第12話、試練。
二体のガーディアンゴーレムを倒し、ブートキャンプを卒業したシャル殿。
下界に行けると思っていたら、里長から待ったがかかった。
――うむう、今度は10年か20年か?
「下界に行くには試練を受けてもらう」
「試練?」
「そうだ、下界に降りるものは、”世界樹の枝”を取ってくるのがきまりだ」
「そうか、試練か、そう簡単にはいかないか」
「わかった」
世界樹は、田中三佐を埋葬した大樹のことだ。
流石に10年も時間はかからないだろう。
「ではすぐ取りに行こう」
「そうだな、すぐ行くか」
門から出る時に周りのハイエルフから、
「また危険なことを」
「魔獣や聖獣に気をつけるように」
「危なくなったらすぐ帰るんだぞ」
「まさに試練だな」
と声をかけられた。
ハイエルフの里から外に出た。
「世界樹の周りには、木を守る聖獣や魔獣が出るんだ」
シャル殿と世界樹の森に向かって歩きながら話す。
――ふむ、田中三佐を埋葬したときは会わなかったが、何か理由があるのだろうか?
世界樹に近づくにつれて木が大きくなっていく。
今や、七メートルの自分の体が隠れるくらいの太さになった。
ズン、ズン
「むっ」
集音マイクに地響きとともに入ってきた。
すかさず木の陰に隠れる。
「魔獣の、”タイタントゥースボア”だ」
牙の生えた大きなイノシシが近づいてくる。
――もともとニンジャアアをコンセプトの創られた自分だ
「動くのにほとんど音が出ないな」
木の陰に背中をつけてしゃがんで通り過ぎるのを待つ。
「高度な魔獣ほどマナを感知して(生物を)探しているんだ」
万物の根源であるマナは《《この世界》》のすべてのものに含まれている。
「でも、異世界製の九六はマナがないから気づかれないんだ」
強力なステルス効果になっている。
そのまま巨大なイノシシは何事もなかったように通り過ぎて行った。
田中三佐を埋葬しに来たときは、たまたま運がよかったのだろう。
その後、巨大な蛇と遭遇したがやはり隠れてやり過ごした。
しばらく移動する。
「世界樹の根元だ」
歩行戦車の自分でも大きいと感じる幹の太さ。
近くに、
クカカカカカ
目を閉じて、耳は後ろ、大きな口を開けてあくびする巨大な犬が座っていた。
「犬?」
自分と同じくらいの大きさだ。
「フェンリルだっ」
銀色の毛並み。
カ
口を閉じたと同時にポケっとした顔でこちらを見る。
目が合った。
「「「…………」」」
気まずい沈黙。
ガルウウウ
「気づかれたっ」
利き手が後ろの半身、シャル殿と自分が戦闘態勢に入った。
ガアッ
大きな口で噛みついてくる。
「クッ」
キキキイイ
甲高い音と主に、装甲の表面を巨大な牙が走る。
火花が散った。
「かすり傷だっ」
――塗装が剥げたくらいだ
パパンパンッ
フェンリルの鼻先を右右左のコンビネーションパンチ。
ギャウッ
フェンリルが大きく下がる。
ガルウッ
次に瞬間、上から覆いかぶさるように飛びかかってきた。
横に飛ぶようによける。
ズダンッ
近くに爪の生えた前足が落ちた。
「今っ」
横からフェンリルの両脇に腕を通す。
両足のサスペンションを最大まで使い垂直にジャンプ。
パシュウウウ
背中と肩と両もものフィンが開いた。
中の低温ジェットから白い煙を出しながら急上昇する。
巨大な世界樹を背景に空高く舞う。
キャウン
フェンリルが泣いた。
頂点でくるりと上下逆に。
シュパアアア
フィンを左右に向け回転しながら地面に加速。
そのままフェンリルを頭から地面にたたきつけた。
キャ、キャイイイイン
「宙軍中野学校式近接格闘術奥義、”螺旋落としっ”」
タンッ
少し離れたところに軽く着地しながらシャル殿が言った。
さすがフェンリル。
ダメージは大きそうだがまだ動く。
おもむろに腹を向けて横たわり、しっぽを必死に振りはじめた。
うるんだ瞳がこちらを見る。
「……シャル殿、フェンリルが仲間になりたそうにこちらを見ている」
「……ふんっ、私は猫派だ」
誇り高いハイエルフの傾向でもある。
「無様な」
恥も外聞もなくしっぽを振る犬(狼)に冷たい視線を送った。
「むう、いや、しかし」
――もふもふだ
「飼ってもいいだろうか」
フェンリルを見ながら言った。
キュウン
ウルウルとした瞳。
「ふんっ、世話は九六がしろよ」
「わかった、よ~しよしよし」
フェンリルの腹を力いっぱいもふり倒した。
キャンキャン
飛びついてきて顔(?)をぺろぺろと舐める。
カタンカタン
べとべとになった透明のモニターシールドをワイパーで拭った。
「よ~し、お前の名前は、”ロボ”だ」
――狼王からとった
そのときである。
サワリ
風もないのに世界樹の葉と枝が揺れる。
「あれは」
金色の光を放ちながら世界樹の枝がゆっくりとおりてきた。
パシュン
操縦席からシャル殿が下りる。
大根と同じくらいの長さの、”世界樹の枝”を手に取った。
キャウン
改めてフェンリルがシャル殿にお腹を見せたのである。




