田舎娘と少年剣士、それと。
お久しぶりでございます。
復帰一話目はデフレイとアグネリアのお話です。
澄んだ風が夜色の髪を撫でる。
少年冒険者、デフレイ・マークは後悔していた。
――――漸く、漸く探し求めていたものが手に入るとはいえ、この女――――アグネリアのおもりを引き受けたのは失敗だったか、と。
別に、彼女に大きな問題はない。
野営に文句はないし、田舎島国の生まれ故か知らないが、運動能力もそこそこある。
唯一、唯一つ。アグネリアはデフレイが苦手とする特徴を持っていた。
それは。
「あんのあの、その剣、刀身がゴリ綺麗よね。手入れちゃんとしとる証拠かね。すごいなあ。」
「ねえねえ、あん生き物はなんて名前なんね?」
「デフレイデフレイ、あとどれくらいで次の集落かね?」
――――――おしゃべりである。
デフレイは、護衛の依頼人との会話は滅多にしない。
最低限、打ち合わせや要望を聞くことはある。
時折依頼人から世間話を持ちかけられるが、無視をしていればこいつは話したくないんだなと察して口を閉じてくれる。
……が………彼女は一体どうして。
なんともまあ、一方的に。話しかけてくる。
(この女、言わないとわからないのか。)
何度か言おうとした。
俺は依頼人と必要以上に会話をするつもりはない、と。
だがそれを言おうとする度に、アグネリアのきらめく瞳に黙らされてしまう。
無垢というものは時に最強となる。
今のアグネリアは最強だった。
いい加減覚悟を決めて、文句の一つでもつけよう。
そう思い後ろを振り向いた、時。気づいた。
「!!依頼人ッ」
金属同士がぶつかり合うような、激しい音。
彼の烏のような瞳がアグネリアの後ろに捉えたのは、狼型の魔物。
青牙狼。この地域には居ないはずだが。
「ま、魔物!」
「依頼人、俺の後ろに。」
「はいなっ。」
牙狼はいかなる足場でも、優れた猫のように決して足音を立てない。
故にやつらの領域に足を踏み入れた新人冒険者や護衛を付けていない行商人なんかは、十中八九やつらの餌食になる。
その爪がアグネリアの首元を掠める寸前、デフレイの抜刀が間に合った。
青牙狼は完全に彼を敵と認識したようだ。
間合いを取り、タイミングを見計らっている。
(依頼人の障害は可能な限り早急に排除しなくては。)
先に仕掛けたのはデフレイ。風に銀の刀身を滑らせ、下段から正確に青牙狼の喉元に振り上げる。
が、その斬撃は空を斬る。
どこに行った、と視線だけを動かしあたりを探ると、地面映る自分と重なる影に気づく。
「甘いッ。」
ぐん、と刀身を上空に突き立てる。
くわぉんッ!という悲鳴とともに迸る赤黒い液体が頬に跳ねる。
あの瞬間、青牙狼は真上に、垂直に翔んでいた。
ぼた、という音と共になんとか着地をする青牙狼。胴にはデフレイが与えたダメージが確かにある。
(とっさの上突きでは、流石に一撃必殺といかないか。)
片手直剣を肩越しに構え、じりと腰を据える。
手負いの獣は恐ろしい。
それは魔物においても同じ事。
次の一撃で仕留めきれなければ、なにか致命的な事が起きないとは限らない。
刹那、風鳴り。
青牙狼がすてみでの突進だ。
タイミングを合わせ、水平打ちを放つ、が。
青牙狼は直前で跳ね、刀身を踏み台にデフレイを越えた。
しまった――――――!
状況を一瞬飲み込み損ねたデフレイは一息遅れて振り向く。
が、既に手遅れ。
ずっとデフレイの背後にいたアグネリアに、青牙狼の攻撃の態勢に入っている。
「依頼人。」
そう口を開こうとした時、彼は絶句した。
ばき、ばきばきばき。と骨が砕けるような音を立てながら。
青々と茂る草原を塗り潰しながら、青牙狼は叩きつけられていた。
―――――アグネリアに。
「やああ、ッ!」
彼女はそのまま得物にずん、と体重をかけると、その一撃で青牙狼の頭蓋骨を粉砕した。
…信じられない光景だった。
数日前依頼を引き受けてから、先ほどまで、憧れが有り余っているだけのか弱い少女と認識していた、その女が。
長柄物を両手に構え、自分の失態をカバーした。
アグネリアはそれをぐるりと回転させ血を払うと、いつの間にか腕に巻いていた布でそれを巻き始めた。
それを見てようやく理解の外から降り立ったデフレイは、納刀しながらアグネリアに近づく。
「すまない。反応が遅れた。お前でなければ、俺は依頼人を自分のミスで殺すところだった。」
「デフレイもおっちょこちょいな所あるんやね!」
おっちょこちょいで済まされていいミスではない。
完全な油断だ。慢心だ。
しかし世間知らずなこの田舎娘は何も気にせず自身が先ほどまで振るっていたそれをしまっている。
たしかに、彼女の大荷物から長いなにかが伸びていた。
てっきり、食料調達用のつりざおかなにかかと思っていたが。
「それは棍…槍?いや、棒か。」
「はいな。アバの木を削り出して、ネバ草で染色した私の武器です!」
ふんす!という音が聞こえてきそうな顔で暗い橙色で色付けられた身の丈ほどの木の棒を見せつけてくる彼女に、デフレイの脳内は高速で認識を切り替える。
この少女は、ただの田舎娘ではない。
ちゃんとした実力を持った、旅人だったのだ。
「…改めて、申し訳なかった。」
「もう、ええのに。」
「冒険者としては、失格ものだ。だから受け入れてくれ、アグネリア。」
「もう、仕方ないなあデフレイは―――へ?」
きょとんとする彼女をよそに、デフレイは青牙狼から獣皮と牙を剥ぎ取る。
冒険者協会で換金すれば、そこそこの金子になるだろう。
このあたりの地方では出没情報を聞かない青牙狼が何故たった一匹で現れたのか、その報告もしなければならない。
「ね、ねえねえ!デフレイ今君私のことなんて言った!?アグネリアて言っとったんかね!?」
獣人族であれば耳や尻尾が激しく動いていそうな、そんな様子のアグネリアにデフレイはため息をつく。
軽率だったか。
「…知らん。」
それだけ漏らすと、さっさとデフレイは歩き始めてしまった。
…そこからしばらく、もう一度呼んでくれとしばらくの間せがまれた。
その晩、野営中のことだった。
普段ならば夕食後さっさと寝てしまう彼が、珍しく起きていた。
と、言うのも。いくら自身の腕に自信があっても、戦い慣れた牙狼種でも、手負いだったとしても、どんな理由があろうとこのミスは見過ごせない。
浮足立って、いたのだろうか。
子供の頃から追い求めていたそれが、手を伸ばせば掴める位置にあると。
この旅を始めてから、ため息が増えたとデフレイは自分でも感じている。
「デフレイ、私は無事だったんだし、そんに気にすることないかんね?」
…ふと、気になったことがあった。
彼女は俊敏な青牙狼の攻撃に合わせて打撃を入れられる程度には、心得がある。
それは多分、彼女の生まれ育った環境が理由なのだろう。
だがならばどうして護衛など雇おうとしていたのか。
ベルートの爺から薦められたからか?いや、自身の腕に覚えがあれば、薦められても一人で平気と言うかもしれない。
ほかに理由が、あるのだろうか。
「依頼人。」
「ん…?なんね、デフレイ。」
「お前、俺が居なくてもオルディナリオに行けたんじゃないか。」
デフレイがアグネリアに問いかける。
それも私的な話で。
旅が始まってから初めてのことだった。
「行けん行けん。道も分からんし、戦うのも、別にそんな得意なわけじゃ無いんよ。」
「だが。」
「あれは偶然。布を解き終えて、ちょうどデフレイの方に突進してきたから、もしこっちに来たら…って構えとったんよ。」
「そんで、狼さん最初と比べてぶっちゃ動き鈍っとったから、多分デフレイの攻撃が利いとったんと思う。そこをえいってやっただけよ。」
やっただけ、と言うが十分凄い。とデフレイは思う。
いやだが、確かにアグネリアは初撃に気づいていなかった。
自分が防いでいなければ確かに死んでいたとも思う。
だが、それでも十二分だ。
「…ええと、それにね?」
アグネリアは、照れくさそうに指をちょんとこと突き合わせる。
「実は、ええと。憧れとったんです。誰かと冒険!っていうの…。だから、デフレイが名乗りを上げてくれた時本当に嬉しゅうて…。」
もじもじとするアグネリアを見て、デフレイは天を仰ぐ。
憧れ。憧れか。
そんなものがあるだけ、彼女は自分よりも優れている。
昼間の一件と重ねて、その事実が沁み入る。
「わかった。」
「わかったって、なにが?」
「お前が相当に『アグネル伝説』が好きってことがな。」
アグネリアはうひひひ、と笑った。
ぷ、と釣られてデフレイは笑いを零す。
変な笑い方だ。お国柄だろうか?でも、気持ち悪くは思わない。
心から楽しそうなのが分かる、気持ちのいい笑い方だ。
「一つ提案がある。昼間の詫び代わりだが、聞くか?」
「なんね?」
火に薪をほうりながら、デフレイが口を開いた。
ほむらに照らされたアグネリアの瞳が、デフレイの顔を映す。
「そんなにあれが好きなら、ディボレにも立ち寄るか?」
ディボレ。かつてはディボレ地方、その後は小国ディボレとなり、今はトシュー連合国に併合された、大都市の一つ。
そのディボレこそ、勇者アグネル生誕の地である。
ここからオルディナリオに行く道にあるわけではない。少し、大きく迂回するかたちになる。
しかし、勇者アグネルが眠るとされるジークスの大樹やオウタム神殿など、伝説に纏わる名所は非常に多い。
その提案をされたアグネリアというと…。
「お、ぉおお、おおお!」
新しいおもちゃを買ってもらった子供のように喜んでいた。
「ほ、ほほほ、本当に!?良いんかね!?」
「言ったろう。昼の詫び代わりだ。追加の報酬なんかもいらない。」
「あんがとござますっ!えと、えっと、是非!」
わーきゃーと、今のうちから何を見て回ろうかじたばたをするアグネリアを横目に、デフレイは。
遠くを見ていた。
ずっとずっと昔の、自分を。
いつかの彼だって、『勇者アグネル伝説』が好きだった。
嫌いな子供なんていないと思う。
ディボレ出身の天才少年剣士アグネルが、女神デフレイアの啓示を受け、旅立つ。
その道中、光の魔道士レベッカに、騎士大王サウザーに、暴風の青龍に、静かなる聖女セリアステラに出会い、仲間とし、『運命』という名の悪魔を退治する。
物語のすべてが、幼き日のデフレイの心を躍らせた。
そんなことも、確かにあっただろう。
しかしそれは最早過去の話だ。
…ああ。
……耳鳴りがひどい。
『ばちあたりめ、天神様の名前を冠するなどと。』
ああ。
『畏れ多いと思わんのか、異教徒め。』
やめろ。
『きさまの母親は、異端審問にかけられる。』
頭が、割れそうだ。
頼むから。
これ以上何も奪わないでくれ。
デフレイは、虚ろな瞳で夜の先を覗いていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日から、アグネリアの希望で彼女も戦闘に参加することになった。
二人の連携は見事なものだった。
デフレイが攻め、アグネリアが抑え、再びデフレイが仕留める。
そこに英雄伝説のような華はない。
しかし、冒険者然とした、堅い戦闘だ。
「そういや、デフレイはこう…ズバババーン、ドドドドーン!みたいな剣術は使えんの?」
デフレイが人食い兎の処理をしている最中、アグネリアが聞いてきた。
彼は苦い顔を一瞬見せた後、いつも通りの表情で答えた。
「冒険者は武術のプロじゃない。そういった剣術は、剣術家以外じゃ腕の立つ冒険者くらいしか使わんさ。」
「デフレイも腕は立つでしょう?」
「俺は…師匠の教えがうまかっただけだ。」
そう言いながら、人喰い兎の肉を処理する。
今晩の食料である。
「…ひとつだけ、使える技はある。」
「え、本当に?」
「だが諸事情あって、一発放ったら、その日はほとんど使い物にならなくなる。」
だから、見せたくても見せれない。
そう言うと、彼女は納得したふうに笑った。
「なんか、奥の手みたいやね。」
そんなかっこいいものではない。
自分の腕が足りないだけだ。
だが、口にはしない。
「いつか、万一使わざるを得ない相手が出た時にだけ見せてやる。」
「そんな地方に行く機会はないが。」
それだけ言うと、彼は処理用の短剣をしまった。
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翌日の昼ごろ。
エリモピュライの町はちょうど食事時で、方方の飲食店が賑わっていた。
二人はそれを素通りし、冒険者ギルドに入る。
飯を食べるのは、荷を軽くして、財布を少しばかり重くしてからでも遅くない。
「身分証を確認いたしました。C級のデフレイ様ですね、本日はどのようなご要件でしょうか。」
「換金と、宿の手配を。…それとああ、魔物の出現報告が…。」
デフレイが諸々の手続きをしている間、アグネリアは椅子に座り辺りをキョロキョロと見回していた。
(エルバンポートのギルドよりデッカい!)
そんなふうにキラキラを振り撒きながら、冒険者たちの会話に聞き耳を立てる。
やれどこそこで仲間がやられただの、やれ割のいいクエストで儲けただの、やれS級の冒険者と会話しただの…いろんな話しが聞こえてくる。
「あなた、新人ですね。」
そこに一人の冒険者が話しかけてきた。
「ふぇっ、えっと。」
「隠さなくてもいいですよ。新参者ってのは別に恥ずかしいことじゃないから。」
この金髪の少年は、アグネリアを同業と勘違いしているらしい。
「よければ、冒険者の先輩としていろいろ、教えましょうか?」
「え、あ、はいな!お願いしますッ!」
咄嗟にそう申し出たものの、当然のことながら、彼女は冒険者ではない。
一抹の申し訳なさを感じつつも、調子に乗って、これはどういう事か、あれはどうすればいいかと思いついたことを少年に質問をしていく。
この町でのクエストの受注方法、完了報告の仕方、素材の換金方法、ここのギルドでは誰に頼ればいいか、などなど。
少年は嫌な顔一つせず、答えを返してくれた。
「それと…そうそう、ここの隣のレストランなんですが…。」
「ノラ、ここに居たのか。」
蛇が這いずるような声だった。
アグネリアは背後から聞こえたその声に震え上がる。
彼女は今、グランバニアに向かう海路で、大波に拐われて船から落ちそうになった時と同じ位の危機感を感じていた。
顔を青くして振り向くと、そこには長身で、目が見えないほどに髪が長い男が立っていた。
「ひゃ、ひあ、」
アグネリアがまともな声も出せずにいると、先ほどまで会話していた少年が表情を明るくした。
「師匠、終わりましたか。」
「ああ、この町でやることは済んだよ。」
男は少年の師匠だった。
少年の腰に下がった直剣を見る限り、剣の師だろう。
そんな会話も聞こえずに蛇に睨まれた鼠のようにぷるぷると震えていると、男が優しく微笑みかけた。
「この町の娘かな。ノラに構ってくれていたんだね。この子は寂しがりやだからな…ありがとう。」
「師匠!わたッ、僕は別に寂しがりやなんかじゃないです…!それに、この子は新人の冒険者で、困っていたから色々と教えてあげようと…!」
ノラと呼ばれた少年がわたわたとしていると、不思議そうに彼はアグネリアの方を見つめる。
「冒険者?」
長い髪の隙間から覗く、いかずちの様な視線に、アグネリアは肩を震わせる。
この人は、恐ろしい。
彼女の本能が、そう告げた。
「そうだね、それも一つの選択肢だと思う。」
「へ?」
男は何かを思いついたようにうんうんと頷くと、ノラの手を取り立ち上がらせた。
「さて、我々はこれで失礼するよ。お嬢さん、いつかまた会える日を楽しみにしておこう。今度は、同業者として。」
そう言うと、二人は出入り口まで歩いていき、扉の前で振り返ると。
「俺はカトラス・バルパラド。この子はノラ・ライトロード。名前を、記憶の片隅においておいてくれるとうれしいよ。」
そう名乗って、ギルドを去っていった。
アグネリアの中で張り詰めていた謎の緊張の糸が切れて、へにゃりと机にへたり込む。
ノラは良い人だった。
カトラスも、怖かったけれど、それは印象だけで、きっといい人だ。
しかしやはり幾分か、寿命が縮んだ気分だ。
深いため息をついていると、聞き慣れた足音がこちらに近づいてくる。
デフレイだ。
彼は少しムズカしそうな顔でこめかみを掻くと、アグネリアに話しかけた。
「依頼人、少し良いか。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「なるほど、青牙狼が…。近ごろ獣形魔物の被害の報告が増えていましたが、ギルドは草原狼のものだと考えていました。」
デフレイはあの後、青牙狼に襲われたことを報告していた。
「狼種と牙狼種では強さが二つも違う。早急に対応すべきだと進言させてもらう。」
「すぐにでも上へ報告させていただきます。」
受付嬢は丁寧にお辞儀をすると、羊皮紙にその旨を書き連ねた。
彼はそれを待ち、書き終わったのを確認すると、彼にとっての本題を切り出した。
「…それと、宿の手配なんだが。」
「俺と、俺の依頼人で二部屋、頼みたい。」
依頼人、という言葉を聞いた受付嬢は、少しだけ渋い顔をした。
「申し訳ございません。こちらで用意できる宿は冒険者用のもののみでして。」
冒険者用に用意される宿は、ギルドが提携している店だ。
その契約として、冒険者以外の紹介は出来ないことになっている。
デフレイはむ、という顔でこめかみを掻いた。
「…しまった…そうだったか。」
アグネリア用に別の宿を取る事自体は構わない。
…が、長旅のためできるだけ出費は抑えておきたい。
しばらく考えたところで、デフレイの中で一つの考えがよぎった。
「…その依頼人が冒険者登録をした場合なら、手配できるか?」
「え?ええ、それなら可能ですけれど…。」
デフレイはその答えを聞いて、アグネリアの元へ戻ってきて、今に至る。
「依頼人、お前、冒険者登録をするつもりはないか?」
「ぼ、冒険者!」
「大陸語の読み書きはできるんだろう?それなら、登録はできる。」
冒険者登録自体に関しては、もっと言ってしまうと推薦さえあれば最低限の受け答えだけでもできる。
故に殉職率が高いのだが、というのは話の隅においておこう。
「ほ、ほんでも私ラザナーサ人よ?ラザナーサは冒険者協会に参入していないし…。」
「国籍は関係ない。」
「宿代を安上がりにする為というのもあるが、他に冒険者協会が提携していたり、経営している施設を格安で利用できたりだのの利点もある。」
「ほうほう…。」
デフレイは一瞬、言葉に詰まった後、言葉を選んで、喉の奥から取り出した。
「それに、正式にパーティの結成を申請できる。お前が憧れる『誰かと冒険』、に近づくだろう。」
苦い顔をしつつ、そう呟くように言うと、アグネリアは満面の笑顔で彼の手を握った。
「あんがと、デフレイ!」
両手を握ったまま、ぶんぶんと強い力で腕を振る。
はたから見たら何らかの拷問にしか見えない。
「感謝されるような事をした覚えはないが…。」
「私、冒険者になりたいっ!」
「そうか、わかった。」
その答えを聞くと、すぐにいつもの表情に戻ったデフレイは、彼女の手を引いて、受付の方へ戻った。
先ほどの受付嬢が頭にクエスチョンを浮かべていたが、冒険者登録の件を話すと、すぐに営業スマイルをして、アグネリアの登録手続きを行った。
手続き自体は本当に、拍子抜けするほどあっさりとしたもので、簡単な質疑応答と、書類の記入で一時間も経たずに完了した。
かくして、自分の身分証を手に入れたアグネリアは今にも飛び跳ねてどこかへ行ってしまいそうな空気を漂わせていた。
後ろではデフレイが宿の手配を依頼しながら、彼女のそんな様子を見つめていた。
子供のようだ、と思ったが。
事実、アグネリアは自身とさして年齢の変わらない子供…に近いくらいの少女だった、とデフレイは思い出した。
「デフレイデフレイっ。」
ちょいちょいとデフレイの服の裾を引っ張るアグネリアに、今日で何度目だとこれまた幾度と溢したため息を溢す。
「なんだ。」
「これ家宝にするんよ!!」
ずいずい、と身分証をデフレイに見せつける。
彼からしたら見慣れたものなのだが。
「…定期的に更新をしないとただの紙切れになるぞ。」
「はうっ!…それでも…カタチには残るでしょ?やっぱ私の宝物。」
そう微笑むアグネリアは、普段のわんぱくな少女からは想像もできないほど、女性的な美しい貌をしていた。
「…好きにしろ。俺が与えたものではないからな。」
「ほんでも、デフレイが居らんかったら手に入らんかったよ?」
「……はあ。」
そんなやり取りをしている二人に、近づく影があった。
怪しい浅黒い外套を纏ったその影は、アグネリアの背後に這い寄ると、ぐわんと両肩を掴んで来た。
「きゃあっ!?」
吃驚して身体を震わせた拍子に、影の外套のフードが外れた。
その正体は、デフレイと同い年くらいの少年。
背格好から見るに、魔法職のなんらかなのかもしれない。
ともかく、少年の表情を見るに悪意は無さそうである。
「そこ!そこのお嬢さん!今冒険者登録、しただろう!?」
大きな声でそう問いかける少年を、デフレイは脚でどかしながらアグネリアと少年の間に割って入った。
「なんの用だ、魔法職。」
じとり、と鋭い眼光を少年に向ける。
…が、少年は物怖じもせずへらりと笑う。
「おっ…と…もうパーティは組んじゃってる感じかな?でも見た所お二方とも魔法に関しちゃ得手って感じもないんじゃあないかな?ここで一つ提案があるんだけどなー!」
身振り手振りで自身をアピールする少年に、害意がないと分かったからか、その明白な態度に呆れ果てたからか。
デフレイはアグネリアの手を引いてギルドを出ようとする。
「宿に行くぞ、依頼人。用はすべて済ませた。」
はっ!とした少年は去りゆく二人の前に颯爽と回り込んだ。
「待て待て待って!待ってくださいよ!話くらい聞いてくれても〜!」
「どうせ、自分とパーティを組んでくれという話だろう。」
「話が早くて助かるよ少年!」
宍色の髪をふぁさりとさせながら、彼は自慢げに、胸を張って名乗りを上げて―――――
「僕の名前はマレット、マレット・ペンシバル!天才魔法使いだ!」
「頼む!僕とパーティを組んでくれ!!」
地面にめり込みそうなほど深く、頭を下げた。
お久しぶりでございました。仕事やら原稿やらでなかなか執筆ができておりませんでしたが、実はもうすぐで投稿できそうなものが2話くらいあるので頑張ります。
ちなみになのですが、アグネリアの故郷の名前はとあるゲームに登場する地名をもじったものなんですね。
分かる人は居るのでしょうか。
登場人物
アグネリア
年齢:15歳
性別:女性
種族:人間
誕生日:新トリアス暦645年5月15日
出身地:ラザナーサ国レーヴン村
適正属性:風
信仰:なし
所属:無所属→冒険者協会
肩書:田舎娘→冒険者
デフレイ・マーク
年齢:16歳
性別:男性
種族:人間
誕生日:新トリアス暦644年9月21日
出身地:非公開
適正属性:雷
信仰:なし
所属:冒険者協会
肩書:冒険者
マレット・ペンシバル
年齢:17歳
性別:男性
種族:人間
誕生日:新トリアス暦643年6月1日
出身地:非公開
適正属性:非公開
信仰:地神
所属:冒険者協会
肩書:冒険者
サマンサ・マーサ
年齢:26歳
性別:女性
種族:人間
誕生日:新トリアス暦636年7月13日
出身地:トシュー連合国-エリモピュライ
適正属性:なし
信仰:地神
所属:冒険者協会エリモピュライ支部
肩書:冒険者協会エリモピュライ支部受付係




