ち尽くす。

「地球でみんなと出会えて、初めて任務以外で繋がりを持った。わたしにとってかけがえのない存在、、、。それに気づかせてくれたのが、ユウだよ?」

ユウは照れくさそうにする。

「アリス、、俺も、、地球をいざ出たら不安で、、アリスだけが頼りというか。その、、」

アリスはユウの手を握る。

「うん!、、、お互い大切な存在だよ。」

ユウの顔が明るくなる。

不安だらけで、わからないことだらけ。

しかし、未知の世界に一歩ずつ歩み始めるのだった。


第十三話 完

アリスは、

生まれたときから「役割」を与えられてきた存在でした。


そんな彼女が、

誰かに「名前」を呼ばれ、

それを自分のものとして受け入れた。


それは、

エージェントでも任務でもなく、

「一人の人間」として生き始めた瞬間だったのかもしれません。


次回から、

二人はこの世界を、

ただの任務ではない視点で歩き始めます。

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