ある魔法使いの記録。
世界観説明を兼ねた閑話です。読まなくても大丈夫だけど、読んだら「ああ、こういうノリでやるんだ」ってのがわかるかもしれません。
新トリアス歴103年、春の第1月14日。
この国の生活にも慣れてきたので、そろそろ日記をつけてみようと思う。
このグランバニア大陸にある5つの大国、その中で大陸のど真ん中に位置するこの国、レトネック王国。
海に面していない代わりに、他4つの国と隣接しているはたから見ればいつ戦争に巻き込まれてもおかしくないような地理だ。
この国の一番の特徴といえば、貿易が盛んなところだろうか。
ただ、悲しいことに海産物は流れてこない。4カ国の港町からレトネックの端まで運ぶほどの魔法技術がまだ無いからね。私、トウナの刺身が大好物なんだけどな。
まあそれは私が開発するとして…ああ、そうそう。忘れちゃいけないのはこの国は大陸で唯一の魔法研究施設があるところかな。
それがあるから中央都市ゴゴティアまで引っ越してきたんだもの。
やっぱり、どうせ働くなら楽で、稼ぎやすい職業だ。そんな仕事などこの世には基本存在しないものだが、一芸に秀でていればそんなことはなくなる。
私の場合、それが魔法なんだよね。
…魔法についても記録したほうがいいかな?次の暦に魔法があるかも定かじゃないし。
魔法ってのは、人間が元来保有しているエナジーである魔力を目的を持って放出し、目的の効果を発生させること。
厳密に言えば、人間の魔力腺から生産される魔力を脳演算により構築した魔術命令式に沿って体外放射する行為全般を魔法というのだけれど、まあ魔力って力で色んなことをする事って認識で。
魔力には性質があって、それぞれ火水風土の基本四大属性を元に、それから派生した複合属性がある感じ。あと、基本四大属性と全く関係ない属性は便宜上龍の属性とされているんだけど…、我ながらこれまた面倒くさいからこれは割愛。
まあだいぶ長くなったけど、要するに私はその魔法の研究者です。…私以外聞かない日記に自己紹介する必要があるのかは別として。
日記の作り方ってわかんないなあ。まあいいや、今日の記録は終わり。
新トリアス歴103年、夏の第1月20日。
3ヶ月もつけていたら日記にも慣れてきた気がする。
今日は良いことがあった。研究の一環で東方国家に来てるのだが、なんと念願のトウナの刺身を食べることができた。
アステの東方列島から流れてきた醤という調味料をつけて食べたのだが、これがまたお刺身の旨さに攻撃力増加魔法をかけたかのような味。
この醤は何でできているのだろうか?風味から察するには豆と麦は使われていると思う。料理人から聞いたところ、東方列島ではショーユなどという名前で呼ばれているのだとか。
ショーユ、覚えたぞ。
さて、まあ肝心の研究についてだが、進展はない。
そりゃあそうだ、東方列島は外国人どころか、同じアステ人ですら本島に入れてくれないのだ。
半鎖国状態。当然とも言えなくはない。列島の人々は本国の考え方に疑問を持っているからね。
私の素性を明かせばよもや入れてくれないことは無いだろうが…それは同時に今日同行している研究者全員に正体を明かす羽目になる。
それはまあ、少なくともまだ避けたい。
仕方ないので私はしばらくここで海産物三昧の生活を送ろうと思う。
新トリアス歴103年、夏の第1月21日。
帰ることになった、ちくしょう。
新トリアス歴106年、秋の第3月12日。
最悪だ。北方国家で内戦が始まった。
いや、内戦は別に構わない。トノールと南方国家では珍しくもない。問題は今私がトノールに居るということ。
前にも言った通り、他国と比較して水属性の派生属性を持つ魔法使いが多いってんでその研究のために来てるんだけど、よりにもよって今中央都市付近にいるんだよ。
はあ…来るんじゃなかった。死ぬこたないけど、面倒。帰国もできるか分からんし。
まあ、帰りたくなったら襲いかかる兵士を鏖しながら帰ればいいし、様子見かな。
ああ、そうだ。帰国したら適正属性の申告書類出さないと…。何にしよっかな。火ってことにしておこうかな。
別にどれも一線級には使えるしなんでもいいんだよな。
…うわ、炸裂魔法の音した…。避難するので、今日はここで記録終わり。
新トリアス歴110年、冬の第1月24日。
ようやく終戦したらしい。私としても特級気配遮断魔法のおかげで戦場のど真ん中で戦争用魔法の資料を集められたので良しとする。
火属性と土属性を基盤に構築された炸裂魔法を広範囲化した集束炸裂魔法はまさに圧巻であった。
爆発系で言うと爆裂魔法が殲滅能力としてはピカイチだが、対人戦闘となると地面に大きな抉り跡を遺すそれより、破壊力は控えめながら殺傷力として申し分ない炸裂魔法を元にしたほうが使い勝手がいいのだろうな。
にしてもだいぶ粗雑な命令式が組まれているものだ。もっと簡略化も高性能化もできるだろうに。魔法知識がないやつが作ったのか、あるいはそうならない為あえてそうしてあるのか。
私も戦争用魔法の術式を考案してみるか?2つの属性を掛け合わせて使うと魔力消費が激しいからな。1つの属性だけで完結したほうが使い勝手は良さそうだ。
ああ、トノールで研究してた水属性なら良い感じにできるかもしれない。水蒸気爆発とか…いや、もっと高効率高破壊力の魔法が…。
いかんいかん、私の専門は攻撃魔法でないと言うのに。
お父様が言っていた。戦いなど心にストレスを抱えるだけだと。お母様も言っていた、闘争に時間を浪費するよりも愛にそれを使うべきだと。
………あんな夫婦にはなりとうないが、まあ一理あるよね。
ともかく戦争はもうこりごりってことで。今日の記録終わり。
新トリアス歴110年、冬の第1月30日。
適正属性はとりあえず火にした。まあ別に嘘ついてなんになるわけでもなし、正直に話してモルモットになるよかマシだ。
だからこそアステ公国の東方列島に行きたかったんだけどねえ。私と同じ属性を持つ人って貴重だし、能力の発展に繋がると思ったんだが。
まあ、顔も知らない兄弟姉妹の話は一回置いといて…あ?まって。…アステ公国に行ったのってもう4年前!?
うわ…トノールの内戦に随分時間食われたな…。だからあんなにみんな久しぶりみたいな反応してきたんだ…。
ま、まあ…あれだ。私が水属性の派生属性を研究してた理由、それはすべて壮大な計画のためである。
これが達成されれば流通業界に革命が起こるだろう。ふっふっふ。
短いけれど、今日の記録は終わり。明日からまたバリバリ研究するぞ。
新トリアス歴122年、春の第2月4日。
レトネックに越してきて早25年。いまだに例の研究中の魔法の完成の目処はなし。
しいて言うなら小銭稼ぎで防御魔法の上級魔法の理論を発表したところか。いうてこんなもの、旧トリアス歴の魔法使いなら誰でも使えたものだ。白龍戦争で失われた技術というものは思いのほか多い。
しかしまあ、上級防御魔法であそこまで湧き上がるのならば防壁魔法や魔法防御魔法などを発表したらどうなってしまうのだろうか。…まあ防壁魔法は私も使えないけどね。
お母様に聞きに行くか?…いやあ、私に興味ないだろ、あの人お父様以外本当に眼中に無いしな…。
エルフの知り合いでも訪ねる?いやあ…精霊術と魔法って術式体系が違うもんな。
まあいいや。ともかくこれで現代の魔法戦闘がまた進化するだろうね。
ただ私はアレだ、剣術などの白兵戦闘について全く知らない。そっちの知識があれば私なりの面白い魔法とか作れそうだけど。魔力付与とか勉強してみようかな?
近接戦…軍隊ならどの国にもあるけれど、騎士と言えばサウザリアだ。そちらにも足を向けてみようか。
ただしばらくは無理そう。上級防御魔法を発表しちゃったばかりに今すっごい忙しいし。
あ、レムノンくん資料できた?…できてない?自分でやれ?まじか…。資料作成のため残業します。記録おしまい。
新トリアス歴130年、夏の第2月20日。
弱ったな…。あー、あー。正直な話困ったことになった。
と、いうのもだ。去年レトネックが魔物の侵攻に遭って前線に駆り出された。ここまではまあ、いい。
サウザリアやトシューからの援軍もあり先月終息したところだけれど、えー。…まあ、活躍しすぎた。
宮廷魔術師に任命されてしまった。辞退しようとしたらすごい顔で睨まれました。いやだな、私は名前を遺したくは無いのだ。今までの研究発表?…いやまあ…。
亡命…するか?トシューからも声がかかって…いやどっちにしろ…。
…よし、決めた。
とりあえず民衆が私のことを忘れるまで身を隠すことにしました。どこに逃げようか。東方列島に身を寄せるか?…お父様の事を頼りたくはないよなあ。
ああ、まあ、そうだな。サントリの大森林あたりに隠れるか。あそこらへんは九頭竜の生息地ってこともあって未開拓だし、まあ私をしる奴らが死ぬまでは身を隠せるだろ…。
明日にはもうお迎えがくるし、今のうちに逃げるか…使えてよかった、特級気配遮断魔法。
記録、おしまい。
ここまでの範囲で軽く地理関係を整理すると、中央国家がレトネック王国、東方国家アステ公国、南方国家が騎士国家サウザリア、西方国家がトシュー連合国、北方国家がトノール帝国となっています。
覚えなくてもいいです。専門用語多いからねこの作品…。




