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星願未遂  -ふたりの長いものがたりー  作者: つくね
8. 旅立ちの日

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― 温かなステンドグラス ―

【相原家・自宅の一室】


(凜が結婚する。そして東京に行こうとしている)

 沙耶は、窓の外の桜を見ながら、しばらく物思いにふけていた。

「そう、あの子が遠くへ行くのね」


 その夜、沙耶は自室の棚から古いステンドグラスの道具を取り出した。かつて趣味で作っていた作品たち。動物のモチーフ、花の模様、そして凜が小学生の頃に「きれい」と言ってくれた青いガラスのペンダント。

「もう一度、始めてみようかしら。誰かと一緒に、自分自身も成長する時間を」


 数日後、近所の掲示板に「ステンドグラス教室はじめます」の手書きのポップが貼られた。


 初回の教室の日、沙耶は少し緊張していた。玄関のチャイムが鳴ると、そこにはさくらが立っていた。


「わたしもやってみたい!凜ちゃんが東京行っちゃうと、さみしいしおばちゃんとも一緒にいたい」


 沙耶は驚いたように目を見開いたが、すぐに優しく微笑んだ。

「もちろんよ。さくらちゃんが最初の生徒ね」

「うん、楽しみにしてたんだ」その声を聞きながら凜が顔をのぞかせた。


「あれ?さくらちゃんに先を越されちゃった」

 凜も勉強の合間に、教室に参加することにしていた。

「さくらちゃんがここに来てくれるのは、私にとっても凄く嬉しいことなんだよ。本当にありがとう」


 その日から、教室には少しずつ近所の女性たちが集まり始めた。幸代さん、美智子さん、恵子さん。みんな凜の成長を見守ってきた人たち。

「凜ちゃん、東京行くんだって?寂しくなるわねぇ」  

「でも、さくらちゃんがいるなら、教室もにぎやかになるわ」

 さくらは星型のガラスを手に取り、「最初の作品を凜ちゃんにあげるんだ。東京でも、私のこと忘れないようにって」と笑った。


「ありがとう、さくらちゃん。東京に持っていくね。きっと、それを見て思い出すから。みんなのことも、教室のことも」

 (おかあさん、ありがとう、私を心配させないようにと、頑張って教室を開いてくれたのね。さくらちゃんもありがとう。おかあさんを寂しがらせないように考えてくれたのね)


 沙耶はその様子を見ながら、静かに思った。

(この教室は、凜が帰ってくる場所になるのね)


 ステンドグラスの光が、窓辺に虹色の模様を描いていた。


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