第3話、呼び名。
「で、何と呼べばいいのだ?」
ハイエルフの麗人が木々の下を歩きながら聞いた。
しばらく前に川辺から離れている。
高い木が並び、所々に線を引いたような木漏れ日が地面まで届いている。
ハイエルフは森の人だ。
根や凹凸のある木の下をまるで平地を歩くように進む。
「うーん」
過去のメモリーを参照した。
◆
巨大宇宙空母の格納庫で開かれた新作戦車のコンペである。
新車のモーターショーのようなものだ。
「こんにちわー」
女性士官の制服を着た女性がマイク片手に言う。
「黒須重工製、新型歩行空挺戦車、不知火っ。」
「満を持して登場で~す」
彼女の奥には、赤や白、黄緑色のハイビジカラーに塗られた機体。
後に、”九十六式”として日本軍に正式採用されるものだ。
「この機体は~、大陸間巨大砲の弾頭に載せて、成層圏を超え、敵陣奥深くに降下させることが可能で~す」
「そうっ、敵陣で無補給で行動するために……」
「驚異的な静穏性っ」
「医療用アームや医療機器を装備した操縦席っ」
「太陽光発電と、水・酸素・水素分離発電のツインパワ~」
「高性能万能3Dプリンターで弾丸や簡単な部品をその場で製作可能っ」
「開発コンセプトは~~、ニンジャアアア」
「でありますうう」
制服姿の女性コンパニオンがテンション高く言った。
◆
「…………ニンジャアアアか、ふっ」
自分の創られたコンセプトにニヒルな笑いを浮かべた。
あるのなら片頬をゆがめる苦い笑いだろう。
「にんじゃあああ?」
前を歩くハイエルフの女性が聞く。
「いやなんでもない、忘れてくれ」
「自分の名は確か、しら……」
「そういえば、九十六式とか言っていたな」
「縮めて九六はどうだ」
「ああ、まあいいか、戦車っぽい呼び方ではあるな」
「そうか、私の名前は、”シャルルシャ⤴ラファンシャル⤵シャラ⤴シャルラ”だ」
彼女の名前は、音程の上下に巻き舌、まるでオペラの歌の一節のよう。
「ふむん、”シャルルシャ⤴ラファンシャル⤵シャラ⤴シャルラ”殿か?」
「むっ、完璧な発音、そうか、マキナか」
彼女が眉をひそめ小さくつぶやいた。
「? ”シャルルシャ⤴ラファンシャル⤵シャラ⤴シャルラ”殿?」
――コピーして自分の声にペーストしただけだ
「普通の人間なら間違えたり発音が変だったりするのだが、面白みのない奴め」
ハイエルフ流のブラックユーモアである。
「面白み……か」
自分は、こっそり過去のバラエティ番組やお笑い芸人を検索した。
「……いやなんでもない、長いので、”シャル”と呼んでくれ」
「ちなみに、”シャルラ”と呼ぶと怒る」
「わかった、シャル殿」
「うむ、九六、こっちだ」
いつも間にか周りに霧で白くなっている森の中をシャルについて進んだ。




