― 埠頭にて ―
ふたりは海辺のカフェへドライブデート。
潮風が窓越しにそよぎ、グラスの氷がカランと音を立てた。
「それで、結婚式、どうしよう?」
勇真がストローをくるくると回しながら、凜に問いかけた。
勇真のプロポーズを受けて、この頃のふたりは、どんな式にするかの会話メインだった――
「うーん、この間も話したけど、正直あんまり派手なのは苦手かも」
凜はそう言って、カップの縁にそっと唇を寄せた。
「でも、家族や、今までお世話になった人たちにはちゃんと感謝を伝えたいなって思ってる」
「俺も。なんか、ちゃんと自分達がありがとうって言える式にしたいよな」
勇真は、ふと視線を外の海に向けた。
その先には、かつて家族で訪れた水族館が見える。埠頭の先に、小さな白いチャペルがぽつんと建っていた。
「あそこの埠頭。凜がペンダントを捨てられなかった場所。
神様が、ふたりが離れる事を、許さなかった場所……」
勇真が指差した先を、凜も見つめる。
「あそこにしようか。あのチャペル」
勇真の言葉に、凜は驚いたように目を見開いた。
「えっ……でも、あそこって、そんなに大きくないよ?」
「いいんだよ。大きくなくて。俺たちの想い出の場所だからさ」
凜はしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。
「うん。あそこがいい。わたしも、あの場所でありがとうって言いたい人たちがいるから」
ふたりの視線が、チャペルの白い屋根に重なった。
そのとき、店内のに流れてきたオルゴールのBGMは、昔ふたりが神社で聞いた風鈴の音に似た、優しい音だった。
「ねぇ、勇真」
「ん?」
「私も、みんなに感謝を伝える結婚式にしたい」
ふたりは、手をつないだまま、窓の向こうのチャペルを見つめた。
【数日後】
潮風が静かに吹き抜ける午後、勇真と凜はまたこのチャペルを訪れていた。何度目かの訪問。けれど、今日は少し違った。
「式の流れ、だいたい決まってきたね」
凜が手元のメモを見ながら言うと、勇真は頷いた。
「うん。家族と友人だけで、シンプルに。チャペルで式を挙げる。それが一番、俺たちらしい気がする」
チャペルのスタッフがふたりに式の進行を説明する。入場、誓いの言葉、指輪の交換、退場。
けれど、ふたりはその指輪の交換の部分に、そっと目を合わせて微笑んだ。
「式場の飾りつけは、さくらちゃんにも手伝ってもらう、私が東京に行くときに渡してくれる予定のステンドグラスは、このチャペルの雰囲気にピッタリだと思うの。凄く楽しみ!」
門出を迎えるふたりに午後の眩しい光が差していた。




